2025年第3四半期末時点の大阪圏の不動産投資額は約5,000億円。前年同月比を下回りましたが、その理由とは何だったのでしょうか?大阪の不動産投資市場に精通するJLL日本 関西支社支社長 上田 武志に大阪圏不動産投資市場の現状と2026年以降の展望について聞きました。
※対談は2025年12月8日に実施しました。対談の模様は下記動画でご視聴ください。
上田 武志(左)と内藤 康二(右)
2025年の大阪圏不動産投資市場の現状
内藤: 2024年と比べると現在の大阪圏(大阪府、京都府、奈良県、奈良県、滋賀県、和歌山県)の 不動産投資額は多少の寂しさが感じられますが、こうした状況をどのように見ていますか?
上田:大阪圏は東京と同様に全体的には好調ではあります。しかし、ご指摘通り、2025年9月末(第3四半期末)時点の大阪圏における不動産投資額は約5,000億円。前年同期比で約37%減 でした(図1)。大阪圏における投資額が2024年に 1兆円を超えて過去最大を記録したことに対する反動と、大型取引が相当数あったように、東京を選好する投資家が増加した半面、大阪圏への投資比率が相対的に減少したものと考えています。
図1:大阪圏の不動産投資額推移(2025年第3四半期末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部 ※土地の取引、開発計画への投資等を除く
内藤:そうした中、どのようなセクターが盛り上がりましたか?
上田:皆さんご承知の通り、2025年は「大阪・関西万博」が開催されました。
内藤:すごかったですよね。閉幕に近づくほど注目度が高まっていきました。
上田:一般来場者数が約2,557万人にのぼり、結果的に成功だったといえるでしょう。そうした状況下でホテルセクターが注目されたのは当然ですが、現在のマーケットを反映してオフィスセクターにも多くの耳目が集まりました。
“うめきた”などでAグレードオフィスが次々と供給された 画像提供:PIXTA
注目セクター:オフィスの動向
内藤:大阪圏のオフィスセクターでは「大阪駅」北側や淀屋橋で大型開発があり、新規供給量が増えました。しかし、オフィス床は急速に消化している印象を受けます。実態はいかがでしょうか?
上田:ご指摘通りです。まず2024年に新規供給されたのは9万坪です。代表的な物件が「グラングリーン大阪」ですが、こちらはほぼ満床となりました。そして、2025年は「淀屋橋ステーションワン」をはじめ、3万坪の新規供給がありましたが、堅調に推移しています。一方、2026年の新規共有は1万坪に留まると予想されており、2027年以降も新規供給はかなり限定されます。こうした中、老朽化した自社ビルからの移転や人材確保のための都心への移転といった旺盛な床需要に支えられ、オフィスマーケットはますます順調に推移しています。最終的に売買価格にも反映されていくと見ています。
内藤:オフィスはコロナ収束後からいわゆる「質への逃避(Fly to Quality)」が顕在化していました。例えば1,000坪賃借していたテナント企業がいきなり2,000坪に拡張移転する…こうした前向きな移転が増えているのでしょうか?
上田:「ワークプレイス戦略」はそれぞれの企業によって違いがありますが、人員増で高密度化したオフィス環境を改善しようと考える企業が増えているように感じられます。働き方改革が浸透する昨今、在宅ワークを踏まえ、オフィス床を調整するケースも散見されますが、基本的には心身・働き方を含めて健康的な環境を提供する「ウェルビーイング」という考え方が浸透しており、ウェルビーイングに寄与する新たなオフィス環境に対する需要は大きいでしょう。
2025年はインバウンド観光客がさらに増加し、ホテルセクターの追い風になった(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA
注目セクター:ホテルの動向
内藤:オフィスセクター以外はいかがでしょう? 特に、東京から大阪圏を見ていますと京都を中心にホテル取引が増えたように見受けられます。
上田:繰り返しになりますが、2025年は“万博Year”であったため、ホテル投資が注目されたのは間違いありません。しかし、売買市場の流通量自体は減少したように感じています。コロナ禍では客室稼働率が低下したことを受けホテルの売却件数が相当数にのぼりました。一方、現在は客室稼働率が高止まりしているため、売買市場への“出物”が非常に少ない状況であるためです。
インフラ系日系投資家が躍動
内藤:2024年と比較すると取引件数・取引額共に減少しています。しかし、投資家は引き続き積極的な動きを継続しているように見受けられます。特にインフラ系を中心にした地元企業が存在感を放っているのではないでしょうか?
