フリーアドレスオフィスとは?企業が導入するメリットと成功のために押さえておきたいポイント
フリーアドレスとは?特徴とABWやグループアドレスとの違い
フリーアドレスとは、従業員ごとの固定席を設けずに、その日に空いている席を自由に活用できるワークスタイルを指す。担当者が外回りなどでオフィスを不在にしている際、未稼働状態になった座席をシェアするオフィス効率化施策として開始されたが、近年では部署やチームごとに集まる島型オフィスとは異なり、各専門分野のプロフェッショナルが部署ごとの垣根を越えて交流するなど、社内のコラボレーションや新しい発想が自然発生することを期待して導入する企業が増加している。
一方、フリーアドレスと同一視されることの多い「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」は、オランダ生まれのワークスタイルであり、社内外を問わず業務に最適な場所や時間を自由に選択できる働き方と定義される。ABWでは働く時間も選択でき、自宅やカフェ、コワーキングスペースなどで働くことも許容される、いわゆる働き方の概念であるのに対し、フリーアドレスはあくまでも社内で従業員が働くことを前提とした物理的なオフィス運用施策と認識されている。
さらに、部署やチームといったグループ単位で大まかな執務エリアを確定し、そのエリア内であれば従業員が自由に席を選べるという「グループアドレス」という制度もある。オフィス全体を対象とするフリーアドレスと異なり、座席選択の範囲が所属グループ内に限定される点が大きな違いといえる。
フリーアドレスオフィスが注目される背景
ハイブリッド型ワークスタイルへの転換という世界的な潮流が存在している
なぜ今、フリーアドレス導入を検討する企業が増えているのか?
その背景にはハイブリッド型ワークスタイルへの転換という世界的な潮流が存在している。
グローバルに事業展開する国内外の企業を対象にJLLが2022年に行った調査によると、在宅・出社あるいはサテライトオフィスやコワーキングスペース、ホテルやカフェに代表されるサードプレイスなどの働く場所や時間等の制約に対してより多くの裁量を持ち、能動的で柔軟な働き方を実践する「ハイブリッド型勤務」を行っている従業員は全体の55%に達し、ハイブリッド型を希望する従業員も60%と高い水準を記録した。
また、「全従業員にリモートワークを常時可能とすることを検討するか?」という質問に対して、導入済み、あるいは2025年までに導入の可能性大と答えたのは従業員5,000人未満の企業では51%、従業員5,000人以上の企業で56%という調査結果も出ている。
出所:JLLレポート「2022年版Future of Work(働き方の未来)グローバル調査」
出所:JLLレポート「2022年版Future of Work(働き方の未来)グローバル調査」
2019年から順次施行された働き方改革関連法の影響もあり、従業員の多様な働き方を実現するフレキシブルなオフィス環境に対するニーズが日本でも高まっており、いまや企業のオフィス戦略に欠かせないトレンドといえるだろう。
こうした柔軟な働き方を実現するための実践的な施策の1つとして、フリーアドレスを選択する企業が増えている。
フリーアドレスがもたらす7つのメリット
フリーアドレスを導入することで、どのような効果が期待できるのか。一般的に以下の7つのメリットが考えられる。
1. 生産性向上
2. オフィスのコスト削減
3. コミュニケーションの活性化とイノベーション創出
4. モチベーションや満足度の向上
5. オフィスの美化
6. 多様な働き方の推進
7. 組織変更時の対応しやすさ
それぞれのメリットについて具体的に解説する。
生産性向上
従業員にとっては、書庫や会議室に近い席など、その日の業務に合わせた利便性の高い席を選ぶことで生産性向上が期待できる。
オフィスのコスト削減
フリーアドレスは従業員全員分の固定席を設ける必要がないため、デスクの数やオフィス面積を最適化することができ、賃料などのコスト削減にも寄与する。
コミュニケーションの活性化とイノベーション創出
フリーアドレスを導入したオフィスでは、固定席では関わる機会の少なかった他部署の従業員など、多種多様な考え・知見を持つ同僚たちと接する機会が増え、偶発的なコミュニケーションによる業務改善やアイデア・イノベーションの創発が期待できる。
モチベーションや満足度の向上
その日の業務に合わせて働く場所を自律的に選べることは、従業員の働きがいや満足度の向上に寄与する。疲れてきたタイミングで席を移動すれば手軽に気分転換でき、モチベーション回復効果も期待できる。
オフィスの美化
フリーアドレスでは、退席時や終業時に個人の荷物をすべて片付ける「クリアデスク」が基本であるため、オフィス全体の整理整頓や美化をはじめ、ペーパーレス化にも効果が見込める。また、書類が放置されにくくなるため、情報漏洩リスクの解消も期待できる。
多様な働き方の推進
フリーアドレスは、働く場所を自由に選択できるABW(Activity Based Working)や、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークなど、多様な働き方と親和性が高く、働き方改革の推進にも寄与する。
