ライフスタイルホテルを定義付ける3つの共通点
海外ではライフスタイルホテルの存在は広く認知されているが、そもそも日本ではライフスタイルホテルの捉え方が定まっておらず、デザインホテル、ブティックホテルと混同されるケースも多い。これに対してJLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部長 沢柳知彦は『月刊レジャー産業資料2017年7月号』に寄稿し、ライフスタイルホテルについて定義付けを試みている。その中で、沢柳は「海外の文献にあたった結果、『ブティックホテルらしさ』と『デザインホテルらしさ』、加えてサードプレイスとしてのラウンジ機能を有することがライフスタイルホテルの条件」との結論を導き出した。
ブティックホテルのような「ユニークさ」、「スタイリッシュさ」、「居心地の良さ」を兼ね備え、デザインホテルらしい意匠性を有し、部屋数はそれほど多くない。そして自宅や職場以外の「第三の場(サードプレイス)」を提供する。スターバックスコーヒーを典型的な事例に挙げ、居心地の良い場所を提供し、コミュニティの交流を促進させる機能が求められるようだ。
契約方式がライフスタイルホテル普及の阻害要因に
増加傾向にあるライフスタイルホテルだが、日本ではその普及が米国に比して20年以上遅れている。沢柳はその理由について「デベロッパーが手掛ける大規模再開発において最有効利用分析という観点からライフスタイルホテルという選択肢が除外されたため」と分析する。
例えば 大規模再開発が行われる立地であれば最有効活用はオフィス用途となり、ホテルが造られる場合は非業務用床割増容積率に限定される。その場合、オフィスとの複合施設となるため、ビジネスユースとの親和性を考えるとカジュアルテイストのライフスタイルホテルではなく高級ホテルブランドが選ばれやすい。また路地裏の比較的面積が狭い土地の場合は収益性の観点からビジネスホテルや分譲コンドミニアムが企画されるのが一般的だ。
そして 最大の課題は日本のデベロッパーがホテル運営リスク回避のために賃貸借契約を嗜好することだ。欧州を中心に導入が進むIFRS(国際会計基準)では長期賃貸借契約上の賃料支払債務と使用権資産を両建てでバランスシートに載せることが義務付けられており、アセットライト戦略の一環でホテルマネジメント契約を好む 海外のライフスタイルホテルオペレーターとは相性が悪いのだ。
アンダーズ東京の成功でライフスタイルホテル普及拡大
ライフスタイルホテルというコンセプトは90年代初頭に米国で生まれ、成功例も多数積み上がってきているが、日本国内で普及しなかった理由は前述のとおり日本のデベロッパーの考え方によるところが大きい。
では、ここにきてライフスタイルホテルが脚光を浴びるようになった理由とは何だろうか。沢柳は「これまでAグレードオフィスを開発すればよかったが、供給過剰が見込まれるようになった。一方、既存コンセプトのホテルブランド出店が続いた結果、より個性をもったプロダクトが求められるようになったこと」と推測する。
例えば、オフィス・ホテルの複合型ビルの場合、カジュアルテイストを好むIT系企業をオフィスに誘致するために敢えてライフスタイルホテルが選択されるという環境が整ってきた。また、ライフスタイルホテルではないが、宝飾品ブランドを冠するブルガリホテルの東京出店がアナウンスされるなど、単なるグレード感だけではない、特定のテイストを持ったホテルが開発されつつあり、既存ホテルとの差別化を図る流れが見て取れる。
今後、ライフスタイルホテルの供給はますます勢いを増していくのか。沢柳は「日本ではまだまだブルーオーシャン。ロンドンやニューヨークに比べて圧倒的に数が少ない」と指摘し、今後一定の出店数を見込んでいる。前掲のブルガリホテルなど、JLLが開発段階でサポートしている開発案件も少なくない。