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JLLでは毎年1月、世界の不動産市場に関する最新動向を踏まえ、市場に影響を与えるであろう複数の論点を挙げ、分析記事を発表してきた。本稿は、その2026年度版となる。

経済の見通しは明るいが…

困難な1年を経て、2026年のおけるグローバル不動産市場の見通しは改善へと向かっている。

世界の主要市場の大半で経済がプラス成長に転じた他、米中貿易摩擦の緩和、インフレ抑制の動き、そして金利の低下…これらの要因によって市場ファンダメンタルズが大幅に改善、事業環境の安定化に大きく貢献した。

しかしながら、経済、テクノロジー、そしてソーシャル・パワー(社会的勢力)が融合する昨今、世界のあらゆる企業・組織は複雑かつ変化し続ける環境に適応し、生き残るための戦略を考え続けなくてはならない。不動産業界も同様であり、2026年は“刺激的”な変化の瀬戸際に立っているといえるだろう。

不動産投資市場への影響

グローバル不動産投資市場については、2025年下半期から投資環境が著しく改善し、2026年にはさらに勢いを増すと予想されている。

デット市場も引き続き活況を呈しており、レンダーの融資姿勢は不動産セクター全体で積極的に推移し続けるだろう。そして、2026年は不動産投資サイクルで本格的な回復フェーズに突入、投資家の物件取得競争がさらに激化し、年間を通じて取引額が拡大すると予想している。

特に、数千億米ドル規模が投資されているAIインフラストラクチャへの“熱狂”は引き続きデータセンターの需要を牽引するだろう。

そして、居住用不動産セクターはあらゆる物件タイプで投資需要が高まり、世界最大の投不動産投資セクターであり続けるだろう。投資適格物件が豊富に眠る市場は引き続き堅調に推移し、オーストラリアからスペインに至るまで、幅広い国・地域で需要の増加が見込まれている。

世界的に多くのアセットタイプで賃貸需要が拡大

一方、2026年には多くの国・地域と様々なアセットタイプにおいて賃貸需要が強まることが予想されている。オフィスや物流施設・工場などの産業用不動産の賃貸需要は世界的に拡大しており、米国、英国、インドをはじめとする大半の主要国で賃貸需要するだろう。

また、建築費高騰を受けて新規供給の減少傾向が続く中、移転先の選択肢が少なくなっており、オフィスセクターにおいて賃料の上昇幅は次第に拡大していくと予想される。需給が逼迫しているオフィス市場…特に東京、ニューヨーク、ロンドンにおいて質の高い物件の空室枯渇が深刻さを増しており、オフィス需要は高品質な新規供給物件を超えて既存ビルへと拡大するだろう。一方、工場・物流施設の新規供給も世界的に減少しており、空室率低下に寄与するだろう。

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英国で行われている大規模再開発の様子

建築費高騰が新規開発を抑制している(画像はイメージ)

“6つの潮流”が不動産市場に何をもたらすのか?

ここからは世界の不動産市場に変革をもたらす6つの潮流について深掘りしていきたい。

1. 高コスト環境における効率性の向上


あらゆる業界・企業に対して外部環境から複数のコスト圧力が重なり合う中、事業活動を取り巻く環境は“高コスト体質”にならざるを得ない。国家財政の持続可能性に対して懸念する声が増している。プライベート・クレジットにも影響しており、借入コストの上昇に繋がっている。

雇用主は、所得増税やスキルの深刻なミスマッチ、そして世界的な人材不足などを背景に、人件費の負担増に直面している。建設資材と設備などの建築コストの高騰も著しく、2026年にはさらなる上昇圧力にさらされるだろう。例えば、欧州では、2026年の総費用インフレ率は、英国とドイツで2.7-3%、米国で3.5-4%になると予想されている。一方、アジア太平洋地域では、シンガポールとオーストラリアの建築費が5-6%上昇するなど、より深刻な予測が出ている。

投資家(物件オーナー)、デベロッパー、テナントにとって、こうした様々な要因が重なり、コスト管理は懸念事項のトップとなっている。JLLの調査によると、CRE(企業不動産)責任者の 72% が2026年の最優先事項として「コストと予算の効率化」を挙げていることが、それを示唆している。

