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2024年の日本不動産投資市場

日本経済の“復活の年”となった2024年。国内不動産投資市場も復活を遂げ、その勢いは2025年に引き継がれている。

本稿では2025年上半期における国内不動産投資市場の最新動向を分析すると共に、下半期への展望について包括的に解説する。

2025年上半期の結果を振り返る前に、まずは2024年通年の不動産投資市場をおさらいしておきたい。

世界の都市別投資額ランキングでは東京が世界2位となるなど、2024年は日本の不動産投資市場の好調さが際立っていた。JLLの調査によると、2024年通年における日本の不動産投資額は前年比63%増の5兆4,875億円を記録。9年ぶりの5兆円超えを果たした。特に複数の大型取引が見られたホテルセクターが市場を牽引。2024年通年でのホテル投資額がJLLで市場観測を開始した2008年以降で初の1兆円を超えるなど、インバウンドの完全回復などを背景にホテルセクターの伸長が際立っていた。

「2025年の国内ホテル投資市場」の解説記事はこちら

このように、急激な回復を見せた2024年の国内不動産投資市場だが、2025年にはどのような状況になったのだろうか?上半期(第1-2四半期)の状況を振り返った。

オフィスへ出勤する大勢のワーカー
画像提供/PIXTA

2025年上半期の国内投資額は前年同期比22%増の3兆1,932億円を記録。世界の都市別に見た投資額でも東京が1位になるなど、2024年を上回る成長ぶりを見せている

2025年上半期の投資市場は過去最高水準の3兆円超

JLLの調査では、2025年上半期の国内投資額は前年同期比22%増の3兆1,932億円を記録。世界の都市別に見た投資額でも東京が1位になるなど、2024年を上回る成長ぶりを見せている。

市場を牽引したのはオフィスセクターを中心に、複数セクターで大型取引が重なったためだ。国内不動産投資市場について調査を行っているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学は次のように説明する。

「4,000億円で取引されたとされる『東京ガーデンテラス紀尾井町』をはじめ、『赤坂パークビル』や『赤坂ガーデンシティ』などの大規模オフィスの取引が複数重なった他、リテールセクターでは推定取引額1,500億円『東急プラザ銀座』、賃貸住宅セクターでは海外投資家によるシェアハウス1000施設超のポートフォリオ投資など、半期としての投資額は2007年下半期以来の3兆円超となった」(谷口)

好調の要因1:オフィスセクター
 

JLLの調査によると、2025年上半期のオフィス投資額は1兆7,037億円、前年同期比50%増。セクター別投資額割合では実に53%を占め、他セクターを圧倒(賃貸住宅が13%、リテールが12%、物流施設が11%、ホテルが10%)。

オフィスの投資割合が50%を超えたのは2018年以来。コロナ禍でリモートワークやハイブリッドワークが定着したことに加え、空室率の上昇と共に賃料水準が下降局面になったため、2023年にはオフィス投資の割合が33%まで低下した。しかし、水際対策の緩和などを受け、本格的にアフターコロナを迎えた2024年には36%に転じており、2025年(上半期)はオフィス投資が完全復活したといっても過言ではないだろう。

オフィス投資が伸張した理由について、谷口は「足もとでの空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を好感し、国内外の投資家がオフィスに目を向けたことが大きな要因。特に2025年に入って、多様な投資スキームを駆使する日系投資家が気を吐いている」と指摘する。

数字でみても、現在のオフィス市場は絶好調そのもの。JLLの調査では、2025年第2四半期末時点の東京Aグレードオフィス市場の空室率は2.4%、月額坪当たり平均賃料は36,237円、前年同月比で5.9%増となった。「人材獲得競争の激化」と「出社回帰の本格化」といった長期的・短期的な2つのトレンドが重なり、交通至便な都心ではまとまった空室が枯渇した状況になりつつあるという。

