東京圏の物流不動産賃貸市場 - 2027年の展望とテナント企業が注意すべき拠点戦略
著者
友田 健
谷口 学
コロナ禍によって“巣ごもり消費”が拡大すると共に、急成長を遂げたEコマース市場。即日配送や高度な在庫管理が求められたことで物流施設に対する需要も急拡大したのは記憶に新しいところだ。2020年第4四半期末時点における東京圏の物流不動産の賃貸市場の空室率は0.2%まで低下した。
一方、需要拡大に伴い、物流施設の新規供給も増加。2021-2023年の3年連続で新規大量供給がなされたことで需給が緩和。特に新規供給が集積していた郊外立地の大型物流施設において大量の空室を抱えるケースが増加。2024年第4四半期末時点の空室率は9.5%に達した。
では、2025年以降の東京圏の物流不動産賃貸市場はどのように推移したのだろうか。本稿では、2025年から2026年上半期までの市場動向を振り返ると共に2027年の市場を展望した。
市況回復が鮮明になった2026年上半期
結論から述べると、2026年上半期の東京圏物流不動産賃貸市場は回復の動きが一段と鮮明になった。
JLLの調査によると、2026年第2四半期末時点の空室率7.7%となり、実に四半期連続での低下となった。物流不動産市場の調査を行っているJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学は「予想を上回る速さで空室率が改善している」と指摘する。
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既存物件で空室消化が進んだことが背景にあるが、物流施設のテナント動向に詳しいJLL日本 ロジスティクス&インダストリアル リーシング事業部 副事業部長 友田 健はその要因について次のように分析する。
「空室率が上昇していた2023-2024年頃は『物流の2024年問題』への対応として、テナント各社が輸配送体制の見直しや物流拠点の増設を検証していた時期だった。そのため、一時的に動きが鈍くなり、空室率の上昇に繋がった。しかし、2025年夏以降に物流戦略の最適化に向けた拠点立地の改善や集約による大型化といった具体的な移転・拡張活動が活性化し、2026年上半期に空室消化に繋がった」(友田)
空室率を低下させた2つの要因
では、現在の旺盛な床需要を牽引している要因は何か?大きく2つの要因が挙げられる。
【要因1】スポーツ用品・アパレル、食品スーパーによる需要拡大
友田は「小売企業で物流拠点を拡大する動きが顕著だった」と振り返る。
「物流需要のバロメーターとして、荷主(小売企業)が物流会社を選定するためのコンペの件数が2025年夏以降に急増した。コンペの成立に伴い、新たに物流拠点を確保する動きが一気に顕在化した」(友田)
特に存在感を示しているのがスポーツ用品・アパレル分野と食品スーパーだ。
積極的な出店計画を打ち出している日系ブランドや外資系のアウトドアブランドが3PLを介して物流拠点を開設している他、新興の外資系シューズブランドも積極的に動いている。実店舗とECの双方に迅速に出荷する「オムニチャネル型物流」の構築には大規模な物流拠点が必要になるため、埼玉県蓮田市や東松山市、茨城県など、東京圏の郊外(外環部)に位置する先進物流施設へと需要が波及している。
「郊外物件の値ごろな賃料水準も高度な物流戦略を支える物件選定時の魅力となっている」(友田)
また、食品スーパー大手各社が店舗展開を積極的に進めており、新たに物流拠点を開設する動きも顕著だ。特に首都圏発祥の食品スーパーの動きが目を引く。友田は「店舗網の拡大に伴い物流センターが不可欠になる。拠点拡大の動きは一巡した感もあるが、2027年も引き続き賃貸市場を牽引する」との見通しを示す。
【要因2】建築費高騰による新規供給量の減少
空室率低下のもう1つの決定的な要因は新規供給の抑制だ。谷口は「建築資材や労務費の高騰によって従来の賃料水準では新規開発の採算が合わなくなっていることが最大の要因」と説明する。
JLLの調査によると、東京圏における物流施設の新規供給量は2023年の約90万坪をピークに、2024年は約60万坪、2025年は約50万坪、2026年は約45万坪と減少を続けており、2027年には30万坪を下回る水準まで落ち込むと予測している。
