海外投資家が国内不動産投資市場に“回帰”した理由
観測史上初の6兆円超え
2025年通年における日本の不動産投資総額は6兆2,180億円。“不動産ミニバブル”と呼ばれた2007年を上回り、過去最高となる6兆円超えを記録した。
この記録的水準を支えた要因は何か? 国内不動産投資市場を調査しているJLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二は「海外投資家の日本回帰」だと指摘する。
JLLの調査によれば、2025年通年における国内不動産投資額のうち、海外投資家が占める割合は34%に達した。内藤は「通常は20-25%程度に留まる」とした上で「海外投資家による1,000億円規模の大型取引が複数成約したことで投資額が積み上がった」と説明する。「東京ガーデンテラス紀尾井町」をはじめ、銀座の大型商業施設「東急プラザ銀座」、都心最大級の物流施設「C-NEX」など、象徴的な大型取引が相次いだ。
さらに、内藤は「近年は取引規模そのものが拡大傾向にあり、数百億円規模の取引事例も珍しくなくなった」と指摘。こうした大型取引は豊富な資金力を誇る海外投資家によるものが多く、とりわけ投資適格物件が豊富に揃うオフィスセクターにおいて海外投資家の取得意欲が顕著だ。その結果、オフィスセクターが2025年の国内不動産投資市場を牽引する形となった。
海外投資家はなぜ「戻ってきた」のか?
海外投資家による投資額と投資割合 出所:JLL日本 リサーチ事業部
上図は2025年第4四半期末時点の海外投資家による国内投資額の推移を示したものだ。
2023-2024年の状況
足もとの活況とは対照的に、2023-2024年には海外投資家による投資割合が2年連続で17%まで低迷していた。なかでもオフィスセクターの落ち込みが大きく、2023年には過去最低水準まで縮小。こうした事象を受けて、一部メディアでは「海外投資家の日本撤退」との報道も見られた。
投資割合が低迷したのは、世界的にリモートワークが定着したことが大きい。米国や英国ではオフィス回帰率は40-60%台に留まるなど、多くの海外投資家はオフィス需要の減退を危惧し、同セクターへの投資に対して慎重姿勢を崩さなかった。その半面、東京ではオフィス回帰率は90%に達し、すでにコロナ前の水準に迫る勢いであり、賃料下落の底打ちも見えてきたタイミングであった。そのため、内藤自身、従前から海外投資家に対してオフィス投資の妙味について積極的に啓蒙し続けてきたのだが、日本拠点の担当者レベルではオフィス投資に高い関心を示すものの、海外本社の判断で“凍結”されるケースが続き、利益確定を目的にした売却活動を最優先にする状況であった。
しかし、海外投資家が売り手に回るなか、J-REITなどの国内投資家が買い手として市場を下支えした他、大型物流施設などの他セクターへ投資する海外投資家も存在し、内藤は「市場環境自体が悪化したわけではなかった」と当時を振り返る。
2025年の状況
一方、2025年に海外投資家による投資額が伸びたのは、「彼らの投資戦略に合致したオフィス物件が売買市場に出てきたため」(内藤)だという。具体的には、J-REITによる物件売却の増加だ。
2024下半期-2025年にかけて金利上昇による借入コストの負担増への懸念などによって投資口価格が低迷したことで増資が難しく、分配金確保や資産の入れ替えのためにJ-REITによる保有物件の売却が増加した。内藤によると「多くのJ-REITは稼働率を重視するあまり、賃料水準がマーケット平均以下の保有物件は少なくない。東証リート指数が低迷するなか、賃料のアップサイドが見込める優良物件を売却せざるを得ず、海外投資家が買い手に回った」という。
2026年もオフィス投資が注目される3つの理由
2025年に再び市場を席捲するようになった海外投資家だが、2026年はどう動くのだろうか?
