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アジア圏における日本のゲートシティを目指す福岡市。その中心市街地である天神地区が大変貌を遂げています。「100年に1度」とも称される連続的な都市開発事業は、まさに1つの街を作り変えるほどのインパクトから「天神ビッグバン」と称されています。

天神ビッグバンで進化を遂げる天神地区

東西を結ぶ明治通り、南北に伸びる渡辺通り(県道602号)が交わる「天神交差点(地下鉄「天神駅」)を基点とし、百貨店などの大型商業施設とオフィスビルといった「職・遊」が融合した街並みが天神地区の特徴といえます。

オフィス街としては従前から銀行や証券会社などの金融機関や官公庁などが集積し、福岡でも1、2を争う人気を博しています。また、福岡空港からは地下鉄空港線で約10分、乗換なしでアクセスできる他、福岡都市高速環状線が利用しやすく、福岡県“第3のビジネス街”と称される久留米市への自動車移動も容易な交通利便性も魅力といえるでしょう。

JLLの担当者は「天神地区は福岡を代表する商業集積地としての側面もあり、東京・渋谷のような街。アフターファイブも充実しているだけでなく、若い人材を採用する上でも優位性がある」と指摘します。百貨店の集積地でもあり、全長600mに及ぶ天神地下街などが知られています。

天神ビッグバンとは?

そんな天神地区ですが、「天神ビッグバン」による複数の大規模再開発によって街全体が生まれ変わろうとしています。

天神ビッグバンとは、福岡市が主導する面的な再開発プロジェクトです。対象エリアは天神交差点から半径500m、面積は約80haに及びます。当該エリアにおいて国家戦略特区や地区計画を活用し、これまで航空法で規制されていた高さ制限を緩和すると共に容積率にボーナスを付与し、既存建物の更新が限定的だった天神地区での建て替えを促進することが目的です(参照:福岡市)。

天神地区は地震リスクのある警固断層があり、築年が経過し耐震性に課題がある既存建築物をBCPやサステナビリティに対応した最先端ビルに建て替わることで、エリア全体の安全性を高め、企業や地域住民、観光客などの来街者が安心して過ごせる街づくりをめざします。そして、企業誘致の受け皿として大規模なオフィス床の供給とスタートアップ支援施設を整備することで「雇用創出」も目指しています。

JLLの担当者は「これまで福岡市は空港が近く利便性が高い反面、航空法の高さ制限によって高層ビルの建築ができないというジレンマを長く抱えてきたといいます。既存ビルをみるとせいぜい地上10階程度が限界だった」と説明します。

それが、天神ビッグバンでは航空法の高さ制限の特例承認をうけ、天神1丁目は上限で地盤面から100mの高さまで建築物の建築が可能となりました。そして、画地の併合や地区整備計画を策定することを条件に、2026年末(当初2024年末)までに竣工するビルには大幅な容積率のアップが認められるので、民間投資による再開発を喚起され、アジアの拠点都市にふさわしいビジネスゾーンが創出されることになりました。

福岡市では当初「2024年度末までに30棟の建替え」を見込んでいましたが、最終的に2030年代までに約100棟の建替えが見込まれています。

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大規模オフィスにIT企業が進出

容積率緩和などの「天神ビッグバン」認定プロジェクトは9件(2025年10月時点)存在しますが、ボーナス認定に向けて検討が進められている3プロジェクトが浮上しています。

天神ビッグバンの記念すべき第一号物件となったのが2021年9月に竣工した「天神ビジネスセンター」。ジャパネットホールディングスが東京の本社機能を同ビルに一部移転したことで大きな話題となりました。

それを皮切りに、旧大名小学校跡地の再開発事業としてラグジュアリーホテルやスタートアップ育成施設、広大な芝生の広場といった多様な機能を有する「福岡大名ガーデンシティ」が2023年3月に竣工。2024年12月には「ヒューリックスクエア福岡天神」と「ONE FUKUOKA BLDG.(ワン・フクオカ・ビルディング)」、そして、2025年4月に「天神ブリッククロス」、2025年6月に「天神住友生命FJビジネスセンター」が相次いで竣工しています。

これらの再開発ビルは環境性能やBCP対応などの機能に優れ、テナント向けの各種付帯サービスも充実。豊富な緑地や憩いの場となる広場などの公共空間を一体的に整備し、オフィスワーカーだけでなく、来街者や地域住民など、幅広いステークホルダーを惹きつける機能を備えています。

