サテライトオフィスとは?企業のメリット・デメリットと導入事例
著者
JLL日本 マーケティング&コミュニケーション事業部 コンテンツチーム
サテライトオフィスとは?本社から離れた場所に設ける第3のワークプレイス
サテライトオフィスの定義と注目される背景、類似用語との違い、3つの種類を整理する。
サテライトオフィスの定義と基本概念
サテライトオフィスとは、本社や支社から離れた場所に設ける小規模なオフィスのことである。本社オフィスや自宅とは別の「第3のワークプレイス」として、従業員の居住地に近い郊外や地方都市、ターミナル駅の周辺などに開設される。サテライトオフィスという言葉は、「衛星(サテライト)」が地球の周りを回るように、本社オフィスを中心として離れた場所に設置されるオフィスを意味している。
サテライトオフィスには、小規模オフィスを自社保有または賃借するケースと、外部向けの共用施設を利用するケースがある。本稿では前者を自社専用型、後者を共用型と呼ぶ。
共用型は複数の企業が施設運営会社と利用契約を結び使用するフレキシブルオフィスの一形態で、初期費用を抑えて利用規模に見合ったスモールスタートが可能だ。従前から存在した概念だが、近年のテクノロジーの発展で、クラウドサービスやウェブ会議システムなどを活用したより効率的な運用が可能となり、共用型のサテライトオフィス運営に参入する企業も増えている。
サテライトオフィスが注目される背景
サテライトオフィスが改めて注目される背景には、出社とテレワークを組み合わせる働き方の定着がある。総務省「令和7年通信利用動向調査」(2026年5月公表)によると、常用雇用者100人以上の企業のうち、テレワークを導入している企業は50.1%にのぼる。また同調査では、テレワークを実施した企業等勤務者のうちサテライトオフィスで実施した人が18.7%と、前年の15.4%から増えた。※1
国土交通省が全国の就業者を対象に実施した「令和7年度テレワーク人口実態調査」(2026年3月公表)でも、同様の傾向がみられる。雇用型就業者のうち、これまでにテレワークをしたことがある人(テレワーカー)の割合は25.2%となり、前年度から0.6ポイント上昇した。
ただし、働き方は完全なリモートではなく、出社との組み合わせに落ち着きつつある。JLLが世界84組織を対象に実施したグローバル調査「Global Occupancy Planning Benchmark Report 2026」(2026年5月)によると、週3-4日出社する人の割合は55%(前年比+19ポイント)と最も多い。半面、完全リモートは10%にとどまる。出社しない日の働く場所として、前述のとおりサテライトオフィスを利用する人も増えている。本社と自宅の間を埋める「第3のワークプレイス」として、サテライトオフィスの役割は高まっている。
都心のオフィス市場の動きも背景にある。JLLの調査によると、2026年第2四半期の東京グレードAオフィスの空室率は0.8%で、月額坪当たり賃料は前年同期比16.4%上昇した。建築コストの高騰で新規供給の竣工が遅れ、すぐに入居できる空室も非常に限られており、市場の逼迫は今後も続くと見込まれている。本社の床を増やしにくい企業にとって、サテライトオフィスはオフィス機能を分散させる現実的な選択肢となる。
一方、制度面では改正育児・介護休業法により、3歳から小学校就学前の子を育てる従業員に対する「柔軟な働き方を実現するための措置」が義務化された(2025年10月施行)。企業は始業時刻の変更やテレワーク、短時間勤務などの措置から2つ以上を講じる必要があり、働く場所の選択肢を整える重要性はさらに増している。
サテライトオフィス・テレワーク/リモートワーク・シェアオフィスの違い
働き方の多様化に伴い、「サテライトオフィス」のみならず、「テレワーク」や「シェアオフィス」といった用語がよく使われるようになった。これらの用語は似ているようで明確な違いがある。下記に比較をまとめた。
サテライトオフィスの最大の特徴は、企業が執務環境を提供するという点だ。テレワークが個人の判断で働く場所を確保するのに対し、サテライトオフィスは企業が場所を指定し、費用を負担する。出社とテレワークを組み合わせるハイブリッドワークにおいては、本社と自宅の間にある働く場所の選択肢を担う存在といえる。
サテライトオフィスの3つの種類(都市型・郊外型・地方型)
サテライトオフィスは、開設する場所によって都市型・郊外型・地方型の3つの種類に分けられる。
① 都市型(移動効率・顧客対応)
都市部のターミナル駅周辺やビジネス街に開設するタイプのサテライトオフィスである。外回りの多い営業担当者が移動の合間に立ち寄って業務を進めたり、本社の会議室不足を補ったりする用途に向く。共用型を利用すれば、複数の主要駅に拠点を持つのと同じ効果を、自社で借りるよりも少ない負担で得られる。
