業務効率や企業価値を高めるオフィスデザインの選び方と最新トレンド
オフィスデザインとは?
「オフィスデザイン」とは、オフィスの新設や移転、リニューアルの際に、企業の目的やコンセプトに基づき、内装やレイアウトを設計する一連の活動を指す。
しかし、その役割は単におしゃれで洗練された空間を作ることだけではない。現代のオフィスデザインは、業務効率や生産性の向上、さらには企業価値そのものを高めるための重要な「経営戦略」として認識されている。
働き方の多様性が尊重される時代において、オフィスには社員の創造性を引き出すため、円滑なコミュニケーションを促し、心身の健康(ウェルビーイング)を向上させる場としての役割が求められる。
そのため、物理的な家具の配置計画だけでなく、
- 快適な光や空調
 - 集中とリラックスのバランスを考慮したゾーニング
 - ITインフラの整備
 - 防災対策
 - 最新テクノロジーの導入計画
 
など、知的生産性を最大化するためのあらゆる要素がオフィスデザインに含まれる。
企業が抱える課題を解決し、持続的な成長を促進するための空間づくりこそが、現代のオフィスデザインの本質といえるだろう。
オフィスデザインは働き方改革の重要な戦略
従来のオフィスデザインは、スペースの効率化やコストパフォーマンス、対外的なイメージアップを重視されがちだった。
しかし、近年推し進められている働き方改革では、より「個」にフォーカスし、社員一人ひとりのニーズや生産性向上を実現するような働き方が求められている。
また、社員の安全性やウェルネスを確保するためにオフィスデザインに工夫を凝らす必要性も高まっている。
人材採用や社員のパフォーマンス向上に寄与する企業文化の醸成や相互コミュニケーションの活性化には、より戦略的な働き方改革・オフィス改革が不可欠であり、すぐれたオフィスデザインはその戦略の重要な柱となる。
効果的なオフィスデザインがもたらす5つのメリット
オフィスデザインは企業ブランドイメージに直結すると言われるほど、大きな視覚的影響のポテンシャルを持っている
すぐれたオフィスデザインにより、企業と社員にとってさまざまな効果やメリットが期待できる。
1. 企業の想いを視覚的に反映できる
企業の理念・クレドやフィロソフィーを社員に深く理解してもらうのは難しい。
しかし、オフィスデザインは企業ブランドイメージに直結するといわれるほど、強力な視覚的効果を持っている。
つまり企業の存在意義(パーパス)や事業内容をオフィスデザインに反映できれば、そこで働く社員は自社ブランドへの理解を深めることができ、企業の想いを日々の行動に落とし込み、社外へ発信していくようになる。
2. 社内コミュニケーションが活性化する
従来のオフィスは、対面型・島型に配置されたデスクとわずかな共用スペースで構成されることが多かったが、コミュニケーションが取りづらいというデメリットがあった。
近年、リモートワークの普及により業務のオンライン化が進み、コミュニケーションが希薄になることも危惧されるが、オフィス改革によってコミュニケーションをとりやすいデザインを採用することで社員の心理的負担の軽減や偶然生まれた何気ない会話からイノベーションが創出されるなどの効果が期待できる。
3. 社員満足度が高まり、全体的なパフォーマンスが向上する
JLLが実施した社員の成功と業績向上のためのワークプレイスの設計に関する調査レポート(2022年)によると、革新的なスペースやテクノロジーが提供されたオフィスで働く社員ほど満足度が向上し、パフォーマンスの高い社員の96%がワークプレイスに満足していることが明らかになった。
このことは、全社的な満足度やパフォーマンスの向上が期待できるオフィスデザインの重要性を示唆している。
4. 優秀な人材確保につながる
リモートワークの普及によって柔軟に働くことができる環境が整ったものの、上司や同僚と気軽に相談することができず、業務遂行時の心理的負担に悩まされる社員が増えている。
特に若手社員にとってリモートワークは学びの機会が失われることに繋がり、オフィス出社を求めるケースも増えている。オフィスの存在意義は、社員同士のコミュニケーション活性化に寄与し、ひいては長期雇用を維持していく。
そうしたなか、フリースペースやカフェ、リフレッシュルーム、フィットネスルームやグリーンを取り入れたオフィスなど、企業の価値観を映し出したユニークなオフィスデザインは、社員エンゲージメント向上や新規の人材採用にも大きな強みを発揮する。
5. コスト削減・スペースを最適化できる
すぐれたオフィスデザインは、ヒトの心身だけではなくコスト面にも良い効果をもたらす。
AIやIoTなどのテクノロジーを駆使してオフィスの利用率を可視化しスペースの最適化に成功したケースや、オフィス内の温度を自動測定して座席の配置や冷暖房運転の最適化を行い、光熱費を大きく削減できたケースもある。
オフィスデザイン計画・変更時の注意点と対策
オフィス移転で成功をおさめた企業に共通するのは、経営戦略との綿密に連携したオフィス戦略を策定し、コンセプトが明確であること、そこで働く”ヒト”を軸にしていることだ。
デザインに着手する前に以下のポイントを検証し、費用対効果を考慮した計画を策定していくことが求められる。
ゴールや目的が定まっているか?
