KINTOテクノロジーズ - 地方都市への新規オフィス開設を支援
著者
中西 純輝
瀧尾 智之
人材採用強化を視野に福岡にオフィスを新設
少子高齢化に伴う人材不足が顕著な日本において、将来を担う優秀な若手人材をいかに確保するか、多くの日系企業にとって喫緊の課題となっている。そうした中、人材採用市場において競争激化が著しい東京ではなく、地方都市での人材採用を視野に地方オフィスを新規開設する企業も少なくない。例えば、トヨタグループの内製開発組織であるKINTOテクロジーズ株式会社(以下、KINTOテクノロジーズ)がその好例といえるだろう。
2025年12月、KINTOテクノロジーズはIT開発に特化したオフィス「Fukuoka Tech Lab(以下、福岡オフィス)」を新規開設した。純粋な開発拠点としてのオフィスは大阪オフィス(Osaka Tech Lab)に続いて2拠点目、同社全体では5拠点目となる。
本プロジェクトにおいて、JLLは移転候補となるオフィス物件のソーシングや入居工事に伴うPM会社・オーナーとの交渉、内装工事のスケジュール調整などにおいてクライアントを支援。クライアントの意向でもある早期稼働と、人材採用に寄与する快適な執務環境の構築に貢献した。
福岡にオフィスを新設した理由
KINTOテクノロジーズが新規オフィスを開設する場に選んだのが福岡市屈指の繁華街である天神地区だ。その理由について、KINTOテクノロジーズ 技術広報部 部長 兼 Fukuoka Tech Lab拠点長を務める新田 洋平氏は次のように説明する。
「最大の理由はグループ全体の開発競争力を高めるための人材採用の強化だ」
AIやクラウドといった先進技術を扱うエンジニアの採用競争が激化の一途を辿る中、同社は札幌市と福岡市を候補地として選定。最終決定に向けて両市でまったく同じ内容の技術セミナーを開催したところ、福岡市では参加募集を開始してからわずか1週間足らずで定員に達するなど、圧倒的な反響があったという。この“熱量”が福岡市選定の決め手になった。
さらに、福岡市は同社が開発した「my route by KINTO」の利用者が全国で最も多い都市であり、かつトヨタグループの関連会社が集積する九州の中心地でもある。地元のユーザーやパートナー企業とのシナジー効果が期待できることも大きな後押しになった。
「港」から「橋をかける」 - コミュニティを育むオフィスの魅力
入居先となったのが天神地区の新たなランドマーク「福岡大名ガーデンシティ」16階だ。同ビルは福岡市が推進する面的大型再開発プロジェクト「天神ビッグバン」による新規開発物件として2023年3月に竣工。最上階にラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡」、敷地内には旧大名小学校校舎を再利用した官民協働型のインキュベーション施設「Fukuoka Growth Next」や地域交流を促進する公民館、広大な芝生広場など、多様な機能を有している。
コンセプト&デザイン
オフィスのコンセプト「橋をかける(WE BUILD BRIDGES)」を実現するための空間デザインは「Port(港)」をテーマとした。新たな出会いやイノベーションが生まれる「橋」の出発点であり、多様な才能が集う結節点としての「港」。国内有数の国際拠点港湾である博多港に着想を得て、マンハッタンの港を思わせる武骨さと洗練さが共存する空間を生み出した。
「異なる分野のエンジニア、地方都市、地元テック企業・団体、そして若者や多国籍な人材など、様々なステークホルダーを繋ぐ『橋』として機能するようなオフィスを目指した」(新田氏)
最大の特徴は入口正面に位置するカフェスペースだ。人材採用の促進を視野に、新田氏が厳選した地元人気店のコーヒー豆を”入荷“。本格的なドリップコーヒーを堪能しながら自然なコミュニケーションが育まれる場として機能している。カフェスペースのファサードには住宅の外壁などに用いられる建材「ガルバリウム」を用い、港に積み上げられた「コンテナ」のような力強い存在感を放っている。
同社のオフィス運営や人事を担当するKINTOテクノロジーズ 開発支援部 人事グループ 辻本 訓明氏は「カフェスペースを導入しているのは福岡オフィスのみ」と説明する。