② 郊外型(通勤負担軽減)
首都圏や大都市圏の郊外に位置するタイプのサテライトオフィスで、従業員の居住地に近い場所に拠点を設けることで、通勤時間や通勤ストレスの大幅な削減を実現する。
都心部の高額な賃料を避けられるコスト面でのメリットもあり、都市一極集中型から分散型へのシフトを目指す企業に適している。例えば、東京23区内の企業が多摩地域や神奈川県、埼玉県、千葉県などの郊外にあるサテライトオフィスを利用するケースが見られるようになってきた。
③ 地方型(地方への事業展開・人材採用)
地方都市に設置するタイプのサテライトオフィスで、現地の営業拠点や、地方出身者のUターン希望への対応、地方の優秀な人材獲得などの目的がある。
地方自治体による誘致施策や補助金を活用できるケースも多く、企業の社会的責任(CSR)の観点からも評価される。地元大学との連携による産学協力や、地域活性化への貢献など、多角的なメリットが期待できる。地方への拠点開設の考え方は、地方にオフィスや事務所を設置するメリットでも詳しく解説している。
なお、いずれの種類でも商業施設や駅直結の複合施設内に開設する形態がある。この形態は従業員の利便性を重視し、買い物や食事、各種サービスへのアクセスが容易な環境を提供する。
施設内の飲食店や商業施設の利用による従業員満足度向上に加え、施設運営事業者が提供するセキュリティや各種サービスを活用できる点もメリットだ。これらの種類は、企業の業種や規模、従業員の居住分布、事業戦略などによって最適な選択が異なる。自社にとって最適な種類を見極めることが、サテライトオフィス戦略成功の鍵となる。
企業の拠点戦略において、サテライトオフィスは単なる「分室」ではなく、ビジネス上の課題を解決する戦略的な拠点として位置づけられている
サテライトオフィス導入で実現する5つの企業メリット
サテライトオフィスの導入は、企業にとって、コスト面だけでなく、人材活用やBCP(事業継続計画)対策、地域への貢献など幅広いメリットが期待できる。
オフィスコスト最適化
立地によるオフィス賃料の差は無視できない。例えば、前述のJLLの調査では、2026年第2四半期の東京グレードAオフィス(都心5区の大規模ビル)の月額坪当たり賃料は42,109円(前年同期比16.4%上昇)に達している。一方で、郊外や地方都市には、大幅に値ごろな物件ばかりだ。
都心のグレードAオフィスは空室率が1%を下回り、賃料の上昇が続いている。賃借コストが膨らむうえ、増員や拡張に見合う床をすぐに確保できないケースもある。都心のオフィスを縮小し、一部を郊外のサテライトオフィス活用に振り替えることで、大きくコストを削減できる可能性がある。また、必要な床を確保できるまでの一時的な対応策としても、サテライトオフィスは有用な選択肢となる。
優秀な人材確保と採用エリア拡大の効果
サテライトオフィスの設置は、人材採用・確保の面で大きなアドバンテージをもたらす。通勤可能エリアの拡大により、採用候補者の母集団を大幅に増やすことができるからだ。
従来、企業が採用活動を行う際の大きな制約の一つが「通勤圏」だった。多くの人は1時間以内の通勤を希望するため、オフィスが都心部のみにある場合、実質的な採用エリアは限定される。しかし、郊外や地方にサテライトオフィスを設置することで、そのエリアに住む優秀な人材も採用できるようになる。
また、地方型のサテライトオフィスは、Uターン・Iターン希望者の採用にも効果的だ。地元で働きたいと考える地方出身者や、都会の喧騒を離れて自然豊かな環境で働きたいと考える人材を惹きつけることができる。地方大学の新卒採用においても、地元企業と差別化できる要素となる。
人材採用市場での競争が激化する中、サテライトオフィス戦略は企業の採用力強化につながる重要な差別化要因となりうる。
BCP対策としてのリスク分散効果
災害大国である日本において、事業継続計画(BCP)は企業経営の重要課題だ。サテライトオフィスの導入は、自然災害やパンデミックなどの緊急事態におけるリスク分散策として極めて有効である。
東日本大震災やコロナ禍の経験から、オフィス機能の一極集中がビジネス継続性に大きなリスクをもたらすことが明らかになった。例えば、本社が被災した場合や感染症の流行によって特定のオフィスが使用できなくなった場合でも、地理的に分散したサテライトオフィスがあれば、事業継続が可能になる。
具体的には、重要業務の分散配置、データのバックアップ体制の強化、本社機能の代替拠点の確保などが実現する。災害時には従業員の安全確保と事業継続の両立が求められるが、サテライトオフィスがあれば従業員の移動負担を軽減しながら業務を継続できる。また、感染症対策としても効果を発揮する。大規模オフィスでの密集を避け、小規模な拠点に分散することで、感染リスクの低減と事業継続の両立が可能になる。コロナ禍においては、この分散型オフィス戦略を取り入れていた企業が、比較的スムーズに事業継続を実現できた。
