長野市の企業誘致戦略とは?地方進出先として評価される理由を専門家が解説
企業誘致を成長戦略の中核に位置付ける地方都市が現れ始めた
人口減少や少子高齢化、地域経済の縮小といった構造的課題を背景に、地方都市では企業誘致を成長戦略の柱として位置付ける動きが強まっている。
国内投資の拡大を背景に、各地の自治体では企業誘致を成長戦略の中核に据える動きが見られるようになってきた。一方で、企業側にとっても都心部以外の地域への事業進出は人材確保やBCP強化の観点から現実的な選択肢となりつつある。
本稿では、長野市が地方進出先として評価を高めている理由について、企業誘致の実務を担う専門家が解説する。
国内投資に動く企業と国が描く成長シナリオ
2025年1月27日に開催された「国内投資拡大に向けた官民連携フォーラム」において、経団連の十倉会長は、民間設備投資額の目標を2030年度135兆円、2040年度200兆円へと上方修正する方針を表明した(出所:経済産業省の公表資料)。
この方針が示すように、民間企業による国内投資拡大の機運は着実に高まっている。
一方、経済産業省 地域新産業調査官の斎藤 智哉氏は「今後、自治体が産業育成に果たす役割はより大きくなると思う」とし、特に産業団地の開発適地が全国的に不足していることを課題として指摘する。
全国的に深刻化する産業用地不足という現実
経済産業省が各自治体に対象に行ったアンケート調査(2023年)では、産業団地が不足している状況が浮き彫りになった。
アンケート調査では「仮に新たな産業団地の開発がなかった場合、都道府県内の分譲可能な産業団地(市町村や民間が開発したものを含む)が枯渇する可能性はあるか(既に枯渇している)」という問いに対する46都府県・20政令指定都市からの回答を集計。その結果、「既に枯渇している」(42%)、「3年以内の枯渇が見込まれる」(30%)、「5年以内の枯渇が見込まれる」(14%)となり、「枯渇懸念はない」と回答した自治体はわずか12%であることが判明した。
また、同アンケート調査で「産業団地を確保できていない」と回答した42府県の産業用地の需給状況において分譲可能面積は2010年(6,974ha)から減少基調が続いており、2022年には分譲可能面積が約3,000haまで減少。斎藤氏は「立地条件の良いエリアや既存の産業集積地の近傍、そして電気や水、人材が豊富な場所に企業の産業立地ニーズが集中する傾向にあり、良い土地は取り合いになっているのが現状」だと指摘する。
国の政策と長野市の企業誘致戦略の高い親和性
このように全国的に産業用地が不足する中、長野市は2025年10月の市長選で再選を果たした荻原 健司市長が地域活性化に向けた重要施策として「企業誘致」を位置付けており、2024年10月に策定した「産業立地ビジョン」の早期実現を目指している。
「産業立地ビジョン」では、①産業用地整備、②企業誘致、③立地環境整備の施策を掲げており、中でも産業用地整備に関しては開発候補地を抽出し、今後計画的に企業誘致を推進していく予定だ。
斎藤氏も「長野市のポテンシャルが発揮されることに期待している」と述べており、国の産業政策と地方の取り組みが噛み合う好例といえるだろう。
企業の国内投資を後押しする国の補助金・助成制度
一方、国も企業の国内投資を促進するための補助金・税制・金融支援の拡充を進めている。
大胆な設備促進税制・金融支援
2026年3月に「産業競争力強化法等の一部改正法案」が閣議決定され、通常国会への提出が予定されている。設備投資を後押しするため、「大胆な設備促進税制」と「計画認定制度に基づく金融支援」が盛り込まれ、例えば、一定の生産性向上設備などとして認定された場合、即時償却または税額控除(7%等)の適用などが含まれている。
地域未来投資促進法による産業基盤整備支援
産業基盤整備を目的とする「地域未来投資促進法」では、産業用地整備や設備投資を後押しする各種支援制度が拡充されている。長野市ではすでに長野県長野地域として同法に基づく基本計画が策定・承認されており、次の7分野が対象となっている。
・成長ものづくり分野
・デジタル分野
・食品関連産業分野
・環境・エネルギー分野
・観光・スポーツ・文化・まちづくり分野
・流通・物流関連分野
・建設関連分野
「これらの分野を核に地域戦略クラスターが形成されていく可能性が高い。国の政策に対して、長野市の産業振興プランがうまく合致し、企業の立地戦略や設備投資を後押ししていきたい」(斎藤氏)
周囲を山々に囲まれた盆地の長野市は水資源の豊富さなど、企業誘致に最適な特長を持つ 画像提供:PIXTA
なぜ長野市が企業誘致の有力候補地となっているのか?
