スマートオフィスとは?生産性向上に寄与する次世代ワークプレイス戦略
スマートオフィスとは何か?
スマートオフィスの定義を押さえたうえで、なぜ今このテーマが経営課題として浮上しているのかを確認する。
スマートオフィスとは「IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボットなどの先端テクノロジーを活用し、業務効率・生産性・従業員体験を高める次世代型のオフィス」を指す。
スマートオフィスの「スマート(smart)」とは「賢い」、「利口な」、「気が利く」といった意味の英単語である。ここから転じて、近年は「AIやIoT、ロボットなどの高度なテクノロジーを用いて著しく生産性を向上させるツール」を「スマート○○」と呼ぶようになっている。
最も身近な「スマート○○」といえばスマートフォンだろう。もともとは電話に近かったフィーチャーフォンを発展させ、汎用OSとアプリケーションで動く高機能な携帯電話をスマートフォンという。また、スマート家電やスマートウォッチという言葉も一般に広がりつつある。
スマートオフィスも「スマート○○」の仲間といえるだろう。渋滞型のオフィスとの違いは、大きく次の2点に集約される。
業務の生産性:対面を前提としない新しいプロセスの構築により、業務の効率化を図れている
多様な働き方:決まった時間に物理的に出社する必要がなくなり、多様な働き方が実現している
こうしたスマートオフィスの市場規模は世界的に急拡大しており、IMARC Groupの調査では、世界のスマートオフィス市場規模は2024年に502億米ドル、2033年には1,283億米ドルに達すると予測されており、2025-2033年の年平均成長率(CAGR)は10%を超えると推測されている。その背景には、ハイブリッドワークの定着に加え、DX推進の加速、人材獲得競争の激化、サステナビリティ経営へのシフトなど、複数の構造的要因がある。テクノロジーを活用してオフィスの価値を再定義しようとする動きは、今後さらに拡大していくだろう。
スマートオフィスを支える主要テクノロジー
続いて、実際のスマートオフィスではどのようなテクノロジーが活用されているのかを整理する。
IoTセンサーとデータ分析
スマートオフィスの中核を担うのが、IoTセンサーによるデータ収集と分析である。オフィス内に設置された各種センサーが、空間の利用状況をリアルタイムで可視化する。
会議室利用状況の把握:IoTアナリティクスセンサーでは、会議室の在室人数を人感センサーでモニタリングし、定員に対して適切な割合で使用されているかを計測できる。ある調査では、会議室の平均利用率は定員の60%にとどまり、予約済みの会議室の約30%が実際には使われていないことが報告されている。こうしたデータを可視化することで、会議室の適正な数やサイズを判断する材料が得られる。
利用率ヒートマップによる可視化:オフィス内の各座席の使用頻度を計測する利用率ヒートマップを活用すれば、よく使われているエリアとあまり使われていないエリアを把握でき、余剰スペースの割り出しにつながる。
座席温度のリアルタイム確認:各センサー周囲の温度をリアルタイムで計測することで、空調が適正に使用されているか、オフィス全体の温度が快適かどうかの判断材料とすることができる。
こうしたセンサーにはBluetooth、Wi-Fi、LoRaWANなど、さまざまな通信規格が用いられる。近年はバッテリー寿命が最大10年に達する低消費電力型のセンサーも登場しており、導入のハードルは下がりつつある。
座席/会議室予約システム・入退室管理システム
スマートオフィスでは、座席や会議室をリアルタイムで予約・管理するシステムが不可欠となる。社員がスマートフォンやPCから空席を検索し、ワンタップで予約できる仕組みは、フリーアドレスやABW(Activity Based Working)の運用精度を大幅に高める。
また、顔認証やICカードを活用したスマート入退室管理システムは、セキュリティの強化と入退館データの自動収集を同時に実現する。誰がいつオフィスにいるかをリアルタイムで把握できることは、ハイブリッドワーク環境でのスペース管理や防災対策にも有効である。
