アダプティブ・リユースとは?築古オフィスを再利用する海外大学のキャンパス事例
アダプティブ・リユースとは?
「アダプティブ・リユース」という言葉をご存じだろうか?既存建物を解体せず、構造体や歴史的背景、立地特性といった既存の価値を活かしながら不動産として再活用する建築手法・不動産活用手法の1つであり、新規開発では生み出しにくい独自性やストーリー性を確立しやすい点が大きな特徴となる。サステナビリティや脱炭素化への関心の高まりを受け、特に環境意識の高い海外で注目されている。
再利用の対象となるのは歴史的建築物の他、築年が経過し需要が見込めなくなったオフィスビルや物流倉庫・工場、学校校舎、商業施設であり、ホテルや住宅、文化施設などへ再生するケースが少なくない。
建築ストックの増加や環境規制・脱炭素化の潮流、建築コストの高騰、そして歴史的建築物の保存ニーズといった様々な背景から、日本で主流の「ビルド&スクラップ(解体から新規開発)」ではなく、「活かして使う」ことを是とする「アダプティブ・リユース」が注目されるのである。
「コンバージョン」「リノベーション」との違い
なお、既存建物を改修などによって用途を変更するという意味では「コンバージョン」と同義だが、アダプティブ・リユースとコンバージョンの違いは「歴史や文化的価値といった既存建物が備えていた特徴を継承し、環境にも配慮する」ことを含む点にある。また、日本では既存建物を改修などによって再生するという文脈で「リノベーション」という用語が用いられることが多いが、リノベーションは「建物の性能・品質やデザインを刷新すること」に重点を置いている点が、アダプティブ・リユースとの違いとされることが多い。
海外の大学が「アダプティブ・リユース」に注力
「アダプティブ・リユース」に特に注力し始めているのが、海外の大学・教育機関だという。
従前、広大な敷地を確保しやすい郊外エリアにキャンパスを開設するケースが多かったが、昨今では主要都市の中心部に位置する築古オフィスビルをキャンパスとして再活用(アダプティブ・リユース)するケースが増えているそうだ。
都心立地であるので、そもそも交通アクセスが良く、周囲にアメニティ施設が充実している。しかし、「築古」という点でテナント企業からの人気は恐ろしく低い。世界的にみると、テナント需要は環境認証を取得したハイグレードオフィスへ集約されつつあるため、こうした築古オフィスの稼働率はおしなべて低い。
JLLのグローバル調査では、世界のオフィスストックのうち41-55%程度が機能面で「陳腐化」しているか、そのリスクに直面しているとされているのが現状。コロナ収束後から顕著になったオフィスの「質への逃避(Flight to quality)」なるトレンドが完全に定着し、リーシングに苦戦している築古オフィスは無数に存在する。
築古であるため、グレード感やスペックは新築オフィスに比べるとおおいに見劣りする。しかし、大学としては都心立地という交通至便性を高く評価している。JLLグローバル ワークダイナミクス プロジェクトディレクターであるデュアン・ローダーは「既存オフィスをアダプティブ・リユースすることで、大学が主要都市の一等地に迅速かつコスト効率よくキャンパスを構えることを可能にする。それと同時に都市計画上の重要な課題解決にも寄与している」と指摘する。
アダプティブ・リユースはサステナブルな解決策でもある
既存オフィスの有効活用に積極的な大学は老朽化したオフィスビルを「解体」から救うことができる強力な担い手として地域社会からも受け入れられている。
そもそも、キャンパスをゼロベースから新規開発することに比べれば開発コストを大幅に抑えられるだけでなく、サステナビリティの観点でも次のような利点がある。
ローダーは「アダプティブ・リユースの台頭は教育分野におけるサステナビリティへの取り組みの高まりとも軌を一にする」と説明する。
「世界では1,100を超える大学・教育機関が存在し、『Race to Zero for Universities and Colleges』キャンペーンを通じて将来のネットゼロ達成を公約に掲げている大学は少なくない。老朽化ビルを再生することで、大学・教育機関はサステナビリティに対する姿勢を対外的に示すことができる他、あらゆるカーボンスコープにおいて実質的な排出削減を達成することが可能になるだろう」(ローダー)
不動産の陳腐化は世界的な重要課題
世界的に見ると、ライフサイクルの“終末期”が迫る既存オフィスビルのスペックを現行基準(仮にAグレードオフィス級)まで引き上げるためには、約1兆2,000億米ドルの設備投資が必要とされる。
オフィスビル間の「スペック格差」問題が深刻化するにつれ、中心業務地区におけるハイスペックオフィスと老朽化オフィスとの間で空室率の格差が一段と拡大している。
一方、就業機会が充実している都心立地を嗜好するのは大学生にとって至極当然であり、そもそも魅力的な学生生活を求めて都心にキャンパスを持つ大学への入学を目指すのもおおいに理解できる。
こうした都心立地を好む学生の志向と、アダプティブ・リユースやコンバージョン(用途変更)以外に抜本的な活性化施策が思いつかないような築古オフィスビルを再生すべきかという喫緊の課題が相まって、大学・教育機関にとっては、十分に活用されていないオフィスビルを取得し、キャンパスなどへと転用する絶好の投資機会が生まれているのである。