した高機能な大規模オフィスが次々供給されたことによる最大の効果として挙げられるのが企業誘致…特に「IT企業の進出・統合移転」が目立っているように見受けられます。

例えば、会計ソフトなどで知られるマネーフォワードは2025年7月に九州・沖縄支社および福岡開発拠点を大名地区から天神地区の「福岡大名ガーデンシティ」に移転すると発表した他、スキマバイト求人で急成長を遂げるタイミーの九州支社が大名地区から天神地区へ移転に言及。クラウドPOSSシステムのスマレジが2025年3月、天神地区の商店街からオフィス兼用のショールームを「HULIC SQUARE FUKUOKA TENJIN」へ拡張移転しています。その他、DX支援のアルサーガコンサルティング、事業共創支援のRelicなども天神地区へ進出・拡張移転を行っています。

少子化によって東京では人材採用獲得競争が激化しており、IT企業が天神地区に拠点開設する理由の1つとして、若者人口が増加する福岡での採用活動強化が挙げられます。前述したジャパネットホールディングスやマネーフォワードがその好例といえるでしょう。

建物名 所在地 竣工年 建物規模 特徴
天神ビジネスセンター 天神1-10-20 2021年9月 地上19階 地下2階 天神ビッグバンの第一号物件。複数ガラスを重ねた「ピクセル」構造の外観が特徴
福岡大名ガーデンシティ 大名2-6-50 2023年3月 地上25階 旧大名小学校跡地に開発された大規模複合ビル。九州初上陸の「ザ・リッツ・カールトン福岡」や緑地広場、人材・企業育成施設などを整備
ONE FUKUOKA BLDG. 天神1-11-17 2024年12月 地上19階 地下4階 旧福岡ビル、天神コア、天神ビブレの跡地に開発。西日本最大級のオフィスフロア
HULIC SQUARE FUKUOKA TENJIN 天神2-3-24 2024年12月 地上19階 地下3階 オフィスの自然換気システムや庭園設置で「感染症対応シティ」への取り組みに注力
天神ブリッククロス 天神3-2-22 2025年4月 地上18階 地下2階(北棟)/ 地上2階 地下2階(南棟) 高い省エネ性能を有し、来街者の憩いの空間を整備
天神住友生命PJビジネスセンター 天神2-14-2 2025年6月 地上24階 地下2階 高さ約113mは天神トップ。最上階にウメを併設

出所:福岡市HP、各社発表などを元にJLL作成

天神ビッグバン開発予定の主なプロジェクト

●天神ビッグバン開発予定の主なプロジェクト(2025年10月現在)

建物 所在地 竣工予定 建物規模 特徴
(仮称)天神1-7計画 天神1丁目 2026年12月 地上21階地下4階 外装に木材を使用したデザイン性、使用電力を再エネ由来
(仮称)天神ビジネスセンター2期計画 天神1丁目 2026年6月 地上18階地下2階塔屋2階 連続する緑地空間、街に開かれた「アクセラリウム」などの充実したワーカーサポート機能

出所:福岡市HPを元にJLL作成

見上げると大規模ビルが視界に飛び込んでくる光景

頭上を覆う大規模ビル 画像提供:PIXTA

天神ビッグバンで街の様子が一変

「天神ビッグバン」による街の変化について、地元・福岡で活動しているJLL担当者に“住民・ワーカー”目線での感想を聞いてみましたが、真っ先に挙げたのが「建物の高さ」です。

「それまで建築物の高さは地上65mに制限されていましたが、地上100mクラスの大規模ビルが次々と竣工したことで、空を見上げると大規模ビルが視界に飛び込んでくる光景は壮観です」(JLL担当者)

建物の大型化によって、オフィスだけでなく、ホテルや商業施設、インキュベーション機能など、様々な用途を提供できるようになりました。特に、新たに開発された大規模複合ビルの下層階に誘致された商業店舗によって来街者の多様化に寄与しています。それまで天神地区の商業の中心は百貨店が集積する「天神南駅」周辺、天神地区の西に隣接する大名地区でしたが、買物エリアがエリア全域に拡大し、新たな来街者を惹きつける魅力となっています。例えば、「天神駅」に直結する「ONE FUKUOKA BLDG.」は天神南や大名地区から距離があり、従前はオフィスワーカーの姿しか見かけなかったそうですが、当該ビルの商業エリアを利用する外国人や観光客などの姿が目立つようになったことも大きな変化といえます。

一方、こうした大規模再開発に出店する商業店舗は若者向けというよりも可処分所得の高いワーカーやインバウンド観光客などを対象にした高級路線の店舗が多いことが特徴となっています。これまで商業地として一括りで紹介されることが多かった「天神」と「大名」が明確に色分けされるようになり、大名地区は「若者が集う街」、天神地区は「大人が楽しめる街」との印象が根付きつつあります。

「かつて“ギャルの聖地”として人気を博した『天神コア』の跡地に『ONE FUKUOKA BLDG.』が竣工したこと、そして『福岡大名ガーデンシティ』にラグジュアリーホテルが開業したことがそれを示唆しています。天神ビッグバンは再開発によって『若者の街』から『大人も楽しめる街』への進化を目指した東京・渋谷と比較されることがありますが、渋谷ではなく、さらにラグジュアリーな街である銀座を目指しているように感じられます」(JLL担当者)