「当社のオフィスには『ジャンクション』と呼ばれる広大なイベントスペースが整備され、社外からゲストを招き大々的なイベントを行うなど、社員の多様な取り組みを支援している。しかし、福岡オフィスは規模的な制約があり『ジャンクション』を開設するのが難しい。一方、人材採用の観点からオフィスに何らかの魅力付けが必要だと考え、最終的にカフェスペースを設けることにした」(辻本氏)
また、休憩エリアや窓際のスタンドテーブルに導入された照明からも「港」のイメージが感じられる。夜間になると自動で照度が下がり、“夜の港”のようなシックな雰囲気を醸し出す。
快適なオフィス環境は、そのまま出社率の高さに直結している。ハイブリッドワークを推奨する同社だが、新田氏によると「福岡オフィスは他拠点より出社率が高い傾向にある」とし、「オフィスに来るとやる気が出る」「雑談から仕事のヒントが生まれる」とスタッフからの評価が高い。飛行機が離発着する姿や福岡市街地が一望できる抜群の眺望、常に新しい発見がある天神地区ならではの活気にあふれた街を歩く魅力なども従業員エンゲージメントを高める一因となっているという。
プロジェクトの課題
社員が「出社したくなるオフィス」として早くも高い評価を得ている福岡オフィス。しかし、その完成に至るまでには、乗り越えるべきいくつかのハードルが存在した。最大の課題は、開業までの「タイトなスケジュールによる内装工事工程の調整」だった。
JLLのアプローチ
本プロジェクトを成功に導くため、JLLはKINTOテクノロジーズに寄り添い、オフィス物件の提案のみならず、内装工事を安全かつ迅速に進めるために多角的な支援を行った。
当初は博多駅周辺と天神地区が候補となっていたが、従前から若者が集い、面的再開発「天神ビッグバン」によって劇的な変貌を遂げつつある天神地区の新築ビルを中心に候補先を提案。最終的に、地域コミュニティとの連携やインキュベーション施設とのコラボレーションなどが期待できる「福岡大名ガーデンシティ」を選定した。
一方、入居時の最大の課題となった「開業までのタイトな工事スケジュールの調整」において、JLLはオーナーサイドとの交渉に臨むクライアントをサポート。新田氏の入社と同時に開業準備や新規採用など福岡オフィスの稼働を早期に実現すべく、一時は内装工事中のオフィスの傍らに机を置き、初期メンバーが業務に励んだという苦労話も「今となっては良い経験だった」と新田氏は破顔する。
「JLLの担当者に尽力してもらったことでオーナーサイドには様々な便宜を図ってもらえ、計画通りに無事オフィスを開業させることができた」(辻本氏)
今後の展望
本格稼働から約9カ月(2026年8月時点)を経て、福岡オフィスは目論見通り社内外のコミュニティハブとして機能し始めている。同フロアに入居するテック企業との交流や台湾企業とのコラボレーションの他、大学生を対象にしたハッカソン、九州全体のエンジニアが集う勉強会などの企画も浮上しており、様々な「橋をかける」活動を実現している。
新田氏が「形だけの産官学連携ではなく、本当の意味での連携を実現できる場所となり得る」と語るように、単なるオフィスではなく、 大きな可能性を秘めた“港”として新たなイノベーションやコミュニティを輩出していくのではないだろうか。
関係者の声
クライアント:KINTOテクノロジーズ
KINTOテクノロジーズ 技術広報部 部長 兼 Fukuoka Tech Lab拠点長 新田 洋平氏は次のように述べています。
「福岡オフィスを開設した最大の目的は、KINTOテクノロジーズとしての開発競争力を高めるための人材採用を強化するための人材採用です。特に近年のトレンドであるAIやクラウドを扱えるエンジニアは市場価値が非常に高いのですが、若く優秀なエンジニアが集う福岡だからこそ、高度な技術を有する若いエンジニアの採用を順調に進めることができています。
