冷凍冷蔵倉庫に迫る供給不足 - 需給ギャップの拡大は「食のインフラ」への脅威
著者
長谷 泰大
不動産の需給バランスは文字通り、需要と供給で決まる。こうした中、冷凍冷蔵倉庫市場は、近い将来、深刻な供給不足が懸念されている。
2025年末頃から「空室枯渇」時代が到来しているオフィス市場と同様に、社会インフラとなる事業用不動産の供給不足は経済等へ影響を及ぼす。こと「食料安全保障」に関わる冷凍冷蔵倉庫の供給不足による社会へのインパクトはさらに深刻なものになりそうだ。
冷凍冷蔵倉庫とは?
そもそも「冷凍冷蔵倉庫」とはどのようなものなのか?
一般的に物流施設・倉庫は配送・保管する際の温度指定として3温度帯の「常温・冷蔵・冷凍」に分けられる。このうち常温倉庫は「ドライ型」とも呼ばれ、温度や湿度の調整を行わず保管する倉庫を指し、主に低温管理が必要ない食品が対象となる。一方、10℃以下で商品を低温保管する倉庫が「冷蔵倉庫」とされ、さらに低温保管(-20℃以下)を行うのが「冷凍倉庫」とされる。この2つの温度帯総称したのが「冷凍冷蔵倉庫」である。
取り扱う商品は水産物や農産物といった生鮮食品と冷凍冷蔵食品が中心だが、コロナ禍において厳格な温度管理が求められたワクチンの保管場所として注目されたのは記憶に新しいところだ。
さらに、立地の違い、温度帯によって下記のように分類される。
冷凍冷蔵倉庫の需要を押し上げる2つの要因
冷凍冷蔵倉庫の需要が急拡大している背景には、大きく2つの社会的変化がある。1つは、冷凍食品の日常化と品質向上による消費量拡大。もう1つが、食品EC市場の急成長だ。
冷凍食品の消費拡大
一般社団法人日本冷凍食品協会が2026年2月に実施した「冷凍食品の利用状況実態調査」によると、物価高の状況にありながら消費者が購入量を増やした品目のトップとなったのが冷凍食品だ。調理の時短ニーズに応えるだけでなく、品質そのものが向上し、日常の食事に抵抗感なく取り入れられる点が評価されている。なお、同協会の統計資料によると、冷凍食品の消費額は2020年から増加している。
食品EC市場の急成長
コロナ禍で消費者の非対面志向が高まり、コロナ収束後も実店舗に足を運ぶ手間を回避し、かつ遠方から特産品などを注文できる利便性が広く知られるようになった。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、EC市場の中でも鮮度維持を必要とする食品・飲料・酒類カテゴリは物販系全般を上回る成長率を示している。
学業や仕事など、多忙さを増す現代社会において、手間暇かけて自炊することよりも、いわゆる「タイパ・コスパ」に優れた冷凍食品やEコマースでの食品購入の需要が拡大することは自明といえる。
こうした潮流は一過性のものではなく、現代のライフスタイルに深く根差している。食品の流通を担う重要なインフラである冷凍冷蔵倉庫に対する床需要は今後も構造的に拡大していくことが予測される。
新規供給にブレーキをかける複合要因
一方、旺盛な需要とは対照的に、供給サイドは深刻な課題を抱えている。
国土交通省「倉庫統計季報」によると、冷凍冷蔵倉庫の所管容積の伸び率は、冷凍食品市場やEC(食品・飲料・酒類)市場の高い成長率に比べて明らかに追いついておらず、すでに「需給ギャップ」が広がりつつあることを示している。
物流施設・倉庫のテナント仲介業務やリーシング業務を行っているJLL日本 ロジスティクス&インダストリアル リーシング事業部 ディレクター 長谷 泰大は、その背景について複合的要因があると指摘する。
既存ストックの老朽化
日本の冷凍冷蔵倉庫の多くは1970~1990年代に建設されており、既存施設の老朽化が目立ち始めている。JLLが推定したところ、現在稼働する冷凍冷蔵倉庫の約95%が自社保有物件だが、その多くが現代の物流ニーズに対応しきれていない。
2030年のフロンガス規制強化
2030年に施行される改正「フロン排出抑制法」により、既存の冷凍冷蔵倉庫では自然冷媒などへの設備更新が求められている。企業ガバナンスの観点からも法規制への早期適合は喫緊の課題となっており、自然冷媒を標準的に使用している賃貸型冷凍冷蔵倉庫が注目されている。
記録的な建築費高騰