JLLは2025年11月、長野市と「企業立地需要調査業務委託契約」を締結。長野市の企業誘致戦略の策定を支援する他、オフィスや工場用地、研究開発施設などに関する企業の不動産ニーズや課題の調査を行ってきた。
関連リリース:「JLL、長野市と『企業立地需要調査業務委託契約』を締結」はこちら
国内企業の海外・地方進出地の立地選定を長年支援してきたJLL日本 企業誘致コンサルタント 佐藤 俊朗は、企業が進出地を選ぶ際の三大要因として「①人材、②コスト、③環境が重要」と説明する。こうした特性は、企業が国内で拠点分散や新規立地を検討する際の判断材料となり、かつ国の支援制度を活用する上でも無視できない要件でもある。
では、長野市が企業誘致の有力候補としてのポテンシャルを秘めている理由とは何か?
荻原 健司市長は「①人材、②コスト、③環境」の観点から、長野市の魅力について次のような項目を挙げている。
人材
物流施設、工場、オフィス・R&D(研究開発拠点)など、アセットタイプによって求められる要件は異なるが、佐藤は「最も重要なのは①人材の確保」と指摘する。
長野市は企業数に対して求職者数が多く、特に事務的職業の有効求人倍率は0.4(ハローワーク長野管轄地域)と人材確保が比較的容易な状況にある。さらに、信州大学(工学部・教育学部)をはじめ、長野県立大学など、4つの四年制大学に加え、2つの短期大学、そして国立長野工業高等専門学校などの高等教育機関が存在し、毎年1,800人の卒業生を輩出。特に工学系の新卒人材に恵まれている。
交通アクセス
本州の中心部に位置する長野市は東京のみならず、新潟県新潟市、石川県金沢市、愛知県名古屋市など、太平洋側と日本海側を結ぶ交通の結節点として極めて至便なアクセス手段を全方位的に備えている希少な立地特性を有する。例えば、北陸新幹線によって東京から最短1時間20分でアクセス可能。金沢市からは1時間程度の道のりとなる。
BCP
山間部や高原地帯が多い長野市は地盤が固く、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が発生した際のシミュレーションでは最大震度5弱程度に収まるとされる他、海から離れ、北アルプスに代表される高山に囲まれた地理的特性から台風の影響が少ないことは意外に知られていない。自然災害に対するBCPの優位性が見込まれる。
豊富な資源(水、電気)
製造業を中心に半導体製造やデーターセンターなどは大量の水・電気を必要とするが、長野市は広大な善光寺平(長野盆地)を有し、地下水に恵まれている他、長野市が当該地域を管轄する中部電力に確認したところ「電力需給に関する十分な空き容量がある候補地がある」ことが判明している。
オフィス賃料
東京や大阪のビジネス中心地と比較すると、長野市のオフィス賃料水準は非常に値ごろ感がある。例えば、基準階面積200坪以上のオフィスビルの賃料水準は月額坪当たり1万円程度とされ、これは東京都心部に位置する同規模物件と比較すると3-4割程度の賃料水準となる。
産業用地整備
「長野市産業立地ビジョン」の中核的な施策として「産業用地整備」を掲げている。既存工業系用途地域の有効活用を進めるべく、豊野東部工業団地の空区画へ企業誘致活動を実施。さらに、新たな産業団地の開発をすすめるべく、8つの候補エリアを選定し、2025年度内に1カ所開発適地を選定する予定である。長野市では「1967年以降に長野市が推進してきた産業団地開発面積の71.5haに迫る勢いで、今後5年以内に60haもの開発に着手する」方針を打ち出している。これにより企業の地方進出のボトルネックといえる「産業用地の不足」の解決策となるだろう。
JLLの支援内容
JLLは前述した「企業立地需要調査」の事業委託を皮切りに、JLLが有する国内外の企業とのネットワークを活用し、企業への立地意向調査などを行い進出ニーズの掘り起こしを進める他、高等教育機関や地元企業・キーマンとの橋渡しなどを行う「長野市おためしツアー」を開催する。
なお、JLLは8つの開発候補エリアの調査を行っており、昨今厳格化が進むサステナビリティ開示義務化の潮流を加味し、「環境配慮」の特性を踏まえて開発候補地を選定したことがJLLならではの視点といえる。
同調査を行ったJLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部長 松本 仁は次のように説明する。
