フリーアドレスオフィスとは?メリット・デメリットと導入成功のポイント
著者
JLL日本 マーケティング&コミュニケーション事業部 コンテンツチーム
フリーアドレスとは?特徴とABWやグループアドレスとの違い
フリーアドレスオフィスが注目される背景
ハイブリッド型ワークスタイルへの転換という世界的な潮流が存在している
なぜ今、フリーアドレス導入を検討する企業が増えているのか?
その背景にはハイブリッド型ワークスタイルへの転換という世界的な潮流が存在している。
総務省「令和7年通信利用動向調査」(2026年5月公表)によると、常用雇用者100人以上の企業のうちテレワークを導入している企業は50.1%にのぼる。働く場所は在宅やサテライトオフィス、コワーキングスペースなどへ広がった。
ただし、出社そのものがなくなったわけではない。JLLは世界84組織を対象に、グローバル調査「Global Occupancy Planning Benchmark Report 2026」(2026年5月)を実施した。これによると、週3-4日出社する人の割合は55%(前年比+19ポイント)と最も多い。完全リモートは10%にとどまる。
出社とリモートを組み合わせる働き方では、毎日の出社を前提にした固定席に空席の時間が生まれる。全員分の固定席を持たず、出社した人が席を選ぶフリーアドレスは、こうした働き方に合った座席の持ち方といえる。
2019年から順次施行された働き方改革関連法の影響もあり、従業員の多様な働き方を実現するフレキシブルなオフィス環境に対するニーズが日本でも高まっており、いまや企業のオフィス戦略に欠かせないトレンドといえる。
こうした柔軟な働き方を実現するための実践的な施策の1つとして、フリーアドレスを選択する企業が増えている。
フリーアドレスがもたらす7つのメリット
フリーアドレスを導入することで、どのような効果が期待できるのか。一般的に以下の7つのメリットが考えられる。
1. 生産性向上
2. オフィスのコスト削減
3. コミュニケーションの活性化とイノベーション創出
4. モチベーションや満足度の向上
5. オフィスの美化
6. 多様な働き方の推進
7. 組織変更時の対応しやすさ
それぞれのメリットについて具体的に解説する。
生産性向上
従業員にとっては、書庫や会議室に近い席など、その日の業務に合わせた利便性の高い席を選ぶことで生産性向上が期待できる。
オフィスのコスト削減
フリーアドレスは従業員全員分の固定席を設ける必要がないため、デスクの数やオフィス面積を最適化することができ、賃料などのコスト削減にも寄与する。
JLLのグローバル調査では、オフィスの平均利用率は実績56%で、目標の74%を下回っている。在席率のデータをもとに席数を見直せば、余った面積を縮小したり、協働スペースなどに振り替えたりできる。
コミュニケーションの活性化とイノベーション創出
フリーアドレスを導入したオフィスでは、固定席では関わる機会の少なかった他部署の従業員など、多種多様な考え・知見を持つ同僚たちと接する機会が増え、偶発的なコミュニケーションによる業務改善やアイデア・イノベーションの創発が期待できる。
モチベーションや満足度の向上
その日の業務に合わせて働く場所を自律的に選べることは、従業員の働きがいや満足度の向上に寄与する。疲れてきたタイミングで席を移動すれば手軽に気分転換でき、モチベーション回復効果も期待できる。
オフィスの美化
フリーアドレスでは、退席時や終業時に個人の荷物をすべて片付ける「クリアデスク」が基本であるため、オフィス全体の整理整頓や美化をはじめ、ペーパーレス化にも効果が見込める。また、書類が放置されにくくなるため、情報漏洩リスクの解消も期待できる。
多様な働き方の推進
フリーアドレスは、働く場所を自由に選択できるABW(Activity Based Working)や、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークなど、多様な働き方と親和性が高く、働き方改革の推進にも寄与する。
組織変更時の対応しやすさ
フリーアドレスは組織変更や人員の増減に柔軟に対応できるというメリットもある。部署の改編やプロジェクトチームが新規発足した場合でも、大掛かりなレイアウト変更工事をすることなく臨機応変に対応しやすいのが利点といえる。
フリーアドレスオフィスのデメリットや注意点と対策