環境制御とエネルギー最適化
IoTセンサーで取得した占有状況データを空調・照明システムと連携させることで、使われていないエリアの空調を自動で抑制したり、在室人数に応じて照明の明るさを調整したりすることが可能になる。
コミュニケーション・業務プラットフォーム
スマートオフィスでは、オンライン会議システムやビジネスチャットツールの導入により、リモートワーカーとオフィス内のチームメンバーがシームレスに連携できる環境を構築する。高画質カメラ・空間オーディオ・AIによる自動フレーミング機能を備えた最新の会議システムは、リモート参加者を対面と同等の臨場感で会議に参加させることを可能にしている。
加えて、ペーパーレス化やクラウド文書管理の推進、RPAによる定型業務の自動化なども、スマートオフィス化に欠かせない施策である。グループウェアの導入により社内外のコミュニケーションを一元化し、情報共有の速度と正確性を向上させることが、組織全体の生産性を底上げする。
スマートオフィス化の5つのメリットと定量効果
スマートオフィスを導入すると社員のストレスが緩和され、モチベーションの向上が期待できる。
続いて、スマートオフィス導入によって企業が得られる具体的なメリットと定量的な効果を確認する。
生産性の向上
スマートオフィスでは、ネットワークカメラやIoTセンサーを使ってオフィス全体の人の流れを撮影・解析し、無駄な動きや余剰スペースを特定できる。その結果をもとにオフィスレイアウトを最適化することで、より使いやすいオフィス環境を実現し、社員の生産性向上につながる。
英国のvouchercloudが実施した調査によると、オフィスワーカーが実際に生産的に過ごしている時間は1日平均2時間53分にとどまるとの報告もある。スマートオフィス化による環境最適化は、この「非生産的な時間」を削減し、集中力と業務効率を改善する有効な手段となる。
スペース最適化とコスト削減
IoTセンサーによるスペース利用率の可視化は、不動産コストの大幅な削減につながる。
リモートワークが定着した職場では、既存の個人用スペースの見直しによるオフィス移転や縮小で、さらに大幅なコスト削減が見込める。スマートオフィスではデータが可視化されているため、より正確にオフィスの利用率や適正な広さを割り出すことができる。
従業員体験(EX)の改善
空調や照明がAIによって自律的に調整されるスマートオフィスでは、社員にとって常に快適な環境が維持される。温湿度・CO2濃度・照度といった室内環境をIoTセンサーで常時モニタリングし、最適な状態に自動制御することで、社員の集中力を維持し、健康リスクを低減できる。
また、テラスや屋上庭園、サイレントルーム、フィットネスゾーン、休憩エリアなど、仲間たちと楽しめる憩いの施設を備えることもスマートオフィスの特徴である。これらはテレワークでは得られない価値であり、近年注目されるウェルビーイングに資するオフィス環境を実現する。
多様な働き方の実現
最新のテクノロジーとセキュリティで、オンラインでのコミュニケーションを可能にしたスマートオフィスは、社員の多様な働き方のニーズを包括的に実現できる。
在宅勤務やサテライトオフィスなどを活用したリモートワークと、オフィス出社を組み合わせたハイブリッドワークは、通勤時間の短縮による時間の有効活用や社員の負担軽減につながり、長期的には人材確保や採用にも有効に働くだろう。
コミュニケーションの活性化
リモートワークの普及により、社員間のコミュニケーション低下が問題視されているが、スマートオフィスではデジタル機能を充実させ、オフィスで働いている社員同士のやり取りを促進させることができる。
様々なセンサーやカメラによってオフィスで働く社員たちの行動を捕捉し、いつどこで誰と誰がコンタクトしたか、それによってどのような感情が芽生えたかをAIが解析することも可能だ。
その結果、社員たちの行動からコミュニケーションに関する膨大なビッグデータを蓄積することができ、それを元にどのように対策を取ればコミュニケーションが活性化されるかをAIが提案する事例も出てきた。
