オフィスDXとは?推進すべき理由と目的
経済産業省の定義によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。オフィスDXはこの考え方に基づき「データとデジタル技術を活用して、オフィスにおける環境改善、業務効率化などを推進すること」といえるだろう。事業活動の中核的な存在であるオフィスは「企業が稼ぐ場」でもあり、オフィスDXによって様々な効果が得られる。
オフィスDXによる5つのメリット
蓄積したデータを用いて現状の改革や中長期的視野でのビジネスモデルの変革を行い、市場環境の変化に耐えうる企業に変革することこそオフィスDXの本来の目的
オフィスDXにはさまざまなメリットが存在するが、その中でも大きなメリットとしては以下の5点が挙げられる。
1. プロセスの自動化による生産性と業務効率の向上
オフィスDXのメリットの1つは生産性の向上である。単純にRPAを導入するなど、業務を自動化するだけでも多大なメリットが得られる他、人の手が必要な業務でもITツールを活用することで更なる効率化は可能だ。オフィスDXのメリットは多岐にわたるが、人手不足に悩む日本企業において生産性向上は、最もわかりやすいメリットのひとつといえるだろう。
2. コミュニケーションの改善
オフィスDXを通じて、チーム間のコミュニケーションが大幅に向上する。クラウドベースのグループウェアやコラボレーションツールを活用することで、時間や場所を超えた柔軟な情報共有が可能となり、プロジェクトの進捗管理も容易になる。これにより正確な情報共有と作業の効率化を図ることができる。
3. 意思決定の迅速化と精度の向上
DXツールの1つであるリアルタイムなデータ分析ツールの導入により、市場動向や顧客のニーズを瞬時に把握し、それに基づいた戦略的な意思決定が行えるようになる。これにより企業は競争優位性を確保し、市場変化への適応速度を高めることができる。
4. コスト削減と環境への貢献
コスト削減もDXの大きなメリットといえる。業務効率化と生産性向上によって人件費を抑制するというだけではない。オフィス内の各設備の利用頻度を可視化できれば使われていない設備を削減するなど、オフィス床を最適化することができ、賃料コスト削減にも寄与する。ペーパーレス化を行えば、そのぶん紙の書類を保管するスペースを削減できるだけでなく、森林保護や焼却による大気汚染を抑制して地球環境にも貢献できるのである。
5. データドリブンへの転換
DXの最終的な目的はデータドリブンな経営への転換にある。データドリブンとはデータを元に客観的な経営判断をしていく手法を指す。DXを推進するとITツールを使ったデータの蓄積が可能になる。蓄積したデータを用いて現状の改革や中長期的視野でのビジネスモデルの変革を行い、市場環境の変化に耐えうる企業に変革することこそオフィスDXの本来の目的といえる。
オフィスDXが必要であることは把握できても、具体的にどのような施策や方法があるのかが分からなければ戦略も立てられない。そこで、以下の3つの視点からオフィスDXの具体例を解説しよう。
1. オフィス環境のDX
2. オフィス業務のDX
3. オフィス外のDX
1. オフィス環境のDX
「オフィス環境のDX」とはオフィスにセンサーやカメラなどのデジタルデバイスを設置し、オフィス機能のデジタル化によりDXを推進することだ。具体的な例を挙げれば、以下のような施策が考えられる。
- 受付の無人化
- IPネットワーク対応のインターホンの導入
- 入退管理システムのクラウド化
- 社内食堂や自販機などのキャッシュレス化
- 空調や照明の自動制御
- IoTによる人の動き・空気環境の分析
- AIカメラによる社内コミュニケーションの分析
- 会議室予約システムの導入
オフィス環境のDXはオフィスの使い心地やオフィス環境の快適性の向上を視野に、AIカメラなどでデータを収集・分析、改善点を導き出すことが主な目的といえるだろう。データが蓄積されればされるほどオフィスは従業員たちに最適な環境へとアップデートするための施策立案などに役立ち、働きやすいオフィスへと改善しやすくなる。その結果、生産性の向上や従業員のモチベーションアップなどの効果が得られる。
2. 事務・バックオフィス業務のDX
