ウェルビーイング経営とは?健康経営との違いとオフィスから始める実践方法
著者
JLL日本 マーケティング&コミュニケーション事業部 コンテンツチーム
ウェルビーイング経営とは?定義と健康経営・人的資本経営との違い
ウェルビーイング経営は福利厚生の延長ではなく、従業員の良好な状態を企業価値の源泉と捉える経営戦略である
まず、ウェルビーイング経営の定義と、混同されやすい2つの概念との関係を整理する。
ウェルビーイング経営の定義
ウェルビーイング経営とは、従業員の心身の健康に加え、働きがいや人とのつながり、働く環境まで含めた「良好な状態(ウェルビーイング)」を経営資源と捉え、企業価値の向上につなげる経営手法のことである。ウェルビーイング(Well-being)は、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味する。
重要なのは、施策を福利厚生の一部として位置づけるのではなく、経営戦略として推進する点にある。つまり、ウェルビーイング経営は福利厚生の延長ではなく、従業員の良好な状態を企業価値の源泉と捉える経営戦略といえるだろう。
健康経営との違い
健康経営が従業員の心身の健康管理、すなわち疾病予防と健康増進を主な対象とするのに対し、ウェルビーイング経営は働きがいやつながり、働く環境までを含むより広い概念である。両者の関係は次のように整理できる。
なお、健康経営の実践度を可視化する仕組みとしては、経済産業省が制度設計し日本健康会議が認定する「健康経営優良法人」制度が知られており、2026年は大規模法人部門3,765法人、中小規模法人部門23,085法人が認定された(2026年3月発表)。認定の取得を土台に、働きがいや職場環境まで対象を広げてウェルビーイング経営へ発展させる企業が増えている。
人的資本経営との関係
人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく価値を生み出す「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す経営のあり方である。従業員のウェルビーイングは人的資本の価値を左右する中核テーマであり、ウェルビーイング経営は人的資本経営を実践するための具体的なアプローチと位置づけられる。後述する人的資本開示の流れとも直結している。
ウェルビーイング経営が注目される背景
ウェルビーイング経営が注目される背景として、3つの動きを押さえておきたい。
人材獲得競争の激化
生産年齢人口の減少により、人材の獲得競争は激しさを増している。ギャラップ「State of the Global Workplace 2026」によると、日本で仕事に熱意を持って働く従業員の割合は8%と、世界平均の20%を大きく下回る。報酬だけでは優秀な人材を簡単には確保できない時代において、働きがいと働きやすさを高める経営戦略そのものが人材採用と雇用定着の競争力になっている。
働き方の多様化と価値観の変化
ハイブリッドワークの定着により、働く場所や時間の柔軟性は当たり前の前提になりつつある。あわせて、心身の健康や自分らしい生き方を重視する価値観が広がり、会社選びの基準も「何をするか」だけでなく「どんな状態で働けるか」も重視されるようになってきた。企業には、従業員一人ひとりの状態を良好に保つための仕組みが求められている。
人的資本開示の義務化
2023年3月期から、上場企業などでは有価証券報告書における人的資本情報の開示が義務化された。さらに2026年2月の改正では人材戦略や給与に関する情報開示項目が拡充され、2026年3月期から適用されている。従業員のウェルビーイングへの取り組みは、投資家が企業を評価する材料にもなっており、開示を見据えた実効性のある施策が必要とされている。
ウェルビーイング経営が企業にもたらす効果
ウェルビーイング経営の推進は、企業に主に3つの効果をもたらす。
生産性・エンゲージメントの向上
心身の状態が良好であれば、従業員は本来の能力を発揮しやすくなる。体調不良などで本来発揮できるであろう生産性が低下した状態で出勤する「プレゼンティーイズム」の抑制にもつながる。また、会社が自分たちの状態に投資しているという実感は、組織への信頼とエンゲージメントを高め、自発的な貢献や挑戦を生み出す土壌になる。
採用競争力の向上
ウェルビーイングへの取り組みは、求職者に対する強力なメッセージになる。働く環境や健康支援の充実は、給与などの条件面だけでは差別化しにくい採用市場において、企業を選ぶ決め手になり得る。健康経営優良法人などの認定や、取り組みが目に見えるオフィス環境は採用広報の具体的な材料としても機能する。
企業ブランディング・ESG評価