オフィスにおいて人間関係が悪化する理由はさまざまであり、会話や雑談が少ないオフィスでは往々にして人間関係が希薄になりがちだ。かといってあまりに距離感が近すぎても圧迫感や窮屈さが感じられ、モチベーション低下が危惧される。
しかし、スマートオフィスでは自社のオフィスにおいて社員の人間関係上どのような課題があるかをAIが解析し、最適な対策を導くことができる。オフィスの心理的安全性を確保する上で大きな力となってくれそうだ。
スマートオフィス化の注意点
スマートオフィス化の際には社員のITリテラシーを高めるために研修を実施するなど、社員教育のあり方も検討すべきである。
メリットが多いスマートオフィスだが、導入にあたっては事前に把握しておくべきリスクと対策がある。
計画的な導入で初期投資を抑える
スマートオフィス化するにはセンサーやネットワークカメラなどの各種デバイス、社員に配るためのタブレットなど、まとまった初期投資が必要になる。その点で二の足を踏んでいる企業もあるかもしれない。しかし、優先的な対策から徐々に展開していく方法や、ゼロからシステムを開発せずパッケージ化されたクラウドサービスを利用するなど、さまざまな方法で初期コストを抑えることが可能だ。
フリーアドレスやペーパーレスなど比較的導入しやすい領域から着手し、PDCAを回しながら少しずつ展開していくことで、高額なコストをかけた後に方向転換を迫られるリスクも回避できる。長期的な視野と計画性を持って初期費用を試算することが重要である。
セキュリティ・プライバシーへの対策
スマートオフィス化に際して特に注意すべきはセキュリティ対策である。IoTデバイスやクラウドサービスの導入に伴い、サイバー攻撃やウイルス感染、情報漏洩のリスクが高まる。社員が個人のIoT機器を使って意図せず外部からマルウェアなどの脅威を持ち込んでしまう事態は避けなければならない。
加えて、IoTセンサーを通じた社員の行動データの収集は、プライバシー保護の観点からも慎重な運用が求められる。データの収集範囲・利用目的・保管方法について明確なルールを策定し、社員への十分な説明と合意形成を行うことが不可欠である。
スマートオフィス化は社員のITリテラシーを高める好機でもある。情報セキュリティの研修を実施するなど、社員教育のあり方もあわせて再検討しよう。
スマートオフィス化のステップ
ここからはスマートオフィスの導入手順について解説する。従来のオフィスをスマートオフィスにするには以下の3つのステップが必要である。
1. 現状分析と設定
スマートオフィス化に際して、まずやらなければいけないのは、現状の課題の抽出だ。スマートオフィス化が失敗する原因の多くは、十分な検討を行わずに「なんとなく」でシステムなどを導入してしまう点にある。
まずは自社のオフィスにどのような課題があるかを洗い出し、どのような方向性のオフィスにしたいか検討すると良いだろう。例えば、業務効率をアップさせて生産性を向上させたいのか、オフィスのコミュニケーションを促進したいのかなど、経営層のビジョンと社員のニーズを擦り合わせ、目的と方向性を明確にしよう。
2. テクノロジーの選定とパイロット導入
課題と目的が定まったら、各種センサーやネットワークカメラなど、スマートオフィスのためのデバイスやクラウドサービス、ネットワークシステムを選定し、実装していく。
ここで重要なのは、最初から全社展開を目指すのではなく、まずは1フロアや特定部署でのパイロット導入からスタートすることである。実装後にテストを行い、問題がなければデータの収集を開始する。データはある程度のボリュームがないと信頼性が薄くなるため、蓄積されるまでしばらく待つ必要があるだろう。
3. データ分析と継続的なオフィス改善
蓄積されたデータを元に様々な切り口からレポートを作成する。例えば「オフィスフロアのどこが頻繁に利用されているか」「あまり利用されていないスペースはどこか」「会議室の利用状況はどうか」など、多角的にデータを分析し、オフィスの課題点を可視化する。
可視化したデータに基づいてオフィスデザインや設計を改善していく。一度で完了させようと考えず、KPIを設定した上で定期的に状況を見直し、PDCAサイクルを回しながら段階的にスマートオフィスの適用範囲を全社へ広げていくことが成功につながる。