まずは現状の経営課題を洗い出し、「何のためにオフィスデザインを変更するのか」というゴールを言語化することが不可欠だ。
アンケートやヒアリングで集めた社員の声も参考に、優先順位を付けた具体的な数値指標(生産性○%向上、離職率△%削減など)を設定する。
企業コンセプトにあったレイアウト・デザインか?
企業の理念やビジョンとオフィスの雰囲気が乖離すると、社員の共感を得られず、来訪者にも違和感を与える可能性がある。
コーポレートカラー・素材・動線などを一貫したコンセプトのもとで設計し、来訪者へのブランドメッセージと社員のエンゲージメントを同時に高めることを目指したい。
1人あたりの面積は適切か?
具体的にレイアウトを検討する際は座席数だけでなく、フリーアドレス比率やオンライン会議スペースの需要を加味し、1人当たりの面積を設定する(一般的に1人当たり2.5-3.0坪とされる)。人員計画や出社率などの企業独自の状況に合わせて席数を可変化させられれば余剰スペースと固定費を抑制できる。
新オフィスの効果検証はできているか?
採用したオフィスデザインが、期待した効果を生んでいるかどうかの検証も欠かせない。
移転後は3-6カ月を目安にレイアウト満足度・コミュニケーション頻度・来客評価などをアンケートやデータで分析し、KPI(前オフィスとの比較など)とのギャップを検証する。結果をもとに家具配置や運用ルールを調整し、PDCAを回すことで投資効果の最大化を目指す。
ハイブリッドワーク導入と運用における3つの成功ポイント
オフィス移転にはコスト・時間・人的リソースなどの多大な投資がともなう。簡単にやり直せるものではない。効果的なオフィスデザインを実現させるには、各段階で必要な施策を整理し、しっかりと課題をクリアしていくことが重要だ。
目的・コンセプト設定
「なぜオフィスを移転・改修するのか」という目的を明確にし、現状の課題を洗い出す。その上で、企業の理念やビジョンを反映した「どのようなオフィスを目指すのか」というコンセプトを策定する。このコンセプトが、以降の全ての意思決定の判断基準となる。
予算案策定
プロジェクトの全体像を把握し、総予算を決定する。おもな費用としては「設計・デザイン費」、「内装工事費」、「家具・什器費」、「IT・インフラ設備費」、「移転作業費」などが挙げられる。
オフィスを構築するための費用は、坪単価20万円程度の小規模な内装変更から、坪100万円を超える大規模工事まで幅広い。コストを抑えつつ目標を達成するには、複数業者からの相見積もりはもとより、居抜き物件の活用や家具のリースなども効果があり、専門のプロジェクトマネージャーを起用することで工期・コストの圧縮が期待できる。
業者選定
依頼先はおもに以下の3タイプに分類される。
- デザイン性の高い設計を強みとする「設計事務所」
 - 設計から施工まで一括で請け負う「内装/施工会社」
 - 大規模プロジェクトで発注者側の立場で全体を統括する「プロジェクトマネジメント(PM)会社」
 
コンセプトとの適合度や、実績、アフターサポート体制で比較検討する。複数社による指名コンペを行い、同一条件の提案書を用いて総合点を算出すれば、定性的な印象に左右されにくい選定が行える。
設計・デザイン
業者と連携し、コンセプトを実際の設計・デザインに落とし込む重要な作業だ。
基本設計ではゾーニングと動線計画を行う。採光・音環境・ICT・防災・UDなどの視点から詳細設計を進め、家具や仕上げ材はコンセプトカラーやブランドイメージとの整合性を確認しながらモックアップで検証し、最終仕様を決定する。
工事
確定した設計図に基づき、内装工事や電気・通信・空調などの設備工事を行う。
企画設計→詳細設計→見積査定→着工→中間検査→竣工検査という工程を週次の進捗会議でモニタリングし、遅延や仕様変更を早期に発見・是正することで、予定外の追加コストの発生を未然に防ぐことができる。
移転・運用開始
引っ越し前にIT接続テストとレイアウト図の周知を済ませ、什器の搬入やPCの設置、従業員の引越し作業を経て新オフィスでの業務をスタートさせる。
運用開始後は、計画段階で設定した目的が達成されているかを利用状況調査やアンケートで効果検証し、継続的に改善していくことで効果を最大化できる。