初めてフリーアドレスをオフィスに導入する際には、従前の固定席型オフィスと働き方が大きく変わるため、実際にオフィスを使用する従業員が懸念を感じることも少なくない。ここからは、フリーアドレスオフィスでよくあるデメリットや注意点、それらを回避する対策を解説する。
データに基づいた自社の働き方に最適なオフィスデザインは、フリーアドレス定着の大きな決め手になる
従業員の居場所が分からず、マネジメントが難しい
固定席がないため、誰がどこにいるのかを把握しづらく、マネジメントやコミュニケーションに支障をきたすことがある。特に緊急対応が必要な案件や相談事をしたい場合に不便を感じやすい。
対策としては、在席状況を可視化するIoTツールやビジネスチャット・ウェブ会議システムを導入など、円滑なコミュニケーションを促すためのIT環境を整備することが有効である。
部署内やチームのコミュニケーションが不足し、一体感が薄れる
フリーアドレス化によって、部署やチームのメンバーが離れた席で働く時間が増え、固定席に比べて気軽に相談・情報共有が滞る可能性がある。部署・チームの一体感が希薄になり、特に新人・若手が孤立する危険性がある。
対策として、部署やチーム単位で大まかなエリア内で働く「グループアドレス」を導入する他、定期的なミーティングを設けるなど、意識的にコミュニケーションの機会を作るべきだ。
集中したいときに周囲の会話や物音が気になって集中できない
オープンな空間で働くフリーアドレスは、活発なコミュニケーションを促す一方で、周囲の会話や物音が気になり、集中力を要する個人業務を妨げてしまうことがある。
これを防ぐためには、私語厳禁の「集中ブース」や、ウェブ会議用の個室ブース、リフレッシュスペースなど、業務内容や気分に合わせて使い分けできるエリアをオフィス内に設けることが効果的である。
結局いつも同じ席に座ってしまい、座席が固定化される
フリーアドレスを導入しても、仲の良い従業員同士で固まったり、景色の良い席や便利な席をいつも同じメンバーが使用するなど、事実上“固定席化”することが往々にして見られる。これではコミュニケーション活性化というメリットを享受できない。
このような状況を防ぐには、くじ引きや予約制で席を決めるなど、必要に応じて座席の固定席化を防ぐためのルール作りを行う企業も存在する。
個人の荷物や書類の管理が難しい
フリーアドレスでは、自席に私物や書類を置いておけないため、毎日すべての荷物を片付ける必要がある。
そのため、個人用のロッカーや共有のキャビネットを設置することは必須の対策だ。さらに、フリーアドレス化を機に書類の電子化・DXによるペーパーレスを推進すれば、荷物の量を減らせるだけでなく、情報にアクセスしやすくなり、業務効率の向上にもつながる。
フリーアドレスがもたらす7つのメリット
スマートオフィス化(ペーパーレス化・重要システムの導入)を通じて効率化を図る
目的が曖昧なまま導入すると従業員の理解・協力が得られない
目的意識が薄く、「流行・トレンド」といった表層的な理由でフリーアドレスを導入した場合、従業員から反発される恐れがある。コスト削減のためだけの施策と誤解されると「オフィスが狭くなった」、「使いにくい」、「荷物や資料を置く場所がない」といった不満や抵抗感が生まれる可能性がある。
なぜ、フリーアドレスが必要なのか、それによってどのような課題を解決でき、従業員にどのようなメリットがあるのかなど、導入目的を明確にし、計画段階から従業員に丁寧に説明し続けることが不可欠だ。目的を共有することで、従業員が当事者意識を持ち、フリーアドレスをポジティブに捉える環境を作ることができる。
部署の業務特性に合わず、かえって生産性が低下することがある
経理や法務・開発職など、機密情報や専門性の高い書類を扱ったり、大型モニターなどの専用機材を必要とする部署では、フリーアドレスが業務特性に合わず、かえって生産性を低下させてしまう恐れがある。
このような場合は、全社一律での導入にこだわらず、部署ごとに適用範囲を検討したり、一部の部署は固定席と併用したりするなど、柔軟な制度設計を意識するべきだ。
失敗しないための対策
フリーアドレスの失敗の多くは、「目的の不明確さ」「座席数や席種の設計ミス」「運用ルールの不備」のいずれかから生じる。「席が足りない」「結局は固定席と変わらない」といった不満は、この3つのどこかでつまずいているサインだ。
