日本経済“復活の年”となった2024年。国内不動産投資市場も復活を遂げ、その勢いは2025年に引き継がれ、2026年はさらなる活況が期待される。
本稿では2025年第3四半期末時点における国内不動産投資市場の最新動向を分析すると共に、2026年の市場展望について包括的に解説する。下記動画でも2026年の国内不動産投資市場について解説しており、必要事項を入力後、無料で視聴できる。
2026年に向けて堅調に推移する日本の不動産投資市場
2025年第3四半期末までの結果を振り返る前に、まずは2024年通年の不動産投資市場をおさらいしておきたい。
世界の都市別投資額ランキングでは東京が世界2位となるなど、日本の不動産投資市場の好調さが際立っていたのが2024年通年のトレンドといえるだろう。
JLLの調査によると、2024年通年における日本の不動産投資額は前年比63%増の5兆4,875億円を記録。9年ぶりの5兆円超えとなった。複数の大型取引が見られたホテルセクターが市場を牽引。2024年通年でのホテル投資額はJLLで市場観測を開始した2007年以降初の1兆円を超え、インバウンドの完全回復などを背景にホテルセクターの伸長が目を引いた。
このように、急激な回復を見せた2024年の国内不動産投資市場だが、2025年にはどのような状況になったのだろうか?第3四半期末(9月末)時点までの状況を振り返ってみたい。
2025年第3四半期は過去最高水準の4兆円超
2025年第3四半期末時点の国内投資額は前年同期比22%増の4兆7,100億円を記録。世界の都市別に見た投資額でも東京が1位になるなど、2024年を上回る成長ぶりを見せている
JLLの調査では、2025年第3四半期末時点における国内不動産投資額は前年同期比22%増の4兆7,100億円となった。世界の都市別に見た投資額でも東京が1位(218億米ドル)になるなど、2024年を上回る好調さを見せている。
国内不動産投資市場について調査を行っているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学は次のように説明する。
「日本において第4四半期は会計上の年度末にあたり、大型取引が増加するのが通例となっている。そのため、2025年通年での投資総額は2007年に記録した6兆1,610億円を超えてくるだろう」(谷口)
市場を牽引したのは大型取引が複数重なったためだ。オフィスセクターのみならず、リテールや賃貸マンションなどで大型取引が行われた。
4,000億円で取引されたとされる「東京ガーデンテラス紀尾井町」をはじめ、「赤坂パークビル」や「赤坂ガーデンシティ」などの大規模オフィスの取引が複数重なった他、リテールセクターでは推定取引額1,500億円とされる「東急プラザ銀座」、賃貸マンションでは海外投資家がシェアハウス1000棟超のポートフォリオに投資するなど、半期としての投資額は2007年下半期以来の3兆円を超えた。さらに、2025年11月には約1,000億円といわれる「日産本社ビル」の大型取引が報道されるなど、マーケットは依然として好調だ。
「2024年に日経平均株価がバブル以来の最高値となり、2025年11月には過去最高値となる52,636.87円を記録したが、不動産投資市場においても過去最高額となった2007年を更新する可能性は非常に高い」(谷口)
バブルの反動による長期低迷への懸念は?
一方、2007年の活況を知る市場関係者が懸念するのが「バブルの反動」といえそうだ。後に「不動産ミニバブル」と呼ばれた2007年は投資額こそ確かに多かったのだが、その後リーマンショックに端を発する世界同時不況が直撃。国内不動産投資市場もご多分に漏れず、5年ほどの長期低迷期が続いた。こうした状況が再び訪れるのだろうか?