各プロセスの実施時期については以下を参考にしてほしい(カッコ内はオフィスデザインと直接関わりがない作業)。
オフィスデザイン8つの最新トレンド
「オフィス起点ではなく「ヒト起点の要素が盛り込まれたオフィスデザイン」が主流になるとなっている
ハイブリッドワークやABWなど多様な働き方が広がりつつある現在、オフィスのありかたも大きく変わりつつある。
端的に言えば「オフィス起点ではなくヒト起点の要素が盛り込まれたオフィスデザイン」が現在のトレンドだといえる。
これからのオフィスデザインを考える上で知っておきたい、8つのトレンドを紹介する。
1. ハイブリッドワークを実現するフレキシブルオフィス
ハイブリッドワークとは、毎日決まったオフィスへ出社してフルタイムで働く従来のワークスタイルではなく、本社オフィス以外に時には自宅でリモートワーク、コワーキングスペース・サテライトオフィス といった共有オフィスを利用するなど、状況に応じて多様な場所でフレキシブル(=柔軟)に働くスタイル をいう。
固定化されたオフィスと比べ、社員の多様な働き方のニーズを満たすことができる上、オフィス賃料や交通費などのコストを削減できるメリットもあり、多くの先進国ではフレキシブルスペースがポートフォリオに占める割合が増加し日本でもさらなる拡大が予想されている。
2. つながりを感じられる空間
現在注目を集める「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」は、社員のデスクを固定せず働く場所を自由に選ぶことができるワークスタイルだ。
社内イベントやパーティー・ディスカッションなどのリアルコミュニケーションや自然な雑談が生まれるような共有スペースを配置したABW型のオフィスデザインは、「ヒトとのつながりを感じられる空間」としてより価値の高いものになっていくだろう。
3. 社員のウェルビーイングを優先したオフィス環境
職場での慢性的なストレスにより社員が心身に不調をきたす…現代社会においてそれはどの職場で起こってもおかしくない。
社員個人のQOL(人生の質)の面でも、生産性低下や退職による事業活動への悪影響の面でも、こういった事態は回避しなければならない。
そのためには経営方針や人員配置・現場のオペレーション改善などが急務だが、同時にオフィスデザインの観点からも社員のウェルビーイングを守る取り組みがトレンドになっている。
具体的には次のようにオフィスをデザインすることで成果をあげている企業が増えている。
- ブラインドのかわりに日光に反応するスマートガラスで眺望を生かしながら適度な採光を実現
 - オフィス内にリビングウォールや屋内庭園など植物を配置したり、石や木などの自然素材を取り入れる
 - 立った姿勢でデスクワークができるスタンディングデスクの採用
 - カジュアルな打ち合わせやランチ、休憩に使えるオープンスペースの導入
 
4. テクノロジーの活用
戦略的にオフィスをデザインするにはテクノロジーの存在が欠かせない。
社員の行動データを収集し、分析結果をもとにスペースの最適化やコミュニケーションの改善案を策定する他、ソーシャルネットワーク、CRMツール、プロジェクト管理ツール等を取り入れることでハイブリッドなオフィス環境を構築できるだろう。
5. Z世代を意識した空間演出
1997年以降に生まれたZ世代は、以下のようなことに価値を見出す傾向が強く、オフィスにも同様のニーズを持っていると考えられる。
- 共感できるストーリー
 - 写真映え
 - タイパ(タイムパフォーマンス)
 - 個性やプライバシー
 - ウェルビーイング
 - 社会貢献
 
Z世代の人材獲得に成功し、能力を最大限に引き出すには、オフィスデザインにも新たな視点を取り入れるべきだ。例え1on1ミーティングがしやすい個室ブースの設置、オープンで風通しの良いコミュニケーションエリア、さらにはSNSで共有したくなるようなデザイン性の高い空間などが挙げられる。
6. SDGs・環境に配慮した設計
企業の社会的責任として、SDGsやサステナビリティへの貢献 は今や不可欠な経営課題であり、オフィスデザインはその姿勢を内外に示す有力な手段となる。
