持続可能な開発目標(SDGs)とは?
まずはSDGsの定義を再確認しておこう。
SDGs(Sustainable Development Goals)は日本語では「持続可能な開発目標」と表記され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標だ。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている。
行動目標(ゴール)は以下の17に分類され、さらに169のターゲットが存在する。日本政府も「SDGs推進本部」を主体に目標達成への指針を策定し、官公庁や企業への取り組みを促している。
出所:外務省『パンフレット:持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取り組み』
企業戦略で重要な役目を果たすオフィスは、SDGs達成に寄与する要素を持ち合わせており、積極的な取り組みを図ることで、投資家への企業プレゼンス、ブランディングに直結する
オフィスでSDGsに取り組むことで得られるメリット
企業戦略のプロセスにおいてSDGsに配慮した取り組みは、CSR(Corporate Social Resposibility:企業の社会的責任)に関連させて行う等、CRE戦略に組み込まれるケースが多い。
企業価値・ブランドイメージが向上する
SDGs実現に向けて、環境・社会・企業統治の観点で、企業が行う社会的活動を評価し投資するESG投資の概念が注目され始めたことにより、サステナビリティの要素が欠かせなくなってきている。企業戦略で重要な役目を果たすオフィスは、従業員の働きがいや健康を示すウェルビーイングの構築、オフィスビルの脱炭素化、省エネルギー対策等、SDGs達成に寄与する要素を持ち合わせており、積極的な取り組みを図ることで、投資家への企業プレゼンス、ブランディングに直結する。
出所:JLLレポート「従業員の視点から考える不動産・オフィスのサステナビリティ」
従業員の満足度が向上し、離職率低下につながる
また、SDGsに配慮したオフィスへの取り組みは、従業員のエンゲージメントの向上による離職率の改善、施設の管理・運営の最適化によるコスト削減と、環境や社会への貢献だけでなく、長期的な視点で企業へのメリットとして効果が現れやすい。
将来的なリスクヘッジができる
企業戦略におけるSDGs達成に向けたオフィス最適化は、環境や社会、企業の包括的な循環を作り出すことが可能と考えられ、そのためには、従来の考え方を転換していくことがこれからの時代を先導する企業として欠かせない過程となってくるだろう。
オフィスビル全体の脱炭素化
SDGs達成のための17の目標「エネルギーをみんなにそしてグリーンに」にも該当するオフィスビルの脱炭素化。2030年までに二酸化炭素排出量を45%削減するというスケジュールが提示されたパリ協定を機に、企業の”オフィスビルの脱炭素化”への取り組みが活発になっている。世界の二酸化炭素排出量の約40%を不動産が占めるとされる現状から、オフィスビルの脱炭素化は持続可能な環境や社会を作っていく上で大きな役割を果たす。不動産業界のグリーンビルディング化の機運が高まっていることから、企業としても積極的に省エネ対策を講じているケースも多い。例えば、不動産テックのIoT技術を用い、オフィス内に設置されたセンサーで測定した温度や照度を基準とし、空調や照明を自動で最適化することで高い省エネ効果を発揮し、二酸化炭素排出を削減するケースも見られる。”脱炭素化”という響きは、遥か遠くに感じるかもしれないが、テクノロジーによる最新技術を駆使することで、SDGs達成へ寄与するだけでなく、長期的な観点で企業への費用対効果も生み出すことができるのだ。
働くヒトのウェルビーイングを重視したオフィス環境づくり
ヒトが働く上で欠かせないオフィス環境の最適化は、従前から企業の課題とされてきたトピックであり、SDGsやESGに配慮した取り組みの中で重要な項目となっている。オフィス環境の最適化は、ヒトの健康に関係する安全衛生だけでなく、心理的安全性を高め、個人のウェルビーイングを向上し、組織全体のパフォーマンスを改善することにも繋がる。最近では、従業員やクライアントであるステークホルダーのウェルビーイングを意識したオフィスを評価する、CASBEEウェルネスオフィス評価認証やWELL認証も存在し、SDGs達成やESG投資に向けた企業の戦略的な取り組みにも影響している。
SDGsに配慮したオフィスへの取り組みは、ただ闇雲に行うのではなく、企業戦略としての道のりを策定し、計画的に進めていくことが重要となる。そのためにはSDGsという壮大な目標をまず本質的に理解し、ESG投資等の広い観点を持ちつつ、環境問題解決への行動を積極的に行っていくことが、今後の企業の繁栄に深く関連してくるだろう。
SDGsの取り組みとしてオフィスで企業が実践できること7選
