多様な働き方とは?種類・企業のメリットと実現するためのワークプレイスづくり
著者
JLL日本 マーケティング&コミュニケーション事業部 コンテンツチーム
多様な働き方とは?定義と広がる背景
まず「多様な働き方」の定義と、広がりを後押しする社会背景を整理する。
多様な働き方の定義
多様な働き方とは、従業員が自身のライフスタイルや価値観に合わせて、働く場所・時間・雇用形態を選択できる働き方のことである。全員が同じ時間に同じオフィスへ出社する画一的なスタイルを前提とせず、業務内容や生活の事情に応じて複数の選択肢を用意する点が特徴だ。
選択肢は大きく、テレワークやサテライトオフィスといった「場所」の多様化と、フレックスタイム制や副業・兼業といった「時間・雇用形態」の多様化の2軸で整理できる。それぞれの種類は次章以降で詳しく解説する。
多様な働き方が広がる背景(人手不足・価値観の変化・働き方改革)
多様な働き方が広がる背景には、大きく3つの要因がある。第一に生産年齢人口の減少による人手不足である。限られた人材を確保するため、育児・介護など個々の事情に対応できる制度が求められている。第二に働き手の価値観の変化だ。報酬だけでなく、働く場所や時間の裁量を重視する傾向が強まっている。第三に、2019年から順次施行された働き方改革関連法をはじめとする制度面の後押しである。
実態を示すデータもある。総務省「令和7年通信利用動向調査」(2026年5月公表)によると、テレワークを導入している企業は50.1%と、およそ2社に1社に定着した。
一方で、JLLの「Global Occupancy Planning Benchmark Report 2026」(2026年5月)では、週3-4日出社する働き方が55%(前年比+19ポイント)と最多で、完全リモートは10%にとどまる。つまり現在の多様化は「リモート化」ではなく、出社とリモートを組み合わせながら選択肢を増やす方向で進んでいる。
多様な働き方の種類①:働く場所の多様化
働く場所の選択肢を広げる、代表的な3つの形態を紹介する。
テレワーク・リモートワーク
テレワークは、自宅などオフィス以外の場所で働く形態である。通勤時間の削減や、育児・介護との両立に効果がある一方、コミュニケーションの減少や生産性の低下が課題になりやすい。在宅勤務を軸にする場合も、対面での協業を担うオフィスの役割をあわせて設計することが重要だ。
ハイブリッドワーク
ハイブリッドワークは、出社とリモートワークを組み合わせる形態である。前述のとおり週3-4日出社が世界的な主流となっており、現在の多様な働き方の中心に位置づけられる。出社日をチームでそろえて協業の密度を高めるなど、「何のために出社するのか」を定義した運用が定着の鍵になる。
サテライトオフィス・ワーケーション
サテライトオフィスは、本社とは別の場所に設ける小規模な拠点である。自宅近くで働ける第3の選択肢として通勤負担を減らし、地方人材の採用にもつながる。リゾート地などで休暇と仕事を組み合わせるワーケーションを導入する企業も存在する。
多様な働き方の種類②:時間・雇用形態の多様化
「時間」と「雇用形態」の裁量を広げる、代表的な制度を整理する。
フレックスタイム制・時差出勤
フレックスタイム制は、一定期間の総労働時間の範囲内で、始業・終業時刻を従業員が決められる制度である。時差出勤は所定労働時間を変えずに出退勤の時間帯をずらす仕組みで、通勤ラッシュの回避や生活リズムに合わせた働き方を可能にする。いずれも導入のハードルが比較的低く、多様化の入り口になりやすい。
短時間勤務・週休3日制
短時間勤務(時短勤務)は、育児や介護などの事情に応じて1日の労働時間を短縮する制度である。近年は給与水準を保ちながら休日を増やす週休3日制を選択肢に加える企業も現れている。
制度面の動きとして、改正育児・介護休業法により、3歳から小学校就学前の子を育てる従業員に対する「柔軟な働き方を実現するための措置」が義務化された(2025年10月施行)。企業は始業時刻の変更、テレワーク、短時間勤務などの選択肢から2つ以上を用意する必要があり、柔軟な働き方は「任意の取り組み」から「法令上の要請」へと位置づけが変わりつつある。
副業・兼業/業務委託
副業・兼業は、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2022年7月改定)で環境整備を促しており、社外での経験を通じたスキル獲得やイノベーション創出が期待されている。また、雇用によらない業務委託やフリーランスとの協働も、専門人材を確保する手段として広がっている。労働時間の通算管理や情報管理のルール整備が導入時のポイントになる。