BCP対策としてのサテライトオフィス戦略は、単なるコスト削減策ではなく、企業の持続可能性を高めるための投資として捉えるべきである。
生産性向上への貢献
サテライトオフィスは、従業員の生産性向上に寄与する。環境の変化がもたらす刺激と、業務特性に適した場所選択が可能になることがその理由だ。
例えば、集中作業が必要な際は静かな環境のサテライトオフィスを、チームでのディスカッションが必要な際は本社の協働スペースを活用するなど、タスクに合わせた最適な環境を選ぶことができる。これはActivity Based Working(ABW)の考え方とも一致しており、働く「場所」と「内容」の最適な組み合わせを実現する。
また、人間の脳は、異なる環境に身を置くことで刺激を受け、新たな発想(イノベーション)が生まれやすくなる。本社とサテライトオフィスを行き来したり、異なるサテライトオフィスを使用することで、環境の変化によって思考パターンが柔軟になることも期待できる。通勤時間の短縮により、従業員の疲労が軽減され、集中力や創造性が高まるという効果も見込まれる。
生産性向上とイノベーション創出は、長期的な企業競争力を左右する重要な要素だ。サテライトオフィス戦略は、ただ働く場所を分散するだけでなく、知的創造の基盤を強化する施策にもなりそうだ。
経営戦略としての地方創生・SDGs貢献
現代の企業経営においては、収益性だけでなく社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みが重視されている。サテライトオフィスの導入は、これらの観点からも大きな価値を持つ。
地方創生への貢献は、サテライトオフィスがもたらす社会的価値の一つだ。地方に拠点を設けることで、雇用創出や地域経済の活性化に貢献する。さらに、地元大学との産学連携や地域コミュニティとの協働により、地域の持続可能な発展を支援することができる。これは「誰一人取り残さない」というSDGsの理念にも合致している。
また、環境面での貢献も見逃せない。従業員の通勤距離短縮によるCO2排出量の削減は、企業の環境負荷低減に直接つながる。
これらの取り組みは、ESG投資の評価指標としても注目されている。投資家が企業評価を行う際、将来的なリスク低減や持続可能性の観点から、分散型オフィス戦略を含む先進的な働き方改革を高く評価する傾向があり、経営戦略としての重要性が高まっている。 サテライトオフィス戦略を通じた社会・環境への貢献は、企業価値向上と社会課題解決の両立を実現する優れたアプローチといえる。
従業員の満足度向上につながるサテライトオフィスの4つの効果
一方、従業員の立場からもサテライトオフィス導入で得られるメリットは多い。
通勤時間・通勤ストレスの大幅削減
サテライトオフィス導入による最も直接的かつ大きな効果の一つが、従業員の通勤時間とそれに伴うストレスの削減だ。特に大都市圏では、長時間の通勤が従業員の身体的・精神的健康に大きな負担となっている。
総務省「令和3年社会生活基本調査」のデータをもとに算出すると、首都圏の平均通勤時間は片道約50分となる。この場合、往復で1日100分、年間で約416時間もの時間が通勤に費やされていると試算できる※2。
サテライトオフィスの導入により、この時間を大幅に削減できる可能性がある。例えば、通勤時間が半分になれば、年間208時間もの自由時間が生まれることになる。
通勤時間の削減は、単に時間的なメリットだけでなく、多面的な効果をもたらす。まず、経済的負担の軽減が挙げられる。通勤費の削減は従業員の実質的な収入増加につながる。また、長時間通勤によるストレスや疲労の軽減は、心身の健康維持に貢献する。
さらに、満員電車でのストレスから解放されることで、朝から活力を持って仕事に取り組めるようになる。これは生産性向上にも直結する重要な要素だ。通勤時間の削減により生まれた時間を睡眠や家族との時間、自己研鑽などに充てることで、ワークライフバランスの大幅な改善が期待できる。
通勤負担の軽減は、従業員満足度向上の即効性のある施策として、多くの企業がサテライトオフィス導入を検討する主要な理由となっている。
ワークライフバランスの実現と生活満足度向上
サテライトオフィスがもたらす通勤時間の削減は、従業員のワークライフバランスを大きく改善する。
通勤時間の削減で生まれた自由時間は、多様な形で活用される。例えば、朝の余裕時間を使って家族と一緒に朝食を取る、子どもの送り迎えをする、軽い運動をするなど、一日のスタートを充実させることができる。帰宅後も、家族との団らん、趣味活動、自己啓発など、より充実した時間の使い方が可能になる。
