賃貸住宅の需要の中心となる若年単身世帯を中心に、人口流入の動向を複数の地域スケールと社会階層に着目して分析する。大学進学率の上昇と経済構造の変化が大都市への人口集中を促したこと、所得層に応じた適切な賃貸住宅が不足している可能性があること、中でも低所得層向けの住宅の不足は都市にとって重大であること――以上3点を軸に、データを交えて論ずる。
本稿は全3章で構成されるマーケットレポートのうちの3章となる。全3章を通じて、日本の賃貸住宅投資における東京一極集中の要因とその地域分散の可能性を探索するため、賃貸住宅市場を地域ブロックや都道府県、市町村などの複数の地域スケールから分析する。
3章では、賃貸住宅への需要について分析を行った。賃貸住宅の需要の中心は若年層であり、特に大学進学や就職に伴う単身若年者の移動が重要とみる。戦後から続く大学進学率の上昇に伴う大学生数の増加や、2000年初頭からみられた大学の都心回帰は都市部への通学需要を誘起させた。大卒者の供給は技術職・専門職・管理職といったホワイトカラー就業者を増加させ、経済のソフト化・サービス化も相まって、企業の管理・本社機能が集まる東京圏への人口流入を促した。賃料負担力の低い大学生は都市郊外や周縁部へ、ホワイトカラーの高所得層は都心へ、都市機能の根幹を担うサービス業種等で就労する人々はこれら属性の中間的な地域への選好をもって賃貸需要を構成するとみられる。ただし、現代の日本では高所得層と低所得層の双方に適した賃貸住宅が不足している可能性がある。特に、需要の中心を担う若年世帯だけではなく、今後の増加が見込まれる高齢者世帯と移民世帯には経済的に脆弱な世帯が多いため、アフォーダブルな住宅の不足は都市の持続可能性の障壁になり、都市を前提とする不動産投資の持続性の課題ともなり得る。