「2025年の東京オフィス賃貸市場」に関する解説記事はこちら

好調の要因2:海外投資家の投資意欲が回復
 

一方、欧米の急激な金利上昇を受けて、日本市場において売り先行だった海外投資家の動向にも変化の兆しが見えている。

そもそも、コロナ禍に突入した2020年、海外投資家は日本の安定した社会性や安定稼働を続けるオフィスなどを高く評価し、国内総投資額に占める海外投資家による投資割合は34%を占めていた。その後、2022年頃からの急激な金利上昇が拡大したこと不動産投資市場は世界的に停滞し、海外投資家による日本への投資額も減少の一途を辿る。JLLの調査では、2020-2022年は海外投資家の買い越しが続いていたが、2023年に売り先行となり、売却活動が目立つようになった。

しかし、2023年に減少に転じた日本特化型の外資系ファンドの運用資産額(AUM)が2024年第1四半期から再び増加に転じるなど、海外投資家の日本回帰の兆しが鮮明になり始めていた。

こうした兆候を受けて、海外投資家による国内投資額は2025年上半期に1兆948億円となり、前年同期の2,978億円と比較すると実に3.7倍に拡大した。谷口は「事業会社による不動産売却の増加や物価高を背景とした賃料上昇によって、海外投資家が得意とするバリューアッド・オポチュニスティックの戦略に見合った投資機会が増えている」との見解を示す。

「空室率を極端に忌諱する上場REITの保有オフィスでは現在の市況と比べると割安な賃料で賃貸しているケースもあり、バリューアッド系の海外投資家はテナント入れ替えによる賃料のアップサイドが期待できるオフィスを積極的に取得しようとしている」(谷口)

前述した「赤坂ガーデンシティ」や「東急プラザ銀座」、シェアハウスのポートフォリオといった大型取引が海外投資家によるものだ。

朝日に彩られる東京の街並み

2025年下半期の展望:年間投資額6兆円に現実味

2025年上半期における国内不動産投資市場は堅調に推移した。では、この勢いは2025年下半期に繋がるのか?谷口は3つの理由を挙げ、2025年下半期の展望について期待を込める。

1. 不動産投資市場の世界的な回復で投資家の新規参入増が見込まれる
 

世界的に不動産投資市場の回復が鮮明になり、特にこれまで日本での投資を手控えていた海外投資家が日本市場での投資活動を再開しており、加えて、運用資産の多様化や事業の多角化を目指す日系のインフラ企業や一般事業会社などが不動産投市場へ新規参入することが見込まれる。

2. 海外投資家の圧力で一般事業会社による不動産売却の増加が進む可能性
 

海外投資家による株式市場からの圧力によって事業会社が不動産売却や流動化が進むことが引き続き予想される。2025年上半期には永谷園や岩谷産業の本社ビル売却をはじめ、2025年第3四半期には本田技研工業が本社オフィスの一部所有権を譲渡し、新規開発中の賃貸オフィスへの移転が発表されるなど、アセットライト化の動きは今後も続く他、インフレを起因としたポートフォリオの見直しによる資産入れ替えなども進むだろう。

3. オフィスを中心に上昇を続ける賃料水準
 

オフィスを中心に賃料水準の上昇によって取引価格の上昇が見込まれる市場環境は、国内外から多くの投資家を惹きつける原動力になる。特に、これまで不動産投資市場でその名を聞くことがなかった一般事業会社などがファンドスキームによる投資活動を見せ始め、加えて、これまで中小規模の不動産を対象にした小口化商品が大規模物件を対象にするようになったことも市場活性化に寄与しそうだ。

2025年第3四半期にはすでにその兆候が表れている。例えば、大阪で取引された「松下IMPビル」の事例では、幅広い投資家が出資する私募ファンドが当該ビルを取得した他、9月には『汐留シティセンター』がセキュリティ・トークンで小口化され金融商品として個人に販売され運用を開始し、『大阪堂島浜タワー』も三菱フィナンシャル・グループが取得後に同様に個人に販売されるとの報道があった。谷口は「従前、3桁億円以上の大型取引は豊富な資金力を有する海外投資家や上場REITといった一部投資家が1棟買いするケースが多かったが、日系投資家による投資スキームが多様化しており、市場参入する投資家層にさらなる厚みが出ている」と指摘する。

不動産投資市場に多大な影響を及ぼす「需要・供給・価格」は、2025年下半期に向けて依然として投資家に優位な投資機会を提供するだろう。2025年通年でJLL観測史上初の投資額6兆円が現実味を帯びてきた。