また、職住近接によって得られる「時間的なゆとり」は精神的なゆとりをもたらす。急いで出勤する必要がなくなり、天候や交通機関の乱れに対する不安も軽減される。これにより、仕事へのストレスが軽減され、メンタルヘルスの改善にもつながる。
さらに、ワークとライフの好循環も期待できる。プライベートの充実が心の余裕を生み、それが仕事のパフォーマンス向上につながる。また、仕事で培ったスキルや経験がプライベートライフを豊かにするという相乗効果も生まれる。
ワークライフバランスの改善は、従業員満足度や企業への帰属意識を高める重要な要素といえる。
多様な働き方を支援する環境整備
サテライトオフィスの導入は、多様な働き方を必要とする従業員をサポートする重要な環境整備となる。特に、ライフステージの変化に合わせた柔軟な働き方を求める層に大きなメリットをもたらす。
育児や介護との両立を図りたい従業員にとって、自宅近くのサテライトオフィスは理想的な選択肢となる。保育施設の送迎や急な呼び出しにも対応しやすく、また介護が必要な家族の近くで働くことも可能になる。これにより、キャリアを中断することなく、仕事と家庭の責任を両立させることができる。
また、女性の活躍推進の観点からも重要な施策だ。出産や育児を理由にキャリアを断念せざるを得なかった女性人材が、サテライトオフィスの活用により継続的に働ける環境が整う。これは企業にとっても、貴重な人材流出を防ぐ効果的な手段となる。さらに、多様な価値観やライフスタイルを持つ従業員のニーズにも応える。例えば、都会の喧騒を離れて自然豊かな環境で暮らしたい、趣味や副業と両立しやすい働き方をしたいなど、個々人の希望に合わせた働き方を可能にする。
多様な人材が活躍できる環境を整えることは、企業の持続的成長のためにも重要だ。サテライトオフィスは「多様な働き方」を掛け声だけでなく実態として支援する具体的な施策として、ダイバーシティ&インクルージョン推進の要となる。
職場環境の選択肢拡大によるエンゲージメント向上
サテライトオフィスの導入がもたらす重要な効果の一つに、従業員が「働く場所を選べる」という選択肢の拡大がある。この自律性の向上は、従業員エンゲージメントの向上に大きく貢献する。
人は自分自身で選択し決定する機会が多いほど、モチベーションや満足度が高まることが知られている。これは「自己決定理論」と呼ばれ、働き方においても同様のことがいえる。本社、サテライトオフィス、自宅など、その日の業務内容や体調、スケジュールに合わせて働く場所を選択できるということは、従業員に主体性と責任感をもたらす。
また、職場環境の選択肢拡大は「心理的安全性」の向上にもつながる。例えば、静かな環境で集中したいとき、チームでディスカッションしたいとき、通勤時間を短縮したいときなど、その時々のニーズに最適な環境を選べることで、ストレスを軽減し、心理的な安心感を得られる。
さらに、場所の選択が可能になることで、結果重視の働き方が促進される。「どこで働くか」ではなく、「どれだけ成果を出すか」に評価の重点が移ることで、パフォーマンス志向の企業文化が醸成される。これは特に成果志向の高い人材のエンゲージメント向上に効果的だ。
従業員が自律的に働き方を選択できる環境を整えることは、長期的な人材獲得・維持戦略の重要な要素となる。
サテライトオフィスの導入は従業員のワークライフバランスに大きなプラスの影響を与え、勤務先に対するエンゲージメントの向上にもつながる
サテライトオフィス導入のデメリットと対策
サテライトオフィスの導入にあたっては、本社オフィスへの出勤と異なる点について把握し対策を取っておこう。
稼働率が上がらず固定費だけが残る
自社専用型のサテライトオフィスは、利用が少なくても賃料や管理費が毎月発生する。従業員の居住地や業務内容と立地が合っていなければ、稼働率が上がらず固定費だけが残ることになる。
そのため、現在では運営事業者の増加に伴い共用型を利用するケースが主流になっている。共用型から小さく始め、利用データを見て施設利用の拡張などを判断するべきだろう。運営事業者によって異なるが、共用型は利用時間や利用回数に応じた料金体系が一般的で、変動費として扱いやすい。予約や入退室の記録の利用データを定期的に確認し、利用の少ない拠点(施設ブランド)は契約を見直す。JLL日本でも、ニーズに合わなかった共用型施設の利用を停止した経験がある(後述の事例を参照)。
労務管理・評価が難しくなる
本社以外の場所で働く従業員が増えると、上司が勤務の様子を直接見られなくなり、勤怠の把握や評価が難しくなる。始業・終業の時刻や中抜けの扱いが曖昧なままだと、長時間労働の見落としや評価への不公平感につながりかねない。
対策としては、まず入退室の記録やパソコンの使用時間など、客観的な記録で勤務時間を把握する仕組みを整える。JLL日本が利用する共用型サテライトオフィスでも、ライセンスカードやQRコードで入退室時間が管理され、労務状況を把握しやすくなっている。あわせて、働く場所ではなく成果や役割の達成度を基準にした評価へ見直し、利用ルールを就業規則などに明記しておく。