組織変更時の対応しやすさ
フリーアドレスは組織変更や人員の増減に柔軟に対応できるというメリットもある。部署の改編やプロジェクトチームが新規発足した場合でも、大掛かりなレイアウト変更工事をすることなく臨機応変に対応しやすいのが利点といえる。
フリーアドレスオフィスのデメリットや注意点と対策
初めてフリーアドレスをオフィスに導入する際には、従前の固定席型オフィスと働き方が大きく変わるため、実際にオフィスを使用する従業員が懸念を感じることも少なくない。ここからは、フリーアドレスオフィスでよくあるデメリットや注意点、それらを回避する対策を解説する。
データに基づいた自社の働き方に最適なオフィスデザインは、フリーアドレス定着の大きな決め手になる
従業員の居場所が分からず、マネジメントが難しい
固定席がないため、誰がどこにいるのかを把握しづらく、マネジメントやコミュニケーションに支障をきたすことがある。特に緊急対応が必要な案件や相談事をしたい場合に不便を感じやすい。
対策としては、在席状況を可視化するIoTツールやビジネスチャット・ウェブ会議システムを導入など、円滑なコミュニケーションを促すためのIT環境を整備することが有効である。
部署内やチームのコミュニケーションが不足し、一体感が薄れる
フリーアドレス化によって、部署やチームのメンバーが離れた席で働く時間が増え、固定席に比べて気軽に相談・情報共有が滞る可能性がある。部署・チームの一体感が希薄になり、特に新人・若手が孤立する危険性がある。
対策として、部署やチーム単位で大まかなエリア内で働く「グループアドレス」を導入する他、定期的なミーティングを設けるなど、意識的にコミュニケーションの機会を作るべきだろう。
集中したい時に周囲の会話や物音が気になって集中できない
オープンな空間で働くフリーアドレスは、活発なコミュニケーションを促す一方で、周囲の会話や物音が気になり、集中力を要する個人業務を妨げてしまうことがある。
これを防ぐためには、私語厳禁の「集中ブース」や、ウェブ会議用の個室ブース、リフレッシュスペースなど、業務内容や気分に合わせて使い分けできるエリアをオフィス内に設けることが効果的である。
結局いつも同じ席に座ってしまい、座席が固定化される
フリーアドレスを導入しても、仲の良い従業員同士で固まったり、景色の良い席や便利な席がいつも同じメンバーが使用するなど、事実上“固定席化”することが往々にして見られる。これではコミュニケーション活性化というメリットを享受できない。
このような状況を防ぐには、くじ引きや予約制で席を決めるなど、必要に応じて座席の固定席化を防ぐためのルール作りを行う企業も存在する。
個人の荷物や書類の管理が難しい
フリーアドレスでは、自席に私物や書類を置いておけないため、毎日すべての荷物を片付ける必要がある。
そのため、個人用のロッカーや共有のキャビネットを設置することは必須の対策だ。さらに、フリーアドレス化を機に書類の電子化・DXによるペーパーレスを推進すれば、荷物の量を減らせるだけでなく、情報にアクセスしやすくなり、業務効率の向上にも繋がる。
スマートオフィス化(ペーパーレス化・重要システムの導入)を通じて効率化を図る
目的が曖昧なまま導入すると従業員の理解・協力が得られない
目的意識が薄く、「流行り・トレンド」といった表層的な理由でフリーアドレスを導入した場合、従業員から反発される恐れがある。コスト削減のためだけの施策と誤解されると「オフィスが狭くなった」、「使いにくい」、「荷物や資料を置く場所がない」といった不満や抵抗感が生まれる可能性がある。
なぜ、フリーアドレスが必要なのか、それによってどのような課題を解決でき、従業員にどのようなメリットがあるのかなど、導入目的を明確にし、計画段階から従業員に丁寧に説明し続けることが不可欠だ。目的を共有することで、従業員が当事者意識を持ち、フリーアドレスをポジティブに捉える環境を作ることができる。
部署の業務特性に合わず、かえって生産性が低下することがある
経理や法務・開発職など、機密情報や専門性の高い書類を扱ったり、大型モニターなどの専用機材を必要とする部署では、フリーアドレスが業務特性に合わず、かえって生産性を低下させてしまう恐れがある。
このような場合は、全社一律での導入にこだわらず、部署ごとに適用範囲を検討したり、一部の部署は固定席と併用したりするなど、柔軟な制度設計を意識するべきだろう。
フリーアドレスに向いている企業・向かない企業
さまざまなメリットが期待できるとはいえ、業務や職場によっては必ずしもフリーアドレスに適していない企業も存在する。導入検討時の判断材料として、その特徴を挙げていく。
以下のような業態・業種の企業は本質的にフリーアドレスに適していない、あるいはメリットが限定されるケースだと考えられる。
●特許に関わる商品開発など機密性の高い情報や個人情報を多く扱う企業
●従業員数が少なく、固定席のままでも十分な交流が維持できる企業
なかでも、従業員個々で膨大な紙の資料を抱えて業務を行っているような企業がフリーアドレスのみ導入すると混乱を招きかねない。
