進化する「リテール・コスモ」:リテールセクターの未来を塗り替える44の世界的潮流
著者
Christian Giesemann
JamesD Cook
Lee Fong
Tjard Martinus
主要なハイライト
- AIとデータ分析の本格導入:AIやデータ分析は、もはや未来の話ではなく、業務効率化を牽引する中核エンジンと目されるようになった。AI予測に基づく高度な在庫管理や、個別最適化された圧倒的な顧客体験(CX)の提供が可能になる。
- ビジネスモデルの転換:単なる物販事業から、サブスクリプションやシェアリングによる定額課金モデルへのシフトが進んでおり、顧客との長期的な関係性の構築に寄与している。
- 再定義されるリアル店舗の価値:物理的な店舗の位置づけはブランド体験の提供や顧客コミュニティの構築を目的とした「五感を刺激するデスティネーション(目的地)」へ変貌している。柔軟かつ多機能な店舗設計が様々な用途に活用され、没入感のある環境を創出する。
- サステナビリティの戦略化:リテール分野においてもサステナビリティは重要戦略となり、環境規制への対応やブランド価値の向上に向けて、透明性の高いサプライチェーンやサーキュラーエコノミー(循環型経済)の導入が不可欠となっている。
買物体験の先へ
リテール不動産(店舗)は時代と共に何気なく変化しているのではない。社会的環境が劇的に変化する今、根本的な再定義の過程を突き進んでいる。買い物や飲食、そしてリアル店舗における“体験”を一変させる様々な潮流が加速しながら融合しつつある。つまり、リアルとデジタルの境界線がこれまで以上に曖昧になり、摩擦係数0のシームレスなカスタマージャーニーが求められているのだ。
JLLの最新グローバルレポート「The evolving retail cosmos(英語版)」は、リテール業界を大きく変貌させている44の世界的潮流について分析している。この分析結果から明らかになったのは、単なる「購買モデル」から、動的な「関係性重視のエコシステム」への明確なシフトである。小売企業、不動産オーナー、デベロッパーがこの“新時代”で成功を収めるためには、現在進行中の世界的潮流を深く理解することが先決だ。
デジタルの必然性:スマートストアからAIによる意思決定へ
リテール変革の核心は、即座のアクションを求めるテクノロジーによって今まさに目の前で起きている。究極のゴールは「ユニファイド・コマース(統合商取引)」の実現であり、そのためにはアプリ、ウェブサイト、そしてリアル店舗を横断するシームレスなカスタマージャーニーを構築しなくてはならない。インド最大手のアイウェアブランド「Lenskart(レンズカート)」や美容EC大手の「Nykaa(ナイカ)」などは、デジタル面で強烈なアイデンティティを確立し、実店舗でのエンゲージメント向上にも寄与している好例といえるだろう。
こうした顧客向けのイノベーションを裏側で支えているのが、AIによる意思決定だ。例えば、ドイツのドラッグストアチェーン「dm-drogerie markt(ディーエム)」では、AIが在庫管理から人員配置に至るすべてを最適化している。
このAI(デジタル)シフトは、物理的な不動産にも多大な影響を及ぼす。前述したインド・ドイツ企業のような新たな小売モデルを支援するためには、「デジタル・バックボーン(IT基盤)」が不動産そのものにも不可欠になっている。先進的なテナントを惹きつけ、長期間入居し続けてもらいたい不動産オーナーにとって、安定した通信接続性やIoTセンサーネットワークを駆使した「スマートストア」構築に向けた投資は、もはや避けて通れない必須条件といえる。
体験型経済:店舗設計とビジネスモデルの変革
Eコマースが買物体験における圧倒的な利便性を提供するようになった現在、リアル店舗は「買物の場」ではなく「体験の場」を提供することに注力している。店舗は販売拠点ではなく、メディアチャネルであり、コミュニティハブであり、ブランドの思想を体現する場となっている。これは「イマーシブ(没入型)・リテール環境」を構築しようとする世界的な潮流といえるだろう。
例えば「Netflix House(ネットフリックス・ハウス)」は、デジタル上のファン心理をリアルな常設施設へと昇華させ、来場者がお気に入りの作品の世界感に浸れる空間を提供している。このイマーシブな戦略は、実体のあるリアル店舗を通じて顧客と直接的なつながりを築こうとする、デジタルネイティブをターゲットにしたD2Cブランドにとっても極めて重要である。
