マグネットスペースとは?
マグネットスペースとは、磁石に引き寄せられるように社員が自然と集まる空間のことである。オフィス内では、給湯室やコピー機の周辺、リフレッシュスペースなどが該当する。ミーティングのように時間を決めて集まるのではなく、休憩や食事などで「人が自然と集まってくる空間」である点が特徴だ。
従来から存在する執務室や会議室、休憩室とは異なり、マグネットスペースは偶発的なコミュニケーションを生み出すことを目的としている。同じ部署の社員だけでなく、他部署の社員も利用するため、部署を超えた交流が生まれやすい。
フリーアドレスやABW(Activity Based Working)と同一視される向きもあるが、マグネットスペースはそれらの“働き方”を実現するための一要素といえるだろう。
フリーアドレスは固定席を持たない働き方を指し、社員が日によって異なる席を自由に選択できる制度だ。ABWは業務内容に応じて働く場所を選択する働き方であり、集中作業用の個室、打ち合わせスペース、リラックスできる休憩エリアなど、多様な空間を用意する。
一方、マグネットスペースは、こうした自由度の高い働き方を支える「人が集まる拠点」としての役割を担う。フリーアドレスやABWを導入する企業において、マグネットスペースは社員同士の接点を生み出す重要な空間と位置付けている。
マグネットスペース導入で得られる5つの効果
オフィスにマグネットスペースを導入することで、以下の5つの効果が期待できる。
部署を超えた偶発的コミュニケーションの創出
マグネットスペースでは、普段接点のない部署間での交流機会が増加する。プリンタ出力を待っている間や、ドリンクを飲んでいるときに「最近仕事どう?」といった会話が生まれる。このような偶発的な出会いが、異なる部署間を横断した情報共有を可能にし、組織の透明性向上やイノベーション創発のきっかけとなる。
オフィス空間設計と制度アイデアで社内コミュニケーションを活性化する施策として、オフィスカフェや多目的スペースがマグネットスペースの役割を担うケースが多い。
社員のモチベーションとエンゲージメント向上
業務以外のコミュニケーションを取ることで、社員のストレス解消につながる。リフレッシュによるストレス軽減効果に加え、他部署社員との交流による刺激と健全な競争意識の醸成も期待できる。また、業務を少し離れた場所での交流は、心理的安全性をもたらし、組織への帰属意識やエンゲージメントの向上にも寄与する。
生産性と業務効率の向上
マグネットスペースは、迅速な情報共有と意思決定のスピードアップに貢献する。会議室を予約する必要がなく、その場で気軽に相談できるため、部署間連携の円滑化や業務効率化に繋がりやすい。クイックミーティングによる問題解決の迅速化も生産性向上に貢献する。
デッドスペースの有効活用とコスト最適化
マグネットスペースは、既存の未活用スペースなどを活かせば大規模な改装工事不要で導入可能。オフィス面積の効率化と共にコスト削減も期待できる。すでにオフィス内で人が自然と集まりやすい空間にスタンディングテーブルなどを設置するだけで完成する。
企業ブランディングと採用力の強化
魅力的なオフィス環境による企業イメージの向上は、人材採用活動にもプラスとなる。昨今オフィスを含めた執務環境を重視している就活生が増えているとされ、マグ\ネットスペースを設置することで、働く環境についての好印象を与え、優秀な人材の採用や長期雇用にもつながる。
マグネットスペースは、単なる休憩場所ではなく、戦略的なコミュニケーション拠点である。
マグネットスペースを設計するための5つのポイント
マグネットスペース導入の進め方
導入時に陥りがちな失敗例と対策を解説する。
執務スペースに近すぎ集中力が低下
雑談の声が執務エリアまで届くなどの“騒音問題”が発生する可能性がある。事前にシミュレーションを行い、執務スペースからの距離など、設置場所を検討する。
動線から外れた場所で利用されにくい
アクセスの悪さが利用率を下げる可能性が高い。人の流れを事前に把握した上でアクセスしやすい動線上にマグネットスペースを配置する。