一方で、フリーアドレスの導入はDX化やペーパーレス化の施策を効果的に進めるための絶好の機会となりえる。
フリーアドレス導入に向けてのステップ
自社の課題や導入の目的を明確にし、現場の従業員と十分に共有しておくことが不可欠
メリットや必要性を理解してフリーアドレスの導入を意思決定した場合、具体的にはどのような手順で進めるべきだろうか。一般的な導入ステップを紹介する。
導入目的の明確化
導入の狙いとKPI、適用範囲(部署・業務)を先に定め、方針を可視化して社内に周知する。コスト削減やコミュニケーション活性化など、自社の課題解決にどう繋がるのかをスタート時に明確にしておくことが重要だ。
現状把握と課題分析
アンケートやヒアリングで課題とニーズを調査、従業員の在席率やオフィスの利用状況を客観的なデータで把握し、席種比率など設計の前提条件を固める。
対象部門の検討と運用計画の策定
フリーアドレスを全社で実施するのか、特定の部署に限定するのかを決定する。対象範囲や導入目的、現状分析の結果に基づき、オフィス移転の有無を含めた全体的な基本計画を策定する。
オフィスデザインとレイアウト設計
算出した在席率に基づき、最適な座席数を決定する。固定席を減らすだけでなく、集中ブースやリフレッシュスペースなども含め、動線も考慮したオフィスレイアウトや必要なITインフラを設計する。
導入計画の策定やレイアウト設計などには専門知識が不可欠になる。特に建築費が高止まりする昨今、限られた予算・工期内でプロジェクトを完遂するためにはオフィス移転などの専門家に相談するのがベストな方法といえる。例えば、JLLは国内外問わず数多くの企業のオフィス移転・リニューアルを支援してきた。同様の課題を解決した過去の実績や知見に基づき、最適なアドバイスと実行支援を行うことができる。
スケジュール策定と業者選定
オフィス移転やレイアウト変更の具体的なスケジュールを立てる。 Wi-Fiやクラウド、座席予約・所在可視化、ロッカーや会議ブースなどの機器選定と調達も進めていく。策定した計画に基づき、複数の業者から見積もりを取得し、比較・決定する。
運用ルールの策定と周知
スムーズな運用のために、座席の利用方法や私物の管理(クリアデスク)、清掃などのルールを定める。導入に先立ち、全従業員を対象とした説明会などを実施し、導入目的と運用ルールの周知徹底に努める。
工事の実施と移転
策定したスケジュールに沿って、オフィス移転・改装工事やWi-FiなどのITインフラ整備を実施する。一区画のみの小規模な試験導入を行うなど、効果検証し、課題を是正して全社的に展開する方法も効果的だ。新オフィスの運用開始後には定期的な見直しも欠かせない。
フリーアドレスオフィス導入の成功事例
働き方改革の推進が求められるなか、フリーアドレス化をはじめとしたフレキシブルなオフィス構築・運用に成功している企業の事例を紹介する。
エイコー
IT機器の導入支援など、オフィス環境に関する多種多様なソリューションを提供している株式会社エイコーは、創業50年を迎えた2022年に東京本社オフィスを移転した。
4フロア432坪からワンフロアへ統合したフリーアドレス型の新オフィスは、中央に個人ロッカーやメールボックス、事務機器・事務用品を集め、従業員同士を“結ぶ” コミュニケーションエリアを配置。
1on1向けのモニター席、オンライン会議・営業にも対応した個室ブースなど多彩な執務席を用意したほか、雑談など部署を超えたコミュニケーションを育むために広大なカフェスペースも開設した。
前オフィスと比べると面積は37%縮小しコストカットに成功しただけでなく、従業員の生産性やモチベーション向上、コミュニケーションの活性化などにも貢献している。
JLL
不動産総合サービスのJLLは、自社の提唱する「Future of Work(働き方の未来)」をオフィスにて体現するため、2022年に東京本社・関西支社の新オフィス移転を実施した。
ハイブリッドワークを前提にしたABW型オフィスを構築。執務スペースは全面フリーアドレス席とした。最新のITツールや予約システムの導入でリモートとオフィスの連携をシームレスにする一方、データに基づいた利用状況分析によりレイアウトを最適化し、快適に働くことができる環境を実現している。
2023年には、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2023年度グッドデザイン賞」の「オフィス空間・産業空間のインテリア」カテゴリーにおける「グッドデザイン賞」を受賞。また、人々の健康とウェルビーイングの観点から建築や街区の環境性能を評価する国際認証制度のWELL認証(WELL Building Standard™)のWELL v2 pilotで最高ランクの「プラチナ」認証を取得した。
これからの働き方を反映させたフリーアドレスオフィス
国内外を問わず、リモートワークとオフィス出勤を組み合わせたハイブリッドワークが普及している現在、それに対応できるフリーアドレス型のオフィスはウェルビーイングや業務効率化といった観点から重要なファクターだといえる。
フリーアドレスの導入や自社に最適なワークプレイス戦略を検討する際、グローバルな実績を持つJLLの知見をぜひ参考にしていただきたい。