具体的な取り組みとしては、LED照明と人感センサーによる自動調光、ペーパーレス化、再生可能エネルギーの導入で一次エネルギー使用量を削減する動きなどが挙げられる。
さらに、バイオフィリックデザインを採り入れて室内緑化を推進し、ウェルビーイング向上とサステナブル化を同時に図る企業も増えつつある。内装材には低 VOC 塗料やリサイクル繊維、FSC®認証木材など環境負荷の小さいマテリアルを選定し、廃棄物を最小化するサーキュラーエコノミー型の調達を実践することも求められている。
こうした環境配慮型の設計は、LEED認証やWELL認証といった国際的な評価基準の取得にもつながり、SDGsの各目標の達成に取り組んでいる企業としてESG評価や採用ブランディングでも優位性が期待できる。
7. 目的別の空間設計
業務内容に合わせて働く場所を自律的に選ぶ「ABW(Activity Based Working)」の考え方が普及するにつれて、オフィスにも多様な目的を持つ空間を計画的に配置することが求められている。
例えば、資料作成や分析など高い集中力が求められる業務のためには、周囲の視線や雑音が遮断された防音性の高い「集中ブース」や「ソロワークスペース」が有効だ。
一方、部門を超えた偶発的なコミュニケーションや新しいアイデアの創出を促すには、カフェのような「リフレッシュスペース」や、気軽に集まれる「ファミレス席」、立ち話が生まれやすい「マグネットスペース」などが効果を発揮する。また、複数人で活発に議論するためのモニターやホワイトボードを完備した「プロジェクトルーム」も欠かせない。
このように、集中、雑談、共創といった異なるアクティビティに応じた空間を意図的に設計・配置(ゾーニング)することが、従業員の生産性と満足度を高める上で不可欠だ。
8. ユニバーサルデザインとアクセシビリティへの配慮
DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の観点から、年齢・性別・国籍・障害の有無などを問わず、誰もが快適に利用できる「ユニバーサルデザイン」がオフィス設計の基本となりつつある。後から障壁を取り除く「バリアフリー」とは異なり、最初から全ての人が使いやすいように空間を設計する考え方だ。
具体的には、以下のような工夫が挙げられる。
- 車椅子でも楽にすれ違える通路幅(例:1,200㎜以上)の確保
 - 誰もが使いやすい多目的トイレの設置
 - 軽い力で開閉できる引き戸の採用
 - 文字と絵文字(ピクトグラム)を併記した分かりやすいサイン計画
 - 床の色を変えてエリアを直感的に認識できるようにする
 
今後も、こうした物理的な障壁と心理的な障壁の両方を取り除き、すべての社員が働きやすくなるようなオフィスデザインや設計は、インクルーシブな企業文化を体現するために欠かせない要素となるだろう。
グッドデザイン賞受賞・JLLオフィスデザイン事例
不動産総合サービスのJLLは、自社の提唱する「Future of Work(働き方の未来)」 をオフィスにて体現するため、2022年に東京本社・関西支社の新オフィス移転を実施した。
自然光や植物、自然素材を活かした「縁側」や「茶室」など、日本建築を現代解釈したデザインやしくみを採用。様々な人が緩やかに集い、コミュニケーションを生み出すオープンスペースを設け、「不動産の新しい価値や顧客サービスを生み出すオフィス」となることを目指した。
JLLが目指すFoWの意味や価値を計画段階からデザインに反映し、具現化したオフィスデザインが評価され、2023年には東京本社オフィスが公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2023年度グッドデザイン賞」の「オフィス空間・産業空間のインテリア」カテゴリーにおける「グッドデザイン賞」を受賞 した。
最適なオフィスデザインは自社に新たな価値をもたらす
今回は、ハイブリッドワークへと大きく変化した社会の中で、社員の新しい働き方を支えるオフィスデザインの重要性とメリット、どのような点にフォーカスして導入すべきか、実際のオフィスデザイン立案や構築のプロセスと成功事例について紹介した。
自社のビジョンや理念とマッチしたオフィスデザインは、これまで以上に企業の価値を高め、社員のモチベーションやパフォーマンス向上に貢献するだろう。