結論を先に述べると、2026年の不動産投資市場は持続的な成長を続ける可能性が高く、2007年以降の市況低迷は再来しないと見ている。
2007年と2025年の不動産投資市場を比較してみると、最大の違いは不動産投資市場に供給される優良ビルが豊富な点にある。
例えば、前述した「紀尾井町タワー」や「電通本社ビル」など、“超”がつくAグレードオフィスが証券化され、物流施設は全国各地で多数開発されており、EC需要といった底堅さが見込める。さらに、東京や大阪などの都心部において投資対象となりえる賃貸マンションが圧倒的に増えており、今後は海外投資家による不動産売却への圧力などを背景にした日本企業のアセットライト化が進む可能性がある。
「優良物件が各段に増加した現在の不動産投資市場は、健全に拡大を続ける成熟した環境になっている」(谷口)
セクター動向
オフィス
JLLが調査した国内不動産投資額の用途別割合によると、2025年第3四半期末時点ではオフィスの割合が49%となり、他を圧倒。企業の出社回帰が本格化したことでオフィス需要が伸びており、全国的に賃料の上昇フェーズにあることから最も注目を浴びるセクターといえる。
オフィス投資が伸張した理由について、谷口は「足もとでの空室率低下に伴う大幅な賃料上昇を好感し、国内外の投資家がオフィスに目を向けたことが大きな要因。特に2025年に入って、多様な投資スキームを駆使する日系投資家が気を吐いている」と指摘する。
数字でみても、現在のオフィス市場は絶好調そのもの。JLLの調査では、2025年第3四半期末時点の東京Aグレードオフィス市場の空室率は0.9%、月額坪当たり平均賃料は37,042円、前年同月比で7.5%増となった。建築費の高騰によって新規開発プロジェクトが計画延期や見直し(中止)されたことで、2028年と2029年に予定されていた過去最大規模の新規大量供給量が平均水準に落ち着いたことが大きな影響を与えている。さらに、「人材獲得競争の激化」と「出社回帰の本格化」といった長期的・短期的な2つのトレンドが重なり、交通至便な都心ではまとまった空室が枯渇した状況になりつつあるという。
商業施設(リテール)
「東急銀座プラザ」の大型取引があったリテール(商業施設)の割合が9%となり、前年の7%から増加。しかし、2割程度の割合だった過去(2018年、2021-2023年)と比較すると減少している。谷口によると「コロナ禍の混乱期において売上が安定していた郊外型のショッピングセンター(ネイバーフット型商業施設)が人気を博したが、コロナ収束と共にリテール投資の熱量が落ち着いた」ことが大きな要因といえそうだ。
物流施設
Eコマースの需要拡大などを背景に、急速な成長を遂げてきた物流施設。20%台半ばを記録した2023年、2024年と比較すると2025年通年の投資割合は12%となり、その存在感は低下したように見受けられるが…
谷口は「日本全国で大型の先進物流施設が多数開発され、竣工後の売買取引も活発に行われている。物流施設が投資市場に登場した2007年頃から投資割合は順調に拡大してきており、依然としてオフィスに次ぐ人気セクターの地位を占めている」と説明する。
前年比で投資割合が低下した要因として考えられるのは、長期賃貸借契約によってフレキシブルに賃料値上げができないと見られているためだろう。従前、テナントが長期契約を結ぶことで退去リスクが極めて低く、長期安定した賃料収益が得られることが物流施設の投資妙味とされてきたが、インフレ下の現在、賃料を値上げしていく必要がある。しかし、長期の定期借家契約によってフレキシブルに賃料値上げを行いにくいとのマイナス評価を受けて、実際にJ-REITの資産組み入れも減少するなど、投資割合が減少したものと考えられる。
また、不動産デベロッパーや国内外投資家がこぞって物流不動産市場に新規参入したことで新規供給量が急増。さらに、物流の「2024年問題」を背景にした輸送コストの高騰により、輸送距離が短い都心の物件が選好される傍ら、都心部から距離がある圏央道エリアなどの需要が弱含み平均空室率10%超に達している。
しかし、谷口は「建築費の高騰で新規供給量は減少する」とし、Eコマース需要の将来的な拡大と3PL事業者の事業成長性を鑑みて、今後は空室率が低下していくとの見解を示している。
ホテル
コロナ収束後の2024年にはインバウンドの急回復が追い風となり、投資割合は20%を記録。しかし、2025年第3四半期末時点の投資割合は10%と半減した。
投資割合が低下した理由について谷口は「売り物件が極端に減少したこと」を挙げる。
「買い需要は引き続き旺盛だが、今後もホテル市場の活況が続くことが予想され、現段階で保有ホテルを売り急ぐ必要がないことから、投資額が積み上げってこない。特に大型ホテルやポートフォリオ取引が減少し、宿泊特化型ホテルの単独取引が散見される程度になっている」(谷口)