企業が多様な働き方を推進するメリット
多様な働き方は福利厚生ではなく、人材確保と事業継続を支える経営戦略である
多様な働き方の推進は、従業員だけでなく企業にも明確なメリットをもたらす。
人材確保・採用競争力の向上
働く場所や時間の選択肢は、いまや求職者が企業を選ぶ際の重要な判断基準となっている。育児・介護と両立できる制度や居住地を問わない採用は、応募者の母集団を大きく広げる。人手不足が続くなか、多様な働き方は福利厚生ではなく、人材確保と事業継続を支える経営戦略だといえる。
定着率の向上・離職防止
ライフステージの変化に対応できる選択肢があれば、育児や介護を理由とした離職を防げる。ギャラップ「State of the Global Workplace 2026」によると、日本で仕事に熱意を持って働く従業員は8%と世界平均の20%を大きく下回る。働き方の裁量を認めることは、従業員エンゲージメントを高め、定着率の向上につながる打ち手の1つだ。
生産性の向上
業務内容に合わせて働く場所と時間を選べれば、集中作業と協業のそれぞれに適した環境で働くことができる。通勤負担の軽減により、可処分時間と業務への集中力も高まる。重要なのは、リモートか出社かの二者択一ではなく、業務特性に応じて最適な組み合わせを設計することである。
BCP(事業継続計画)への貢献
多様な働き方の整備は、BCP(事業継続計画)の観点からも有効な備えとなる。災害や感染症の流行など、オフィスに出社できない事態は今後も起こり得るが、テレワークやサテライトオフィスを平時から運用しておけば、非常時にも業務を止めない体制をそのまま活用できる。
多様な働き方を導入する際の課題と対応策
導入時につまずきやすい4つの課題と、対応の方向性をまとめる。
コミュニケーションの減少
働く場所と時間が分散すると、偶発的な会話や相談の機会が減り、チームの一体感や情報共有の質が低下しやすい。ウェブ会議やビジネスチャットの整備に加え、出社日にメンバーが自然に集まり交流できる空間づくりなど、対面とオンラインの接点を意図的に設計することが対応の軸になる。
評価制度のミスマッチ
勤務態度や労働時間を軸にした従来の評価は、働く場所や時間が多様になると機能しにくい。成果や行動を基準にした評価制度への見直しが必要である。あわせて、評価者が部下の業務プロセスを把握するための1on1ミーティングなど、マネジメントの仕組みも更新したい。
労務管理の複雑化
フレックスタイム制や副業・兼業が加わると、労働時間の把握や健康管理は複雑になる。勤怠管理システムによる客観的な労働時間の記録と、制度ごとの運用ルールの明文化が欠かせない。前述の改正育児・介護休業法のように法改正への対応も継続的に発生するため、担当部門の体制も整えておきたい。
情報セキュリティ
オフィス外での業務が増えるほど、情報漏洩のリスクは高まる。VPNや多要素認証などの技術的対策に加え、どの場所でどの情報を扱ってよいか、ルール策定と教育が必要である。セキュリティ水準を保ちながら利便性を損なわない、バランスの取れた設計が求められる。
多様な働き方を支えるワークプレイス戦略
制度を活かす空間があって、はじめて多様な働き方は組織に定着する
制度とあわせてオフィスを見直すことで、多様な働き方は実際に機能し始める。
ABW:業務内容に応じて場所を選ぶ
制度を整えても、オフィスが旧来の固定席のままではスムーズに運用できないケースも想定される。制度を活かす空間があってはじめて多様な働き方は組織に定着する。
代表的な手法がABW(Activity Based Working)だ。集中作業・ウェブ会議・協業といった業務内容に応じて、従業員が働く場所を選べるワークスタイルであり、オフィス内に多様な席や空間を用意する。働く場所の裁量をオフィスの中でも実現する考え方といえる。
フリーアドレス
フリーアドレスは、固定席を設けず空いている席を自由に使うオフィスの運用手法である。出社率に応じて座席数を最適化し、空いたスペースを協業や交流の場に転換できるため、ハイブリッドワークとの相性が良い。部門を越えた交流が生まれやすくなるといった効果も期待できる。
コミュニケーションを生む空間
出社の価値は、リモートでは得にくい対面の交流と偶発的な出会いにある。人が自然に集まるマグネットスペースや、カフェスペースなどの仕掛けを取り入れ、出社したくなるオフィスを実現できれば、制度と空間が噛み合い、多様な働き方の満足度は大きく高まる。
こうしたワークプレイスづくりは、自社の働き方の分析から空間の設計まで検討事項が多い。ワークプレイス戦略の立案から実行まで実績が豊富な専門家に相談するのも良い方法である。
