メインコンテンツにスキップ

調整局面に入った東京オフィス市場

コロナ禍を機に広がったリモートワークを恒常的に働き方に取り入れ、いまやオフィス出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークが定着しつつある。その半面、オフィスへの全社員出社という前提が失われ、1フロアにすべての執務機能を集約させるという従来型のオフィス戦略を見直し、リモートワークで余剰となった床面積を調整する動きが顕在化している。その結果、コロナ以降、東京オフィスビル市場は空室率が上昇し、賃料調整局面に入った。

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2021年第4四半期末時点の東京Aグレードオフィスにおける空室率は3.5%、前年同期比2.2ポイント上昇した。また賃料は月額坪あたり36,274円となり、前年比7.0%の下落となった。実に7四半期連続の賃料下落となる中、2021年の新規入居面積を退去面積が超え、2023年にはオフィスの大量供給が控えるなど、今後も空室率の上昇が予想される。

 

市場全体は軟調でもAグレードオフィスの半数は満室稼働

近代的なオフィスビルの前の街の風景を背景に、都会のバルコニーでビジネスプロジェクトに協力しながらノートパソコンを持つ若いプロのビジネスパートナー

東京Aグレードオフィスはコロナ禍を受けて優勝劣敗が鮮明に(画像はイメージ)

交通アクセスに劣る不利な立地、築年が経過しグレードが相対的に低下したビル等、競争力が低いビルが苦戦している。優勝劣敗が鮮明になってきた

数値を見るとオフィス市場は確かに軟調といえる。しかし、個別物件では稼働率に大きな差が生じており、実態は一部のオフィスビルに大量の空室が集中しているに過ぎない。JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2022年1月末時点の東京Aグレードオフィス市場において調査対象となる全203棟のうち、半数に上る103棟が満室稼働がとなる一方、空室を抱える100棟のうち、空室率上位15棟で全空室の50%を占めることが判明した。

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 谷口 学は「交通アクセスに劣る不利な立地、築年が経過しグレードが相対的に低下したビル等、競争力が低いビルが苦戦している。優勝劣敗が鮮明になってきた」と指摘する。

コロナ禍で重視されるオフィス移転時の3つの基準

では、コロナ禍において、企業が何を重視してオフィス移転を進めているのか。企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 千福 英樹は「①駅近などの立地条件、②高ビルグレード、③築浅物件」の3つの基準を挙げ、「これらの物件にテナントニーズが集中している半面、条件に合致しない物件は需要が集まらない。人気・不人気の二極化が進んでいる印象を受ける」との見解を示す。

下記はコロナ禍で実施された企業のオフィス移転事例の一部だ。いずれも事業成長に伴う前向きな拡張移転となり、3つの理由に基づくものだ。

立地改善の移転事例

 

リーガルテックの急成長企業であるLegalOn Technologiesは2024年4月、交通利便性や人材採用に寄与するとの考えから、渋谷の最新オフィスビルへ拡張移転した。個人とチームの成長を融合・加速させる新オフィスは驚異的な事業成長を支える“イノベーション創発の場”としても期待される。

LegalOn Technologiesのオフィス移転事例はこちら

高グレードビルへの移転事例

 

クラウド型のセキュリティカメラの開発と、それに伴う各種サービスを提供しているセーフィーは2023年7月、築年が経過したオフィスビル3棟に分散していたオフィスを高グレードビル「住友不動産大崎ガーデンタワー」17階に統合移転した。新オフィスのコンセプトは「誰もが出社したくなるオフィス」とし、社員の出社回帰を促すべく、働きやすい環境づくりを推進。営業活動に寄与するショールームを拡充した他、コミュニケーション活性化に寄与するオフィス環境づくりを実践している。

セーフィーのオフィス移転事例の詳細はこちら

築浅ビルへの移転事例

 