内藤は「条件付き」としながらも「2026年も海外投資家の関心はオフィス投資に向かい続ける」との見方を示し、その根拠となる3つの理由を挙げる。
1. 需給逼迫による賃料上昇
物価高や人件費・建築費の高騰、加えて旺盛な賃貸需要を背景に、オフィスや賃貸住宅など多くのセクターで賃料水準の上昇がみられる。内藤は「特にオフィスはコア投資・コアプラス投資の対象になる物件でも賃料アップサイドが見込める状況になっている。日本市場で活動している海外投資家(投資資金)の90%超がバリューアッド・オポチュニスティック系であり、特に東京・大阪のオフィスは彼らの投資戦略に合致する投資適格物件が少なくない」と説明する。
JLLの調査によると2025年第4四半期末時点の東京Aグレードオフィス市場の空室率は0.7%、月額坪当たり賃料は38,252円で前年同月比9.4%増を記録するなど、過去類を見ない「空室枯渇」状態といえるだろう。
「2026年以降の東京オフィス賃貸市場」に関する解説記事はこちら
「経験豊富な不動産投資家によるアンダーライティング(事前予測調査)を上回る賃料上昇を記録したことで、多くの海外投資家がオフィス投資に回帰している状況。オフィスは大型物件が多く、旺盛な投資資金を持つ海外投資家勢のシェア拡大が見られるようになった」(内藤)
2. 人材採用・長期雇用の維持を目的としたワークプレイス戦略の台頭
少子高齢化に伴う労働人口減を受けて、優秀な人材をいかに採用し、雇用を長期維持していくことが喫緊の課題となっている。そうした中、働きやすく快適に過ごせるようオフィスに投資し、社員エンゲージメントを高めることで人材獲得競争を勝ち抜こうとする企業が増えている。交通利便性の高い都心の好立地かつ、テナント専用の飲食施設などの共用設備を備えたハイグレードオフィスの人気が高まっている。
「賃料の一部を人材採用のためのマーケティングコスト(宣伝広告費)と位置付ける企業も現れており、オフィスを単なる『コストセンター』ではなく事業戦略上の『投資』とみなされるようになってきた」(内藤)
そのため、従業員エンゲージメント向上に寄与する設備(例えば、社食や社内カフェ、オフィスアート、マッサージルームなど)を拡充する他、より快適に働けるように1人当たりのワークステーション(執務席)の平均面積も微増傾向にあるという。
「加えて、2025年4月から始まった65歳までの雇用確保の完全義務化によってオフィスワーカー数は総体的に増えており、企業はこれまで以上により多くの床面積を必要としている」(内藤)
3. 高稼働を維持するBグレードオフィス
すでに東京Aグレードオフィス市場の空室率が0%台に突入し、いわゆる「空室枯渇時代」が到来する中、内藤は「Aグレードオフィスで賄えなくなった床需要がBグレードオフィスに滲み出てきており、高稼働を維持している」と説明する。
国内企業の99%超(2024年版中小企業白書)が「中小企業」と位置付けられており、事業規模・社員数を鑑みると、床需要のボリュ―ムゾーンは100-200坪程度…Bグレードオフィスがその受け皿になる。
「オーナーへヒアリングすると『入居可能な空室があるか、ひっきりなしに問い合わせがくる」という。都心好立地の物件であれば、賃料を大幅に増額しても早期にリースアップするような状況だ」(内藤)
唯一の懸念材料は「モノ不足」
こうした状況から、2026年も国内不動産投資市場は堅調に推移するものと思われるが、内藤は唯一の懸念として「モノ不足」を挙げる。
「売り物となるオフィス自体は豊富に存在するが、日本市場に参入する海外投資家の大半がバリューアッド・オポチュニスティック系であることを考慮すると、彼らの投資戦略に見合った物件(例えば30-40%もの賃料アップサイドが見込めるオフィスビル)は希少性が高く、こうしたポテンシャルの高い物件が今後どれだけ市場に供給されるかが焦点となる」(内藤)
また、本業以外の資産(主に不動産)の売却を迫るアクティビストの圧力を背景に、アセットライト経営に舵を切る企業は出始めている一方、アクティビストの買収活動が停滞しがちな株高の状況下、先手を打って保有不動産の売却を企業も見られる。内藤は「企業の保有資産が投資市場にどの程度供給されるか、2026年の投資額を左右するのではないか」との見解を示す。
低金利と賃料成長ポテンシャルを併せ持つ日本市場
2024年3月にマイナス金利が解除されて以降、日銀は段階的な利上げを実施し、2025年末時点の政策金利は0.75%となった。実に30年ぶりの高水準だが、内藤は「諸外国に比べると依然として金利が圧倒的に低く、十分なレバレッジ効果が見込める」と指摘する。
「仮に日本と同水準のキャップレートを他国で求めると、借入コストが上回り逆ザヤになりかねない。ポジティブなキャッシュ・オン・キャッシュ利回りが成立する市場は、世界的にも日本くらいだ」(内藤)
低金利と賃料の成長ポテンシャルを併せ持つ日本市場。「モノ不足」という懸念点はありつつも、海外投資家にとって引き続き魅力的な投資市場として位置付けられている。
2025年5月に発表したJLLコラム「2025年、オフィスが再び『投資の花形』へ」にて、内藤は“オフィス投資の復権”を強調したが、まさにその通りの状況が訪れているようだ。
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