本稿は全3章で構成されるマーケットレポートのうちの2章となる。全3章を通じて、日本の賃貸住宅投資における東京一極集中の要因とその地域分散の可能性を探索するため、賃貸住宅市場を地域ブロックや都道府県、市町村などの複数の地域スケールから分析を行った。
2章では、日本の賃貸住宅の供給面を複数の地域スケールから分析した。20世紀中葉から現在まで、日本では建築技術の進化に伴う非木造化、高層化、共同住宅比率の上昇によるストック(戸数)の増加が続いた。都道府県・市町村別でみると人口や経済の規模の大きい高度な都市を持つ地域にストックが多い傾向がある。その他地域では県庁所在地の市部にストックが集積する傾向はあるが、県レベルのストック規模とそれら市部への集積度に明確な相関はない。政令指定都市区部と特別区部の分析では、人口規模の大きい都市では、商業・業務機能を持つ区部で賃貸住宅のストックが相対的に少なく、小規模な都市ではそれら区部でのストックが多い傾向がみられた。
ストックの着実な増加に反し、着工(フロー)は減少が続いている。都道府県別の着工戸数では東京都が卓越する一方、増加率では東京圏外(大阪府、熊本県)が目立ち、地域経済の変化が住宅着工を促すと示唆される。東京都区部と大阪市の周辺での近年におけるフローの空間分布を比較すると、東京では商業・業務地区の外部、大阪ではそれら地区の内部での供給が多くみられた。東京圏では鉄道の密度(路線距離と運航頻度)の高さが都市それ自体の規模と住宅分布の拡大を促して周縁化が今なお進行し、反対に小規模な都市では業務・商業機能の縮小に伴うオフィス等の事業用不動産から住宅への建て替えが住宅ストックの都市中心部への集積を促している可能性がある。