上田:電力やガス、鉄道をはじめとしたインフラ系企業の存在感は非常に高いと感じています。日本の人口減少…大阪圏でも同様の状況ですが、インフラ系企業にとって人口減少は自社事業に対して多大な影響を及ぼします。少子化に対する次の一手として、中長期的な新経営戦略・経営計画を策定する際に本業・祖業を支える“プラスα”として不動産事業が欠かせなくなっています。
外資系投資家はオフィス賃料のさらなる成長に期待
内藤:一方、外資系の不動産投資家の動きはどうでしょうか?
上田:大型ビルや大型レジデンシャル、物流施設など、あらゆるアセットタイプですでに一定の地位を確立しているのは事実です。やはり大阪圏には成長余力があるため、投資戦略のストーリーが描きやすいことから外資系投資家からの注目度もさらに高まっています。
内藤:日本のおける外資系投資家はバリューアッドやオポチュニスティックが基本的な投資戦略になりますが、大阪圏に目を向けているということは賃料の成長率が要因でしょうか?
上田:オフィスの需給バランスという面では空室率の低下が目を引きます。具体的には大阪Aグレードオフィス※では2024年末時点の空室率が4%台でしたが、2025年9月末時点では2%台まで低下しています(図2)。需給が逼迫し、今後も旺盛な需要に支えられて賃料水準はまだまだ伸びる、このように外資系投資家は判断しています。こうした投資意欲の高まりが売買価格に反映されていくのではないでしょうか。
図2:大阪都心のAグレードオフィスの賃料・空室率の推移 出所:JLL日本 リサーチ事業部 ※2025年以降は予測値
取引件数で他を圧倒するレジデンシャル
内藤:2025年における東京の不動産投資市場は大阪圏と同様にオフィスセクターが非常に強く、東京市場全体の投資額の実に50%程度をオフィスが占めています。大阪圏においてオフィス、ホテル以外で特に特筆すべきセクターは他に存在しますか?
上田:オフィス、ホテルが注目されているのは間違いないですし、1件当たりの取引規模が大きいので投資額としてもやはり目を引きます。ただし、取引件数でみると賃貸マンション(レジデンシャル)が他を圧倒しています。
内藤:東京では以前から外資系投資家が継続して賃貸マンションに投資し続けており、足もとではポートフォリオの入れ替えを行うような動きも出てきています。
上田:コロナ収束後の都心回帰、そして各企業が人材確保のために社宅費をかなり手厚くしたことがポイントといえるでしょう。それによって賃料がどんどん伸びています。加えて、物価高・インフレ環境のもと、若干の家賃負担増は賃借人の間で“やむなし”というマインドが醸成されてきているように窺えます。
内藤:普通借でも賃料改定が進んでいるという話を頻繁に耳にするようになりました。これもレジデンシャル投資に対する追い風になっているようですね。
上田:無論、普通借の賃料改定は東京のほうが先行しているとは思いますが、今後大阪圏をはじめとする地方都市への波及が見られるようになるでしょう。賃貸マンションの賃料動向は注目すべきです。
2026年以降の展望と不動産投資市場を活性化させる2つの要素
内藤:これまでのお話を振り返ります。2024年の反動もあり、2025年は投資額が対前年比で減少していますが、投資マインドは引き続き旺盛とのことでした。では、2026年以降、大阪圏の不動産投資市場の展望をお聞かせください。
1. 交通インフラ・交通ネットワークの強化
上田:引き続き注目されるマーケットであるということだけは間違いないでしょう。大阪・関西万博の会場となった夢洲では、2030年秋にIR(統合型リゾート)の開業が予定されています。こうした中、私は大阪圏不動産投資市場を活性化させる2つの要素に期待しています。1つは夢洲への交通インフラ・交通ネットワークが強化されるということ。もう1つは、今後関西が成長していくための牽引役となる2つの街の存在です。交通インフラ・交通ネットワークでは2028年に大阪メトロ「森之宮新駅」が開業を予定しており、2031年にはJR西日本・南海電鉄の「なにわ筋線」、そして2037年に京阪中之島線が大阪メトロ中央線「九条駅」への延伸を予定しています。この3つの計画によって大阪中心地が東西南北へとさらに拡張していきますが、これらに加え、2030年には近鉄特急が夢洲への直通運転を計画しています。
内藤:夢洲から賢島まで近鉄特急1本で行ける日が来るということですね。
上田:おっしゃる通り、近鉄特急と京阪中之島線の延伸、この2つの計画は夢洲を起点として京都・奈良、そして伊勢志摩へ観光軸が繋がっていくことを意味します。つまり、交通インフラ・交通ネットワークが強化されることで、関西はさらに広域に発展していく余地があるのです。さらに大きいのがリニア中央新幹線の存在です。いつ開通するか、どこに停車駅が開設されるのかは未発表ですが、リニアが開通すると大阪への移動時間が大幅に短縮され、人の移動が劇的に変化するでしょう。
