観客席から建物へ:米国女子プロスポーツリーグ人気が新たな不動産需要を喚起している
米国を中心に女子スポーツの人気が急上昇していることを受け、不動産投資家が専用スタジアムなどへの投資に注目していることは、JLLグローバルのコラム「【欧米】投資家が注目する女子スポーツ市場」(2024年7月)で紹介したが、現在はさらなる市場拡大の機運が高まっている。
50年にわたる発展が現在の成長モメンタムを支えている
女子プロスポーツリーグの近年の加速度的な商業化は、1972年に制定された「Title IX(教育における性差別禁止法)」を抜きに語ることができない。この画期的な法制度によって実現した歴史的な公平性がなければ幻に終わっていただろう。新たな法整備によって、女子スポーツのプログラム、施設、用具、奨学金などへの投資が一気に拡大した。
こうした取り組みは世代を越えて積み重なり、高度なスキルを備えた選手を多数輩出してきた。彼女たちは現役引退後コーチとして指導に携わる他、ユースプログラムの立ち上げや、女子スポーツの発展を後押しするアンバサダーとして活躍している。
現在では、選手層と支援人材が十分に集積したことで、複数の女子プロリーグが確立され、年間で数百万人規模の観客動員を実現できるまでの市場環境が整っている。
一方、近年の成長モメンタムを支える要因として、プライベートエクイティの市場参入や、著名人によるブランド化の動きも重要な役割を果たしている。機関投資家などが女子スポーツ·プロリーグが有する成長ポテンシャルを評価し始めており、複数のチームに対して成長戦略を支える資金を投入している。
例えば、WNBA(Women's National Basketball Association:米国の女子プロバスケットボールリーグ)の人気チームである「ニューヨーク·リバティ」は企業価値4億5,000万米ドルで少数持分株式を売却。その資金を専用のトレーニング施設の整備に充てている。
また、著名な個人投資家や支援者の存在は、女子スポーツの文化的な浸透を促進するうえでも大きな影響力を持つ。女性の著名人や元トップアスリートが、自身の知名度や資金力を活用し、新興リーグやチームの信頼性向上に貢献している。象徴的なのはNWSL(National Women's Soccer League:米国女子プロサッカーリーグ)の「エンジェル·シティFC」だろう。女優のナタリー·ポートマン、元プロテニス選手のセリーナ·ウィリアムズやビリー·ジーン·キングらが参画するグループによって設立され、2024年には過去最高水準の評価額で売却されるなど、女子プロスポーツチームの人気ぶりが窺える。
4年連続で過去最高の観客動員を記録
女子リーグは4年連続で観客動員数を更新、2020年以降のプロスポーツ来場者数の純増は女子リーグが牽引した
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのプロスポーツリーグが感染対策として観客の入場を大幅に制限、あるいは無観客開催を余儀なくされた。しかし、その後「体験型経済」は急速に回復し、2023年以降はプロスポーツの観客動員数は2019年の水準に回復。直近2年間ではそれを上回り始めている。
とはいえ、多くのプロリーグがコロナ前の水準に戻るか、微増にとどまる中、成長の主な原動力となっているのは女子リーグである。
例えば、WNBA、NWSL、PWSL(Professional Women's Hockey League:2024年に開幕した女子プロアイスホッケーリーグ)の3リーグによる総観客動員数は2019年に約210万人だったが、2022年には230万人、2023年には300万人、2024年には500万人へと拡大し、2025年には560万人に達している。これは、2020年以降におけるプロスポーツ全体の観客動員数の純増分が、実質的に女子プロリーグによって生み出されていることを示唆している。
出所: JLL Research, ESPN, 2025 ※MLB(Major League Baseball)、NBA(National Basketball Association)、NFL(National Football League)、MiLB(Minor League Baseball)、MLS(Major League Soccer)
観客動員数は、プロリーグに対する需要動向を最も正確に把握できる指標であり、テレビ視聴率やグッズ販売といった他の収益源とも高い相関関係がある。WNBAでは、2025年シーズンにおけるESPN/ABCで放映された試合の視聴者数が前年同期比で6%増を記録した。また、リーグ全体のマーチャンダイジング(関連商品の販売額)は前年比500-1,000%増とする報告もある。PWHLにおいても、初年度シーズンと第2シーズンを比較するとグッズ売上が100%増加したと発表された。
こうした成長はフランチャイズ価値にも反映されており、WNBAでは2025年にチーム評価額が約180%上昇した他、NWSLでも公開データが確認できる2023-2024年にかけて、チーム評価額が57%増加している。
専用施設の需要を喚起