スマートオフィスを実現するワークプレイス戦略【フリーアドレス・ABW・ハイブリッドワーク】
スマートオフィスは単独で導入するものではなく、既存のワークスタイル施策と組み合わせることで効果が最大化する。
スマートオフィス×フリーアドレス
フリーアドレスとは、社員が固定席を持たず日々好きな席で作業を行えるオフィス環境のことである。
スマートオフィスのIoTセンサーや座席管理システムは、フリーアドレスの運用精度を大幅に高める。「誰がどこに座っているか」をリアルタイムで可視化できれば、相談したい相手を探す手間が省け、座席の使用率データをレイアウト改善に活用することも可能になる。スペース効率の向上と不要な座席の削減により、コスト削減にもつながる。
スマートオフィス × ABW(Activity Based Working)
ABW(Activity Based Working)とは、業務内容に応じて働く場所や時間を自由に選択できるワークスタイルである。集中作業にはソロワークブース、チームでのブレインストーミングにはコラボレーションエリア、リラックスしながらのアイデア出しにはカフェスペースなど、目的に最適な空間を選択する。
スマートオフィスの利用率データは、各エリアの需要と供給のバランスを可視化し、ABWの空間設計を最適化するための意思決定にも寄与する。
スマートオフィス×ハイブリッドワーク
ハイブリッドワークが定着した環境では、曜日や時間帯によってオフィスの出社率が大きく変動する。スマートオフィスのIoTセンサーで蓄積された出社率データをもとに、スペースの動的配分が可能になる。出社率が低い曜日はフロアの一部を閉鎖してエネルギーコストを削減し、出社率が高い曜日は追加の会議室を開放するなど、データドリブンなオフィス運用を実現できる。
スマートオフィス成功実例
スマートオフィスのより具体的なイメージをつかむため、実際にスマートオフィス実現に成功したオフィスの事例を紹介しよう。
LegalOn Technologies - 会議室予約システムで業務効率化を推進
AIを活用したリーガルテック・サービスを開発・提供するLegalOn Technologiesは、2024年4月、人員増に対応するため渋谷の最新オフィスビル「渋谷サクラステージ」へ拡張移転した。1,600坪の新オフィスは「融合と加速」をコンセプトに設計されている。
コミュニケーションの活性化を実現するため、4-20人収容の会議室を約50室整備。空いている会議室の前で即時利用できる予約システムを導入し、会議室を探し回る時間のロスを解消した。
執務席は固定席を基本としつつ、開発部門は一部フリーアドレスを採用。出社日数などの働き方は各部門でルールを策定し、社員それぞれの環境に合わせた柔軟な働き方を実践している。吸音パーテーションや高性能ヘッドセットの活用により、自席でのオンライン商談も実現した。
エイコー - 座席管理システムで生産性向上とデータ活用を実現
IT機器の導入支援などオフィス環境に関する多種多様なソリューションを提供するエイコーは、創業50年を迎えた2022年に東京本社オフィスを移転。「Fo-me」と命名された新オフィスは、コミュニケーション活性化に重きを置いたフリーアドレス型オフィスとして設計された。
スマートオフィスとしての大きな特徴が座席管理システムの導入である。オフィス中央に配置された「むすぶスペース」の大型モニターに、誰がどこに座っているかがリアルタイムで表示される。スマートフォンを通じて外部からも検索でき、相談したい人物をすぐに探すことができる。さらに、座席の使用率などオフィス内の各種データが収集され、レイアウト改善にも役立てられている。オフィス面積を37%削減し、生産性向上とコスト削減を同時に実現した好例である。
JLLが提案するスマートオフィス
スマートオフィスの導入にあたり、推進や戦略策定・ツール導入などに不安がある場合は、ワークプレイス戦略の専門家と連携することが有効な選択肢となる。テクノロジーを活用したオフィスの最適化に関心をお持ちの企業は、ぜひJLLにご相談いただきたい。