訪日外国人観光客数の回復が本格化し、日本のホテル投資市場は活況を呈している。そうした中、ホテル運営体制やバリューアップ戦略を最適化し、ホテル収益の最大化を目指すオーナーやホテルオペレーターが注目しているのが「ホテルアセットマネジメント」である。
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ホテルアセットマネジメントとは?ホテル運営の専門家が収益最大化を支援
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目次
活況を呈する日本のホテル市場
2022年10月に水際対策が緩和されたことで訪日外国人観光客数が回復したことで、ホテルパフォーマンスは改善に向かっている。東京・大阪のホテル市場ではADR(客室平均単価)がコロナ前の2019年を上回り、ホテルのパフォーマンスを測る重要指標とされるRevPAR(1日当り販売可能客室数当り宿泊売上)でも2019年の水準を超える地域も見られるようになってきた。
いわゆるアップサイドを狙えるこうした環境下において、オーナー(投資家)やホテルオペレーターの注目を集めているのが「ホテルアセットマネジメント」である。
ホテルアセットマネジメントとは?
ホテルアセットマネジメントとは、一般的にホテルオーナー(投資家)の代理として、ホテル収益(GOP:営業総利益)の最大化を支援するコンサルティングサービスを指す
ホテル運営に精通したホテルアセットマネージャーがオーナーの代理人となり、オペレーター本部やホテルスタッフとのコミュニケーションを通じて信頼関係を構築しながら、オーナーとオペレーター双方の利害を調整する“橋渡し役”としてホテルブランドの価値を高めつつ収益最大化を支援する。ホテルアセットマネージャーは下記のような役割を担う。
- 独立した専門家としての見識を提供し、オペレーターとの建設的な対話を通じて、プロアクティブな運用管理を遂行
- 適切な出口戦略を立案・維持しながら、投資リターンと施設の市場価値の最大化を図る
- オペレーションを最適化し、あらゆる事業部門の収益性を高めることによってキャッシュフローを最大化
- オーナーにとって最も費用対効果の高い予算を組み、追加投資を見極めるなど、ROIの最大化を実現
ホテルアセットマネジメントが注目される背景
JLL日本では2021年からホテルアセットマネジメント・サービスの提供体制を強化して以来、国内外の投資家・オペレーターから多数の相談が寄せられている。
JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 エグゼクティブヴァイスプレジデント ヘッド・オブ・アセットマネジメント ネイザン・クックは、ホテルアセットマネジメントが注目される背景について「良好なマーケット環境にありながらADRが想定より改善していないと感じているオーナー、オペレーターが少なくないため」と推測する。
加えて、これまで馴染みのなかった外資系ホテルならではのホテル運営委託契約(ホテルマネジメント・コントラクト/HMC)やフランチャイズ契約(FC)を導入するオーナーが増えていることも挙げられる。
外資系ホテルを誘致するオーナーが増加
従前、国内ホテルオペレーターはオーナーと賃貸借契約を締結し、ホテルを運営するのが一般的だったが、収益の大部分をオペレーターが得ることになり、オーナーにとってアップサイドが狙いにくい。
一方、外資系ホテルは世界中に膨大な会員を抱えていることから桁違いの集客力を誇る。オーナーにとっては外資系ホテルのブランドや話題性によって保有不動産の付加価値向上も期待できる。外資系ホテルを誘致しようと考えるオーナーが増えている理由だ。
外資ホテル特有のHMCやFCはオーナーが経営リスクを引き受ける代わりに営業利益の大部分を得ることになる。ホテルパフォーマンスの改善が見込める現況下において、HMCやFCを選択したほうが収益のアップサイドが見込める。
HMCやFCに見られるオーナー・オペレーターの利害相反
とはいえ、HMCやFCにおいてはホテル経営を巡ってオーナーとオペレーターの考え方が一致するとは限らない。一般的に、オーナーの最大の関心事はホテル運営の(短期的)利益と資産価値向上と考えられるが、オペレーターの関心事は長期的(継続的)なホテルのブランド価値と顧客満足度の向上であり、そもそも運営方針や投資方針が異なる。
HMCやFCにはこのような利害相反となる条項が存在し、収益最大化の足枷となるケースが少なくない。特に、ホテル運営に精通していないオーナーであれば、オペレーターからの提案や報告が果たして妥当であるのか判断がつかず、積極的にホテル運営に関わることができないなど、様々な課題が浮上する。