福岡オフィスは当社の中でも出社率が高く、居心地がよく、モチベーションが高まる空間になっています。スタッフからは『顔を合わせて会話することによる偶発的なアイデアや連携が生まれやすい』と好評です。現在は10名ほどの規模なので、全員で集まり、テーマを決めずに1時間ほど雑談する機会を設けているのですが、そこから思わぬ発見があったり、滞っていた業務の課題がすんなり解消することも少なくありません。また、天神地区というロケーション自体も大きな魅力です。ランチがてら散歩するだけで気分転換になりますし、飲食店などが充実しているため『オフィス内にすべての機能を詰め込まなくても、一歩外に出れば“街”が満たしてくれる』という周辺環境の豊かさにも助けられています。
最近、地元の大学教授から『エンジニア志望の学生たちとのハッカソンや交流の場として福岡オフィスを活用したい』とのお声がけをいただくなど、コミュニティハブとしての手応えも感じ始めています。オフィスの魅力をフックに、学生をはじめとする若い世代に向けて当社のような『ユニークで、自分が挑戦したい仕事に没頭できる会社』が九州に存在しているということを、より広く深く発信していきたいです」
KINTOテクノロジーズ 開発支援部 人事グループ 辻本 訓明氏は次のように述べています。
「もともとのきっかけは、JLLが東京オフィスで実施していたオフィスツアーに参加させていただいたことでした。その後、実際に福岡オフィスの立ち上げが決まった際、真っ先にJLLにご相談させていただきました。JLLのオフィスにはゲストエリアの正面にある素晴らしいカフェスペースや豊かな屋内緑化、社員同士のコミュニケーションを活性化させるための数々の仕掛けが行われ、福岡オフィスを開設する際にも参考にさせてもらいました。
今回のプロジェクトは開設までのスケジュールのタイトさ、内装工事実施時の変則的な対応など、多くの挑戦を伴うものでした。しかし、JLLの担当者が当社に深く寄り添い、多大な尽力をいただいたおかげで、スムーズにオフィスを開設できたことに感謝しています」
JLL担当者の声
本プロジェクトを担当したJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 マネージャー 中西 純輝は次のように述べています。
「当社が実施しているJLL東京オフィスの見学ツアーにKINTOテクノロジーズ様にご参加いただきました。オフィス運営の改善などに注力されていることをうかがい、当社として何かお力になれることはないかと考え、オフィス市況のデータ提供や最新のオフィストレンドなどの情報提供を行う中、今回の福岡オフィスの新規開設プロジェクトについてご相談をいただきました。プロジェクトに関する実務はJLL 福岡支社が担当しましたが、私は東京オフィスに常駐されているプロジェクトご担当者様と密に連絡を取り、プロジェクトに対する懸念点などをヒアリングし、現地メンバーと連携してプロジェクトのスムーズな進行をサポートしました」
本プロジェクトを担当したJLL日本 福岡支社 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアディレクター 瀧尾 智之は次のように述べています。
「今回のプロジェクトでは、移転候補となるオフィス物件の提案に加え、オフィスの新規開設でありながら『早期のオフィス稼働』をいかに実現するかが焦点でした。安全性の確保や工事の騒音に対する配慮など、オーナーサイドと交渉するクライアントをサポートし、最終的に様々な便宜を図っていただき、滞りなくオフィスの本格稼働を迎えることができました。
今回のプロジェクトのように、地方都市へオフィスを新規開設する場合、地元のビルオーナーとうまく意思疎通を図ることが非常に重要です。JLLでは福岡支社を構え、地元に精通したオフィス移転コンサルタントがオーナーサイドとの交渉を支援できたことが今回のプロジェクトを無事に完遂することに繋がったと考えています。企業誘致を目的とした補助金制度などを用意している地方都市も多く、こうしたインセンティブを活用することでオフィス開設に伴うコスト負担を軽減することも可能です。JLLは地方オフィスの開設を検討する企業に対し、補助金制度の活用や行政との橋渡しなど、多角的な支援を提供します。今回のプロジェクトが示すように、地域に根差した知見と交渉力こそが、地方進出における成功の鍵を握ります。企業の未来を拓く戦略的なオフィス移転のパートナーとして、ぜひJLLにご相談ください」