CPI連動型賃料はインフレ時代のオフィス賃貸市場を乗り越える新たな選択肢となる
著者
大東 雄人
【海外ではすでに定着】インフレ下で注目されるCPI連動型賃料とは?
日本経済に押し寄せるインフレの波。様々な商品・サービスが値上がりする中、その影響は事業用不動産市場にも及ぼうとしている。インフレの指標となるのは、消費者が購入する商品・サービスの価格変動を示す「消費者物価指数(CPI)」である。
海外に目を向けると、インフレによる賃料増額分を組み込んだ賃貸借契約(CPI連動型賃料)はすでに広範に導入・定着しているのが現状だ。例えば、英国では1970年代のオイルショック後のインフレリスクに対して導入された「アップワード・オンリー(upward-only rent review clauses)」と呼ばれる特約条項が賃貸借契約に組み込まれている。賃料相場が上昇時のみ改定され、反対に賃料相場が下落に転じても契約内容は維持されるものだ。
また、米国の一部市場では、毎年一定率の賃料増額をあらかじめルール化しておく「エスカレーション条項(annual rent escalation clauses)」が採用されている。過度な市場変動に備えた柔軟性を持ちつつ、賃料増額分を予測可能な範囲に収めることが狙いだ。
インフレ環境下において固定費である賃料は時間の経過とともに、不動産の実質的な価値が減損することになる。CPIと連動した変動型の賃料体系は、オーナーとテナントのどちらか一方だけがインフレリスクを負うのではなく、双方が公平にリスク分担することができる、極めて合理的な手法といえる。
賃料高騰が予測される東京グレードAオフィス市場
現在の東京オフィス賃貸市場を見ると、CPI連動型賃料の導入が進む理由が見えてくる。
JLLの調査では、2025年末時点における東京都心5区のグレードAオフィスの賃料水準は前年同期比9.4%上昇、空室率はわずか0.7%となった(図1)。需要が供給を大幅に上回り、極めてタイトな需給環境が続いた。
いわゆるオーナー優位の市場環境を背景に、オーナーは資産価値を維持・向上させるべく強気の賃料交渉に臨むことが常態化しつつある。事実、あるテナントは定期借家契約の更新時20-30%もの大幅な賃料増額を提示され、その結果更新を断念。賃料負担が軽い、値ごろなオフィスビルへ移転を余儀なくされるケースも見られるようになった。
JLLの予測では、こうした状況は今後も続き、2026年通年で15%超の賃料上昇を見込んでいる。
賃料上昇よりも緩やかなCPI上昇率
一方、2025年における日本のCPI(生鮮食品を除く)の上昇率は3.1%に留まっている。
つまり、契約更新時に見舞われる急激な増額要求に比べると、CPI連動型賃料であればより緩やかで予測可能な賃料負担で済み、テナント企業にとって的確に予算配分をしやすくなるというメリットがある。
2025年末時点で月額坪当たり38,252円だった東京グレードAオフィスの賃料水準が毎年3%ずつ上昇したと仮定したとする。それでも5年後には坪当たり43,053円で、累積上昇率は約13%に収まることになる(図2)。
このように、現在のような賃料の高騰が続く市場環境においては、CPI連動型賃料がもたらす「予測可能性」はテナント企業にとっても非常に大きなメリットとなる。
忘れてはならない契約交渉時のポイント
ただし、この手法を導入するにあたっては、テナント側が留意すべき点があることを忘れてはならない。例えば、急激なインフレ局面における賃料高騰に対するリスクヘッジのため、年間の賃料上昇率に上限を設定するための特約条項である「賃料キャップ」の交渉は不可欠といえる。さらに、オーナー側から賃料の下限設定を求められる可能性も念頭に置いておく必要がある。
こうした戦略的な視点を持ってオーナーサイドと交渉することこそが、将来のオフィス戦略を成功に導く重要な鍵となるだろう。