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佐藤 2025年3月にサステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan:以下、SSBJ)が、日本で初となるサステナビリティ情報開示基準を公表しました。2027年3月から東証プライム市場に上場している時価総額3兆円以上の大手企業に適用され、開示基準に従って有価証券報告書で情報開示することが義務化されます。将来的には、中小企業にまで適用範囲が拡大される見込みです。適用開始となる2027年は目前に迫っており、様々な不動産セクターに関わるJLLとしては、この変化にしっかりと備えていく必要があります。このような状況を踏まえ、国内外の投資家・企業のサステナビリティ戦略を多角的に支援しているJLL日本 エナジー&サステナビリティサービス(以下、ESS)事業部長の松本 仁さんにご協力いただき、SSBJの情報開示義務化をテーマに議論を深めるべく、今回の対談を企画しました。記念すべき第1回目のゲストはテナント企業のオフィス移転プロジェクトを支援しているオフィス リーシング アドバイザリー事業部長の山口 成樹さんです。

●SSBJ情報開示基準とは?


SSBJ基準は企業が直面するサステナビリティ関連のリスクと機会を開示することにより投資判断の材料となるものである。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に情報開示基準の最終版を公表した。2027年3月期から時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業を対象に適用開始され、2030年代にプライム市場全上場企業の適用を見込んでいる。不動産業界については省エネや節水・廃棄物量削減の強化、グリーンビルディング認証・エネルギー格付認証の取得などに期待がかかる。


SSBJ基準について詳細情報は下記コラムを参照。


サステナビリティに対する顧客ニーズが多様化・複雑化

松本 仁さん

JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部長 松本 仁

松本 オフィス仲介・テナントコンサルティングサービスを提供するなか、サステナビリティ関連の顧客ニーズに変化はありますか?

山口 「(ニーズが)増え続けている」というのが率直な感想になります。ESSと共に顧客対応する機会が増えていることがそれを物語っています。サステナビリティ関連の顧客ニーズの変遷を振り返ると、2011年の東日本大震災後に「BCP(事業継続計画)対応」が求められるようになりました。当時は「サステナビリティ」という言葉が今ほど用いられていたわけではありませんが、近年になって「BCP」は広義の意味でサステナビリティに内包されるようになり、その言葉の持つ適用範囲は近年益々拡大しているように見受けられます。例えば、LEEDやWELLに代表されるグリーンビルディング認証の取得に関するご相談をはじめ、ウェルビーイングなオフィスづくり、再生可能エネルギーを供給するビルへの移転もその一端といえます。「省エネ」と一括りにすることができず、「何をすべきか」、「どんなアプローチを採るべきか」という点においてサステナビリティに関する顧客ニーズは多様化・複雑化してように感じられます。

 松本 2年ほど前に実施した山口さんの部署向けの社内アンケートでは「BCPに関する意見交換を頻繁に行っている」との回答が目立ちましたが、相対的に「ESG」や「サステナビリティ」については理解が進んでいないように見受けられました。それが今や担当者がサステナビリティについて一通りの説明ができなければならなくなっているわけですね。

 山口 テナント側は特にここ1、2年の変化が大きいように思います。ビルオーナー側の動きの方が早かったといえますが、これまではLEEDなどのグリーンビルディング認証を取得してもどちらかといえば環境規制への対応という側面が強かったように思います。しかし、環境意識の高いテナントの増加により、サステナブルなビルへの需要が高まり、オーナー側もこれを「戦略的投資」として捉えるようになってきました。つまり、サステナビリティへの取り組みが、中長期的な競争優位性や資産価値の向上に繋がるという認識が広まっているのです。オーナー側でもこうした変化が起きており、その根底にはテナントのニーズの変化があります。両者の意識がようやく合致し始めてきたのではないでしょうか。

 松本 企業がサステナビリティ注視される背景には、株主や投資家からの「外圧」が大きくなっていることが挙げられます。かつては経営層が感じる程度だったこのプレッシャーは、今や施設管理部や不動産部といった現場レベルまで浸透し、担当者から「圧を感じる」という言葉が頻繁に聞かれるほどです。SSBJによる情報開示義務化の要件が固まってくれば、企業の取り組みはさらに加速するのだと考えています。

企業のサステナビリティ人材の状況

山口 成樹さん

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部長 山口 成樹

佐藤 まさに避けては通れないテーマですね。

松本 SSBJ基準が直接的なきっかけとなって、具体的な対策を講じている企業はまだまだ少ないかもしれませんが、企業がその影響を感じ始めていることは確かです。

山口 開示要求に応じなければならない「義務化」ですから今後の対応は必須といえそうですね。まずは時価総額3兆円超の大手企業から始まり、3年ほどの間に適用拡大していく方向性ですね。

佐藤 最終的には大手企業以外、いわゆる中小企業も対象になります。

山口 松本さんが先ほどおっしゃった通り、経営層が外圧を感じ、現場の担当部署に指示が下りてきているため、彼らは対応を迫られています。その結果、「何から手をつければいいのか」という相談も含めて、JLLにサステナビリティに関する問い合わせが増えてきているのだと思います。大手企業を中心に早期から準備を進めているテナントが存在する一方で、中小企業では対応の遅れや情報不足による懸念が見られます。特にサステナビリティ専門部署を持たない企業では準備に苦慮しているケースが多いのではないかと思います。

松本 日系企業の場合、業種というよりは「規模」によって意識の差が大きいのが実情でしょう。時価総額3兆円以上の企業は約70社(2025年6月時点)存在しますが、GPIFが今年5月に公表したアンケートでは、それら企業を含めた上場企業の約3割は2027年3月の義務化を待たず、すでに有価証券報告書や統合報告書への記載などの取り組みを始めていると回答しています。

山口 大手企業は義務化開始に先んじて対応していることが市場に対するアピール材料になることを熟知しており、準備段階を含めて、すでに動き出しているのでしょう。サステナビリティ規制の高度化・複雑化が進むなか、松本さんは企業側のサステナビリティ人材の状況について、どう感じていますか?