こうした事態を防ぐためには、まず何のために導入するのかを決め、従業員と共有する。次に、在席率の実測データから座席数と席種の比率を決め、集中ブースや会議スペースを業務に合わせて配置する。そのうえで座席の予約やクリアデスク、ロッカーの使い方などの運用ルールを定め、導入後も利用状況を定期的に見直す。
これらの失敗は多くの企業に共通するため、未然に防ぐには、座席設計から運用の定着まで実績が豊富な専門家に相談するのが成功の近道だ。
フリーアドレスに向いている企業・向かない企業
フリーアドレス導入に向けてのステップ
自社の課題や導入の目的を明確にし、現場の従業員と十分に共有しておくことが不可欠
メリットや必要性を理解してフリーアドレスの導入を意思決定した場合、具体的にはどのような手順で進めるべきだろうか。一般的な導入ステップを紹介する。
詳細な手順や進め方は、関連記事「フリーアドレス導入の成功ステップ」も参照してほしい。
導入目的の明確化
導入の狙いとKPI、適用範囲(部署・業務)を先に定め、方針を可視化して社内に周知する。コスト削減やコミュニケーション活性化など、自社の課題解決にどうつながるのかをスタート時に明確にしておくことが重要だ。
現状把握と課題分析
アンケートやヒアリングで課題とニーズを調査、従業員の在席率やオフィスの利用状況を客観的なデータで把握し、席種比率など設計の前提条件を固める。
対象部門の検討と運用計画の策定
フリーアドレスを全社で実施するのか、特定の部署に限定するのかを決定する。対象範囲や導入目的、現状分析の結果に基づき、オフィス移転の有無を含めた全体的な基本計画を策定する。
オフィスデザインとレイアウト設計
算出した在席率に基づき、最適な座席数を決定する。在席率は曜日や時間帯によるピークも含めて把握し、席が不足しないよう余裕を持たせる。JLLのレイアウト解説記事『効果的なフリーアドレスのレイアウト設計とは?導入と運用成功のコツ』では「総社員数の60-80%程度の座席を確保すると通常の出社率に対応できる」としているが、この比率は働き方によって大きく異なる。固定席を減らすだけでなく、集中ブースやリフレッシュスペースなども含め、動線も考慮したオフィスレイアウトや必要なITインフラを設計する。
導入計画の策定やレイアウト設計などには専門知識が不可欠になる。特に建築費が高騰する中、限られた予算・工期内でプロジェクトを完遂するためにはオフィス移転などの専門家に相談するのがベストな方法といえる。例えば、JLLは国内外問わず数多くの企業のオフィス移転・リニューアルを支援してきた。同様の課題を解決した過去の実績や知見に基づき、最適なアドバイスと実行支援を行うことができる。
スケジュール策定と業者選定
オフィス移転やレイアウト変更の具体的なスケジュールを立てる。 Wi-Fiやクラウド、座席予約・所在可視化、ロッカーや会議ブースなどの機器選定と調達も進めていく。策定した計画に基づき、複数の業者から見積もりを取得し、比較・決定する。
運用ルールの策定と周知
スムーズな運用のために、座席の利用方法や私物の管理(クリアデスク)、清掃などのルールを定める。導入に先立ち、全従業員を対象とした説明会などを実施し、導入目的と運用ルールの周知徹底に努める。
工事の実施と移転
策定したスケジュールに沿って、オフィス移転・改装工事やWi-FiなどのITインフラ整備を実施する。一区画のみの小規模な試験導入を行うなど、効果検証し、課題を是正して全社的に展開する方法も効果的だ。新オフィスの運用開始後には定期的な見直しも欠かせない。
導入から運用までの進め方をさらに詳しく知りたい場合は、フリーアドレス導入の成功ステップも参考にしてほしい。
さまざまなメリットが期待できるとはいえ、業務や職場によっては必ずしもフリーアドレスに適していない企業も存在する。導入検討時の判断材料として、その特徴を挙げていく。
以下のような業態・業種の企業は本質的にフリーアドレスに適していない、あるいはメリットが限定されるケースだと考えられる。
- 特許に関わる商品開発など機密性の高い情報や個人情報を多く扱う企業
- 従業員数が少なく、固定席のままでも十分な交流が維持できる企業
なかでも、従業員個々で膨大な紙の資料を抱えて業務を行っているような企業がフリーアドレスのみ導入すると混乱を招きかねない。
一方で、フリーアドレスの導入はDX化やペーパーレス化の施策を効果的に進めるための絶好の機会となりえる。
フリーアドレスオフィス導入の成功事例
働き方改革の推進が求められるなか、フリーアドレス化をはじめとしたフレキシブルなオフィス構築・運用に成功している企業の事例を紹介する。