設備不足による利用体験の悪さ
電源、Wi-Fi、飲料などが利用しにくく、快適性が損なわれるとマグネットスペースを用意しても低・未稼働に陥る可能性がある。予算との兼ね合いになるが、十分な設備を整えることも必要だ。
組織文化とのミスマッチ
マグネットスペースで会話していると早く仕事に戻るよう促されるなど、形だけの導入では効果が出ない。部署のリーダーや経営層のコミットメントが必要であり、社員が利用しやすい雰囲気を醸成することも視野に入れるべきだろう。
マグネットスペース導入の成功事例
実際にマグネットスペースを導入し、成果を上げている企業の事例を紹介する。これらの事例から、マグネットスペースは単なる物理的な空間ではなく、企業文化や働き方改革の一環として戦略的に導入されていることが分かる。
株式会社エイコー
エイコーは2022年に東京本社オフィスを移転し、「Fo-me」と命名された新オフィスでは、「360°Communication」をコンセプトに、マグネットスペースを戦略的に配置している。
オフィス中央に配置された「むすぶスペース」は、個人ロッカーやメールボックス、事務機器・事務用品を集約したエリアであり、社員同士を"結ぶ"コミュニケーションエリアとして機能している。この空間は、必然的に多くの社員が立ち寄る場所として設計されており、偶発的な会話が生まれやすい環境を実現している。
さらに、広大なカフェスペース「PRATTO CAFÉ(ぷらっとカフェ)」を開設し、雑談など"ナナメ"のコミュニケーションを育む場として活用されている。このカフェスペースは、部署を超えた交流を促進し、社員が気軽に立ち寄れる"ぷらっと"な雰囲気を醸成している。
これらのマグネットスペースにより、8つのワークスタイルの実践を目指し、コミュニケーション活性化に重きを置いたオフィス環境を実現した。
セーフィー株式会社
セーフィーは「出社したくなるオフィス」をコンセプトに、2倍超の拡張移転を実施した。コミュニケーション活性化を最大の目的としており、マグネットスペースが重要な役割を果たしている。
執務スペース内に公園をイメージした「Park」と呼ばれるオープンスペースを整備し、飲料が無料提供されるカウンター席を用意した。この「Park」では、社員同士でパーティーを開催したり、ランチを楽しんだりと、コミュニケーションが生まれる場所として機能している。
さらに、執務スペース内のいたるところにマグネットエリアを設置し、スタンディング・ミーティング等が気軽にできる環境を整えた。背の高い什器や間仕切りがないフリーアドレス席とすることで、社員同士が気軽に会話できるように配慮している。
移転後に実施した社員アンケート調査では、ほぼ全項目がプラス評価となり、「働きやすさ」において5点満点中3.8という高評価を獲得した。
資生堂ジャパン株式会社
資生堂ジャパンは戦略的なオフィス移転により、「離合集散」を体現する多様なコミュニケーション空間を実現した。「SJ-STATION」と命名された新本社オフィスでは、マグネットスペースが重要な要素として機能している。
各フロアにフレキシブルに利用できるオープンエリアやミーティングスペースを多数開設し、それらを通路で結んだ。周辺には多種多様な執務席を配置することで、必要な時に簡単にコミュニケーションが取れ、集中したい時に集団から離れられる環境を構築している。
また、社員同士が繋がり、交わるコミュニケーションの場として2つのカフェテリアを整備した。これらの空間は、マーケター、商品開発、営業、ビューティーコンサルタント、バックオフィスまで一体感をもって業務に取り組める場として機能している。
クイックにタウンホールミーティングが開催できるエリアやブランドブースなど、目的に応じた多様なコミュニケーション空間を設けることで、社員の自主的な交流を促進している。
これらの事例から、マグネットスペースは単なる物理的な空間ではなく、企業文化や働き方改革の一環として、具体的なエリア設計と機能配置によって戦略的に導入されていることが分かる。