情報セキュリティ対策の重要性と具体的方法
サテライトオフィスを導入する際、最も重要な検討事項の一つが情報セキュリティ対策だ。本社から離れた場所での業務環境においても、機密情報や個人情報を適切に保護することは企業の責務である。
サテライトオフィスのセキュリティ対策は、物理的セキュリティとデジタルセキュリティの両面から考える必要がある。物理的セキュリティとしては、入退室管理システムの導入、監視カメラの設置、シュレッダーや鍵付きキャビネットの配備などが基本となる。特に不特定多数の人が出入りする商業施設内にオフィスを構える場合は、オフィススペースへの入室制限を厳格に行うことが重要だ。
デジタルセキュリティについては、VPN(仮想プライベートネットワーク)を活用した通信の暗号化、多要素認証の導入、エンドポイントセキュリティの強化が基本となる。また、クラウドサービスを利用する際には、情報の保存場所や共有設定に関するルールを明確化することも大切だ。
さらに、セキュリティポリシーの策定と従業員教育も欠かせない。サテライトオフィスでの情報取り扱いルールを文書化し、定期的な研修や訓練を通じて従業員の意識向上を図ることが重要だ。特に注意すべきは「シャドーIT」と呼ばれる、IT部門の管理外でアプリケーションやサービスを利用してしまうリスクだ。便利さを優先するあまり、個人的に導入したツールやサービスが情報漏洩の原因となる可能性がある。
セキュリティ対策は、ユーザーの利便性とのバランスが重要だ。過度に厳格な対策は業務効率の低下を招き、かえってルール違反を誘発する可能性がある。業務内容やデータの機密性レベルに応じた適切なセキュリティレベルを設定し、定期的に見直すことが望ましい。
コミュニケーション分断を防ぐ組織マネジメント
サテライトオフィスの導入に伴う大きな課題の一つに、コミュニケーションの分断やチームの一体感の希薄化がある。物理的な距離が生じることで、情報共有の遅延や組織のサイロ化(縦割り化)が進むリスクに対応するための施策が必要だ。
まず重要なのは、意図的かつ定期的なコミュニケーション機会の創出である。例えば、週次の全体ミーティングや部門横断のワークショップなど、対面やオンラインで顔を合わせる機会を計画的に設けることが効果的だ。特に「雑談」や「インフォーマルな会話」の機会が減少しがちなため、オンライン上の雑談スペースやバーチャルコーヒーブレイクなどカジュアルなコミュニケーションの場を意識的に作ることも大切だ。
また、情報共有のプラットフォームを整備し、誰もが必要な情報にアクセスできる環境を整えることも重要だ。社内SNSやナレッジマネジメントシステムの活用、プロジェクト管理ツールの導入などにより、情報の透明性と可視性を高めることができる。特に「暗黙知」の共有が難しくなるため、情報やノウハウを形式知化して共有する文化を醸成することが望ましい。
さらに、マネジメントスタイルの適応も必要だ。分散型の働き方に適した「結果型マネジメント」への移行や、1on1ミーティングの充実によるきめ細かなコミュニケーションが効果的だ。マネージャーはチームメンバーの状況や課題を把握するために、より意識的かつ積極的にコミュニケーションを取る必要がある。
また、企業文化や帰属意識の醸成も重要な課題だ。定期的な全社イベントやチームビルディング活動、企業理念やビジョンの共有などを通じて、物理的に離れていても心理的な距離を縮める工夫が必要だ。メンバー間の信頼関係と心理的安全性が確保されていれば、物理的な距離があっても効果的な協働が可能になる。
サテライトオフィスの最適な立地と規模の選定方法
サテライトオフィスの立地および施設の選定は、従業員の居住分布・業務特性・共用型の料金体系の3つに着目すべきだろう。
従業員の居住分布分析によって最適立地を導き出す
サテライトオフィスの成否を大きく左右する要素の一つが、立地選定だ。特に通勤負担軽減を目的とする場合、従業員の居住分布を詳細に分析し、最適な立地を選定することが重要になる。
まず、従業員の居住地データを収集・分析することから始めよう。人事データベースの住所情報を活用し、GISツール(地理情報システム)などを用いて視覚化することで、従業員の集住エリアを把握できる。その際、単純な人数だけでなく、役職や職種、勤務形態なども考慮に入れると、より精緻な分析が可能になる。
次に、分析すべき重要な指標として、「通勤時間短縮効果」が挙げられる。現在の通勤時間と候補地からの通勤時間を比較し、最も多くの従業員の通勤時間を短縮できる場所を特定する。一般的には、従業員の居住地の重心(中心点)付近にオフィスを設置することで、全体の通勤時間を最小化できる。