かつては外資系ファンドや国内生保など、多種多様なプレイヤーが開発市場に参入していたが、建築費高騰を受けて採算性の確保が難しい状況になった。現在では「住宅開発系の国内デベロッパーを除く多くの投資家が新規開発から既存物件への投資へと回帰した」(谷口)。
新規供給が抑制されることで、オフィス市場と同様に賃料値上げの機運がこれまで以上に高まっている。すでに一部の物件で大幅な賃料値上げの動きが見られる。友田は「足元の堅調な需給バランスを考慮すると賃料水準は下落する可能性は極めて低い」とし、谷口も「テナントが賃上げ分を許容できるかが焦点」としつつも「国道16号より都心側に位置する物流施設が賃料水準を底上げしている」と分析する。
一方で圏央道周辺などの郊外立地の物件は、コロナ禍のピーク時から賃料は変わっていない。しかし、前述したスポーツ用品・アパレル企業などは大規模な物流センターを必要としているため、おのずと郊外型の物件を選好することになる。友田は「現在の床需要が本格的に波及し、郊外物件の賃料水準を押し上げるのは2027年以降」と期待している。
2027年以降の市場展望
2027年も引き続き小売業が需要を牽引し、市場は堅調に推移する見通しだ。新規供給の抑制が進むため、需給バランスはさらに改善し、空室の消化と賃料上昇が続くだろう。
ただし、市場全体では賃料水準の下落要因が見当たらないが、エリアによって濃淡がでる。都心部に近い国道16号線の内側エリアではさらなる賃料上昇が見込まれる一方、大量供給があった圏央道などの郊外エリアでは空室が多く残っており、賃料の上昇ペースは緩やかに留まる見通しだ。
しかし、都心近郊で大規模な空室確保が困難になっていることから、需要は徐々に郊外へとシフトしており、中長期的にはこれらの空室も着実に消化されていくだろう。
こうした需要動向を踏まえ、谷口は今後の平均賃料と空室率を次のように予測している。
需要を新たに牽引する「越境EC」に期待
また、2027年以降、物流施設の床需要を新たに牽引する存在として注目されているのが「越境EC」だ。
「日本からの輸出型越境ECの物流センターは、航空便の便数が多く、通関対応がスムーズな関西圏に集まる傾向が強い。首都圏では成田空港周辺が適しているが、供給物件自体が不足している。今後、滑走路増設計画が具現化すれば、新規開発が期待できる。一方、輸入型越境ECは空港至近へのこだわりが薄く、商品加工などの手間も少ないため、1,000-2,000坪程度の中小規模の床需要で事足りる。都心部や国道16号沿線の既存物件への入居が進むだろう」(友田)
加えて、日本でのEC事業を強化するべく、韓国企業が物流施設の大区画を賃借した事例もあり、海外企業による床需要の拡大も見込まれている。
テナント企業が留意すべき「拠点戦略」のポイント
2027年以降も堅調に推移しそうな東京圏の物流不動産賃貸市場だが、テナント企業が移転や新規開設を成功させるためには、次のような新たな課題への対策が不可欠になる。
内装工事の遅延リスクが顕在化、プロジェクトマネージャー(PM)の重要性
目下、多くのテナント企業が直面しているのが「内装工事の遅延」だ。人手不足対策として専有部への空調設備の導入などが必須になっているが、人手不足や部材調達の遅れから、工事の見積り取得だけで数カ月を要するケースが頻発している。また、マテハン機器などの自動化システムの納入が遅れ、稼働開始予定が大幅に遅延するリスクも顕在化している。
そのため、友田は「物件の仲介だけでなく、内装工事やマテハンの導入、移転作業までを包括的に管理・コントロールできる専門パートナーの起用が不可欠」と推奨する。特に、コスト・工期を厳格に管理し、プロジェクトを滞りなく推進するプロジェクトマネージャー(以下、PM)と連携することで、こうした遅延リスクや予算超過を大幅に低減できる。
「PMの指揮のもとオフィス移転を進めるのは今や当たり前になっているが、物流施設ではまだまだPMの認知度は低い。それゆえ予定していた工期内で完工できないケースが少なくない」(友田)
JLLではロジスティクス&インダストリアル リーシング事業部と建築プロジェクトに豊富な実績をもつプロジェクト・開発マネジメント事業部が協働し、物件探しだけでなく、包括的に拠点づくりを推進するプロジェクト管理サービスを提供。予算・工期を順守しながら理想とする拠点づくりを成功に導いた。ご興味ある方は下記フォームからお問い合わせいただきたい。