ライフスタイル地区とは?米国で注目される複合再開発
著者
Jacob Rowden
「複合開発」がグローバル不動産市場のトレンドに
景気サイクルの波間に生じる流行り廃り…不動産業界もご多分に漏れず、様々なトレンドが生まれては静かに塗り替えられていく。そうした中、ここ数年間の事業用不動産業界をグローバル目線で俯瞰すると、ある1つのテーマに継続的に焦点が当てられてきたことに気づかされる。それは、複合開発を軸とした都市の発展だ。
日本では東京の大丸有(大手町・丸の内・有楽町)・日八京(日本橋・八重洲・京橋)エリアにおける面的再開発が知られるところだが、グローバルで見ても、かなり多くの成功事例が出現している。時代と共に成熟期を迎えるにつれ、異なる用途を単純に集積させるだけでは“成功”は決してもたらされないことも明らかになっている。
では、最も成功を収めている具体例とはどのようなものだろうか?それは市場の力によって、複数用途が互いに相乗効果を生み出す持続的なエコシステムが成立したケースだといえるだろう。
米国を席捲する「ライフスタイル地区」
JLLでは、このように成功を収めたエリアを「Lifestyle districts(以下、ライフスタイル地区)」と定義づけた。施設利用者が想い描く理想的なライフスタイルに寄与し、再開発によって活気づく複合用途地区を指す。
実は、コロナ前の景気サイクルでもライフスタイル地区は注目の的となっていた。特に、米国では総ストック面積10億平方フィートを超えるライフスタイル地区絡みの不動産が存在することからも一過性の“流行”にとどまらないことがわかる。数多くの成功事例が現れ、誰もが注視するような多大な実績を上げ、機関投資家などから高い関心を惹きつけている。
例えば、三井不動産が参画していることで日本でも注目されるマンハッタンの再開発地区「ハドソンヤード」が代表格といえるが、自然発生的に生み出されたライフスタイル地区も存在する。従前は食肉加工業の倉庫街に過ぎなかったシカゴの「フルトンマーケット」は機関投資家の巨額投資に頼ることなく、歴史的建造物を活かすアダプティブ・リユースなどの不動産運用に注力し、シカゴ都市圏全体で最も人気のあるサブマーケットへと変貌を遂げた。
ライフスタイル地区の賃料・稼働率
ライフスタイル地区が人々の耳目を引いた要因の一つはリーシングの成功が挙げられる。オフィスのみならず、商業施設やホテル、レジデンスといった複数用途の不動産が集積するが、すべてのセクターにおいて賃料・稼働率双方が米国平均を上回り、プレミアムを享受している。
経済的な成果を導き出す「3つの力」
ライフスタイル地区の不動産が単純に“新築”という理由だけで優れた実績を積み上げることができたわけではない。オフィスワーカーのみならず、そこに住まう居住者、買物などを楽しむ来街者といった、すべてのステークホルダーが理想とするライフスタイルを忠実に反映しているという事実こそが、経済的な成果を導き出す「3つの力」となっているのだ。
1. サーキュラーエコノミー
ライフスタイル地区は、ワーカーや居住者の経済活動に対する高い捕捉率を誇ります。オフィスワーカーは、就業前後に地区内でより長い時間を過ごし、交流などを通じて商業店舗やエンターテイメント施設の需要を支える。従来の単一的な居住エリアとは対照的に、ライフスタイル地区に開発されたマルチファミリー(賃貸集合住宅)の居住者は、余暇の大部分を同地区内で過ごしている。
2. イベント経済
エンターテイメントに資する中核施設内に魅力的なデスティネーションストアやホスピタリティ施設を計画的に整備することで、イベント主導型の経済圏が生まれる。近隣のオフィスや居住不動産の魅力を高めるだけでなく、地区外から大量の需要を呼び込み、地区全体の経済活動を活性化させる。
3. 運営コスト削減
地区全体を単一の事業体が所有・管理することで、所有者が複数存在している地区に比べて、より効率的・効果的な投資を実行できる。地区の付加価値を高めるアメニティ機能を共有することで、不動産オーナーは各施設にアメニティスペースを整備する必要がなくなり、建築コストの削減のみならず、オフィスやマルチファミリーの賃貸可能面積の最大化も実現できるだろう。オーナーが単一のライフスタイル地区と複数のオーナーが存在するケースを比較すると、運営コストを最大10%削減することも可能だ。
建築コストが高騰してもライフスタイル地区の新規開発は継続
米国全土で見れば新規開発は明らかに減速している。にもかかわらず、ライフスタイル地区はあらゆる不動産タイプにおいて開発が継続しているという極めて稀有な存在といえる。
一方、米国内におけるライフスタイル地区の不動産はストック全体の4-5%を占めるに過ぎない。しかし、現在進行中の各種不動産タイプの開発計画においては、その2-5倍ものシェアを占めている。
多くの都市は、新たに開発されるライフスタイル地区や既存拠点の拡大を支える基礎的な要件を備えており、資本市場の状況が改善すれば、多くの都市でより大規模で意欲的なプロジェクトが始動し始めるだろう。
前述した通り、米国には10億平方フィートを超えるライフスタイル地区に関連する不動産が存在するが、現在明らかになっている開発計画に基づけば、2030年代終盤までにその規模が50%以上増加しても驚くに値しない。
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