福岡オフィス市場における3大エリアの個性
著者
松丸 晴香
福岡市は「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」などの大規模再開発により、オフィスストックが質・量ともに飛躍的な発展を遂げた主要都市である。2024年6月には国の「金融・資産運用特区」に指定され、スタートアップ育成と金融機能強化を軸に更なる発展が見込まれている。
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本記事では、JLLが定義する福岡市の3つのオフィスエリア(①博多駅、②祇園・呉服町・中州、③天神・赤坂・薬院)について、賃料動向、供給吸収ペース、テナント特性の観点から紹介する。
図-1:福岡オフィス市場における3つの主要オフィスエリア
①博多駅エリア
博多駅を中心とした九州最大のターミナルエリアで、JR九州本社をはじめとする企業本社機能が集積している。製造業の比率が高いのも特徴で特に化学工業、食料品、金属製品といった業種の企業が築浅のグレードAオフィスに拠点を構えている。
2026年第1四半期の賃料は23,778円(前年同期比+14.0%)、空室率は1.5%。2019年の博多コネクティッド開始以降、約23,000坪のグレードAオフィス床が供給されたが、竣工後6カ月〜1年で満床となるケースがほとんどで、吸収ペースは極めて速い。2026年第1四半期には約2年ぶりの新築グレードAオフィスである「西日本シティビル」が竣工し、市場全体の賃料上昇を牽引した。前年比二桁の賃料上昇は、福岡市3エリアの中で最も高い伸び率であった。
②祇園・呉服町・中州エリア
2026年第1四半期の賃料は17,853円(前年同期比+2.7%)、空室率は0.4%と賃料・空室率ともに3エリア中最も低い水準を維持している。このエリアは中小規模オフィスが中心でグレードAオフィスの供給は限られているものの、他エリアと比較して賃料が抑えられていることや博多駅と天神の両エリアに徒歩でアクセスできる中間的な立地が評価されていることもあり、着実なテナント需要がある。
グレードAオフィスに入居しているテナントの業種としては卸売業・小売業の割合が比較的多い。成長過程にあるスタートアップ企業や、コスト効率を重視する企業にとっては、博多駅や天神の高賃料ビルよりも現実的な選択肢となりえる。空室率0.4%という数字は、供給が限定的である一方で、福岡オフィス市場全体の需要拡大の恩恵を受けていることを示している。寺や神社等の資産が集中していることもあり、景観・文化・用地制約の観点から大規模再開発が進むことは現時点では考えにくいが、今後、このエリアでグレードAオフィスの新規供給があれば、潜在需要が顕在化する可能性が高い。
③天神・赤坂・薬院エリア
2026年第1四半期の賃料は25,355円(前年同期比+3.8%)で、九州最高の賃料水準を誇るプライムオフィスエリアとなっている。空室率は8.2%と他エリアより高いが、これは大量供給の影響と見るべきだろう。
2021年竣工の天神ビッグバン第1号である「天神ビジネスセンター」を皮切りに、2026年第1四半期までに約63,000坪のグレードAオフィス床が供給された。特に2024年、2025年の2年間だけで約28,000坪もの供給があり、一部は現在も吸収の途上にある。ビルによって差はあるものの、竣工後おおむね2年以内に満床レベルに達しており、福岡市への企業進出や拠点拡張の動きが堅調であることを裏付けている。今後3年間のグレードAオフィス供給も天神エリアに集中する見込みだ。
テナント業種に関しては、従前から銀行や証券会社などの金融機関、官公庁が集積している一方、近年は情報通信企業の入居が増えている点も特徴だ。特に、金融・資産運用特区指定を背景に、スタートアップ支援施設である「Fukuoka Growth Next」に続き、2024年には「ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)」が「ONE FUKUOKA BLDG.」に入居するなど、福岡におけるイノベーション創出のためのエコシステムが着実に形成されつつあり、エリアとしての多様性が高まっているといえる。
図-2:福岡オフィス市場における年別新規竣工Aグレードオフィス 出所:JLL日本 リサーチ事業部
なお、これらの3エリアをまとめた福岡グレードAオフィス市場の2026年第1四半期の月額賃料は23,276円(前年同期比+9.5%)、空室率4.4%である。
一連の再開発に伴い供給過多を懸念する見方もあったが、実際には堅調な需要が新規供給を着実に吸収しており、市場は底堅く推移している。短期的には新規供給の影響による需給緩和の可能性があるものの、採用強化、働きやすい職場への転換を背景に、安定的なオフィス需要とともに中長期的には緩やかな賃料上昇、空室率低下となると見込まれる。