躯体・設備の老朽化によって使い勝手が悪くなった既存の冷凍冷蔵倉庫の改修や建替え、フロン排出対策のための設備更新はコスト負担が重い。しかし、建築費が高騰する中、冷凍冷蔵倉庫を供給する不動産デベロッパーや不動産投資家も事業採算性の観点から新規開発に慎重にならざるを得ない状況にある。
これらの要因が重なり、建て替えや新規開発が思いのほか伸びていない。JLLの調査では、首都圏・大阪圏の物流倉庫の総ストックのうち、冷凍冷蔵倉庫は面積ベースでわずか5%に過ぎない(図1)。
需要の受け皿となるべき賃貸型冷凍冷蔵倉庫は、いまだ黎明期といえる状況だ。今後は既存ストックが減少(廃止)することが見込まれる。限定的な新規供給と相まって、加速度的に供給不足に陥ることが予想されている。
図1 出所:JLL日本
希少性の高い新規供給物件
新規供給が限定的な中、2025年以降に竣工する先進的な賃貸型冷凍冷蔵倉庫は、その希少性から早期満床になるケースが相次いでいる。
出所:報道、プレスリリースなどをもとにJLL作成
近年の供給トレンドで注目すべきは、これまで開発実績が稀であった内陸部での新規供給だ。例えば、大阪圏の場合、冷凍冷蔵倉庫の集積地といえば湾岸エリアの南港だったが、湾岸から離れた内陸部である京都市でも新規開発が行われるようになっている。
JLLがリーシングマネジメント業務を担当する「伏見区淀美豆町冷凍冷蔵倉庫」は、湾岸エリアから離れた京都市内に立地する賃貸型冷凍冷蔵倉庫だ。地上3階建て、延床面積7,128㎡、準工業地帯に立地する耐震性に優れている。天井高5.5mの高い保管効率、床荷重1,500㎏/㎡の堅牢性、フロンガスを使用しない自然冷媒を採用し、冷凍区画(-25~-20℃)と冷蔵区画(5~8℃)の2つの温度帯に対応する。各階に荷物用エレベーター1基と垂直搬送機2基を備え、縦搬送による効率化も期待できる。京都市では数少ない最新鋭の賃貸型冷凍冷蔵倉庫であり、単なる保管施設ではなく、消費地に近く関西・中部圏といった広域にも対応できる加工拠点・配送拠点として見込めるため、竣工前から多数の引き合いが寄せられている。
トータルコストで多大なメリット
新規供給される賃貸型冷凍冷蔵倉庫においてテナントが懸念する唯一といえるポイントが賃料水準だ。築年が経過した既存施設に比べて、新規供給物件の賃料水準は1.5~2倍程度とされる。
一方、長谷は「賃貸型冷凍冷蔵倉庫をすでに賃借しているテナント企業が重視しているのは賃料だけでなく、輸送コストや保管効率、設備更新などを含めた総合的なコストメリット」と指摘する。
「物流コスト全体に占める賃料の割合は決して大きくない。賃貸型冷凍冷蔵倉庫をすでに賃借しているテナント企業は賃料だけでなく、輸送費や保管効率などを含めたトータルコストで高いメリットが得られると判断している」(長谷)
例えば、複数に分散している冷凍冷蔵倉庫を1カ所に集約した場合、賃料単価は上昇するが、拠点間をトラック移動(横持ち)する頻度が増えるため、輸送費や人件費がかさむことになる。拠点を集約することでトータルコストを最適化することが十分に可能になる。
また、築年が経過した既存冷凍冷蔵倉庫の天井高が4m程度であることが多いが、荷物の積載量が抑制され保管効率が低下する。一方、新規開発された昨今の賃貸型冷凍冷蔵倉庫の多くは天井高5.5mを確保できる仕様となっており、仮に同じ床面積を使用しても、既存施設に比べて保管効率が著しく向上する。
そして、前述したようにフロンガス抑制法に適合した自然由来の冷媒設備を導入している点が高く評価されている。自社保有の既存施設をそのまま使用する場合でも、冷媒設備の更新に多額の投資が必要になるためだ。
供給不足時代を乗り越えるための戦略的判断
ライフスタイルの変化を背景に冷凍冷蔵倉庫の需要は拡大する一方、建築費高騰と既存ストックの老朽化により、新規供給は限定的といえる。
こうした状況は、空室率が0%台に至り、理想の床を確保できない企業が移転計画の延期や中止を迫られているオフィス市場と似ている。しかし、国民の食を支える社会インフラである冷凍冷蔵倉庫の供給不足がもたらすインパクトは、リモートワークで凌げるオフィス市場を上回るのではないだろうか。
もはや、様子見は許されない状況といえる。供給不足のリスクを正しく認識し、他社に先んじて戦略的な拠点確保に動くこと。これこそが、供給不足時代を乗り越えるための賢明な経営判断となるだろう。