「2027年3月から東証プライム市場に上場している時価総額3兆円以上の大手企業から順次適用されるSSBJ開示基準に従って有価証券報告書でのESG情報開示義務化が予定されており、特に保有・賃借する不動産における取り組みが情報開示の重要要素となる。そのため、今回の調査では、各企業が今後ますます多くの対策を検討するであろうCO2排出量や水の使用量といった環境面も踏まえて評価した」(松本)
今回選定した候補地に対し、元来対象とする「土地の広さ」・「交通の便」・「受電容量」・「受水容量」・「地盤の質」・「ハザードリスク」などに加え、国際的な環境認証であるLEEDやWELL認証の取得要件を活用し、「再生可能エネルギー由来発電容量」・「水源」・「健康経営」などについて評価分析を行った。国外市場を視野に入れる日系や厳重なESGマテリアリティを既に持つ外資系、いずれの企業にとってもESG情報開示を共通言語として進出を検討可能にするための手法である。
なお、今回調査した評価資料については、評価基準をレーダーチャートにまとめてあり、視覚的にも理解しやすい内容となっている。当該資料については、長野市への進出を検討する方に配布・説明しているので、下記問い合わせフォームより資料請求いただきたい。
サステナビリティの観点も踏まえて開発候補地を調査したJLLの評価資料(一部)。長野市への進出を検討されている企業に詳細データを配布・解説する
その他の助成制度一覧
その他、進出企業の受け皿になるオフィスビルの整備を促進する助成金制度なども拡充しており、長野市(長野県含む)の主な助成制度を下記にまとめた。
| 工場系 | 事業用地取得事業助成金 | 市内の事業用地を取得し、工場又は事業所を設置する場合、用地取得費に対して助成 ・事業所設置のために取得した用地取得費の20%を3年分割で助成 ・助成額は最大3億円 |
| 工場系 | 工場等設置事業助成金 | 工業系地域等に工場を新設又は増設した場合、土地及び家屋の固定資産税相当額を助成 ・土地・家屋・償却資産の固定資産税相当額を3年間にわたり助成 ・助成率は100%(3年目は80%) |
| 工場系 | 長野県産業投資応援助成金 | 長野県内に工場や研究所を新設・増設する場合の費用を一部助成 ・助成限度額は10億円 ・建物・設備等の取得費用の最大21% |
| 工場系 | 地域未来投資促進法による税制支援措置 | 地域未来投資促進税制:地域経済牽引事業に従って建物・機械等の設備投資を行う場合に、法人税等の特別償却(最大50%)又は税額控除(最大5%) 固定資産税の課税免除:地域掲載牽引事業の実施に必要な土地・建物等について固定資産税・不動産取得税の課税免除 ・長野県は不動産取得税の課税免除 ・長野市は固定資産税の課税免除(3年間) |
| IT系 | オフィス家賃等補助事業 | ・オフィス賃料の半額を3年間助成(最大1,000万円) ・通信回線、リース、備品費等の半額を助成 |
| IT系 | 雇用創出企業立地支援事業 | ・雇用1名について10万円(雇用助成) ・オフィス改修等の半額を助成(改修助成) |
※上記の助成制度の情報は2026年3月時点のもので、情報は予告なく変更・終了する場合があります。助成金の申請・受給に関しましては、必ず行政などの公式情報を確認し、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。
当事者が語る長野市の魅力・進出メリット
3年前に長野市に進出してきたベネフィット・ワンと、長野市への企業誘致を多数支援してきた地元開発会社のd-ネクストに、企業が進出する際の長野市ならではの魅力・メリットについて聞いた。
ベネフィット・ワン
レジャー施設や介護・育児サービス、e-ラーニング、オンラインフィットネスなど140万件以上のサービスが会員限定の優待価格で利用できる総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーションを提供するベネフィット・ワン。約18,100団体、会員数1,220万人(2025年4月時点)が利用しており、最近では世界最大級の動画配信サービス「Netflix」がセットになったプランが人気を博している。
同社は2022年3月、約120名規模のサポートセンターを長野市に開設。ベネフィット・ワン 取締役副社長執行役員 山口 健氏は長野市に進出した理由について次のように説明する。