事務やバックオフィス業務にITツールを導入することで、業務の自動化や効率化を実現し生産性向上が図れる。具体的には以下のような施策が挙げられる。
- 書類の電子保管
- 電子契約
- 勤怠管理のクラウド化
- キャッシュレス決済の導入
- AIによる在庫管理
- 備品管理システムの導入
- 顧客管理システムの導入
- RPAによる定型業務の自動化
- 製造現場のデジタル化
- 業務のデータ分析と可視化
- グループウェア導入によるコミュニケーション活性化
これらの施策の中でも、肝心なのは蓄積されたデータをいかに有効活用するかに他ならない。業務推進時の課題点や非効率な点を洗い出し、改善するためには業務に関するさまざまなデータを収集・分析し、課題の見える化を進める必要がある。
3. オフィス外のDX
「オフィス外のDX」とは、オフィス内外におけるコミュニケーションをITツールによって円滑化することが主目的となる。以下のような施策が挙げられる。
- ビデオ会議システムの導入
- 仮想オフィス・ツールの導入
- グループウェア導入による社内外のコミュニケーション活性化
- AIやOCRによる請求書自動処理システム
- AIによる電話対応業務の自動化
- 社外への電話転送システム
在宅勤務やサテライトオフィスなど、オフィス外でも業務を行うことができるハイブリッドワークが定着し「オフィス外のDX」も大きく需要が拡大した。これに対応するため、また社外との連携をスムーズにするツールやシステムの導入も引き続き重要だ。仮想オフィス・ツールなど、オフィス内外のコミュニケーションを円滑化するDX施策はこれまで以上に求められるだろう。
オフィスDXの鍵を握るIWMS
IWMSは不動産に係るあらゆる業務におけるデータ収集を一元化することができる
オフィスDXにおいて、企業の不動産テックとして日本で注目を集めているソフトウェア「IWMS(Integrated workplace management system:統合型職場管理システム)」についてもぜひ知っておきたい。
IWMSとは不動産の賃貸借契約をはじめ、投資計画、オフィスの使用効率、オフィス運用・保守、サステナビリティ性能など、不動産に関わる様々な管理・運用データをシステム上で一元管理するソフトウェアプラットフォームの総称だ。
企業が保有・賃借する不動産はオフィスや物流施設・店舗など多岐にわたり、様々な部署・担当者が関わっている。これら単一業務に特化したシステムは多数存在するが、IWMSは不動産に係るあらゆる業務におけるデータ収集を一元化することができる。全社的なCRE(Corporate Real Estate)戦略を策定するため、グローバル企業の多くがIWMSを導入している。
オフィスDXを成功に導くための効率的な進め方
プロジェクトの立ち上げと戦略決定
オフィスDXは担当者や部署単位でなく、経営層、IT部門、各部門の代表者など全社的なステークスホルダーが参加したプロジェクトを立ち上げ、戦略のもとに進めるのが成功の条件だ。ワークショップを開催し、デジタル化によって解決したい課題を明確にするのも良い方法である。現在のオフィス環境や業務課題を分析、目標設定、導入スケジュールや予算などを盛り込んだ計画を作成しよう。
社内文化と従業員の意識の醸成
オフィスDXを成功させるためには、単にツールを導入するだけでなく、社員一人ひとりの意識を変革していく必要がある。
オフィスDXの必要性を説明し従業員の理解を得た上で、導入するツールの使い方や新しいワークスタイルに関する教育・研修を実施、オフィスDXを積極的に推進する従業員に対しインセンティブを与えたり、困った時に情報共有や意見交換ができるコミュニティを用意するのも有効だ。
ツール選定とパートナーシップの構築
オフィスDXにはさまざまなツールが活用できる。選び方のポイントは以下のとおりだ。
- どのような課題を解決したいのかを明確にする
- 導入コストと運用コストを見積もり、予算に合ったツールやプランを選ぶ
- 自社の従業員に合ったUI/UX(操作性や使い勝手)のツールを選ぶ
- ツールの導入や運用をサポートしてくれるベンダーやパートナー企業を選ぶ
導入作業と運用テスト
導入作業は、計画に基づいて慎重に進めよう。具体的な流れは以下を参照してほしい。
