2026年 日本ホテル投資市場の今後の展望
著者
阿部 有希夫 ジェームズ
JLLの調査によると、2025年通年における日本の不動産投資総額は過去最高の6兆円超えを記録した。一方、これまで堅調に推移してきたホテルセクターは、一見すると調整局面に入ったかのような数字を示している。
2025年における日本のホテルセクターへの投資総額は5,924億円、ラグジュアリーホテルの大型取引やポートフォリオ取引が相次いだ2024年の投資総額1兆613億円と比較して44%減と大幅な落ち込みを見せた。インバウンド需要は極めて好調に推移しているものの、人件費の高騰や物価高による資材調達コストの負担増など、ホテル運営を取り巻くコスト面の課題を見て、ホテル投資の先行きを懸念する向きも一部にあった。
一方、国内ホテル投資市場に詳しいJLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 マネージングディレクター ヘッド オブ インベストメントセールズ 阿部 有希夫 ジェームズは「2025年のホテル投資額が前年比で減少した理由は大型取引が少なかったという偶発的なものに過ぎない」と指摘する。
JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部の調査によると、2025年におけるホテルの1件当たりの平均取引額は2024年比で40%低下している。一方、同期比における取引件数は20%減に留まっており、阿部の指摘する「大型取引が少なかった」という見解と一致している。
そもそも、2025年の投資額は過去10年(2016-2025年)平均の投資額を上回っており、JLLの調査開始以降、過去3番目の数字を積み上げている。2024年に記録的な投資額が積み上がったことによる“反動減”に過ぎない。
「2024年には投資額1,000億円超とされるホテル取引の他、ホテルポートフォリオなどの大型取引が重なった異例の年だった。2025年のホテル投資市場もいくつか大型取引はあったものの総投資額は及ばず。しかし客室あたり平均取引価格は前年と遜色ない」(阿部)
活況を呈する2026年上半期の日本ホテル投資市場
事実、2026年上半期の国内ホテル投資市場は大盛況に沸いた。
JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2026年上半期における国内ホテル投資額は4,431億円となり、前年同期比41%増を記録。コロナ禍(2020年)以降で2位となる投資額となった。
阿部は「過去最高を記録した2024年の年間投資額に迫る勢いを感じる」という。2026年上半期の主な取引は1,000億円超の取引額となった東京フルサービスホテルをはじめ、神奈川ホテルポートフォリオ投資、外資系投資家による大手不動産会社の全株式取得による大型ポートフォリオ取引などが挙げられる。
また、同期内にJLLが支援したホテル取引を見ると、東京や京都、大阪のみならず、名古屋などの地方都市やリゾートホテルの取引事例もあり、取引規模の大きさと共に投資家の視線が多様化していることが窺える。
ホテル投資の行方を左右する注目点
2026年上半期のホテル投資市場を支えた要因として、2025年には鳴りを潜めていた大型物件の取引が復活したことが大きな要因として挙げられるが、ホテル投資市場にとっての追い風はそれだけではない。
インバウンドの国籍シフト
日本政府観光局が2026年7月に発表した2026年上半期(1-6月)の訪日外国人観光客数は前年同期比2%減となり、コロナ以降初めてのマイナスとなった。最大の要因は2025年12月以降に顕在化した中国人観光客の渡航自粛だ。そのため2026年上半期はその数が前年同期比で58%減と大幅に落ち込んだ。
一方、中国からの訪日客の減少分は韓国や台湾、香港、タイからの訪日客増によって補填された。特に韓国・台湾からの訪日客は前年比20%超の増加となり、阿部は「中国人観光客の渡航自粛がホテルのパフォーマンスに与えた影響は最小限に抑えられている」との認識を示す。
主要都市のホテルパフォーマンスに明暗
阿部によると「日本全体でホテル市場のRevPARをみると全セグメント(対前年比でラグジュアリーが2%増、アップスケールが5%増、ミッドスケールが3%増)で伸びている」という。
特に好調なのが、日本の主要観光地である東京、京都だ。JLLの調査(2026年1-6月)によると、東京ではADR(客室単価)が上昇し、平均のRevPAR(1日当り販売可能客室数当り宿泊売上)は前年同期比9%増を記録。また、京都ではアップスケールホテルが7%増と目を引く。
一方、大阪ではラグジュアリーホテルのRevPARが前年比20%減となり、東京などと比べるとパフォーマンスが軟調だ。この要因は前年に開催された「大阪・関西万博」の反動減と、関西国際空港の利用が多い中国人観光客の渡航自粛によるものだ。ただし、阿部は「IR(統合型リゾート)の開発や万博跡地の再開発や中国人観光客の日本回帰も十分に考えられるため、足元の軟調なパフォーマンスには一時的な要因も大きく、ホテルの取引価格水準についても現時点で大きな調整は見られていない」と指摘する。
地方都市、リゾート地のホテル投資への関心
ホテル投資に関するファンダメンタルズは依然として期待値が高いが、阿部によると「東京や福岡へのホテル投資を志向する投資家は少なくないが、出物が少なくなっている」という。そのため、国内の主要市場とは別に、名古屋や金沢、札幌、ニセコ、白馬、旭川といった地方都市・リゾート地でのホテル投資を検討する投資家も増えつつあるという。
今後の展望
2026年上半期の活況を受けて、2026年下半期以降の国内ホテル投資市場の展望はどうなるのか?
阿部は「上昇局面にある国内金利の動向を注視する投資家が現れ始めた」としながらも、「宿泊料金を改定できるというホテルセクターならではのインフレ耐性によって、国内ホテル投資市場は引き続き注目を集めている」と指摘。金利上昇下でも投資優位性を維持しやすいホテルセクターならではの特性が評価されているという。
一方、金利上昇によって円高へ振れた場合、為替メリットが低下し、訪日観光客数の伸びにも影響を及ぼしそうだが、インバウンドにとって国内ラグジュアリーホテルのADR(客室単価)は相対的に割安感がある。半面、日本人旅行客にとって海外旅行は依然として為替メリットが見込めず割高感があるため、引き続き国内旅行の需要増が見込める。さらに、建築費高騰によってホテルの新規供給は抑制された状態が続いている。こうした状況を踏まえて、阿部は「2026年下半期以降もホテル投資を支える良好なファンダメンタルズは継続すると見ている」との見解を示す。
「国内ホテル投資市場には、従来の不動産ファンドやファミリーオフィス(富裕層の個人投資会社)に加え、これまで社会情勢に左右されるボラティリティの高さを懸念してホテル投資に慎重な姿勢を見せていた海外年金基金などの機関投資家からの問合せも増えている」(阿部)
日本のホテルセクターは機関投資家のポートフォリオに組み込まれるような主要アセットとして評価されるなど、今後も重要な投資対象であり続けるだろう。
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JLLは2000年以降、日本国内で累計1兆円を超えるホテル取引を支援した実績を持ち、今後も日本のホテル投資の需要喚起と専門的なアドバイザリー体制の強化を目指し、国内外投資家のホテル投資戦略を多角的に支援していきます。
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