こうしたリアル店舗の多用途への進化は、それを支える不動産のあり方を根本から変えている。例えば、ポップアップショップや短期運営を前提としたコンセプトショップのニーズに柔軟に対応するべく、従前から続く定期賃貸借契約はフレキシブルな契約やセットアップ済みの空間を提供する「リテール・スペース・アズ・ア・サービス(RaaS)」へ移行しつつある。
マクロレベルで見ると、このトレンドは「ライフスタイル地区」として顕在化している。そこでは、緻密に構成された商業店舗が当該地域に多くの来街者を引き寄せる強力な“磁石”として機能し、オフィスや住宅など集積するあらゆるアセットタイプの需要を喚起している。
飲食店の進化:エンゲージメントを高める新たな方程式
商業施設において飲食店は重要なキーテナントに位置づけられ、それ自体が多様な進化を遂げている。最もエキサイティングな進化は、テクノロジーと体験の“交差点”で起きている。ドイツの移動式ダイニング「Eatrenalin(イートレナリン)」が掲げるコンセプトは「没入型美食体験」だ。単なる飲食行為ではなく、五感を刺激するイベントへと昇華させている。
一方、運営効率の観点では「バーチャル・レストラン・エコシステム」が革命を起こしている。ドイツ発祥のハンバーガー専門デリバリー「burgerme(バーガーミー)」のように、実店舗を持たない、デリバリー専門の「ゴーストキッチン」を駆使する事業者はデジタル限定ながら複数ブランドを展開し、アセット(厨房機能)の稼働率最大化を実現している。
この二面的な進化は、求められる物理的空間のあり方も再定義している。ロンドンのKERBが運営する屋内型フードコート「Seven Dials Market(セブン・ダイヤルズ・マーケット)」のように、次世代の料理人を育てる“道場”としての役割を担うだけでなく、“食のアミューズメント”として目的地となる「フード・コミュニティ・ハブ」としても機能している。
すでに多様な進化を遂げつつある飲食店舗だが、将来はコネクテッドキッチンやロボット厨房が本格稼働することになるだろう。それらを安定稼働させるために必要な電力、データインフラ、高度な換気設備を拡充するなど、「調理の自動化」を実現できる空間設計が求められるだろう。
サステナブルな未来:長期的なレジリエンスと資産価値の構築
ここまで実店舗の進化の行方を追ってきたが、もう1つ重要な要素がある。リテールセクターにおいても、サステナビリティは単なる「あれば好ましいもの(Nice-to-have)」から、長期的な資産価値を担保するための「不可欠な土台(Must-have)」へとシフトしている。
この潮流は、短期的かつ一時的なものではなく、レジリエンスとサーキュラーエコノミーに対する投資の拡大を意味する。
そうした中、重要なテーマの一つに挙げられるのが「徹底的な透明性」といえるだろう。ドイツ発の大手スーパーマーケットチェーン「ALDI(アルディ)」や「Kaufland(カウフラント)」では、商品の生産地や製造工程を消費者自ら調べられるトレーサビリティシステム「f-trace(エフトレース)」を導入している。テクノロジーを活用したサプライチェーンの透明化システムは、法規制への対応と消費者の期待に応えるために不可欠になりつつある。
一方、環境配慮型日用品の製造大手であるドイツの「Werner & Mertz(ヴェルナー&メルツ)」のような先進企業が産業レベルでのサーキュラーエコノミーの実現可能性を証明している。
不動産分野における“資産価値”とは、いまやESGパフォーマンスと密接に結びついている。米国発のLEEDやドイツのDGNBといった高レベルの「グリーンビルディング認証」を取得することは、投資資金や優良テナントを惹きつけるための決定的な差別化要因となる。
さらにその先を見据えると、ポートフォリオの将来的な価値を担保するためには「気候変動適応型建築」であることが不可欠である。洪水対策用の土台の上に高床式の建物を建設しているドイツ・ハンブルクの「HafenCity(ハーフェンシティ)」は、都市構造そのものにレジリエンスを組み込む先進事例として世界的に耳目を集めている。
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JLLグローバル記事「The evolving retail cosmos」はこちら
※本稿は、JLLグローバルが発表した「The evolving retail cosmos」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳・加筆しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。


