不確実性の時代だからこそ投資家に選ばれる福岡不動産市場 - オフィス・物流施設の賃料成長力が示す2027年以降の展望
著者
大久保 寛
投資家は依然として市場環境を前向きに捉えている
JLL日本 リサーチ事業部が世界の不動産投資家を対象に四半期毎に実施しているアンケート調査(2026年8月末時点)において「今後6カ月間の市場環境」について質問したところ、7割近くが「改善(34%)」「変わらない(34%)」と回答しており、市場環境の「悪化(30%)」を予測する声は依然として少数派にとどまる。大久保は「不確実性は高まっているものの、不動産投資家の多くは今後の市場環境を前向きに捉えている」と指摘する。
「改善」の見込みが最も高いと考えられているのがアジア太平洋地域だ。世界の三地域(南北アメリカ大陸地域、欧州・中東・アフリカ地域、アジア太平洋地域)のうち、アジア太平洋地域において「改善する」と回答した割合は51%に達した。南北アメリカ大陸(32%)、欧州・中東・アフリカ地域(25%)と比べても突出している。
この期待値の高さは実際の投資額にも表れている。地域別に2026年上半期の不動産投資額を見ると、アジア太平洋地域は前年同期比で35%増を記録(南北アメリカ大陸地域30%増、欧州・中東・アフリカ地域15%増)。また、2026年上半期における世界の不動産投資額を都市別にランク付けしたところ、1位のシンガポール、2位の東京を含め、アジア太平洋地域からソウルとシドニーを加えた4つの都市が10位内に入った。
「不動産投資家はアジア太平洋地域へ積極的に投資しているのが現状。伝統的アセットの代表格である株式や債券への投資も引き続き行われているものの、リスク分散の観点から“第三のアセット”とされる不動産への投資が選好されている。米国への集中投資を見直す投資家も増加傾向にあり、デフレ経済からの脱却が進む日本が新たな投資対象として再評価されるようになっている」(大久保)
福岡・九州圏への期待が高まっている
海外投資家が日本に注目する最大の理由について、大久保は「賃料上昇が見込めるアセットクラスが増えているため」と指摘する。
JLL日本 リサーチ事業部の投資家アンケート調査において、日本を投資対象にしている投資家に「2026年の投資スタンス」について質問したところ「買い越し」が33%となり、「売り越し」の9%を大幅に上回った。そして「今後積極的に投資したいエリア」として首都圏・近畿圏に次いで「福岡・九州圏」が挙がった。
JLLの統計開始以来、過去最高の投資額(6兆2,000億円)を記録した2025年を振り返ると、国内総投資額の約5%を福岡・九州圏が占めており、経済規模(GDP比)に見合った健全かつ活発な取引が行われている。また、セクター別では国内総投資額の45%をオフィスが占めているのに対し、福岡はオフィス、ホテル、物流施設、住宅などへの分散投資がバランスよく行われている。大久保は「この多様性がポートフォリオのリスク分散を重視するグローバル投資家にとっての魅力となっている」と指摘する。
福岡市場で注目される2つのアセット
福岡市場で注目すべきアセットタイプとして、大久保はオフィスと物流施設の2つのセクターを挙げる。
1. オフィス
福岡オフィス市場について、大久保は「空室率」を注目ポイントとして挙げる。
2026年第2四半期末時点における福岡グレードAオフィス市場の空室率は6.4%となり、東京(0.8%)や大阪(1.8%)などの国内主要都市のなかでも突出して高い空室率となっている。
しかし、その半面で賃料水準は前年同期比で10%上昇している。一般的に賃料下落の分岐点が「空室率5%」とされるが、現在の福岡オフィス市場において“通説”は当てはまっていない。
空室率上昇の最大の要因は、「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」といった都市機能の向上を目的とした面的大規模再開発による新規大量供給が2021年から続いているためだ。
2021年以降、福岡におけるオフィスストックの平均増加率は前年比4.2%増となり、東京・大阪・名古屋の平均値(2.2%)の約2倍に達している。従前、福岡オフィス市場の空室率は東京や大阪と同様に低首位準で推移しており、一時的にそれらを下回る場面もあった。しかし2023年第1四半期以降、東京・大阪との空室率の差が著しく拡大している。
空室率上昇の傍ら賃料水準も上昇:フィンテック企業がオフィス需要を牽引