女子プロスポーツ人気が拡大すると共に専用スタジアムなどの関連不動産需要が喚起されている(画像はイメージ)
観客動員数、視聴者数、フランチャイズ評価額の上昇に伴い、専用施設の必要性が高まっている
観客動員数、視聴者数、そしてフランチャイズ評価額の拡大は、女子プロスポーツチームがブランド強化や選手育成に向けた投資余地を大きく広げるきっかけとなっている。その中でも、投資の多くが新たな専用施設の整備に充てられているのが現状だ。WNBA、NWSL、PWHLに所属するチームの練習施設やフロントオフィスは2020年以降、急速に拡大しており、純増ベースで100万平方フィートを超える施設面積が新たに整備されている。
出所: JLL Research, 2025 ※2020年以降に行われたフロントオフィス・練習施設の純増分を含む
こうした成長の勢いは、主要な女子プロリーグ全体に広がっている。
リーグ拡大に伴い、支援施設や専用会場の整備がさらに加速
女子プロリーグの拡大が進むにつれ、新たな施設開発だけでなく、周辺地域での商業施設やホテルに代表される事業用不動産の利用面積は今後も拡大していくだろう。
WNBAは、2023年時点で12チームだったが、2030年までに18チーム体制への拡大計画を推進しており、新チームが段階的にリーグに参入している。2025年には「ゴールデンステート·ヴァルキリーズ」が新規参入を果たし、今後はポートランド、トロント、クリーブランド、デトロイト、フィラデルフィアに新フランチャイズが設立される予定だ。
NWSLではボストンとデンバーを拠点とする新チームが加わり、2026年シーズンからリーグに参戦する。PWHLは2024年の創設初年度の4チームから2025年には6チームへと拡大し、バンクーバーとシアトルに新チームが誕生した。さらに、早ければ2026-2027年シーズンから、最大4チームの新規参入が計画されている。
また、2025年に発表されたWPBL(Women's Pro Baseball League:女子プロ野球リーグ)は、2026年シーズン(8月)からニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、サンフランシスコの4都市で開幕する予定だ。
高い成長予測には不確実性も伴う
米国の主要な男子スポーツ·プロリーグを取り巻く環境は冴えない。国内市場はすでに成熟しており、視聴者数や観客動員数の増加は比較的緩やかなものにとどまっている。一方、女子プロリーグは現在、急激な成長軌道にあり、リーグ拡大、フランチャイズのブランド価値向上、そしてファン文化の成熟などが進むことで、この成長トレンドは今後も続く可能性が高い。
しかし、この成長予測には不確実性も伴う。リーグや各フランチャイズが、熱量の高いファン層を十分に獲得できない場合や、インフラとなるスタジアムの継続的な改善、観戦体験の向上、競技そのもののエンターテインメント性の強化を実現できなければ、成長トレンドが一巡した後に視聴者数·観客動員数が伸び悩む可能性もありえるだろう。
出所: JLL Research, 2025 ※WNBA、NWSL、PWHL、WPBLの総観客動員数
施設需要はさらに拡大
ベースラインとなる標準シナリオでは、2030年までに年間チケット販売数が1,000万枚規模へと急拡大し、加えて視聴者数やグッズ販売、フランチャイズ評価額が同時並行で成長することで、多くのフランチャイズが10万平方フィート超の専用施設やフロントオフィスを整備することが見込まれる。
標準シナリオでは女子プロリーグによる施設開発·取得規模は現時点から400%程度拡大し、2030年までに総延床面積が500万平方フィートを超える水準にまで達すると予想される。また、少なくとも1棟以上の女子スポーツ専用スタジアムが新規開発されるか、開発プロジェクトが発表される可能性が高い。
さらに、今後数十年にわたりブランド力とマーケティングが継続的に強化されれば、2043年には年間観客数は2,000万人超まで達する可能性がある。この段階に至るとリーグ全体で1,000万平方フィートを超える関連不動産が整備され、複数の専用スタジアムが整備されると共に、その多くがコンパクトな複合型エンターテインメントエリアの中核施設となることが想定される。
投資家・デベロッパーが女子スポーツ発展の最大の支援者に
会場や関連施設を戦略的に整備・運営できる投資家やデベロッパーにとって新たな事業成長の機会になる
女子リーグが「新興の存在」から「確立されたエンターテインメント産業」へとスケールアップしていく中で、施設に対するニーズも拡大し、規模や機能面において米国の主要男子プロリーグに近い水準へと進化していくだろう。
ファンの熱量を実際の動員へと転換できるライフスタイル型のスポーツ市場において、会場や関連施設を戦略的に整備·運営できる投資家やデベロッパーにとって新たな事業成長の機会になる。体験価値を軸とした需要を創出し、女子スポーツ市場の成長をさらに加速させる“支援者”となるだろう。
※本稿は、JLLグローバルが発表した「Bleachers to Buildings」を元に作成しました。一部AIを活用のうえ翻訳しています。公式な情報が必要な場合、英語の原文をご確認ください。