「最大の理由は人材・コスト・事業環境の3要件がすべて揃っていたためです。東京からの至便性は然りですが、オペレーションセンターは不測の事態に直面しても事業を継続していかなくてはなりません。自然災害に強く、非常に安定感のある土地柄という点を高く評価した。また、人材採用面においても理系・工業系人材のみならず、当社が積極的に採用を進めている事務系人材についても、真面目・几帳面・勤勉な人材が非常に豊富であったことも魅力に感じました。そして、コスト面では自治体からの支援制度が整備され、特に市と県の連携し、多大な支援を受けられました。
進出して3年が経過しましたが、特に注目しているのが人材の定着率です。また、20-30代の若手人材を多数雇用することができています。当社が提供している福利厚生サービス『ベネフィット・ステーション』のお客様同士の交流促進を目的に、年に1度スキー大会を実施していますいが、運営はすべて自前で行っており、ボランティアで参加してくれる社員が非常に多いです。理工系人材のみならず、事務系人材も非常に魅力的な市場であると感じています」
d-ネクスト
長野市に本社を構え、産業用地を主体とした開発事業とコンサルタント事業を軸に、企業の進出候補地の選定から事業化まで、オーダーメイド型の開発プランを一気通貫で支援しているd-ネクスト。地域未来促進法を活用した長野県への開発案件は22件にのぼるが、その多くを手掛けている。また、長野市のエムウェーブ南産業用地開発では開発事業者決定から地権者の合意形成までわずか8カ月で完遂した。
長野市など企業の地方進出を多数支援してきたd-ネクスト 代表取締役 廣田 一博氏は長野市の魅力について次のように説明する。
「企業の進出地として、長野市には立地面で3つの強みがあると考えています。1つはBCP対策です。内陸に位置する長野市(県)は地震や台風被害が少ない。長野の戸建住宅では雨戸にシャッターを設置するケースが非常に少ないことが、その、証拠といえるでしょう。そして交通アクセスも魅力です。東京から新幹線で最短80分程度で到着する他、高速道路のICが2カ所あり、現在開発中のスマートICが開通すれば3つのICによる交通ネットワークが構築され、さらに利便性が向上するでしょう。そして、精密機械や電子部品などの企業集積が進んでおり、モノ作りのエコシステムが構築しやすく、地元の工場や産業と多角的に連携できる点も魅力です。長野市への進出企業には魅力的な税制優遇制度があり、当社がスピード感をもって開発などを支援することで大幅なコスト削減も可能になるでしょう」
長野駅前 画像提供:PIXTA
長野市へ進出する際の課題
長野市の魅力について力説する両氏だが、一方で企業進出に関して課題があることにも言及している。
例えば、山口氏が指摘するのは「オフィスビル不足」だ。
「当社では長野市のサポートセンターにおいて120名のスタッフが働いていますが、さらなる人員増を希望しても必要な床面積を有するオフィスビルが不足していると感じています。オフィスの選択肢が充実すると長野市へ進出する企業も増えるのではないでしょうか」
対して、長野市ではオフィスビルの新規開発・改修に対する助成金の拡充の検討を行うと共に、JR長野駅前で計画されている再開発プロジェクト「長野駅前B-1地区第一種市街地再開発事業」によるオフィスの新規供給に大きな期待が寄せられている。さらに、中心市街地で長野市が保有する複合施設「もんぜんぷら座(旧ダイエー長野店)」が老朽化に伴い、解体を予定している。荻原市長は「オフィス需要だけでなく、例えばインバウンドなどの宿泊需要を視野に、ハイグレードホテルなども含めた再開発も検討していきたい」と抱負を語った。
結論
本稿は、地方進出を検討する企業と、それを受け入れる自治体双方の判断材料として、企業誘致の実務視点から整理した。
これまで見てきた通り、長野市は国の産業政策と高い親和性を持ち、企業誘致を実行段階まで落とし込める数少ない地方都市の有望株といえるだろう。全国的に産業用地が不足する中、計画的に受け皿整備を進める長野市は、国内投資拡大時代における企業誘致の成功事例となりそうだ。
長野市への進出をご検討の方はJLLへご相談を
JLLは長野市と密接に連携し、長野市の魅力や優位性を最大限に活用した企業誘致戦略の策定支援と、国内外の企業の不動産ニーズや課題の把握などの観点から、長野市と進出企業双方が発展する仕組みづくりを推進し、持続的な地域経済の活性化と経済好循環の実現に貢献していきます。
長野市への進出をご検討される方はJLL、長野市へご相談ください。