事業としての取り組みにとどまらず、オフィス環境の改善や日々の業務の工夫によって企業がSDGsのゴールに貢献できることは意外にも数多い。ここでは7つの実践を取り上げて解説する。
ペーパーレス化・省エネ推進
従来は用紙代・印刷代や保管・廃棄などのコスト削減の観点で推進されてきたオフィスのペーパーレス化だが、紙の原料である森林の伐採や焼却時のCO2排出量を減らすことで、17の目標のうち「目標15:陸の豊かさも守ろう」にも貢献できる。
省エネも同様で、自社のコストを意識した電力使用の見直し・削減だけでなく「目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の達成にも寄与する。
プラスチック製品の削減
プラスチック製品の使用を減らすことで、海洋生物の生態系破壊を食い止める「目標14:海の豊かさを守ろう」に貢献できる。
外食産業や小売店ではすでに多くの企業が実施している、包装材や食器などのプラスチック製品からサステナブル素材への転換だが、一般消費者向けでなく自社オフィスにおいてもカフェスペースオフィス文具・消耗品のパッケージなどで脱プラスチックは推進可能だ。
働き方改革の推進
働き方改革の推進により、多様な働き方の実現や従業員のウェルビーイングを意識したオフィス環境構築が進めば、誰もが人間らしく働ける社会の実現を目指した「目標8:働きがいも 経済成長も」の実現に寄与する。
働きやすさを重視したオフィスデザイン・レイアウトの導入
世界的に多様な働き方が認められつつある現在、新しいオフィスのありかたは、オフィス起点ではなくヒト起点の要素が盛り込まれたオフィスデザインへと変容しつつある。
その一例として、ABWやフレキシブルオフィスへの転換はSDGsの「目標8:働きがいも、経済成長も」へとつながるポイントだ。
また、JLLの調査レポートによれば、従業員の8割が、自然の採光や緑化・屋上庭園など、自然とのつながりを感じられるバイオフィリックデザインのオフィスビルを期待していることも分かっている。
ユニバーサルデザインの導入
SDGsの「目標11:住み続けられるまちづくりを」への取り組みには、建物にユニバーサルデザインを取り入れていくことも含まれる。
ユニバーサルデザインが導入されているオフィスは、SDGsに貢献しているとして評価される可能性がある他、従業員の満足度や採用における企業好感度も向上するだろう。
オフィスで社員1人1人が取り組めるSDGs
経営者や総務などの担当者だけがSDGsを意識しても、全社的に取り組みが進まないという悩みもあるだろう。
そこで、社員1人1人が日常的に行える取り組み例を具体的に紹介する。
- マイボトルやカップ、箸などを持参する
- 夏はクールビス、冬はカジュアルな防寒着で冷暖房を控えめにする
- 備品や消耗品は過剰包装をしていないものを選択する
- 印刷物を減らしクラウド保存や共有に切り替える
- 社内のゴミ分別を見直し、リサイクル比率を増やす
- 郵送やFAXからメールに変更する
- 多様な働き方の同僚や上司部下をお互いに認め合う
カーボンフットプリントを資本に転換した事例
世界屈指の情報通信技術企業では、カーボンフットプリントの新たな削減策の選定、サステナビリティ目標の達成、その実現に適したテクノロジーの導入を検討。
パートナーに選ばれたJLLは、JLLの独自技術である「エネルギー&サステナビリティプラットフォーム(ESP)」を駆使し、空調の設定値や稼働スケジュール、運用条件の調整など、省エネ化に向けた適切な改善を行った。
結果、5年間で13.5%削減という当初の省エネ目標を大きく上回り、わずか2年間で25%以上の省エネ化を達成した。
「LEED-EBOM」認証を取得した事例
とある国内大手企業では、自社所有ビルの改修にあたり、JLLから運用指針やマニュアルの作成、エネルギー分析、各種の監査実施といったサポートを受け、国際的な建築物環境性能評価システムであるグリーンビルディング認証「LEED-EBOM※1」の最高評価ランクである「LEED-EBOM」プラチナ認証を取得した。
オフィスでSDGsを成功させるための4つのポイント
これからの企業がSDGsの各ゴール達成に貢献しオフィスでの取り組みを成功させるには、以下の4つのポイントを押さえておくと、よりロードマップを描きやすくなるだろう。
- 従業員をサステナビリティ戦略に不可欠な存在と位置づけ、取り組みに関与する幅広い機会を用意する
- バイオフィリックデザインの導入により、オフィスの緑化を推進する
- 経営陣の社会的影響力を利用し、責任ある行動をとることで組織全体へのドミノ効果を引き出す
- SDGsやサステナビリティの意識が高いミレニアル世代から推進に協力してくれる人材を抜擢する
オフィスビルに代表される不動産やそこで活動する企業は、持続可能な世界を実現するための重要なファクターとして社会から認識されていることを受け止め、SDGsのゴール達成にオフィスから取り組んでいきたい。