資生堂グループで日本国内のマーケティングおよび販売、国内子会社・ブランドの統括を担う資生堂ジャパンは都内に点在する営業拠点を統合し、竣工したばかりの大規模オフィスビル「日本生命浜松町クレアタワー」に新本社オフィスを開設した。「SJ-STATION」と命名された新本社オフィスは「ブランド価値向上」、「離合集散」、「ストックからフローへ」、「機能的なオフィス」といった4つのビジネスビジョンを取り入れている。マーケター、商品開発、営業、店頭販売を担うビューティーコンサルタント、バックオフィスまで一体感をもって営業活動に取り組み、「自らマーケットを生み出す」意識を社内で共有できる執務環境にこだわった。

資生堂ジャパンのオフィス移転事例の詳細はこちら

コロナ後のオフィスビル選びは「広さ」から「質」へ

コロナ前は、生産性向上、イノベーション創発、コミュニケーション活性化などを視野にワンフロアに執務機能を集約する拡張移転が圧倒的に多かった。いわば「広さ」を重視していたが、千福は「コロナ以降は『質』を重視する企業が目立ってきている」と指摘する。

「コロナに関わらず企業は優秀な人材確保を重要視している。そのため、採用に有利な立地性、企業のブランディングに寄与するビルグレード、そして社員のエンゲージメントを高められる屋内設備やしつらえ。こうした人材確保や長期雇用に寄与するオフィスづくりに適した入居先を多くの企業が求めるようになっている」(千福)

企業の人事担当者と学生が集団面接をしている様子

人材確保、長期雇用の維持を目的にオフィスを移転する企業が増加(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA

これまでの社会的価値観を一変させたコロナ禍は、働き方やオフィスの在り方にも影響を及ぼした。ソロワークは在宅勤務で対応する傍ら、コラボレーションやイノベーションを促すオフィス機能が重視されるなど、オフィスだからこそ持ち得る本質的な価値に着目し、アフターコロナに向けたオフィス戦略を実行に移す過渡期にある。そうした中、オフィスに対する企業の価値観は多様化しているが、共通するのは「優秀な人材を確保する」に他ならない。

ウェルビーイング、サステナビリティがオフィスビル選びの新たな条件に

これまで以上にオフィスビルに対してテナントが求める要求が高くなりそうな要素が、欧米で議論が先行している「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」だろう。

ウェルビーイング

 

コロナ感染を防ぐ各種対応によって従業員の健康を守る他、リモートワークによるコミュニケーションの低下に伴って増加傾向にある従業員の心理的不安を解消するためのワークプレイス戦略の一環で、ヒトが集うオフィスの重要性がこれまで以上に高まっている。共用部の非接触対応をはじめ、専有部の換気機能の強化、さらに多様な働き方に対応できる共用スペースを備えたオフィスビルをはじめ、個室サウナやリラクゼーションルーム付きの「健康促進型」サービスオフィスなど、ウェルビーイングに配慮したオフィスが続々と登場している。

サステナビリティ

 

異常気象の急激な増加など、世界が喫緊の課題としてサステナビリティを重視し始めた。特に不動産は二酸化炭素排出量の40%を排出しているとされ、多くの企業がサステナビリティ重視の経営戦略に移行しつつある。こうした状況を受けて、事業活動の舞台となるオフィスビルに対して、より多くの企業がサステナビリティを重視することが予想される。グリーンビル認証の取得に寄与する環境配慮型オフィスビルを志向するテナントも存在し、昨今では再生可能エネルギー由来の電力供給を行うオフィスビルにも注目が集まっている。

選択肢が増える中、移転先の情報収集はさらに重要に

冒頭で触れた通り、東京オフィス市場は軟調となり、今後も徐々に空室率の上昇が予想されるが、テナントにとっては移転先の選択肢が増える状況となり、オフィス戦略を1から再構築できるタイミングともいえる。一方、一般的なオフィスビルのみならず、居抜きセットアップオフィスフレキシブルオフィスなど、入居先の選択肢も広がっている。自社に最適な移転先を見極めることが難しい状況ともいえ、移転先の情報収集・分析がこれまで以上に重要になりそうだ。

JLLのオフィスビル検索サイト「Office Finder」はこちら