一方、空室率が上昇しているにもかかわらず賃料水準も上昇するという“ねじれ現象”が生じている。新規供給が少なかった2015-2022年における福岡の賃料上昇率は東京・大阪を上回っていたのは自然な動きといえるが、空室率が急上昇した2023年以降も賃料水準は上昇を続けている。
この理由について、大久保は「竣工直後に満室稼働になるケースは皆無であるため、統計上空室率は上昇しているが、需要自体は堅調に推移している」と指摘。実際、2024年に竣工したグレードAオフィスの稼働率は2026年第2四半期末時点で93%に達しており、竣工から2年以内の築浅ビルは概ね満室となっている。
「再開発による良質なオフィスの供給自体が都市機能の向上に寄与し、企業の移転・拡張需要を喚起している」(大久保)
この旺盛なオフィス需要を牽引している一つの要因が「フィンテック企業」の台頭だ。福岡市が「天神ビッグバン」などの特区制度を活用してスタートアップ支援に注力する中、賃料水準の高いハイグレードなオフィスビルにフィンテック企業が入居する動きが目立つ。今後は、オフィス需要の強力な牽引役となることが期待されている。
大久保は今後の賃料水準の見通しについて「新規供給が継続するため、空室率は当面の間、現在の水準で横ばいに推移するだろう。しかし、新たに供給されるオフィスがさらなる需要を喚起するという流れが継続し、賃料水準は今後も上昇基調を維持する」と予測している。
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なお、福岡オフィス市場で躍動するフィンテック企業の最新動向については、JLL日本 リサーチ事業部が発表した下記レポートで詳報しており、無料でダウンロードできる。
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2. 物流施設
物流施設も注目される存在だ。
コロナ禍で急拡大したeコマース需要で新規供給が急増。その結果、空室率が上昇したが、インフレ局面においてキャッシュフローの安定性が不動産投資家から再評価される要因となっている。
JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、福岡圏物流不動産市場の空室率は9.2%となり、東京圏(8%弱)や大阪圏(3%)と比較しても高水準にある。しかし、大久保は「空室率の高さを懸念する必要はない」とする。その理由は、福岡圏が依然として「黎明期」にあるためだ。
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経済規模に対して圧倒的なストック不足
東京圏の物流施設のストックを100とした場合、生産活動量や物流量などで測る「経済単位」で比較した福岡のストックは東京圏よりも7-8割少ない。市場全体の分母が小規模であるため、大規模な先進物流施設が1棟竣工するだけで一時的に空室率が大きく跳ね上がるという“数字上のブレ”が生じやすい。決して床需要やファンダメンタルズが弱いわけではない。
東京圏・大阪圏を凌駕する賃料成長力
一方、ストック不足を背景に福岡圏の賃料水準は東京圏や大阪圏を大きく上回るペースで上昇している点も注目に値する。
近年、東京圏や大阪圏では、土地代や建築費の高騰に伴う採算性の悪化により、新規開発プロジェクトの中止・延期が増加している。一方、より高い賃料の成長力を背景に福岡圏は東京圏・大阪圏と比べて比較的高めの開発リターンが期待できる。
大久保は「オフィス市場と同様に今後も新規供給が相次ぐため、空室率は一時的に高止まりする可能性があるものの、中長期的なストック不足を背景に賃料は今後堅調に上昇を続ける」と予想している。
国内外投資家にとって「福岡」が魅力的な選択肢に
グローバルな経済・政治的混乱や突発的な地政学的リスクなど、需要を左右する潜在リスクには常に留意する必要があるが、不動産市場としての福岡が有する「需要の底堅さ」「成長ポテンシャル」は、国内外の投資家にとって福岡は今後も確固たる地位を築き続けるだろう。
再開発によってインフラが更新され、都市機能が著しく向上する福岡。経済規模に対していまだ発展途上にあり、今後も賃料の上昇が予測されるオフィスと物流施設という2つのセクターが成長エンジンとなり、今後の福岡市場をさらなる発展へと導くのではないだろうか。
※本稿は2026年10月に開催したセミナーをもとに作成しました。本稿で言及したデータなどにご興味ありましたら下記フォームからお問い合わせください。