「チームの働き方」から逆算してオフィスデザインを決定するべき理由
多くの企業は従業員の出社率や在籍率(稼働率)を指標としてオフィスのパフォーマンスを測定しているはずだ。
しかし、これらの数値からは「オフィスがチームの結束力の強化や意思決定の促進、そしてビジネス上の“成果”に本当に寄与しているのか」までは見えてこない。
そうした中、グローバルで注目されつつあるのが、人間科学(行動科学)と空間分析を融合させ、チームのパフォーマンスを最大化するためのオフィス環境を導き出すためのアプローチ「ソーシャル・スペイシャル・デザイン(Social-Spatial Design: 以下、SSD)」だ。
この手法によって、企業はオフィスへ投資する際の優先順位を明確にでき、社内のつながりや業務効率・生産性の向上に直結する「オフィス改革」へリソースを集中させることが可能になる。
オフィスのにぎわいは本当に「パフォーマンス向上」に繋がっているのか?
オフィスに従業員が集まり、一見すると非常ににぎやかな状況にある。だからといって、必ずしも“成果”が出ているとは限らない。多くの企業がこの点を誤解している。入館証の打刻データや座席の稼働率は「誰がいつ、どのスペースにいたか」を可視化するに過ぎない。なぜその席を選んだのか? オフィス環境がチームの相互作用にどう影響したのか? そして、オフィスへの投資が実際にビジネス面のパフォーマンス向上に繋がっているのだろうか? こうした本質的な問いには決して答えてくれない。
JLLが発表したグローバルレポート「The future of work survey 2026」(英語版)によると、経営層の46%が「不動産戦略が従業員の生産性向上に貢献することを期待している」と回答した。また、不動産を通じて付加価値を生み出すためには「予算不足」ではなく「未来に対応できる人材の不足」が最大の課題に挙げている。しかし、従来のオフィス評価基準では、この課題の一端しか捉えていない。
オフィスの本質的な価値が宿っているのが「ソーシャル(社会的)」な側面だ。すなわち、チームが知識を共有し、課題を解決し、迅速な意思決定を下すための「人間関係の構築」である。これは非常に数値化しにくく、その重要性に気づいていないケースも少なくない。
JLLが2024年に発表したオフィスに関するグローバル調査では、従業員がオフィスに出社する最大の理由は「同僚との対面の交流(74%)」だった。従業員は単にデスクを求めて出社しているのではない。お互いの存在、つまり「人とのつながり」を求めて集まっていることを示している。
人間科学が明かす「ハイパフォーマンスチーム」の条件
人間の関係性は、少人数のワーキンググループから全社的なネットワークまで、複数の段階で成り立っている。オックスフォード大学の心理学者であるロビン・ダンバー氏らの研究によると、最も強固な絆は比較的少数のグループに集中し、ネットワークが広がるほど、同じ深さの関係性を維持することは難しくなるという。
だからといって、オフィス戦略を特定の数式(型)に当てはめるべきではない。チームの規模や業務パターン、企業文化によって最適な環境は大きく姿を変えるからだ。迅速な意思決定を繰り返し求められるプロジェクトマネジメントチームと、集中して専門的な技術業務に取り組むテクニカルチームとでは、求めるオフィス空間の条件が異なる。そして、双方が組織全体とつながるための導線もそれぞれ必要だ。
オフィス設計において本当に問いただすべきは、「このチームにとって、どの関係性や活動が重要で、それを支える物理的条件とは何か?」という具体的なポイントである。あるチームには、知識を即座に業務に転換できる「近接性」が有効かもしれない。しかし、別のチームでは高度な遮音性能やプロジェクト専用スペース、あるいは機密性の高い打ち合わせを安心して行えるスペースが求められるかもしれない。つまり、単に「コラボレーションスペースを増やす」といった画一的かつ表面的な解決策からは真の“正解”は見いだせないのだ。
オフィス環境がチームのパフォーマンスを阻害する「死角」
一方、新たなオフィスデザインの指標となるSSDでは、チームの「業務プロセス」と、それが実践される「空間環境」との相互関係を徹底的に分析する。行動観察や従業員へのヒアリング、空間分析を通じて、「どこで知識共有がスムーズに行われているか」「どこで集中力が途切れているか」「どのスペースが日常業務のボトルネックになっているか」を浮き彫りにする。
その分析結果は、単なる稼働率データよりもはるかに複雑で示唆に富んでいる。例えば、常に人で賑わっているエリアであっても、騒音のせいで業務に集中できないのならば、そこは「機能していない空間」と言わざるを得ない。反対に、一見静かで利用率が低いエリアであっても、プライバシーが必要な時に確実に使えるのであれば、その空間は極めて価値が高いということになる。また、通路やマグネットスペースなどの異なるエリアを結びつける「境界領域」も重要だが、注意を払いたい。計画的に設計されていれば偶発的なアイデアの創出を促すが、配慮を欠けば単なるノイズの発生源になってしまう。
また、SSDではチームの活動と空間の条件を統合して捉える。人々がどのように情報を交わし、意思決定し、信頼関係を築いているか。そして、距離感、音響、視認性、動線、各種スペースへのアクセス性が業務活動にどう影響しているかを分析する。目指すのは、空間を少し変えるだけで、パフォーマンスが劇的に向上する「最大の伸びしろ」を特定することだ。
投資対効果を最大化する優先順位の見極め方
パフォーマンスを阻害する要因が特定できれば、企業は具体的な解決策を検討できるようになる。あるチームにとっては静かな環境や集中ブースの利用が最優先事項かもしれない。また別のチームにとっては、関連部門との視覚的なつながりや、プロジェクトエリアの明確な区分、あるいはカジュアルに知識を共有できる場が求められているかもしれない。
とはいえ、最も効果的な解決策は必ずしも大規模なリフォームや莫大な予算を伴うものとは限らない。動線の見直しや、チームの配置(隣接性)変更、既存スペースの用途変更といった“微調整”が、新スペースを増設すること以上に効果を発揮することも少なくない。
また、オフィス設計には常にトレードオフが伴う。あるチームにとっては交流を促す魅力的なエリアが、別のチームにとっては集中を妨げる騒音発生源になることもある。
SSDは、こうした複数の選択肢を比較・評価し、最も高い費用対効果が見込めるオフィス改革案に投資を集中させるための明確な判断基準を提供する。さらに、チームのあり方や働き方は常に進化するため、設計が完成した時点でプロジェクトが終わるわけではない。オフィスのパフォーマンスを定期的に検証することで、当初の仮説を評価し、環境を微調整し、常に変化するチームのニーズに投資を合致させ続けることができる。
オフィスの価値は「出社人数」では測れない
単に従業員を同じ空間に集めるだけで強いチームが生まれるわけではない。オフィスの真の価値は、その環境が、日々の業務に必要な「交流」「集中」「共通体験」をどれだけ支えられているかで決まる。SSDは、こうした目に見えない条件を可視化し、意思決定者が具体的なアクションを起こすための確かな道標となる。
目指すべきは、画一的なオフィスの導入ではない。チームが実際にどのように成果を上げているかに立脚し、空間の変更が最も大きなインパクトをもたらす領域にリソースを集中させるオフィス戦略だ。
現在のオフィスは、チームのパフォーマンスを支えているだろうか、それとも阻害しているのだろうか? SSDによってその答えは明らかになるだろう。
※本稿は、JLLグローバルが発表した「Why workplace design should start with how teams work」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳・加筆しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。