また、「アクセス性」も重要な選定基準だ。公共交通機関の利便性、特に駅からの距離や路線数、運行頻度などを考慮する。近年は、駅直結や駅徒歩5分以内の物件が特に人気が高くなっている。加えて、周辺環境として飲食店の充実度や商業施設の有無なども、従業員の利便性に大きく影響する。
さらに、業務特性に応じた立地条件も考慮する必要がある。例えば、顧客訪問が頻繁に発生する業務であれば、顧客拠点との近接性や交通の利便性を重視する。一方、集中作業が主体の業務であれば、静かな環境や自然が豊かな場所も選択肢となる。
選定プロセスとしては、まず複数の候補地をリストアップし、上記の指標に基づいて比較評価することが効果的だ。可能であれば、従業員へのアンケートや希望調査を実施し、実際のニーズを反映させることも重要だ。最終的には、通勤時間短縮効果、アクセス性、賃料などを総合的に評価し、最適な立地を決定する。
関連記事「JLLの利用実績から見るサテライトオフィスの選び方」を読む
判断に迷ったときは、オフィスの立地戦略に詳しい専門家に支援してもらうことも有効だ。JLLでは豊富な実績と知見に基づき、最適な立地の選定をサポートしている。
業務特性に合わせたオフィス選択のポイント
サテライトオフィスの選定においては業務特性や利用目的に合わせることも重要だ。まず考慮すべきは、サテライトオフィスの主な利用目的だ。集中作業重視型、協働重視型、バランス型など、どのような働き方を支援するかによって最適なレイアウトは異なる。例えば、集中作業重視型であれば、個人ブースや静かな環境の確保を優先し、他業種との交流やイノベーションを重視するのであれば、オープンなミーティングスペースやカフェテリア的な空間を備えたサテライトオフィスが最適だ。
Activity Based Working(ABW)の考え方を取り入れ、集中ブース、少人数ミーティングスペース、電話ブース、リラックススペースなど、業務内容に応じて選択できる多様な施設をサテライトオフィスとして利用することで従業員満足度の向上にも寄与する。
また、本社とのシームレスな連携を実現するためのITインフラの整備やテクノロジー導入は最優先事項といえる。高速かつ安定したインターネット接続、ビデオ会議に対応したミーティングルーム、ワイヤレス環境など、デジタルツールを活用した業務を快適に行える環境を整えることが欠かせない。
効果的なサテライトオフィス選択のためには、まずは従業員の声を聞き、実際のニーズを把握することから始めよう。使う人の視点に立ったオフィス環境構築が、最終的に高い利用率と満足度をもたらす。
共用型サテライトオフィスの選び方(料金体系・拠点数・設備)
共用型サテライトオフィスを選ぶときは料金体系・拠点数・設備の3点を比較する。
料金体系には月額会員制のほか、1時間単位や15分単位の従量課金制、回数課金制などがある。短時間の利用が中心なら細かい単位の従量課金制、長時間の作業が多いなら回数課金制が向く。拠点数では、従業員の居住地や営業エリアをどれだけカバーできるかを確認する。地方の主要都市にも拠点があれば、出張時の執務場所としても使える。
設備面では個人ブースや会議室、電話ブースの有無と、ウェブ会議に対応できる通信環境を確認する。施設ごとに運営ルールが異なると、利用のたびに確認の手間がかかり、利用が定着しにくい。JLL日本の利用実績でも、料金体系の異なる施設を業務内容に合わせて使い分けることで、コストの最適化を図っている。
サテライトオフィスの導入のステップ
サテライトオフィス導入までの一般的なロードマップを紹介する。
1. 企画・検討(2-3カ月)
2. 物件選定・契約(1-3カ月)
3. 準備・移行(1カ月)
4. 運用開始・モニタリング(継続的)
1. 企画・検討(2-3カ月)
まず、サテライトオフィス導入の目的と期待する効果を明確化する。コスト削減、従業員満足度向上、BCPなど、複数の目的が考えられるが、優先順位を明確にすることが重要だ。次に、従業員の居住分布分析や通勤実態調査、業務内容の分析などを通じて、自社に最適なサテライトオフィスの形態や立地を検討する。このフェーズでは、導入の目的と期待する効果を示すKPIの設定や、対象となる従業員層と想定利用者数の特定、予算の立案なども行う。実施体制として、人事、総務、IT、経営企画など部門横断的なチームを構築することも成功の鍵となる。
2. 物件選定・契約(1-3カ月)
要件に基づき、具体的な物件の選定と契約交渉を行う。不動産仲介会社やコンサルタントと連携し、候補物件のリストアップから内見、比較検討、契約条件の交渉までを進める。従業員居住地との関係や交通アクセスなどの立地条件、セキュリティや設備、契約期間、中途解約条件などの契約条件を細かく確認することが重要だ。また周辺の飲食店や商業施設などの環境も評価のポイントとなる。
3. 準備・移行(1カ月)