コスト高への対応はコスト管理手法を戦略的に再考する必要がある。CRE部門は 2026 年に「予算の綿密な調査」、「スペース利用の最適化」、「不動産運用の効率化」という3領域に重点を置くだろう。

投資家にとってこうした取り組みは資産の最適化…つまり保有物件の積極的な保守管理と設備投資による運用効率化とパフォーマンスの最大化を意味している。

テナントにとっては、スペース運用費や内装・改修費、保守契約に至るまで、あらゆる運用コストを精査することが求められる。スペースの最適化とポートフォリオの適正化は、運用体制の最適化と将来のビジネスニーズの両方に合致する拠点戦略を実現するための重要な検討事項になるだろう。

運用効率に関する継続的な取り組みとして、専門知識を有する外部パートナーの起用を拡大することも必要だ。また、建物・施設管理におけるテクノロジーの導入は、効率化に向けたもう一つの重要な道筋となりえる。特に自動化とデジタルソリューションの導入に成功すれば、サービス品質を維持しながら運用コストを大幅に削減することが期待できるだろう。

ただし、コスト削減に向けたあらゆる取り組みは、社員の生産性向上、組織の回復力、顧客体験の高品質化、人材の長期雇用などへの潜在的な影響を含めて多角的に評価する必要がある。そのため、コスト管理戦略は慎重に調整する必要があるだろう。

2. アセットタイプ全体に及ぶ供給不足の深刻化


2026年には、北米・欧州のほぼすべての事業用不動産セクターで新規供給量のさらなる減少が見込まれている。経済状況の不確実性と建設・資金調達コストの高騰(前述の「1. 高コスト環境における効率性の向上」を参照)によって、新規開発が減少した2025年に続き、着工件数の減少傾向が続きそうだ。2026年は通年で最新・高品質の賃貸可能床の供給が減少し、テナント・オーナー双方に対して次第に影響が大きくなっていくだろう。

●オフィス

米国においてオフィスの新規開発は過去最低水準となり、2026年の竣工数は75%減と予想されており、すでに新規供給予定面積の4分の3で賃貸借契約が締結済みとなっている。

欧州の新規着工件数も2010年以来最低水準となり、引渡し件数は2025年に著しく減少した引き渡し件数は、2026年に前年比5%減と予測されている。高品質なオフィスの供給不足は東京、ニューヨーク、ロンドンなどの都市で特に深刻化するだろう。テナントの賃借活動が活発化するにつれ、新規物件でまとまった床を確保したいテナント企業にとっては選択肢が限られ、賃料の上昇に繋がる。オフィス需要が新規供給物件から既存物件へと滲み出すにつれ、賃料負担能力が重要になってくるだろう。

●物流施設・工場

オフィス以外のアセットタイプでも供給減が顕著だ。世界的にみると2026年はデータセンターや製造業(研究開発拠点/R&Dセンター)など様々なアセットタイプによる用地取得競争が激化することが予想されており、工場・物流施設は投機的な新規開発が減少。新規供給量は2023年のピーク時と比べて42%減少すると予想されている。

●商業施設/居住用不動産

商業施設(リテール)の新規供給量は成熟市場で過去最低水準に迫り、米国の賃貸集合住宅開発は直近のピーク時から75%超減少し、欧州やアジア太平洋地域の多くの国でも依然として新規供給は限定的だ。

●データセンター

ただし、データセンターの新規開発は例外とされ、ハイパースケールデータセンターなどが記録的な投資額を集めていることから、2026年にはキャパシティが19%増になると予測されている。

旺盛な需要が見込める賃借可能床の不足が深刻化する半面、築古物件ではターゲット顧客を見直すなどのリポジショニング戦略やバリューアップ改修の必要性に迫られるだろう。世界上位10位内のオフィス市場にはリポジショニング戦略が必要な物件として1億3,000万㎡以上に未稼働リスクがあるとされ、パリ、ロンドン、ニューヨーク、ボストン、シカゴといったオフィス市場の上位都市はバリューアッドやオポチュニスティック投資において最も魅力的な機会に恵まれているともいえるだろう。

