スマートオフィスとは何か?
スマートオフィスとは「IoTやAI、ロボットなどのスマートデバイスを用いて、従来よりも業務効率や生産性を向上させたオフィス」を指す。
スマートオフィスの「スマート(smart)」とは「賢い」、「利口な」、「気が利く」といった意味の英単語である。ここから転じて、近年は「AIやIoT、ロボットなどの高度なテクノロジーを用いて著しく生産性を向上させるツール」を「スマート○○」と呼ぶようになっている。
最も身近な「スマート○○」といえばスマートフォンだろう。もともとは電話に近かったフィーチャーフォンを発展させ、汎用OSとアプリケーションで動く高機能な携帯電話をスマートフォンという。また、スマート家電やスマートウォッチという言葉も一般に広がりつつある。IoTやAIを使って音声などで操作できる家電をスマート家電、同様の技術を用いた高機能なデジタル時計をスマートウォッチと呼ぶ
スマートオフィスも「スマート○○」の仲間といえるだろう。上記のツールに比べてスマートオフィスの知名度はまだ一般的ではないが、アフターコロナの時代に向けて、ビジネスの成長に必要不可欠な存在として注目を集めている。
既に先進的なオフィスでは次のような事例が導入され、スマートオフィス化が進んでいる。
IoT(ヒトを介さずモノ同士でインターネット接続を行うこと)により、オフィススペースの利用率に関するデータを可視化
AI(機械学習)搭載の清掃ロボットでオフィスの衛生管理を効率化
オンライン(非接触型)のコミュニケーションにより、移動時間の削減や感染症の拡大防止を実現
上記のような取り組みを行っているスマートオフィスを従来型のオフィスと比較すると、その違いは次の2点に集約される。
業務の生産性…対面を前提としない新しいプロセスの構築により、業務の効率化を図れている
多様な働き方…決まった時間に物理的に出社する必要がなくなり、多様な働き方が実現している
スマートオフィス化の5つのメリット
スマートオフィスを導入すると社員のストレスが緩和され、モチベーションの向上が期待できる。
スマートオフィスを導入すると様々なメリットがある。ここではそのメリットの一部を紹介したい。
スマートオフィスを通じてオフィススペースの最適化と全体的なコスト削減を実現することができる。
例えば、スマートオフィスの一例として、ネットワークカメラを使ってオフィス全体の人の流れを撮影する事例がある。撮影した人の流れをもとに、AIが無駄な動きや余剰スペースがないかを解析。その解析結果をもとにオフィスレイアウトなどを変更することで、より使いやすいオフィスを実現できる。
リモートワークが定着した職場では、既存の個人用スペースの見直しによるオフィス移転で大幅なコスト削減が見込める。この時、スマートオフィスではデータが可視化できているため、より正確にオフィスの利用率や適正な広さが割り出せる。
2. 働きやすい環境を整える
働きやすい環境をAIが自律的に維持してくれる空間づくりも可能だ。例えば空調や照明が社員の体調や外部環境に適していない場合、集中力が途切れ、生産性が落ちる。下手をすれば社員の健康に影響を及ぼしかねない。
こうした課題に対して、様々なセンサーを導入することで社員たちの動きやオフィスの利用状況を解析できるスマートオフィスでは、空調や照明を自律的に調整することができ、社員にとって働きやすい環境を整えることができる。
3. どこからでも働けるようになる
最新のテクノロジーとセキュリティで、オンラインでのコミュニケーションを可能にしたスマートオフィスは、従業員の多様な働き方のニーズを包括的に実現できる。
在宅勤務やサテライトオフィスなどを活用したリモートワークと、オフィス出社を組み合わせたハイブリッドワークは、通勤時間の短縮による時間の有効活用や従業員の負担軽減につながり、長期的には人材確保や採用にも有効に働くだろう。
4. コミュニケーションの活性化
リモートワークの普及により、社員間のコミュニケーション低下が問題視されているが、スマートオフィスではデジタル機能を充実させ、オフィスで働いている従業員同士のやり取りを促進させることができる。
様々なセンサーやカメラによってオフィスで働く社員たちの行動を捕捉し、いつどこで誰と誰がコンタクトしたか、それによってどのような感情が芽生えたかをAIが解析することも可能だ。
その結果、社員たちの行動からコミュニケーションに関する膨大なビッグデータを蓄積することができ、それを元にどのように対策を取ればコミュニケーションが活性化されるかをAIが提案する事例も出てきた。
オフィスにおいて人間関係が悪化する理由はさまざまであり、会話や雑談が少ないオフィスでは往々にして人間関係が希薄になりがちだ。かといってあまりに距離感が近すぎても圧迫感や窮屈さが感じられ、モチベーション低下が危惧される。
