「体験価値」から考える都市開発の世界的潮流
都市が持続的に発展するためには「体験価値」が不可欠
未来の都市を形づくるための出発点は「人を中心とした体験価値」を軸に考えることから始める。社会的なつながりを感じられ、環境に配慮し、社会環境の変化や災害などにも柔軟に対応する安心安全性の高いまちづくりこそが、未来に適応し持続的な価値を生み出すための鍵となる。
こうした潮流は日本に限った話ではない。消費者・就労者・居住者のすべてに共通するシグナルとして世界各地で確認されている。
都市が持続的に発展するためには、「人を中心とした体験価値」を提供することが不可欠であるという認識が広がっている。人々は効率性や利便性だけでなく、安心感や居心地の良さ、過ごしやすさといった「人の感覚」に根差した価値を享受できる「場所」を求めるようになっている。こうした体験重視の世界的潮流は、都市開発における「価値」や「レジリエンス(回復力)」の定義そのものを変えつつある。
この変化は調査結果にも裏付けられている。JLLは世界19市場・64都市、12,000人を対象に調査を行い、昨年レポート「Experience Matters 2025」(英語版のみ)にまとめた。その結果をみると、3分の2以上が「住む・働く・過ごす場所に組み込まれたウェルネスを高める高品質な体験を期待している」と回答した。
「体験価値」は前提条件に
都市開発を手掛けるデベロッパーや投資家にとって「体験価値」は、すでに議論の前提条件となっている。消費者の期待水準が高まる中、設計・デザインや施設構成のわずかな違和感が、その都市が持続的に繁栄できるかどうかを左右する、極めて重要な要素となっている。
なにより、都市空間で長時間過ごす機会が増え、新たに開発された建物は「目的地」ではなく「日常の一部」に溶け込んでいる。だからこそ、来街者の多くは都市や不動産に対してより多くの付加価値を求めるようになっている。
前述したJLLの調査レポートによると、回答者の73%が「多目的に使える場所」を支持し、69%が「高品質な体験価値にはコスト負担を許容する意思がある」と回答している。安全性、利便性、居心地の良さは、その場所(都市)への再訪を促す重要な要因であり、世代を問わず、家族全員が楽しめる、複数用途に応えたインクルーシブな場所であることの重要性も直近1年間で高まっている。
オフィスや商業施設、ホテル、住宅などを組み合わせた複合開発は、日本の都心部では一般的に行われている。しかし、近年の都市開発における世界的潮流として、複数用途を集積するだけでは評価されにくくなってきているのが実態だ。それぞれの用途が、時間帯や利用シーンの中でどのようにつながり、複合的な「体験価値」を提供してくれるかどうかが重要になっている。
例えば、高機能のオフィスの他、ユニークな宿泊体験ができるライフスタイルホテルや「ここでしか味わえない」飲食店、さらに斬新なエンタメ機能を備え、アフターファイブも楽しめるワーカー・エンゲージメント型の再開発地区や、気軽に立ち寄れるカフェやフードマーケット、緑豊かな屋外空間を備え、時間を忘れて来館者が楽しめる複合施設などがその好例といえるだろう。
「体験価値」を重視した都市開発を支える3つのポイント
現在の都市開発を評価する上で、先のJLLの調査結果は投資家・デベロッパーが重視すべき3つのポイントを示している。
1. 社会的なつながりが「体験価値」を決定づける
安全性や帰属意識、アメニティ施設の充実度と利用のしやすさに代表される「社会的なつながり」は、その場所の価値に強い影響を与える。しかし、JLLの調査によると「地域コミュニティと強いつながりを感じている」との回答は66%にとどまっている。
複合開発はこうした課題への解決策として適している。カフェやコミュニティ拠点、気軽に集える公共スペースは世界的に見ても利用頻度が高く、さらに居住地を選択する際、緑地を重視している。こうした場所は来街者のウェルビーイングを高めるだけでなく、地域・来街者といった多様な人々の交流を促す社会インフラとしても機能する。
人口密度が高く公共空間の文化的価値が評価される欧州の主要都市では、緑地や公共スペースの充実度とQOL(Quality of Life:生活の質)に強い相関関係が見てとれる。一方、アジア太平洋地域では、公園や公共施設の利用頻度が高い半面、生活や仕事の延長線上に位置づけられることが多い。
2. サステナビリティは「理念」から「体験」へ
環境配慮は都市開発における重要な差別化要因となっている。新鮮な空気、街路の清潔感、豊富な緑など、日常生活で実感できる要素が「住む・働く・遊ぶ」場所の選択に多大な影響を及ぼしている。サステナビリティは「理念」だけでは伝わりにくく、視覚的・触覚的に認知できる形…いわゆる「体験」した時にこそ最も多くの共感を得られる。抽象的な目標よりも、オフィスにおけるバイオフィリックデザインや、レジャーにおける地産地消、視認できる緑地が評価される。
ただし、意思決定におけるプライオリティは地域によって異なる。欧州・中東・アフリカ地域やアジア太平洋地域では公共交通の信頼性や移動のしやすさがQOL向上に直結する傾向が強い。日本の「満員電車」で知られるように、通勤時のストレスが少ないことが魅力的な都市体験として認識されている。半面、自動車依存度の高い米国の多くの都市とは考え方が大きく異なる。
3. 柔軟性のある都市デザインが長期的に来街者を惹きつける
多様な用途に対応しながら、誰もが納得する高品質な「体験価値」を提供し続けることは容易ではない。ある人は静けさや活気を求め、ある人は個別最適化された買物体験を、ある人は誰もが受け入れられる“包括性”を期待している。こうした来街者の多様なニーズに対応するためには、テクノロジーの活用と柔軟な都市デザインが鍵を握る。
用途変更やレイアウト調整がしやすい設計は、社会環境やライフスタイルの変化に対応しやすく、長期的に都市の競争力を維持する。AIなどのデジタルツールが混雑回避やわかりやすい案内機能として活用され、個別最適化された「体験価値」を提供する。
こうしたトレンドを牽引しているのがミレニアル世代(1980年代前半-1990年代半ばに生まれたデジタルネイティブ世代)といえるだろう。彼らは自身の価値観を重視し、訪れる・働く・住む場所すべてで自身の価値観との共通点を見出そうとする。主にショッピングで定着しつつある個別最適化の概念は、いまや都市全体へと広がりつつある。
都市の価値は「完成時」ではなく「日常」で決まる
ここまで言及してきた内容を振り返ると、将来に適応する活気ある都市を生み出すために何が必要かが明らかになる。「体験価値=重要なもの」ではあるが、人が集い続ける都市空間とは、シンボリックな複合施設が完成した際に偶然生まれるわけではない。来街者の行動や感性を考慮し、特別な演出にこだわらず、違和感を解消し、使いやすさを積み重ねることで「体験価値」が生み出される。それを意図的に設計・運営できるかどうかが、都市や不動産の評価を分けるポイントになるだろう。
なお、複合開発を評価する場合、以下のような指標が考えられる。
・長時間・高頻度に訪れる理由があるか
・公共スペースや緑地が中核機能として組み込まれているか
・地域の文化や行動様式が体験価値に反映されているか
・将来の変化に対応できる柔軟な設計か
・サステナビリティやウェルビーイングを体感できるか
人々の行動や感覚に目を向け、地域の文脈を丁寧に読み取ること。その積み重ねが、結果として「選ばれ続ける都市」を形づくっていくのではないだろうか。
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※本稿は、JLLグローバルが発表した「Shaping tomorrow’s cities starts with what people want now」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳・加筆しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。