国内不動産投資市場で存在感が増す大阪・関西 - 飛躍的な収益力向上に裏打ちされた成長ポテンシャル
著者
山口 武
国内不動産投資市場を席捲する大阪圏の存在感
JLLの調査では、日本における事業用不動産の投資額は2025年に過去最高を記録した。これまでのピークを振り返ると2025年に次ぐのが不動産ミニバブルに沸いた2007年、三番手となるのが2014年だった。
大阪圏を中心に不動産投資市場を調査しているJLL日本 関西支社 リサーチディレクター 山口 武は「直近の投資サイクルを振り返ると、2014年を起点として大阪圏が確固たる成長フェーズに突入したといえる」と指摘する。
成長率で見る大阪圏の特異性
大阪圏と首都圏の投資総額の推移を比較すると、2007年や2014年といった日本全体の投資ボリュームが大きかった局面では、大阪圏の存在感は微々たるものであった。しかし、2024年を機にその状況は一転。2024年における大阪圏の投資額が史上初めて1兆円を突破し、2014年から10年の年月をかけて約120%増という力強い成長を記録した。
一方、2014年時点では首都圏が圧倒的なシェアを誇り、日本の不動産投資市場を一手に牽引してきたことが窺える。しかし、その後の10年間(2014-2024年)では投資額は総じて横ばいから減少基調で推移している。山口は「このように対比すると国内不動産投資市場において大阪圏の存在感が急激に拡大しているのは明らか」と指摘する。
しかし、大阪圏は2025年になると前年比で大幅に投資額が減少した。対して首都圏は大幅に投資額が増加していることがわかる。一見すると大阪圏のプレゼンスは低下したように見受けられるが、山口によると「2025年は首都圏で大型取引が短期集中的に積み上がり、主役が首都圏へ戻ったように見受けられるが、大阪圏の投資額が中長期的に拡大していく成長トレンドは、2030年に向けても不変」だという。
事実、2026年第1四半期の投資額では、大阪圏は前年同期比141%増を記録するなど、再び勢いを取り戻している。対して首都圏は同12%減となった。
成長を牽引する2大要因:海外投資家比率とアセット比率
大阪圏が存在感を高めてきた10年間(2014-2024年)を俯瞰すると、首都圏とは大きく異なる2つの特異性が浮かび上がる。
1つは海外投資家の存在感だ。2014-2024年における海外投資家による投資比率は大阪圏で26%、首都圏では19%となり、海外投資家が主な買い手として市場を牽引してきたことがわかる。
2つ目はアセットタイプの構成比率に大きな特徴が出ている点だ。大阪圏ではホテルの投資割合が首都圏に比べて高く、大阪圏で15%、首都圏では6%であった。
2014-2021年にかけて海外投資家による大阪圏への投資額が急拡大した一方、首都圏の投資額は減少傾向にある。大阪圏への投資額が急拡大した背景として、インバウンド需要の拡大、金融緩和による円安、そして2025年に大阪・関西万博の招致が決定するなど、将来性を評価するポジティブな材料が集中したことが考えられる。
山口によると「以前は海外投資家が大阪に投資する最大の理由は『高利回り』だった」と説明する。一方、前述したポジティブな材料が出てきた2015-2017年頃を境に『将来的に成長する可能性を秘めた有望市場』としての認識が海外投資家の間で定着。2022年に投資額が減少した局面もあったが「外部環境の悪化(金利上昇など)によるものであり、大阪圏固有の問題ではない」という。
大阪圏を支える2つの成長エンジン:オフィスとホテル
不動産投資市場として急速に存在感を高め、いまや成長率をみれば首都圏をも凌駕する大阪圏だが、その急成長の源泉となる強みとは一体何か?
山口は「要因は様々だが、大きく2点に集約される。オフィスとホテルセクターが市場を牽引しているため」と指摘する。
オフィス市場:限定的な新規供給が賃料上昇の根拠に
山口が「大阪圏のオフィス市場は新規供給量に大きく左右されて市況感が形成される」と指摘するように、過去2009-2010年、2013年に都市機能を大きく向上させる大規模再開発(大量供給)が行われ、結果的に空室率が上昇するに伴い、賃料水準も下落に転じている。
では、2026年以降の新規供給量はどうか?
