海外にみる大学キャンパスの進化 - 企業のオフィスデザインが教育空間に変革をもたらす
著者
Sally Edelsten
Camilla Mahon
大学キャンパスの“花形”だった大講義室は過去の“遺物”に
大学キャンパスを象徴する存在といえば、大講義室を想起される方は多いのではないだろうか。しかし、かつての“花形”はもはや現代の学習ニーズに対応できない“遺物”と化している…こうした認識が海外の先進的な大学の間で広がっているようだ。
その結果、キャンパス内で低稼働化した何千㎡もの大講義室を多目的に利用できる環境へと生まれ変わらせる動きが顕在化している。そして、この変革への道筋を示しているのが、先進的な企業のオフィスだという。
解決策となるのは、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の発想を取り入れた柔軟なレイアウトであり、フレキシブルな空間、そしてニューロダイバーシティ(思考多様性)に配慮したウェルビーイングな環境だ。こうした先進的なオフィスデザインのエッセンスを活用することが、陳腐化した既存キャンパスが生まれかわらせるためには不可欠だ。その結果、学生は学習意欲を高め、ビジネスの現場で求められる協調性などの“スキル”を育むための貴重な場が誕生する。
大学は企業の先進的オフィスデザインから何を学んでいるのか?
この10年間で、大講義室はオフィスにおける「固定席」と同じような運命を辿ってきた。かつては大学キャンパスを象徴する存在だったが、企業が仕事内容や気分に合わせて働く場所を自律的に選択できるABW型オフィスや、柔軟に変更できるレイアウト、テクノロジーによって利便性を高めるスマートオフィスへと進化するにつれて、過去の遺物と見なされるようになったのと同様のことが起きている。
JLLでデザイン&アセットエクスペリエンス部門のディレクターを務めるサリー・エデルステンは「先進的なオフィスは『集中作業、協業、プレゼンテーションなど、多様なスペースの中から業務内容に最適な環境を自律的に選んで働くことで最高のパフォーマンスを発揮する』という考えに基づいて設計されている。この考え方を大学キャンパスに応用し、多機能スペースなどを通じてインフォーマルな学習の場を提供できれば、学生のエンゲージメントは劇的に向上するだろう。授業のみならず、常に学生たちに活用されるようになる」と断言する。
建築事務所Hassellの研究レポート『Not Lazing, Learning』もこの考えを裏付けている。当該レポートによると、先進的な大学では「特定の学部や時間割に縛られず、学生が自らの活動を計画できる空間」を提供しているという。これにより「Project Based Learning(課題解決型学習)」や複数の学習形態を組み合わせた「ブレンド型学習」といった新しい教育手法が積極的に導入されるようになった」と指摘する。
「選択肢」のある学習空間が学習意欲を向上させる
先進的なオフィスデザインは、働く場所に対する「豊富な選択肢」がパフォーマンスを向上させることを証明しているが、大学キャンパスも同様の効果が見込める。当の学生も「自身の学習ニーズや気分に合わせて学習する場を選べるようになると、より良い学習成果を出すことができる」と考えているようだ。
事実、柔軟な空間デザインが学生と教員の関わり方を変えつつある。
オーストラリアのモナシュ大学クレイトン校では、教員から学生へ行っていた対面型の講義スタイル(一方的な知識伝達)を改め、学生と教職員が共に学び合うグループワークの場へと変える「反転授業(Flipped Classroom)」へと切り替えた。その象徴的な取り組みが「ラーニング・イン・ザ・ラウンド・スペース」だ。円形の部屋の中を進行役が歩き回り、すべてのグループの成果物を中央のデジタルスクリーンに自由に表示できる没入型の学習環境を指す。JLLは同大学の教職員や大学院生に対して新たな教育方針を補完するためのワークプレイス戦略策定を支援した。
一方、ドバイに位置するヘリオット・ワット大学のキャンパスは、教職員と学生を中心とした設計デザインに変更した。少人数での議論を促すブース席を備えた講義室、ノートPCとスクリーンを連携させたグループ学習を可能にする「ポッドルーム」、金融市場を模擬体験できる「ブルームバーグ・トレーディング・ルーム」など、多様な学習形態を可能にしている。
偶発的な交流を生む「つなぎ」のスペースが重要
ワークプレイス改革の中で最も成功している取り組みといえば何か?