内藤:東京・品川~大阪間が新幹線で約2時間30分、飛行機でも1時間程度かかります。飛行機では対応できない大量輸送が可能で移動時間も短縮できるなら、それもうなずけます。
上田:学研都市(関西文化学術研究都市)や彩都(国際文化公園都市)、ポートアイランドなどに研究開発施設が集積しています。また、京都大学や大阪大学のみならず、「大阪城東部まちづくり」の一環で「森之宮新駅」開発予定地付近に大阪公立大学「森之宮キャンパス」が開設されました。リニア開通により、観光軸の他、ビジネス軸と学術研究軸、この3つの“軸”が加わることで、好奇心を刺激し人を惹きつける関西ならではの魅力がさらに高まると予想しています。
内藤:そうなると不動産投資家も黙っていないですね。
「グレーター梅田」の一角として期待される大阪・中之島
2. 牽引役となる2つの街「夢洲」と「グレーター梅田」
上田:そして、さらなる牽引役となりえる2つの街の存在です。1つは夢洲です。IRが開業することで地域全体が大きく変化します。IRはカジノよりもMICEの存在が大きいでしょう。MICEとは「Meeting(会議)」、「Incentive tour(報奨旅行)」、「Convention(国際会議)」、「Exhibition/Event(展示会・イベント)」の略ですが、アフターMICEこそ重要です。会議などを終えた後、どのように楽しめるかが問われています。大阪圏において最適解を提示するのが「エンターテイメント(娯楽)」と「グルメ(食)」でしょう。観光は程度の差こそあれ、2回目以降はその魅力が低下することは否めません。しかし、エンタメとグルメはリピーターを誘発します。その起爆剤が夢洲にあります。
内藤:夢洲の他、大阪圏を牽引する2つめの街はどこでしょうか?
上田:先ほど申し上げたビジネス軸と学術研究軸の観点で見ますと、やはり“キタ”の梅田でしょう。私は中之島と新大阪を含めた「グレーター梅田」として考えています。中之島は梅田から徒歩1㎞に位置しています。
内藤:地下でも繋がっています。
上田:それを踏まえても「グレーター梅田」と捉えることができます。また、新大阪は梅田から約3.5㎞、JRでは1駅です。さらにリニアの駅が開設されるかもしれません。こうした背景もあり、「グレーター梅田」には今後大規模開発の可能性が2つ考えられます。1つは梅田の「芝田1丁目計画」です。「大阪新阪急ホテル」の閉館に伴い「阪急ターミナルビル」、「阪急三番街」を含めた一帯開発が2026年に着工予定とされています。半世紀ぶりに阪急「梅田駅」の改修が発表されましたので、開発計画は進むのではないでしょうか。もう1つがJR「新大阪駅」です。駅の南西側に「宮原操車場」と呼ばれる巨大なヤードが存在します。何ら発表されていないのですが、現在の「グランフロント大阪」と「グラングリーン大阪」による“うめきた”の発展、リニア開発計画における東京~品川駅間に「高輪ゲートウェイ駅」が開設されたこと。この2つの事象を見ると、あながち夢物語とは言えないと、私は見ています。
あらゆるセクターでさらなる成長が見込まれる
上田:インバウンドの行方など、いくつかの不確定要素はありますが、大阪圏の不動産投資市場は2026年以降、右肩上がりに推移するものと見ています。そこに交通ネットワークの強化と、関西の成長を牽引する2つの街である夢洲とグレーター梅田。これら5つの要素が加わることで、あらゆるセクターでさらなる成長が見込まれるのではないでしょうか。
内藤:私は東京オフィスに常勤しており、大阪圏の不動産投資市場の将来性について測りかねていた部分があったのですが、今回の対談でクリアになりました。
上田・内藤:本日はどうもありがとうございました。
大阪圏での不動産投資のご相談はJLLへ
JLLは世界80カ国で事業展開する総合不動産サービス会社であり、不動産投資に関する多種多様なサービスをグローバルで提供。海外投資家との豊富なグローバルネットワークを活かし、大阪圏での国内外不動産投資家を多角的に支援しています。また、2022年には関西支社のオフィスを拡張移転し、2025年4月には上田 武志が関西支社 支社長に就任するなど、関西エリアにおいて継続的にサービス強化を図っています。
JLL日本 関西支社 支社長に就任した上田 武志に関するプレスリリースはこちら
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