JLLの調査では、2026年に1棟竣工する以外に現状公になっている開発計画はなく、新規供給は極めて限定的に推移すると見ている。
「このため、経済の先行き不透明感などによって、仮にオフィス需要が一時的に弱含む懸念があったとしても、新規供給の圧倒的な少なさを考えれば、需給バランスは逼迫した状態が続き、空室率は低位で推移する可能性が高い。これは投資家にとって非常に大きな優位性となるだろう」(山口)
大阪圏のオフィス空室率は2024年の4.4%をピークに下降局面へ入り、2026年第1四半期末時点では2.2%。JLLでは「2030年には0.7%まで低下」と予測している。賃料も2023年を底に上昇局面へ入り、2030年末時点で月額坪当たり賃料33,727円と予測。2023年同期比で約50%上昇する見通しだ。
なお、大阪圏と首都圏におけるグレードAオフィスを比較したところ、過去10年間(2016-2025年)の平均空室率は大阪圏2.3%、首都圏2.2%とほぼ同水準であった。しかし、2022-2025年に着目すると、東京圏は供給量が抑制されていた半面、大阪圏は新規大量供給がなされながらも低空室率を維持してきたことは注目すべき点といえるだろう。
そして、賃料水準の伸び率を調査したところ、大阪圏は2016-2025年の10年間の賃料上昇率は44%増を記録。これに対して、同期における首都圏の賃料上昇率はわずか6%にとどまる。
将来予測では、2026年以降も大阪圏は供給制約を背景に、タイトな需給バランスが見込まれ、2025-2030年の賃料上昇率は28%増を見込んでいる。
ホテル市場:投資意欲を高める旺盛な宿泊需要
日本全体のホテル投資動向をみると、大阪圏の存在感が強烈に際立っていることがわかる。2024年のホテル投資額において大阪圏が首都圏を上回ったことが、その証左といえる。山口は「日本のホテル投資の主戦場として大阪圏が台頭しているといっても過言ではない」と指摘する。
大阪圏のホテル投資額を一定時期にわけて分析した。その結果、2007-2025年、2016-2025年、2021-2025年と、2026年に近づくほど投資額(年平均)が拡大しており、直近5年間(2021-2025年)では首都圏と同水準に達している。そして、ホテル投資市場を支えているのは、海外投資家による200億円超えの大型取引だ。
海外投資家が大阪圏のホテルセクターに注目する最大の理由は「ホテル宿泊者数の圧倒的な増加率」であろう。
大阪府はホテルの稼働率で常態的に全国トップを維持している。2013-2017年は全国1位、2018-2019年は2位、コロナ後の2024-2025年には再び1位に返り咲いている。牽引しているのは延べ宿泊者数の増加であり、特に訪日外国人観光客の存在感が際立っている。
一方、2026年(1-7月)の延べ宿泊者数は月平均で-7%となっている。中国からの訪日客の減少で外国人は-9%、日本人は万博からの反動減で-4%となっているが、一時的な事象で長期的なトレンドの増加基調は変わらないとみられる。
大阪圏(大阪府)と首都圏(東京都)のホテル稼働率を比較すると両者は全国平均を大きく上回りながら拮抗しているものの、延べ宿泊者数の増加率では大阪府が東京都を凌駕していることがわかる。
「2026年3月に閣議決定された『観光立国推進基本計画(第5次)』では『2030年までに訪日外国人観光客数6,000万人/旅行消費額15兆円』の政府目標が引き継がれるなど、さらなる成長余地が大きいことが窺える」(山口)
大阪圏の持続的な成長の礎となる人口動態
最後に、不動産の需要に影響を与える基礎要因として大きな影響力を持つ人口動態について分析した。
JLLが市区単位での人口予測を調査したところ、大阪府・大阪市全体では中長期的に人口減少が見込まれているものの、大阪市都心6区(中央区、西区、北区、天王寺区、浪速区、福島区)に限ると直近10年間で10%以上人口が増加している。
さらに、2025-2035年の人口予測でも、都心6区では人口増加が継続する見通しであり、全国主要都市と比較しても高い成長率を誇る。
「不動産需要を支える人口基盤という観点から見ても、不動産投資市場としての大阪都心部は引き続き投資妙味のあるエリアであり続けるだろう」(山口)
結論:万博を契機に世界水準の不動産投資市場へ
これまで海外投資家による市場参入や、オフィス・ホテルセクターの台頭など、大阪圏が成長してきた要因について多角的に分析してきたが、山口は「その発展の土台となったのは2012年に策定された『グランドデザイン・大阪』、そしてその発展形として大阪・関西万博の招致決定後に打ち出された『大阪のまちづくりグランドデザイン』などに沿って、粛々とまちづくりがなされてきたことにあり、その成果が不動産投資市場の成長に大きく貢献したものと考えている」との見解を示す。
関連記事「【座談会】大阪・関西万博と共に盛り上がる大阪不動産投資市場」を読む
2025年に開催された大阪・関西万博は、都市としての大阪の魅力に世界が気づき始めたきっかけとなった。今後は万博会場となった夢洲地区で予定されている再開発はIR(統合型リゾート)のみならず、万博の理念を継承したまちづくりによって長期滞在に適したリゾート空間の創出が見込まれている。
山口は「こうした都市そのものの発展を裏付ける魅力的な開発計画が公になっていることで、国内外から数多くの投資家を惹きつけている。ひいては大阪圏は国内有数の投資市場としての地位を確固たるものとするだろう」と指摘している。