多様な働き方を実践する先進企業のワークプレイス成功事例
多様な働き方を制度とオフィスの両面から実現した3つの事例を紹介する。
ボッシュ:エンジニアファーストのABW型オフィスで多様な働き方を実現
ボッシュは2024年5月、東京・横浜エリアの8拠点・約2,000名を集約し、研究開発機能を備えた新本社を横浜市に開業した。「エンジニアファースト」を掲げた執務フロアは、集中のためのインディビジュアルゾーン、交流を生むコミュニケーションゾーン、レイアウトを自由に組み替えられるアジャイルゾーンで構成するABW型オフィスで、従業員が業務内容に応じて働く場所を選べる。
本プロジェクトは2025年度 第38回日経ニューオフィス賞で最高賞の「経済産業大臣賞」を受賞した。JLLはワークプレイス戦略から用地選定、プロジェクトマネジメント、チェンジマネジメントまでを一気通貫で支援した。
コスモエネルギーホールディングス:固定席からABWへ、働き方の選択肢を広げた本社移転
コスモエネルギーホールディングスは、1986年のコスモ石油発足以来初となる本社移転(2025年7月に新オフィスでの業務を開始)で、固定席からABWへ転換した。アジャイル席・ファミレス席・ソロワークエリア・上下昇降デスクなど多様な席種を用意し、従業員が業務内容に合わせて働き方を選べる環境を整備。バリスタのいる社内カフェを含む多目的エリア「COSMO CONNECT PARK」が、部署を越えた交流を生んでいる。JLLはワークプレイス戦略の策定からトライアルオフィスによる事前検証、チェンジマネジメントまでを支援した。
JLL:「Future of Work」を体現する多様な働き方とオフィス
JLL自身も「Future of Work(働き方の未来)」の実践として、東京本社と関西支社を移転した。ABWを全面的に採用し、多様な働き方を支える5つの柱に基づいてワークプレイスを設計している。多目的ルームやウェルビーイングに配慮した空間も整備し、2023年度グッドデザイン賞などを受賞した。実際の空間はオフィスツアーで見学できる。
多様な働き方に関するよくある質問
多様な働き方について、よく寄せられる質問と回答をまとめた。
多様な働き方にはどんな種類がありますか?
大きく「場所」と「時間・雇用形態」の2軸で整理できる。場所の多様化にはテレワーク、ハイブリッドワーク、サテライトオフィスなどがあり、時間・雇用形態の多様化にはフレックスタイム制、短時間勤務、週休3日制、副業・兼業などがある。自社の課題に合わせて組み合わせることが重要である。
企業が多様な働き方を導入するメリットは何ですか?
主なメリットは人材確保・採用競争力の向上、定着率の向上、生産性の向上、BCPへの貢献の4つである。働き方の裁量は求職者の重要な判断基準であり、従業員エンゲージメントにも直結する。人手不足が続くなかで、企業の競争力を支える経営戦略として位置づけられる。
導入は何から始めればよいですか?
まず、現状分析から始めたい。従業員の働き方の実態やニーズを調査し、課題を特定したうえで、制度設計とオフィスの見直しを一体で進める。導入後は利用状況や満足度を測定し、改善を繰り返す。制度だけを先行させず、評価制度・ITインフラ・ワークプレイスをセットで整えることが定着のポイントである。
多様な働き方に合わせてオフィスはどう変えればよいですか?
出社率や業務内容に合わせて、ABWやフリーアドレスによる席の最適化と、対面の交流を生む空間づくりを組み合わせるのが基本である。固定席を減らして生まれたスペースは、協業エリアやマグネットスペースに転換する。「何のために出社するのか」に空間で答えることが、制度の定着を後押しする。
多様な働き方の実現を支援するJLLのワークプレイス戦略
多様な働き方とは、従業員が働く場所・時間・雇用形態を選べる働き方であり、人材確保・定着率・生産性・BCPの面で企業に大きなメリットをもたらす。定着させる鍵は、制度の整備とそれを支えるワークプレイスづくりを一体で進めることである。
導入は、現状分析、制度設計、オフィスの見直し、効果測定の順で進めたい。ただし、働き方の実態把握から空間の設計・運用までを自社だけで進めるのは容易ではない。ワークプレイス戦略の策定から運用定着まで実績が豊富な専門家の知見を活用することで、制度と空間のずれを防げる。
JLLはグローバルな知見と豊富なデータ、実績に基づき、多様な働き方を実現するワークプレイスづくりを支援する。働き方とオフィスの見直しにあたっては、ぜひJLLにご相談いただきたい。