オーナーは、保有物件のバリューアップ改修やリポジショニングのメリット…例えば新規開発よりも短い工事期間、炭素排出量の削減、建築費の削減といった優位性をより強く認識するようになっている。特に、エネルギー効率化に重点を置いたバリューアップ改修は経費削減に寄与するだけでなく、建物のライフサイクルの早期段階から実施していけば、実に55%増もの収益向上をもたらす可能性がある。

オフィスで開催されたクリスマスイベントを満喫する社員たち

3. 新たな価値をもたらす“エクスペリエンス”


建築環境を取り巻く世界的な潮流として「エクスペリエンス(体験)」が重視され始めている。人々が住む・働く・遊ぶ・買い物をする…そうした人生で多くの時間を過ごす場所を選択する上で決定的な要素となっている。

しかし、既存の建物(場所)はそうしたニーズの変化に追いついていない。不動産に対する「体験の陳腐化」による需要低下が顕在化しているのが現状だ。JLLのグローバル調査によると回答者の3分の2以上が「あらゆる空間において高品質でパーソナライズされ、健康増進につながる“体験”が得られること」を期待しており、2024年から5%増加している。

ただし、欧米の主要市場において高品質の物件が供給不足になっており、築年の経過に伴う老朽化・陳腐化と相まって、2026年には“体験”が不動産投資の推進力となりそうだ。

また、デザインのトレンドも同じような方向に向かっている。社員が出社したくなるようにハード・ソフト両面でオフィス関連のサービスを充実させる「Street to Seet」戦略の浸透、ソーシャルなコミュニケーション、そしてテクノロジーを活用した没入型の環境がオフィスにおける優良な“体験”を牽引している。

大半の企業はオフィスに対する社員の具体的な期待値を定義しており、JLLの調査によると、社員は現在の出勤体制を概ね理解を示し、受け入れていることが判明している。グローバル調査の回答者(社員)の66%が「雇用主には明確な方針がある」と回答しており、72%がそれを肯定的に捉えている。

しかし、理解を示しているからといって、実際に出社するとは限らない。社員が「オフィスに出社する価値がある」と実感すれば、所属企業への支持とコンプライアンス意識が高まる。一方で、出社への抵抗感は、空間自体の不快さ、社員の自律性に対する制限、ウェルビーイングの取り組み不足などと相関関係にある。

新たな課題はより困難といえるだろう。人々が「本当に働きたいと思う」オフィス環境をつくり上げることは、企業にとって社員エンゲージメントとパフォーマンス向上を実現することに繋がる。この取り組みで先行する企業は、単にオフィスの占有効率を高めるだけでなく、“体験”を最適化している。

商業施設やホテルセクターで注目を集めている“体験”要素はオフィスでも同様に人気を博している。例えば、「健康と自然(73%が職場の近くに緑が多いと健康状態が向上すると回答)」、「パーソナライゼーション(74%が自分を理解し、自分に合ったサービスを提供してくれる場所を好むと回答)」、そして「多様なアメニティ」による利便性向上が挙げられる。社員がオフィス体験を高く評価している場合、84%が出勤率についても前向きな印象を受けている。

端的に言えば、人々はオフィスそのものを拒絶するのではなく、質の悪いオフィス体験を拒絶するということだ。これは物理的な設計原則に当てはまらず、好立地や高品質の設備・ソフトサービスに支えられた優良な“オフィス体験”こそが、利用者(社員)が享受できる付加価値の源泉であることを示している。直感的で繋がりを感じさせ、真に価値のある環境を提供することで、より多くのテナントを獲得できるだろう。

そして、より活気のあるオフィス環境と住みやすい都市を求める人材の要請に応えるため、オフィスの立地戦略は都心から多少離れたセカンダリー市場やライフスタイル市場を意識するようになってきた。JLLの調査によると、米国ではエンターテイメント施設や屋外パビリオン、ウォーターフロントのアトラクションといったアメニティを利用できる「ライフスタイル地区」に位置するオフィスの賃料が一般的なオフィス立地に比べて高くなる可能性について言及している。社員の意見も同様の傾向にある。JLLの調査では、回答者の67%が「活気のある地域で働きたい」と回答しており、25-34歳ではその割合が74%にのぼった。