サテライトオフィス決定後は、実際の運用に向けた準備を行う。運用ルールの周知、利用予約システムの構築、従業員へのオリエンテーションなどを実施する。具体的には、利用ルールとガイドラインの作成・周知や、運用管理体制の確立、従業員向け説明会・見学会の開催などを行う。勤務時間の記録方法や利用できる時間帯などは、このタイミングで就業規則や利用ルールに明記しておく。可能であれば、本格的に移行する前にトライアル利用を実施し、問題点の洗い出しと改善を図ることが望ましい。
4. 運用開始・モニタリング(継続的)
運用開始後は、利用状況のモニタリングや満足度調査などを定期的に実施し、継続的な改善を図る。設定したKPIに対する効果測定も行い、投資対効果を検証する。その結果をもとに、運用ルールや設備を見直す。利用の少ない拠点や時間帯が明らかになれば、契約形態や拠点数の見直しも検討する。また、成功事例や効果的な活用方法を社内で共有し、さらなる活用促進を図ることも重要だ。
サテライトオフィス導入は、完了形ではなく継続的な進化を遂げるプロジェクトとして捉えることが重要だ。定期的な見直しと改善を通じて、変化するビジネス環境や従業員ニーズに合わせた最適な形に発展させていくことが成功の鍵となる。
導入にあたっては、立地の分析から物件やサービスの選定、運用ルールの整備まで検討事項が多い。「自社だけで進められるだろうか」と不安を感じたら、立地戦略の立案からワークプレイス戦略まで実績が豊富な専門家に相談するのも良い方法だ。
サテライトオフィス導入に活用できる支援制度(2026年度)
2026年度に申請できる、国と東京都の主な支援制度を紹介する。
厚生労働省「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」
厚生労働省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」は、テレワーク制度を導入・実施する中小企業事業主を支援する助成金である。支給要領ではテレワークを「自宅又はサテライトオフィス等」での勤務と定めており、サテライトオフィスでの勤務も対象に含まれる。
2026年度に支給を受けるには、テレワーク制度を定めた就業規則などを整え、職場風土づくりの取り組みと外部専門家によるコンサルティングや研修などを実施する必要がある。そのうえで3カ月間の評価期間に所定のテレワーク実績を満たすと、制度導入助成として1企業あたり20万円が支給される。さらに離職率などの目標を達成すると、目標達成助成として10万円(賃金要件を満たす場合は15万円)が加わる。なお、2024年度まではサテライトオフィスの利用料なども支給対象経費とされていたが、2025年度の改正以降は1企業あたりの定額助成となっている。
東京都「サテライトオフィス勤務導入奨励金」
東京都の「サテライトオフィス勤務導入奨励金」は、東京しごと財団が実施する制度である。2026年度の対象は、都内に本社または事業所を置き、常時雇用する労働者が2人以上999人以下の中堅・中小企業等だ。あわせて、申請時点でサテライトオフィス勤務に関する規定が未整備であることが条件で、すでに規定を整えている企業は対象外となる。
支給決定から3カ月以内に、サテライトオフィス勤務を可能とする規定を新たに整備する。そのうえで対象者1人以上が1回以上サテライトオフィスで勤務すると、1事業者あたり10万円が支給される。自社専用型と共用型のどちらのサテライトオフィスも対象だ。申請受付は2027年2月26日までだが、予算の範囲を超える申請があった場合などは、期間内でも受付を終了することがある。
このほか、地方自治体が独自にサテライトオフィスの誘致や開設を支援している場合もある。制度の内容や受付期間は年度ごとに見直され、同じ取り組みで複数の制度を併用できないこともある。申請前に各制度の最新の募集要項を確認してほしい。
サテライトオフィスの活用事例:JLL日本の利用実績
JLL日本が2016年から続けてきたサテライトオフィス活用状況を紹介する。
2016年から共用型サテライトオフィスを運用
JLL日本は2016年、一部の事業部を対象に共用型サテライトオフィスの運用を開始した。試験運用で有用性を確認したのち、2018年1月からは事業部を問わず全従業員が利用できるようにしている。
利用が大きく伸びたのは、コロナ禍で在宅勤務に切り替えた2020年である。この年の利用時間は2019年比325%増となった。導入に携わった総務部長は、自宅の通信環境や住宅事情から、居住地の最寄り駅やターミナル駅周辺のサテライトオフィスを選ぶ従業員が急増したことが要因とみている。2023年も1-6月の実績だけで2019年比297%増を記録している(いずれもJLL日本の2023年時点の集計)。