京都電子計算:階層別フリーアドレスの導入で人材採用を強化
地方自治体や大学向けのシステム開発を手がける京都電子計算は2022年5月、2021年竣工の新築テナントビルへ本社オフィスを移転した。移転の理由の1つに挙げたのが、人材採用活動の安定化である。
旧本社との最大の違いは、固定席を廃止し、階層別にフリーアドレス席とした点だ。テレワークの継続を前提に床面積を効率化しつつ、フロアごとに「コンセントレーション」「コミュニケーション」などのコンセプトを設けた。大型モニターを備えた集中席や、本格的なカフェを備えたオープンスペースも整えている。
JLL:全面フリーアドレスのABW型オフィスでグッドデザイン賞を受賞
不動産総合サービスのJLLは、自社の提唱する「Future of Work(働き方の未来)」をオフィスにて体現するため、2022年に東京本社・関西支社のオフィス移転を実施した。
ハイブリッドワークを前提にしたABW型オフィスを構築。執務スペースは全面フリーアドレス席とした。最新のITツールや予約システムの導入でリモートとオフィスの連携をシームレスにする一方、データに基づいた利用状況分析によりレイアウトを最適化し、快適に働くことができる環境を実現している。
2023年には、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「2023年度グッドデザイン賞」の「オフィス空間・産業空間のインテリア」カテゴリーにおける「グッドデザイン賞」を受賞。また、人々の健康とウェルビーイングの観点から建築や街区の環境性能を評価する国際認証制度のWELL認証(WELL Building Standard™)のWELL v2 pilotで最高ランクの「プラチナ」認証を取得した。
2025年3月には、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の「第19回 日本ファシリティマネジメント大賞」で「優秀ファシリティマネジメント賞」を受賞した。従業員アンケートなどをもとにオフィス運用の改善を続ける取り組みが評価されたものだ。
フリーアドレスに関するよくある質問
フリーアドレスとは何ですか?簡単に教えてください
フリーアドレスとは、従業員ごとの固定席を設けず、空いている席を自由に選んで働くオフィスの運用方法です。出社する人数に合わせて席数を減らせるためオフィス面積を最適化でき、席を自由に選べることで部署を越えた交流の活性化も期待できます。
フリーアドレスとABWの違いは何ですか?
フリーアドレスは、オフィスの中で座席を自由に選べる運用方法です。一方、ABWは自宅やカフェなども含め、業務内容に合わせて働く場所や時間を選ぶ働き方の考え方を指します。両者は親和性が高く、本稿で紹介したJLLのように、ABW型オフィスの執務席を全面フリーアドレスにする例もあります。
フリーアドレスのデメリットは何ですか?
主なデメリットは、従業員の居場所が分かりにくくなる点や、チームの一体感が薄れやすい点です。周囲の会話で集中しにくい、座席が固定化しやすいといった課題もあります。いずれも在席状況の可視化や集中ブースの設置、運用ルールの整備で対策が可能です。
座席の固定化を防ぐにはどうすればよいですか?
座席の予約制やくじ引きなど、席の選び方のルールを決める方法が挙げられます。あわせて集中席や会議スペース、リフレッシュスペースなど業務に合わせた席種を用意し、席を移る理由をつくることが大切です。導入後は利用状況を定期的に確認し、ルールを見直していきましょう。
フリーアドレスに向いていない企業はありますか?
機密性の高い情報や個人情報を多く扱う企業や、従業員数が少なく固定席のままでも十分な交流が保てる企業では、メリットが限られる場合があります。紙資料や専用機材の多い部署がある場合は、部署ごとに適用範囲を決める方法も検討してみましょう。
フリーアドレスの導入・オフィスづくりを支援するJLL
国内外を問わず、リモートワークとオフィス出勤を組み合わせたハイブリッドワークが普及している現在、それに対応できるフリーアドレス型のオフィスはウェルビーイングや業務効率化といった観点から重要なファクターだといえる。ただし、目的の共有や座席設計、運用ルールが欠けると失敗につながりやすい。
フリーアドレスの導入や自社に最適なワークプレイス戦略を検討する際、グローバルな実績を持つJLLの知見をぜひ参考にしていただきたい。