不動産のエネルギー性能―理想と現実
キーポイント
• 国内グリーンビルディング認証を取得しても投資家が懸念する気候変動リスク。サステナビリティ情報開示やGRESBの動きもあり、CASBEE-不動産の取得が定着しつつある。一方、気候変動リスクに敏感な投資家が活用するのはGHG排出原単位やエネルギー消費原単位を評価するCRREM Pathway*1だ。
• エネルギー性能評価基準の緩いグリーンビルディング認証では気候変動リスクを把握できない。CASBEE-不動産においてエネルギー性能は評価項目の一部にすぎず、評価基準も保守的(2017年以前のDECCデータが基準*2)であるため、エネルギー消費の大きい建物でも高ランク認証の取得が容易な評価制度となっている。
• エネルギー消費実績値の開示と実質的な消費削減が評価される認証制度への移行に期待。現行のCASBEE-不動産を取得しているオフィスビルの過半は2025年時点でCRREM Pathwayから逸脱している。不動産の脱炭素化を進めるには、エネルギー消費量の削減と削減努力が正当に評価される仕組みが必要だろう。
*1 欧州の研究機関等が開発した不動産の気候変動リスクを分析するツールでCarbon Risk Real Estate Monitorの略称。CRREMではパリ協定の1.5℃目標に整合するGHG排出量、エネルギー消費量の2050年までの削減経路(Pathway)を国・セクター毎に公開している。
*2 CASBEE-不動産では、DECC(日本サステナブル建築協会によるData-base for Energy Consumption of Commercial Buildings)に収録されている建物の延床面積当たりの年間一次エネルギー消費量分布をベースに5段階でランク付けを行いエネルギー性能を評価している。DECCには、2007年度から2018年度までに調査が行われた建物について、建物属性情報、エネルギー消費量、水消費量等が公開されている。DECCは第三者による確認を経て登録された国内唯一の運用エネルギー消費量データベースといえるが、その後更新されていない。なお、CRREM Pathwayの構築にあたり、日本の商業用不動産の基礎データ(エネルギー原単位 – 開始値 [kWh/m²・年])として、DECCが参照されている。
ESG投資で注目される不動産の気候変動リスク
サステナビリティに関する情報開示の義務化が進むなか、不動産関連事業会社は、自らが宣言したESG情報開示に説得性を持たせるため、自社が所有・賃貸する不動産の環境性能を示すエビデンスとしてグリーンビルディング認証等の第三者認証を取得している。
不動産管理運用会社は、運用不動産の総資産価値に占めるグリーンビルディング認証取得不動産の資産価値の割合や認証取得からの経過年数によってGRESB (Global Real Estate Sustainability Benchmark)の格付けが左右されることから、認証取得後の更新も必要となる。
一方、海外投資家を中心に投資判断の際の指標としてよく使われるのは、不動産毎のGHG排出原単位(床面積当たりの排出量)やエネルギー消費原単位(床面積当たりの消費量)を評価するCRREM Pathwayだ。グリーンビルディング認証を取得していても同指標に基づいて気候変動リスクが高いと判断される不動産は対応に迫られることになるだろう。
CASBEE-不動産×CRREMで日本の現状を知る
CASBEE-不動産は、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が運用する建築環境総合性能評価システムである。竣工後1年以上経過した建物を対象に、①エネルギー・温暖化ガス、②水、③資源利用・安全、④生物多様性・敷地、⑤屋内環境について評価する。設計者等が評価を行う従来のCASBEE-建築に比べ、評価項目を最小限の重要項目に絞っており、オーナー、テナント、投資家、不動産会社など不動産取引に関わる主体が扱うことを想定したツールとなっている。
CASBEE-不動産を取得した物件は、IBECsのウェブサイトに評価結果が公表されている。DECCデータ(非住宅建築物のエネルギー消費に関するデータベース)が2017年度から更新されず、それに代わるシステムも未だない状況において、エネルギー消費実績値等が記載されているCASBEE-不動産の評価結果は有益なデータである。同評価結果がCRREM Pathwayでどのような評価になるのかを分析し、CASBEE-不動産取得物件の気候変動リスクを紐解いてみた。
CASBEE-不動産取得物件のエネルギー性能は十分なのか
2025年末時点で有効なCASBEE-不動産を有するオフィス(主用途がオフィスとして申請されている建物)は約1,000棟ある。そのうち、58%がS、40%がA、2%がB+を取得している。CASBEE-不動産では、必須項目をすべてクリアするとBランク(50点)、性能が高くなるにつれてB+(60点以上)、A(66点以上)、S(78点以上)とランクが上がるが、初期評価でAランクに達しない場合、認証を取得しない事業者も多いことから、認証取得物件のほとんどがAランク以上となっている。
そこで、JLLでは、上記のオフィスを対象に①~③の分析を行い、気候変動リスクの実態を調査した。
① 一次エネルギー消費原単位実績値の得点分布:CASBEE-不動産を取得した物件について、認証のランクと床面積当たりの消費エネルギー量に基づく得点の関係を把握した。
② 一次エネルギー消費原単位実績値の頻度分布:CASBEE-不動産の評価結果に記載された一次エネルギー使用・排出原単位(実績値)をもとに、一次エネルギー消費原単位の水準毎に該当物件がどの程度存在するかを把握した。
③ CRREM Pathway からの逸脱年:CASBEE-不動産の評価結果に記載されたGHG排出量をもとに、各物件についてCRREM Pathwayからの逸脱年(Misalignment Year)を算出し、CASBEE-不動産のランクと逸脱年との関係を把握した。
※分析結果 ① 及び ② をご覧になりたい方は、ページ下部よりレポート全文をダウンロードしていただけます。
分析結果 ③ CASBEE-不動産Sランクの60%が2026年にCRREM Pathwayを逸脱
- 2025年までに逸脱年を迎えているオフィスはCASBEE-不動産取得物件の 53% にのぼる。
- 何も対策がとられなければ、2026年にはSランクの60%、Aランクの80%が逸脱する。
- Sランクでも2020年には逸脱が始まっており、Aランクと同水準の累積比率に達するのが1~2年遅いだけである。
まとめ
グリーンビルディング認証の取得が増える一方、認証取得物件がESG投資に見合っているか、気候変動リスクを抱えていないかを懸念する声は少なくない。実際にCASBEE-不動産を取得したオフィスのGHG排出量がCRREM Pathwayでどのような評価になるのかを分析したところ、2025年には過半の物件がすでに逸脱年を迎えており、2026年には逸脱年を迎える物件がSランクの60%、Aランクの80%に達することが判明した。
CRREMの過度な理想論には調整も必要だが、世界に後れを取る日本は、一刻も早いエネルギー性能向上が必要だ。そして、エネルギー消費量の削減努力を正当に評価するためにも、エネルギー消費実績値を開示するシステムを整えるとともに、現行のCASBEE-不動産を、その総合性や利便性は維持しつつ、LEEDのようにより厳格な評価基準に基づき評価する制度に昇華させることが期待される。
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