しかし、スマートオフィスでは自社のオフィスにおいて社員の人間関係上どのような課題があるかをAIが解析し、最適な対策を導くことができる。オフィスの心理的安全性を確保する上で大きな力となってくれそうだ。
スマートオフィス化の注意点
スマートオフィス化の際には社員のITリテラシーを高めるために研修を実施するなど、社員教育のあり方も検討すべきである。
初期費用を抑えることは可能
スマートオフィス化するにはセンサーやネットワークカメラなどの各種デバイス、社員に配るためのタブレットなど、まとまった初期投資が必要になる。その点で二の足を踏んでいる企業もあるかもしれない。しかし、優先的な対策から徐々に展開していく方法や、ゼロからシステムを開発せずパッケージ化されたクラウドサービスを利用するなど、さまざまな方法で初期コストを抑えることが可能だ。長期的な視野と計画性を持って初期費用を試算することが重要である。
スマートオフィス化のステップ
ここからはスマートオフィスの導入手順について解説する。従来のオフィスをスマートオフィスにするには以下の3つのステップが必要である。
2. デバイスやネットワークの実装
各種センサーやネットワークカメラなど、スマートオフィスのためのデバイスやクラウドサービス、ネットワークシステムなどを実装していく。
実装が終わった段階でテストし、問題がなければデータの収集がスタートする。データはある程度のボリュームがないと信頼性が薄くなる。蓄積されるまでしばらく待つ必要はあるだろう。
3. レポート分析とオフィス改善
蓄積されたデータを元に様々な切り口からレポートを作成する。例えば「オフィスフロアのどこが頻繁に利用されているか」、「あまり利用されていないスペースはどこか」、「会議室の利用状況はどうか」など、さまざまな切り口でデータを分析し、オフィスの課題点を可視化する。
会議室利用状況の把握
IoTアナリティクスセンサーでは会議室の人員を人感センサーでモニタリングし、定員に対して適切な割合で使用されているかを計測することができる。
利用率ヒートマップによる利用率の可視化
オフィス内の各座席の使用頻度を計測する利用率ヒートマップを活用すれば、良く使われているエリアやあまり使われていないエリアを把握することが可能になり、余剰スペースを割り出すことにつながる。
スマートオフィスに向けての具体的な施策
基本的な進め方に加え、スマートオフィスの導入を推進する際には具体的に何を行えば良いのか。オフィス機能・業務・外部コミュニケーションの3つの視点で紹介する。
業務の効率化
これまで人が行っていた以下のようなバックオフィス業務をデジタル化することも、スマートオフィス化に必要な施策といえる。
- グループウェア導入によるコミュニケーション活性化
- 備品管理システムの導入
- 顧客管理システムの導入
- ペーパーレス化
- RPAによる定型業務の自動化
- 製造現場のデジタル化
- 業務のデータ分析と可視化
スマートオフィスの円滑な運用には、社内のみならず、以下のようなITを活用した外部との連携も欠かせない。
- ビデオ会議システムの導入
- 仮想オフィス・ツールの導入
- グループウェア導入による社内外のコミュニケーション活性化
- AIやOCRによる請求書自動処理システム
- AIによる電話対応業務の自動化
- 社外への電話転送システム
スマートオフィス成功実例
E社 AI清掃ロボット導入事例
医薬品の研究・製造・販売を行う同社では、コロナ禍において「医薬品の供給を止めてはならない」という強い使命感から、社内の感染防止を見据えた新たな清掃スキームの一環として、ソフトバンクロボティクス株式会社が開発した業務用AI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」を導入した。
清掃作業員の業務の一部をロボットに転換し、人が重点エリアの拭き上げ清掃にシフトすることで、清掃コストはそのままに清掃品質を向上させることに成功した。
L社 新規オフィスIoTセンサー導入事例
多様なITサービスを開発・展開する同社では、2019年からの急激な人員増に対応するため、福岡の新規オフィス開発および都内・京都に新たな事業拠点を設置。大崎オフィスにJLLのIoTセンサーを導入した。
すべてのオフィスは「ユーザーを感動させる初めての体験」「思わず友達に教えたくなるような驚き」と定義される独自のデザインコンセプト「WOWを生み出す空間」に基づいて設計されており、大規模なカフェラウンジやミーティングスペースなど快適な執務環境を提供している。
IoTセンサーの導入により会議室の使用頻度や各会議室の平均利用人数、時間帯ごとの利用頻度などを導き出すことができ、より優れたオフィス環境の実現に活かされている。