それは社員個々の自律的な働き方を支援しつつ、同僚との有意義なつながりを促進することをバランス良く実現するために綿密に設計された「トランジション・ゾーン」の存在といえる。これは、集中して作業したいというニーズを尊重しつつ、偶発的でインフォーマルな交流を促す空間全般のことを指す。
では、このトラジション・ゾーンを大学キャンパスに当てはめるとどうなるか?
エルスデンは「講義室前のロビーや廊下を『アクティブ・ラーニング・コモンズ』へと変えることができる。学生が授業の合間に自然と集まる場所になる。これらの『(授業の)つなぎの空間』は、やがて講義室と同等の価値を持つようになるだろう。テクノロジーがいかに進化しても決して代替できない『学びにおける社会的な側面』を支えてくれるためだ」と力を込める。
「ニューロダイバーシティ」へ配慮することが学びに貢献する
キャンパスデザインに複数の異なる特性を持つエリアを設けるというABW的なアプローチは、多様な教育手法を可能にすると同時に、さまざまな学習スタイルや「ニューロタイプ(思考特性)」を持つ学生をサポートすることに繋がる。
先進的なオフィスでは、ニューロダイバーシティに配慮した空間デザインとして、分かりやすい館内サインや自然の要素を取り入れたバイオフィリックデザイン、採光性や音響など多様な感覚的刺激に対する複数の選択肢が採用されている。これらは、特定の診断を受けた人々だけでなく、すべてのキャンパス利用者にとって快適で使いやすい環境を生み出している。
英国のアーデン大学では「大学が公平性を実現するためには空間の物理的な特性だけでなく、教育の内容やペースにも配慮することが重要」だと提言している。JLLデザインのディレクターを務めるカミラ・マクマホンは「講義室を再設計するなら、感覚的な刺激を抑え、遮音性を高めた静かな集中ゾーンと、より活気があり音響的にもアクティブな共同作業エリアを隣接させること」と提言する。
柔軟なデザインが多様な学習スタイルを支える
調光照明、座席の多様な選択肢、複数の出入り口などは、学生が自らの学習環境を主体的にコントロールする感覚を養う。
さらに、テクノロジーを効果的に導入することで、かつては単一で固定的な目的しか果たせなかった一つのキャンパス空間が大人数での講義から少人数でのディスカッション、個人学習まで、目的に応じてシームレスにその姿を変えることができる。
ただし、思考多様性に適応した“ニューロインクルーシブ”な空間デザインは、決して大人数による講義を否定するものではない。むしろ、必要に応じて伝統的な大規模講義をサポートしつつ、セミナーやグループワーク、個人学習など、さまざまな活動に合わせて柔軟に空間を再構成できることが、その価値といえるだろう。
「物理的な環境は、もはや学習をただ受け入れるだけの『受動的な器』ではなく、学習プロセスに積極的に関与する『能動的な存在』へと進化している」(マクマホン)
オフィスデザインを大学キャンパスに活かすための5つの視点
本稿で言及した知見を実践するために、オフィスデザインの手法を大学キャンパスに応用する際の5つの原則を紹介したい。
実績のあるオフィスデザインを応用することで、十分に活用されていなかった大講義室を最も価値ある“資産”へと変貌させる。それは学生の学多様な学習ニーズをサポートし、卒業生が実社会で活躍するためのより良い準備の場を整えることにつながるだろう。
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JLLでは、世界80カ国で事業展開しているグローバルネットワークと世界市場で培った豊富な知見・ノウハウを積極的に情報発信しています。また、JLLは海外のみならず、日本においてもインターナショナルスクールの校舎移転プロジェクトを包括的に支援しており、キャンパスに必要な要件整理やプロジェクトマネジメント業務を担当しました。ご興味のある方は下記の関連情報をご覧ください。
※本稿は、JLLグローバルが発表した「How workplace design strategies can transform university education spaces」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳・加筆しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。