従業員のウェルビーイングを重視する姿勢は、顧客や取引先、投資家からの信頼にもつながる。ESGの「S(社会)」に関する評価項目には人的資本や労働環境が含まれており、ウェルビーイング経営はESG評価や人的資本開示への対応としても機能する。長期的な企業ブランドの構築に資する投資といえる。
ウェルビーイング経営の実践ステップ
実践は、次の4つのステップで段階的に進めるのが基本である。
ステップ1:現状把握(サーベイ・健康データ)
最初に、従業員の状態を調査することから始める。エンゲージメントサーベイやストレスチェック、健康診断のデータなどを組み合わせ、心身の健康・働きがい・職場環境のどこに課題があるかを可視化する。感覚ではなくデータで現在地を把握することが、後の効果測定の基準にもなる。
ステップ2:方針策定(経営方針への位置づけ)
把握した課題をもとに、ウェルビーイングを経営方針に明確に位置づける。何のために取り組むのか、どの指標を改善するのかを定義し、経営層が自らの言葉で発信することが重要である。担当部門任せにせず、人事・総務・ファシリティなど部門横断の推進体制を整えることで、施策の一貫性が生まれる。
ステップ3:施策実行(制度・職場環境・文化)
施策は、制度(柔軟な働き方・休暇・健康支援)、職場環境(オフィス・設備)、文化(コミュニケーション・承認)の3つの領域をバランスよく組み合わせる。制度だけを増やしても、日々の職場体験が変わらなければ効果は実感されにくい。なかでも職場環境は全従業員が毎日接する接点であり、次章で詳しく解説する。
ステップ4:効果測定と改善
施策の実行後は、ステップ1と同じ指標で変化を定点観測する。サーベイのスコアや離職率、施設の利用状況などを確認し、効果が出ていない施策は原因を分析して見直す。ウェルビーイング経営は単発のプロジェクトではなく、測定と改善を繰り返す継続的な経営活動である。
実践にあたっての注意点
ウェルビーイング経営は効果が出るまでに時間がかかるため、短期的な成果を求めず、中長期の取り組みとして位置づけることが重要である。利益とのバランスを欠いた過剰な投資や、開始後に運用されなくなる施策の形骸化にも注意したい。ステップ4の効果測定を定期的なサイクルとして回し、経営方針と結びつけて継続することが定着の条件になる。
オフィスから始めるウェルビーイング経営
従業員が毎日体験するオフィス環境こそ、ウェルビーイング経営を目に見える形にする実践の場である
理念を目に見える形にするうえで、オフィス環境の整備は効果的な打ち手になる。
バイオフィリックデザイン(オフィス緑化)
バイオフィリックデザインとは、植物や自然光など自然の要素を空間に取り入れるデザイン手法である。JLLの市場分析「【2026年】世界の不動産市場に変革をもたらす6つの潮流」(2025年12月)によると、職場の近くに緑が多いと健康状態が向上すると回答した人は73%にのぼる。オフィス緑化は比較的着手しやすく、ストレスの軽減や空間の快適性向上が期待できる。
休憩スペース・リフレッシュルーム
集中と休息のリズムをつくるためには、業務空間から切り離された休憩スペースやリフレッシュルームの整備が有効である。「休んでよい」というメッセージを空間で示すことで、心理的な安心感が生まれ、部門を越えた交流の場としても機能する。従業員が毎日体験するオフィス環境こそ、ウェルビーイング経営を目に見える形にする実践の場である。
空気質・温熱・照明などの環境品質
空気質・温度・湿度・照明・音といった環境品質は、従業員の体調と集中力に直接影響する要素である。CO2濃度のモニタリングや自然光を活かした照明計画、集中を妨げない音環境の設計など、目に見えにくい部分への投資が、日々の快適性と生産性を下支えする。センサーによる計測データを改善に活かす手法も広がっている。
ウェルネスオフィスという考え方
こうした要素を統合し、働く人の健康と快適性を軸にオフィス全体を設計する考え方がウェルネスオフィスである。緑化や休憩スペースを個別に導入するだけでなく、自社の課題に基づいて優先順位をつけ、空間全体として一貫した体験を設計することで効果が高まる。
物理的な環境だけでなく、コミュニケーションが生まれやすい空間づくりや、従業員が安心して意見を言える心理的安全性といったソフト面まで含めて設計することが、ウェルビーイングを支えるオフィスの条件になる。
ただし、環境品質の改善や空間設計は専門性が高く、自社だけで最適解を導くのは難しい領域でもある。ウェルネスオフィスの知見とワークプレイス戦略の実績が豊富な専門家に相談するのも良い方法である。
ウェルビーイングに配慮したオフィスビル・認証のトレンド
ウェルビーイングへの配慮は、入居するオフィスビル選びの基準にもなっている。
ウェルビーイングな賃貸オフィスビルの広がり