利用者は外回りの多い営業担当者が中心だったが、その後はマーケティングなどのコーポレート部門にも広がった。JLL日本の総務部長は業務効率の改善以上に、働き方に対する従業員の自主性が育まれたことを最大の成果と捉えている。
料金体系の異なるサテライトオフィスを使い分けてコストを最適化
JLL日本は2023年までに5つのサテライトオフィスを利用してきた。拠点数の多い1時間単位の従量課金制の施設や、短時間の作業に向く15分単位の施設、個人ブースが充実した施設などである。これらを業務内容や利用時間に合わせて使い分けることで、従業員に選択肢を用意しながらコストの最適化を図っている。
一方で、利用を停止した施設もある。月額会員制の施設は「不特定多数の従業員が利用できる」という当初のニーズに合わなかった。また、拠点ごとに運営ルールが異なる回数課金制の施設は利用形態の複雑さからか、利用者が極端に少なかった。ニーズとの適合や運用ルールの分かりやすさが施設選びの要になることを示す教訓といえる。
詳しくはJLLの利用実績から見るサテライトオフィスの選び方で紹介している。
料金体系の異なる施設を業務に合わせて使い分ければ、従業員の選択肢とコストの最適化を両立できる
サテライトオフィスに関するよくある質問
サテライトオフィスとは何ですか?簡単に教えてください
サテライトオフィスとは、本社や支社から離れた場所に設ける小規模なオフィスのことです。従業員の自宅に近い郊外や地方都市、ターミナル駅の周辺などに開設され、通勤時間の短縮や採用エリアの拡大、BCP対策に役立ちます。形態は、自社で保有・賃借する自社専用型と、複数の企業で共用する共用型の2つに分かれます。
サテライトオフィスと支社・支店の違いは何ですか?
支社・支店は、特定の地域で営業や事業を担う拠点であり、所属する従業員が常駐して独立した機能を持ちます。サテライトオフィスは本社や支社の機能を補完する働く場所であり、所属部署に関係なく従業員が必要に応じて利用する点が異なります。
サテライトオフィスの導入にはどのくらいの費用がかかりますか?
費用は形態によって大きく異なります。自社専用型は物件の賃料に加えて内装や設備、通信環境の初期費用がかかり、稼働率にかかわらず固定費が発生します。共用型は従量課金制や回数課金制が多く、初期費用を抑え、利用量に応じた料金で始められるため、まずは共用型で利用状況を確かめる方法もあります。
サテライトオフィスに使える補助金・助成金はありますか?
2026年度は、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」と、東京都の「サテライトオフィス勤務導入奨励金」があります。前者はテレワーク制度を導入する中小企業事業主が対象です。東京都の奨励金は都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業等(常時雇用する労働者2-999人)のうち、サテライトオフィス勤務の規定が未整備の企業が対象で、支給額は1事業者あたり10万円です。
サテライトオフィスはどんな企業に向いていますか?
従業員の居住地が広く分散して通勤時間が長い企業や、都市部以外でも人材を採用したい企業、災害に備えて拠点を分散したい企業に向いています。外回りの多い営業担当者を抱える企業や、ハイブリッドワークの定着で本社オフィスの規模を見直している企業にとっても有効な選択肢となります。
サテライトオフィスの導入・立地選定を支援するJLL
サテライトオフィスは、通勤負担の軽減や優秀な人材確保、BCP対策など多面的な企業メリットと、ワークライフバランスの向上や働く場所の選択肢拡大などの従業員メリットを実現する有効な戦略である。導入にあたっては、稼働率や労務管理、セキュリティ対策やコミュニケーション分断の防止などの課題に適切に対応することが重要だ。2026年度に申請できる国や東京都の支援制度も活用したい。
JLLでは、企業のサテライトオフィスを成功に導くための包括的なコンサルティングサービスを提供している。従業員の居住分布の分析に基づく立地戦略から、物件の選定、ワークプレイス戦略の策定まで一貫して支援できる。サテライトオフィスについて検討をしている場合は、ぜひJLLへご相談いただきたい。
※1:総務省「令和7年通信利用動向調査」結果の概要(図表3-7「テレワークの実施形態(複数回答)」)。過去1年間にテレワークを実施した15歳以上の企業等勤務者に占める割合(令和7年:n=3,745、令和6年:n=3,390)
※2:総務省「令和3年社会生活基本調査」(表6-1)によると、平日に通勤・通学をした人の1日あたりの通勤・通学時間(行動者平均)は、神奈川県1時間40分、千葉県・東京都1時間35分、埼玉県1時間34分である。この往復の時間を2で割り、首都圏の片道を約50分と試算した。
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