1. テスト環境の構築…実際の運用環境と同じ環境を構築し、テストを実施する
2. 問題点の修正…テストで発見された問題点を検証し、修正を行う
3. 運用マニュアルの作成…ツールの使い方や運用手順をまとめたマニュアルを準備する
4. ヘルプデスクや窓口の設置…導入後の問合せやトラブルに対処できるヘルプデスクや窓口を周知する
テスト段階および導入後は、現場の従業員からのフィードバックを積極的に収集し改善に役立てることも重要だ。
効果の検証と改善
長期的な成功のためには、定期的に効果を検証し必要に応じて改善していくことが欠かせない。計画に対する目標達成度、従業員の満足度を定量的にまとめ、改善策を実施するサイクルを繰り返し、ツールの活用度と業務効率化を高めていこう。
オフィスDXの注意点
オフィスDXは多大なメリットを享受できる半面、その効果を最大限引き出すためには様々な工夫が必要だ。中でも以下2つのポイントは注意が必要だ。なかでも以下の点を留意しておきたい。
導入目的の明確化:DX自体を目的にしてはいけない
DXはあくまでも手段であるが、計画を進める段階で手段が目的化してしまうケースも少なくない。業務効率化のほか長期的な目的として忘れてはいけないのは「データドリブン経営への転換」である。
単にツールを導入すれば良いのではなく、オフィスDXを推進する目的を明確にし、その目的に合致したツールや方法かどうかを念頭に置いて選択する必要がある。
従業員の意識改革
オフィスDXやツールの導入にあたっては、従業員の働き方や考え方を変える必要があるため、経営層や担当部署から説明や研修を十分に行わないと、混乱を招いたり、モチベーションの低下が懸念される。企業理念を従業員全体にしっかりと浸透させ、現場との意識統一を行うことが重要だ。
隠れたコストの把握
ツールの導入費用や運用費用だけに目が向きがちだが、教育・研修費用などのコストを考慮していないと予算超過になりかねない。
セキュリティ対策
リモートワークを行いやすくなるのはオフィスDXのメリットの1つだが、同時に情報漏洩などのセキュリティリスクが生じる可能性があるため、対策を強化する必要がある。情報ガバナンスの整備も忘れず行いたい。
導入=完了ではない
オフィスDXの完了はツール導入時ではなく、年単位のスパンで当初の目的がどこまで実現できたかを検証していかないと、効果を上げたとはいえない。導入後の運用状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて改善を行うことを計画に含めておこう。
オフィスDXの成功事例
これからオフィスDXへの取り組みを開始する企業のため、さまざまなツールやソリューションを利用してオフィスDXを成功させた企業の事例を紹介する。
座席管理ツールを活用しフリーアドレス化に成功
IT機器の導入支援などオフィス環境に関する多様なソリューションを提供するエイコーは、創業50年を迎えた2022年に東京本社オフィスを4フロア432坪からワンフロアへ統合移転した。
移転に伴う大きな変化の1つが座席を自由に選択できるフリーアドレス制で、座席管理システムによる生産性向上を実現している。がオフィスの中央には「むすぶスペース」と呼ばれるコミュニケーションエリアを配置し、設置された大型モニターに誰がどこに座っているのか表示される。スマートフォンを通じて外部からも検索でき、用事のある相手をすぐに探すことができる。座席の使用率などオフィス内の各種データを収集することでレイアウト改善などにも役立てている。
JLLのオフィスDX支援:ますます進むオフィスDXの波に乗り遅れないために
今後、企業が国内外での競争力を高め、優秀な人材を活用して業績をあげていくには、データを活用した業務効率化とオフィス環境性能の向上が不可欠です。その手段としてのオフィスDXは、これからかすます重要性を増していくことは間違いありません。
JLLでは、データ収集・分析やAIを活用したオフィスDX支援のツールと、これらを用いたソリューションを幅広く提供しています。
ツール選定を含めたオフィスDX戦略策定から実施・効果の検証まで豊富な実績と経験に基づき総合的に支援します。お気軽にお問い合わせ下さい。
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