オフィス街として大口需要の受け皿に

オフィス機能の充実度も街に変化をもたらす大きな要素になっています。

ワンフロア500坪超のオフィス床


ワンフロア当たりの貸床面積500坪以上のオフィス床が供給され、地元企業だけでなく、日系大手企業や外資系企業の大口需要にも対応できます。JLL担当者によると『従前、福岡で100坪のオフィス移転プロジェクトがあると大型案件とみなされていましたが、今では500坪、700坪を希望するクライアントが急増している』といい、再開発が進むにつれて潜在的なオフィス需要が喚起されるようになってきました。

「最先端の大規模オフィスが次々と竣工し、比較検討できるようになったことで、これまで様子見をしていた企業がオフィス移転を検討し始めました。立地改善などを目的とした自社ビルから最新ビルへ移転や、分散していた拠点統合、BCP対応を目的としたサテライトオフィス需要など、これまで受け皿がなかった大口需要が一気に動き始めたといえます」(JLL担当者)

コワーキングスペース(画像はイメージ)

フレキシブルオフィスのイメージ 画像提供:PIXTA

大型フレキシブルオフィスが続々開業


一方、大口床のみならず、スタートアップや起業家を育成・支援するフレキシブルオフィスの出店も増えており、天神ビッグバンボーナス認定プロジェクトには下記のような大型施設の新規出店が相次いでいます。

天神ビッグバン認定プロジェクトのフレキシブルオフィス

●天神ビッグバン認定プロジェクトのフレキシブルオフィス

施設名 開業 事業者 入居ビル
リージャス天神ビジネスセンター 2025年8月 日本リージャス 天神ビジネスセンター
Signature 福岡大名ガーデンシティ 2024年1月 日本リージャス 福岡大名ガーデンシティ
CIC FUKUOKA 2025年4月 CIC Japan Innovation Services ONE FUKUOKA BLDG.
Signature 天神 明治通り 2025年12月(予定) 日本リージャス 天神住友生命FJビジネスセンター
WeWork 天神ブリッククロス 2025年8月 WWJ 天神ブリッククロス

各事業者の発表をもとにJLL作成

これまで天神地区には中小規模のフレキシブルオフィスは少ないながらも存在していましたが、このような大規模複合施設の大口区画で開業するケースは皆無でしたが、人気を博しているようです。

例えば「Signature福岡大名ガーデンシティ」には業界・規模を問わず、多彩な企業からの引き合いが殺到し、稼働率が好調といわれており、天神ビッグバンのコンセプトである「企業誘致」に一定以上寄与しています。

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天神地区はさらなる成長を遂げるポテンシャルを秘めている

福岡市の調査によると、人口減少社会に突入した日本において2035年頃まで人口が増加すると予測されており、政令指定都市の中でも若者比率が最も高いのが福岡市です。豊富な生産年齢人口を抱えることで経済成長も期待できます。

また、新規開発が進み、オフィスのみならず、全般的に都市機能が拡充し、これまで以上に多くの企業を惹きつけることになるでしょう。特に、スタートアップや起業家を対象にした育成施設は官民両面で整備が進んでおり、スタートアップが順調に成長し、大規模オフィスのテナントとして入居するエコシステムが機能すれば、天神地区は「九州屈指のオフィス街」のみならず、「西日本を代表するオフィス街」へと成長を遂げる可能性もありそうです。

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天神地区のおすすめビル

福岡大名ガーデンシティ
「福岡大名ガーデンシティ」

福岡県福岡市中央区に位置する大規模複合ビル。2023年竣工。建物規模は地上25階地下1階、オフィスの基準階面積804.35坪。天井高2,800㎜。OAフロアあり、制震構造。 最寄り駅は福岡市地下鉄空港線「赤坂駅」から徒歩2分、「天神駅」から徒歩3分。 西鉄天神大牟田線「西鉄福岡(天神)駅」から徒歩6分。「天神ビッグバン」の1つである「旧大名小学校跡地活用事業」として開発され、オフィス・商業施設・ラグジュアリーホテル・カンファレンス施設などを有する。 旧小学校の校庭を活用した敷地内には約3,000㎡の広場「福岡大名ガーデンシティ・パーク」をはじめ、レジデンス、公共館、クリニック、コミュニティ施設が入居する「福岡大名ガーデン・テラス」や、旧校舎を活かしたスタートアップ施設「Fukuoka Growth Next」が隣接する。 同施設に入居するスタートアップ企業や、ガーデンシティのオフィスに入居するテナント企業の交流イベントをはじめ、エリアマネジメントにも注力しており、下層階の商業施設は顧客との会食や接待需要にも対応する。

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