2026年にはあらゆる業種・地域において“体験”そのものがさらに重要になるだろう。企業の主要拠点(都心)における人材獲得競争の激化、従業員のバーンアウト発生率の上昇、そしてAIによって劇的に変化した業務内容への対応…こうした課題に対して、企業は自社のオフィスにおける“体験”が事業成果にどのような影響を与えているかを改めて考える必要に迫られるだろう。

AIによる分析結果をもとに施設運用の最適化を図るビル管理人

施設管理の現場ではAIの活用が進んでいる(画像はイメージ)

4. 試験導入から成熟期へ向かうAI活用


不動産業界はAI導入の過程において重要な節目を迎えている。2025年にはAIの試験導入が急速に拡大した。JLLの最近のテクノロジー調査では、法人テナントの92%、投資家の88%が「AI導入プログラムを開始している」と回答した。2026年には、AIの有効性と拡張性について、不動産業界はより厳しい“審査”に直面することになるだろう。

現在、企業は平均5つのAI導入プログラム(データワークフロー、ポートフォリオ最適化、エネルギー管理、市場分析、リスクモデリング)を同時並行で進めている。しかし、導入目標の「多くを達成している」と回答した企業はわずか5%に過ぎなかった。

2026年、企業が2025年から推進し始めたAI導入計画が実験から定着への移行に苦慮する中、AIの“導入疲れ”が顕在化するだろう。体系的な計画なしに複数の実験的導入を見切り発車で始めた企業はROI(投資利益率)を示す必要に迫られるだろう。

データインフラや人材といった基盤となる“能力”が不足している企業は、AI導入の壁に突き当たり、戦略的な投資を行うか、AI導入計画自体を放棄するかの決断を迫られる可能性がある。

JLLの調査によると、全ての投資家層で60%が「依然として不動産関連機能とアセットタイプに対する統一されたテクノロジー戦略を策定していない」、テナント企業では70%が「AIに関するチェンジマネジメントの枠組みを整備していない」、50%が「デジタルおよびAI人材の確保に関して十分なリソースを保有していない」とそれぞれ回答している。

ライフサイエンスなどの特定業界では、CRE(不動産開発・不動産投資)におけるAI人材の確保が特に課題となっていることもわかった。

体系的にAIを導入している先行企業と試験導入に留まる後続企業との間で、パフォーマンス格差が拡大の一途を辿り、先行企業がさらにリードを広げる一方で、後続企業はAIへの投資継続を正当化することに今後は苦戦しそうだ。

AIによる変革が生産性・効率性の向上からワークフローの再設計とビジネスモデルの革新へと飛躍するにつれ、不動産業界が提案すべき付加価値にも変化の兆しが現れている。新たな市場の開拓、俊敏かつ柔軟な事業活動の展開、そしてデータに基づいて確固たる意思決定を行うための戦略的能力は、事業の成功を決定づける上でさらに重要性を増していくだろう。

大規模な太陽光発電施設

太陽光発電などの再生可能エネルギーを使用する不動産が増えている

5. 建物と電力システムの融合


2026年には、不動産とエネルギーは隣り合う関係性から相互依存へと移行するだろう。信頼性が高く、クリーンかつ手頃な価格の電力は賃料や立地と並んで不動産の競争力を決定づける大きな要因となりえる。不動産はエネルギーを消費するだけの場所ではなく、電力システムに統合された重要な“部品”として機能し始めているためだ。発電と蓄電、電力使用状況を管理しながら、新たな形の地域エネルギー市場に参加していくのだろう。

一方、電力システムへの負担が増大しているため、電気容量を増強するための取り組みが活発化している。2025年のデータセンターによる電力需要は世界全体で21%増加し、2030年までに2倍以上に増加すると予測されている。大型データセンターの近隣地域では、過去5年間で電気料金が1カ月間で最大267%も上昇した事例もあるほどだ。

エネルギーシステムは加速度的に増加していく電力需要に対応できるほど迅速に拡張することができず、その影響は不動産にまで及んでいる。エネルギーコストは賃料の最大26%を占めており、テナントを獲得するための競争力強化にはエネルギー使用効率を改善することが不可欠になっている。しかし、不動産にとってのメリットは電力コストの削減だけにとどまらない。電力価格の激しい変動、停電リスク、そして電力需要の急増などの様々な課題に対して、不動産は分散型エネルギーソリューションを通じて、こうした課題解決に貢献できるようになっている。