一方、足もとでは、中国から日本への渡航が制限されており、一部報道ではホテル宿泊料金を値下げする動きが出ているなど、宿泊需要への悪影響を懸念する声も出ている。
しかし、コロナ禍での教訓を受けて、多様な国の観光客を受け入れる体制づくりを進めるホテルが増加していることから、JLLでは中国の渡航自粛を穴埋めできる十分な宿泊需要が見込めると考えており、今後も不動産投資市場におけるホテルは一定以上の存在感を発揮し続けていくだろう。
賃貸マンション
2025年の投資割合は18%となり、前年の12%から拡大している。谷口によると「賃貸マンションの需要増は世界的なトレンド」だという。
米国などの主要不動産マーケットでは、ファンドなどがポートフォリオに賃貸マンションを組み込む動きがすでに顕在化していたが、日本では2010年後半頃から海外投資家が積極的に取得するようになった。特に2020年、2021年には海外投資家による大型のポートフォリオ取引があり、投資利回りが大きく低下。人気が過熱し、取得価格に割高感が出てきたため、2022年から取引活動が停滞。しかし、2024年頃から賃料が上昇し始めた東京都心部を中心に再び活況を呈するようになってきた。
エリア別の投資動向
2025年はオフィスの投資割合が増加したこともあり、オフィス集積地である東京都心5区の投資割合が42%となり、2024年の27%から大幅に拡大した。
一方、2024年には国内投資額の22%を占めるまでに伸張した大阪だが、2025年は10%と大幅減となった。理由として考えられるのは、より高い賃料上昇が見込める東京都心のオフィスや賃貸マンションが投資家に選好されるようになったことが挙げられる。また、投資額が著しく拡大した2024年との比較によって相対的に投資割合が低く見えるという背景もある。
海外投資家の動向
日本市場に占める海外投資家の投資割合
日本市場に占める海外投資家による2025年の投資割合は39%となり、不動産ミニバブルと称され、海外投資家が台頭した2007年の34%を超える水準となった。コロナ禍の2020-2022年は海外投資家が買い越していたが、2023年に売り先行に転じ、売却活動が目立つようになった。
しかし、2023年に減少に転じた日本特化型の外資系ファンドの運用資産額(AUM)が2024年第1四半期から再び増加に転じるなど、海外投資家の日本回帰の兆しが鮮明になり、2025年も投資活動を継続。こうした流れは2026年にも引き継がれると予想する。
海外投資家が好む2つのセクター
海外投資家の投資割合が高いセクターとして、2025年はオフィスと賃貸マンションが挙げられる。
コロナ禍によって世界的にオフィス出社を控え、リモートワーク主体の働き方が定着した2023年、海外投資家によるオフィス投資割合は1%にまで低下。その後、コロナ収束の機運が高まった2024年は19%、2025年は42%へと拡大している。また、賃貸マンションは2020年に30%を超える投資割合となったが、その後は10%程度に低下。しかし、2025年の投資割合が27%となり、3割復帰が目前となりつつある。
一方、投資割合の低下が目立つのがホテルだ。2024年の投資割合は30%を記録したものの、2025年は投資機会が減少したことで7%に留まっている。
2026年の展望
2025年第3四半期末時点まで国内不動産投資市場は堅調に推移した。では、この勢いは2026年に波及するのだろうか?
2026年の展望について谷口は以下の4つの要因によって更なる飛躍を期待している。
1. 投資家層の多様化
年金基金や生保、日系インフラ系企業などの資産運用の多様化が進む中、不動産投資に対する需要が増加する可能性が高い。加えて、金利上昇下で投資口価格の低下が続き、不動産投資市場での存在感が低下していたJ-REITの投資口価格が上昇に転じており、保有物件の売却による資金確保の動きも多数見られるようになってきた。テナントの入れ替えによる賃料値上げが今後進むとみられるJ-REITはインフレに強い投資対象として再評価されており、2026年は再び積極的に投資すると見込まれている。
2. 一般事業会社のアセットライト化で投資適格物件が増加する可能性
海外投資家による株式市場からの圧力によって事業会社が不動産売却や流動化が進むことが引き続き予想される。2025年上半期には永谷園や岩谷産業の本社ビル売却をはじめ、2025年第3四半期には本田技研工業が本社オフィスの一部所有権を譲渡し、新規開発中の賃貸オフィスへの移転が発表。2025年第4四半期には日産本社ビルの売却や、サッポロホールディングスが海外投資家への不動産事業売却を発表するなど、アセットライト化の動きは今後も続く可能性があり、さらにインフレを起因としたポートフォリオの見直しによる資産入れ替えなども考えられる。不動産投資市場に新たな投資機会が生まれることになるだろう。