近年は、換気性能や共用のリフレッシュ空間など、入居企業の従業員のウェルビーイングに配慮した賃貸オフィスビルが増えている。ビルオーナー側にも、ウェルビーイングを重視する姿勢が競争力になるという認識が広がっており、移転やビル選定の段階からウェルビーイング経営を組み込める環境が整いつつある。
WELL認証・CASBEEウェルネスオフィス
オフィス環境の質を客観的に示す仕組みとして、空気・水・光・快適性などの観点から建物や空間を評価するWELL認証や、国内基準のCASBEEウェルネスオフィス認証がある。第三者認証は取り組みの信頼性を高め、採用広報や人的資本開示の裏づけとしても活用できる。認証取得を目標に据えることで、施策の水準を体系的に引き上げられる。
このほか、環境性能の国際認証であるLEEDや、健康に配慮した建物を評価するFitwelなど、ウェルビーイングに関わる認証は複数あり、入居するビルを選ぶ際の判断材料になる。
ウェルビーイング経営を導入した企業の成功事例
ウェルビーイング経営をオフィスで体現した2つの事例を紹介する。
コスモエネルギーホールディングス:従業員のウェルビーイングを企業価値創造の源泉に
コスモエネルギーホールディングスは、1986年のコスモ石油発足以来初となる本社移転(2025年7月)で、従業員の心身の健康を企業価値創造の源泉と位置づけたオフィスを実現した。固定席からABWへ転換し、バリスタのいる社内カフェや運動器具を備えたウェルネスエリアを含む多目的エリア「COSMO CONNECT PARK」を整備。WELL認証の要件に沿って屋内緑化には生木を採用した。JLLはワークプレイス戦略の策定からプロジェクトマネジメント、チェンジマネジメント、WELL認証の取得支援までを担った。
JLL:Well-being & Creative Recharge を備えた「Future of Work」オフィス
JLL自身も「Future of Work(働き方の未来)」の実践として東京本社と関西支社を移転し、ワークプレイスの5つの柱の1つに「Well-being & Creative Recharge」を掲げた。マザールームやエイドルーム、ヨガやeスポーツができる多目的ルームを整備し、心身のリチャージを空間で支えている。2023年度グッドデザイン賞、第36回日経ニューオフィス賞を受賞した実際の空間は、オフィスツアーで見学できる。
ウェルビーイング経営に関するよくある質問
ウェルビーイング経営について、よく寄せられる質問と回答をまとめた。
ウェルビーイング経営と健康経営の違いは何ですか?
健康経営は疾病予防・健康増進を主な対象とするのに対し、ウェルビーイング経営は心身の健康に加えて働きがい・つながり・働く環境まで含む上位概念である。健康経営はウェルビーイング経営の土台にあたり、健康経営優良法人の認定取得を足がかりに、対象を広げて発展させる企業が増えている。
何から始めればよいですか?
サーベイや健康データによる現状把握から始めたい。心身の健康・働きがい・職場環境のどこに課題があるかを可視化したうえで、経営方針への位置づけ、施策実行、効果測定へと進める。施策は制度・職場環境・文化の3領域をバランスよく組み合わせることが定着のポイントである。
効果はどのように測定しますか?
取り組み前に測定した指標を基準に、エンゲージメントサーベイのスコア、離職率、ストレスチェックの結果、休憩スペースなど施設の利用状況を定点観測する。単年で判断せず、経年変化を追いながら施策を見直していく。開始前の現状把握が、そのまま効果測定の基準になる。
オフィスでできる取り組みにはどんなものがありますか?
代表的な取り組みは、バイオフィリックデザイン(緑化)、休憩スペース・リフレッシュルームの整備、空気質・温熱・照明といった環境品質の改善である。これらを統合してオフィス全体を設計する「ウェルネスオフィス」の考え方や、WELL認証などの第三者認証を目標にする方法もある。
ウェルビーイング経営の実践を支援するJLLのワークプレイス戦略
ウェルビーイング経営とは、従業員の心身の健康や働きがいを経営資源と捉え、企業価値の向上につなげる経営手法である。健康経営を土台に対象を広げ、現状把握から方針策定・施策実行・効果測定のサイクルで進めることが基本となる。そして、理念を従業員の日々の体験に変える最も確実な接点がオフィス環境である。
一方で、緑化や環境品質の改善、ウェルネスオフィスの設計には専門的な知見が求められる。ウェルネスオフィスの設計からオフィス環境の改善まで一貫して支援できる専門家とともに進めることで、取り組みの効果を確実なものにできる。
JLLはグローバルな知見と豊富なデータ、実績に基づき、ウェルビーイング経営を実現するワークプレイスづくりを支援する。オフィスからのウェルビーイング経営の実践にあたっては、ぜひJLLにご相談いただきたい。