米国のカリフォルニア州やニュージャージー州、ドイツなどでは、政策による強力な枠組みと高騰する電力価格により、すでに太陽光発電とメーター設置型蓄電池が急速に普及しており、テナントに安心・安定を提供している。中国では、ビルオーナーとテナントは予電力系統の変動に備えるため、屋上太陽光発電の導入を加速させている。

今後の動向は明確だ。最先端を走っている上記のような市場において、不動産は受動的な“消費者”から能動的なエネルギー源へと進化しつつあり、オンサイトソリューションを起用している不動産は、賃料比較で25%-50%の収益増加をもたらす可能性があるとされている。

スマートフォンで不動産投資物件を調べている個人投資家

6. 事業用不動産投資の民主化


歴史的にみれば、事業用不動産への投資は機関投資家や不動産運用会社、ファミリーオフィス、そして個人富裕層による閉ざされた市場であった。資金調達の要件、運用ノウハウ、そして市場参入の障壁の高さは、経験豊富で十分な資金力を有する一部の投資家にのみ有利に働いていた。

しかし、新たなテクノロジーが台頭し、個人資産が増加の一途を辿り、多くの人々が高度な教育を受けられる昨今、事業用不動産への投資は“民主化”への道を開きつつある。

年金基金などの機関投資家は長年にわたりアセットマネージャーを通じて不動産へ投資してきたが、規制が変更され、投資環境が変わりつつある。例えば、英国のマンションハウス協定をはじめ、401(k)プランなどのサービスの一環としてプライベート不動産ファンドの組成を認める米国の大統領令など、今後数年のうちに不動産投資市場に新たな資本の波が押し寄せる可能性を秘めている。

年金や退職金制度の拡充に加え、過去15年間における個人資産の大幅な増加は、世界のプライベートエクイティ市場や株式市場と比較して相対的に価値の高い収益を生み出す資産…収益不動産を求める新たな投資家層を引き寄せている。世界金融危機以降、富裕層の資産総額は265%増加。2025年には15.4兆米ドルに達すると推定され、不動産への投資額の大幅な増加につながっている。

さらに、ブロックチェーンが事業用不動産投資のための現実的なプラットフォームとなったことも大きい。最近の注目すべき取引としては、KJRMのRealty Tokenや、ケネディクス、SMBC信託銀行、野村證券、BOOSTRYが賃貸住宅への投資のために公募したトークンなどが挙げられる。

こうした状況下、より多くの個人投資家がプライベート不動産ファンドへの投資機会を得ることになり、場合によっては高額不動産の端株を保有することさえ可能になった。事業用不動産投資の民主化がますます加速することになるだろう。

将来を見据えて行動する者が“真の勝者”になる

以上、2026年の不動産市場に変革をもたらすであろう6つの潮流を概観した。

結論として、目先の“戦術的”な対応ではなく、長期的視点に基づいた“戦略的”な適応を心がける企業・投資家に多くの利益をもたらす可能性が高い。コスト圧力、新規供給の抑制、付加価値となる“体験”、AIの成熟、エネルギーの融合、そして、投資の民主化という6つの論点は、それぞれ独立したものではなく、相互に深く関連しているためだ。

投資家がこうした市場環境下で成功するためには、従来の不動産投資戦略から脱却し、運用効率、経験、技術力、エネルギーパフォーマンス、そして資金調達を競争優位性の統合的な要素とする新たな投資戦略へと移行することが求められている。

そして、6つの潮流を「克服すべき課題」として捉えるのではなく、差別化を図るための絶好の機会とみなす投資家こそが、2026年以降の不動産市場における真のリーダーとして台頭するのではないだろうか。

また、不動産を単なる業務上の“必需品”として捉えるのではなく、イノベーション創発や生産性向上、そして事業成長に不可欠な戦略的プラットフォームとして認識するテナント企業こそが成功を掴むだろう。

不動産市場が前例のない変化の時代を乗り越えていく過程において、包括的な変革…すなわち短期的なコスト削減と長期的な戦略的ポジショニングのバランスを巧みに取りながら、投資し続ける者こそが不動産市場の未来を牽引していく…JLLはそのように予測している。