 松本 先日、日系大手企業の方々とサステナビリティ戦略について議論する機会に恵まれましたが、担当者の意識レベルはまちまちです。ただ、外国人・外国投資家の持株比率が高い、または今後高くなると考えている企業や、海外での業務経験が豊富な方が着任すると、サステナビリティ施策が一気に進む傾向が強いですね。以前、某日系企業のオフィス移転プロジェクトで営業に伺った際、先方のサステナビリティ担当者は海外で経験を積まれた方で、我々の提案内容を即座に理解してくださいました。その企業はプライム市場の中でも時価総額が5,000億円以下。義務化の対象になるのは2029年以降のはずで、むしろその時期はまだSSBJの内容も最終化されていなかった段階にもかかわらず、すでに「ESG投資への対策は絶対に必要だ」と力説されていたのが印象的でした。

SSBJ基準に対する不動産コンサルタントの役割

山口 現時点では、担当者個人の知見やモチベーションに頼っている部分が大きいのかもしれませんね。そうなると、育成時間やコストを考慮してサステナビリティ関連業務はアウトソース(外注)が多くなりそうですね。

 松本 そうですね。ただ、サステナビリティの根幹をなすマテリアリティ(重要課題)の設定まで外注してしまうと、それは自社の取り組みとはいえなくなってしまいます。ですから、そこは企業自らが行うべきでしょう。企業が自社の生業…例えばメーカーであれば製品の開発手法などの主業においてマテリアリティを設定する際に「不動産・施設管理のサステナブル化」といったテーマがどうしても浮かび上がってくるはずです。そのマテリアリティをどう設定するか、具体的なアドバイスとソリューションを提案するのが不動産コンサルタントとしてのJLLの存在意義といえます。

佐藤 例えば、オフィス移転を検討しているクライアントに対して、LEED認証を取得しやすいエリア・物件を提案するなど、不動産に関する具体的な施策を提案するということが不動産コンサルタントに求められる役割ということでしょうか?

松本 経営コンサルタントのようにSSBJなどの上流について解説するだけでは実行力が伴わず、なおかつ現場担当者に「なぜ、その施策が必要なのか」を理解してもらうのが非常に難しい。そのため、施設の環境評価に該当するLEED認証をESGのうちの“E(Environment)”としての位置づけ、ウェルビーイング・作業効率・快適性を示すWELL認証をESGのうちの“S(Social)”としての位置づけとするなど、すでに一定程度の理解が広がっているサステナビリティ施策がSSBJ基準に適応することを説明し、納得いただいた上で協働することが重要だと考えています。

山口 しかし、企業のオフィス移転プロジェクトの実情は、人員増による面積不足などといった直接的課題を解決するために移転計画が始動することが大半で、その過程でESGへの対応が必要であることに気が付き、後追いで相談を受けるケースが大多数です。

松本 確かに、移転先をすでに決定してしまうと、入居予定のビルの立地・性能によっては希望するランクを取得できない可能性があります。

佐藤 JLL日本の東京オフィス・関西オフィスは2022年末に統合移転しましたが、LEEDの最高ランクであるプラチナ(東京)・ゴールド(関西)、WELLの最高ランクのプラチナ(東京・関西)を取得することを前提に物件選定を行いました。それとは正反対のアプローチといえそうですね。

JLL日本の東京オフィス

グリーンビル認証を取得したJLL東京オフィス

松本 JLLの場合は主要国のオフィスについてサステナビリティ基準を策定しており、LEED・WELL認証取得という具体的施策に落とし込むことができました。しかし、そうした基準に具体的な施策を明確に表現している国内企業はまだ少ないです。ただ一方では、体力のある世界的大企業で、自分の設定したマテリアリティを的確に体言化するにはLEED・WELL認証の要件では“ズレ”が出るため、自社で認証システムを開発して審査員まで内製化している、かなり先進的なところも出てきました。JLLはサステナビリティ基準を構築するための支援を行っており、オフィス環境を一新する移転プロジェクトがサステナビリティ戦略を推進するための絶好の機会ともいえます。ですので、オフィス移転・改修の検討段階から早めにご相談いただいたほうが選択肢を増やすことができます。

山口 オフィス移転のプライオリティは各企業で様々ですが、環境認証取得などのサステナビリティ目標の優先順位も事前に検討しておくことがプロジェクト成功の鍵となるのではないでしょうか。

佐藤 そういった意味では、JLLはオフィス移転の早期検討段階からサステナビリティ施策に対応できるチーム体制を組み、賃料や立地だけにフォーカスせず、将来的に必要なサステナビリティ施策まで包括的に提案することができる点が他のオフィスコンサル会社にはない強みといえますね。本日はありがとうございました。

SSBJ基準に対する不動産サステナビリティ対策のご相談はJLLへ

2027年3月から適用されるSSBJ基準への対応として不動産業界では省エネ・節水強化・廃棄物削減、LEEDやWELLといったグリーンビルディング認証取得がより重要になり、特にオフィス移転・リニューアル時に検討することで選択肢を増やすことに繋がります。

JLLはサステナビリティとオフィス移転コンサルティングの専門家が連携し、お客様のサステナビリティ目標を達成しながら、理想的なオフィス戦略の実現を支援しています。JLLが提供しているサステナビリティサービスの資料請求、SSBJ基準に関する相談・問い合わせは下記をご覧ください。