海外大学のキャンパスにおけるアダプティブ・リユース事例
社会人学生や留学生、オンライン受講者などを含む、より多様な学生層へきめ細やかな対応が求められている他、生成AIの台頭などによりスキルギャップの解消を目的にした「リスキリング(学び直し)」ニーズが高まる中、大学は地域・関連団体とより深く結び付く形で、自らの物理的な拠点の在り方を再考する必要性に迫られている。
近年、大学は高層ビルやタワー型施設に開設した「縦型(都市型)キャンパス」を通じて都市のイノベーション・エコシステムの中核を担う存在となりつつある。例えばドバイの「ヘリオット・ワット大学」は産官学連携を促す拠点として機能している。
また、人口集積地への大学キャンパス事例としては「ニューサウスウェールズ大学」が2025年に着工したキャンベラ中心部における10億米ドル規模のキャンパス新規開発や、「フェデレーション大学オーストラリア」がメルボルン市内のバーク・ストリートに2025年に開設したシティキャンパス、さらに2026年に「ウーロンゴン大学」がリバプールの中心業務地区において地上17階建ての新築ビル「シビック・プレイス」へキャンパスを移転したことなどが挙げられる。
大学キャンパスの進化を後押ししている要因として行政の取り組みも無視できない。例えば、進学率の低い地域コミュニティへのアクセス拡大を目的としたオーストラリア政府による「サバーバン・ユニバーシティ・スタディ・ハブ(SUSH)」への投資がその好例といえるだろう。図書館、商業施設、キャンパスといった既存の中核施設を活用したもので、ニューサウスウェールズ州のフェアフィールド、マウント・ドルイット、リバプール、クイーンズランド州のイナラやビーンリー、西オーストラリア州のマンダラなどの各地で整備が進められている。
アダプティブ・リユースにおける課題と機会
とはいえ、オフィスビルを機能的な教育環境へと生まれ変わらせるプロセスは非常に複雑であり、慎重な対応が求められる。
ローダーは「国の建築基準法への適合、教育分野特有の基準やガイドラインの遵守、そして関係当局からの承認は、いずれも必要不可欠な重要要素だ」と指摘する。
「これは、不動産の取得や賃貸条件の交渉に入るよりもはるか以前から開始すべきプロセスであり、想定用途や改修要件を適切に評価するためには分野横断的な専門チームが不可欠となる」(ローダー)
ローダーによると、用地選定の初期段階でアコモデーション・ブリーフ(施設要件書)を策定し、技術的なデューデリジェンス(建物の事前調査)を実施することで、初期段階からリスクを軽減することが可能だという。
「最終候補となった建物について、テストフィット(仮配置検討)や防火適合性検査を行うことで、追加コストをかけることなく、希望に近いレイアウトが実現可能かどうかを確認することができる。こうした高レベルのデューデリジェンスは既存建物の用途転換を不動産戦略に組み込むことを検討する大学により高い確実性をもたらすだろう」(ローダー)
さらに、最終候補物件の評価段階において、希望するレイアウトや専門的要件に対応できるかを確認するためのテストフィットは不可欠となる。加えて重要なのが、建設計画と学生募集・入学スケジュールに関する運営面・財務面での保証だという。
プロジェクト成功のためには専門家チームの支援が必要不可欠
多くの大学・教育機関は緻密な計画に基づいたアダプティブ・リユースによって制限の多い既存建物を専門的で柔軟、テクノロジーを駆使した学習空間へ生まれ変わらせることに成功している。その一例が、JLLが支援したメルボルンのサウス・ヤラに位置する高等教育センターといえるだろう。
当該プロジェクトでは、高度なシミュレーション技術、柔軟な教育空間、そして業界標準の設備を統合・調整することが求められており、JLLはその期待に答え、高度な市場分析と革新的な設計デザインに加え、コスト削減効果の高いコンストラクションマネジメントを統合した専門性の高い支援体制を構築することに成功した。
再生の可能性を秘めたオフィスビルが数多く存在する中、大学にとっては、付加価値の高い都市立地において、目的に即した魅力的な学習環境を創出する戦略的機会が広がっている。
統合的な戦略立案とプロジェクトを力強く推進するアプローチを実行することが、成功への最適なポジションを築く鍵となるのではないだろうか。
学校校舎・キャンパスの移転・改修のご相談はJLLへ
大学・教育機関のアダプティブ・リユースを成功に導くためには、教育分野に精通した分野横断型チームの支援が不可欠といえるでしょう。JLLはグローバルで大学のキャンパス開発計画を多数支援しており、JLL日本でも「横浜インターナショナルスクール」新校舎移転プロジェクトを支援するなど、教育分野での支援実績を積み上げてきました。
キャンパスや教育施設の移転・改修について検討している方は下記からお問い合わせください。
※本稿は、JLLグローバルが発表した「How universities can convert old offices into new campuses」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳・加筆しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。