業務効率化を目的に生成AIの導入が進む
2022年11月に公開された「ChatGPT」の登場以来、誰もが知る存在となったのが生成AI。「Generative AI」とも呼ばれ、文章や画像、音声、プログラミングコードなどのコンテンツを文字通り“生成”するAI技術全般を指す。
「プロンプト」と呼ばれるユーザーの指示に従って様々なコンテンツを作成。その品質は“人間同等・それ以上”とも評されるようになっている。ビジネスの在り方を根底から変革するテクノロジーとして注目されるようになってきた。主な用途は他言語による翻訳、長文などの要約・分析、資料作成のための情報収集、会議の録音をもとにした議事録作成、メールなどの定型文の自動作成など多岐にわたる。
不動産業界を変革
生成AIは業界を問わず、将来の事業競争力を左右する存在して認知されており、業務効率化を目的に多くの企業がこぞって導入を進めているのが現状だ。
手前味噌ながら、JLLでも積極的に生成AIを活用しており、2023年8月にはグローバル本社にて、商業用不動産業界向けに構築された大規模言語モデル「JLL GPT」を発表。世界中のJLLスタッフによって活用されており、日々新たな取り組みが生み出されている。
JLL日本 執行役員 チーフ インフォメーション オフィサー(CIO/最高情報責任者) 兼 経営企画室長 吉田 薫は「世界80カ国で事業展開するJLLは従業員約112,000名(2025年第2四半期末時点)を擁し、クライアントサービスの品質向上と業務効率の改善を両立する、価値あるAIツールを開発するなど、組織全体でAIの活用を推進している」と説明。「JLL GPT」をはじめとするAIツールやAIプラットフォームの実装には検討を重ね、競争力を強化し、業界の発展に寄与する意義のあるAI活用体制の構築に注力している。
JLL日本が推進するAIによる業務効率化施策
そうした中、JLL日本法人でも生成AIを活用した業務改善に注力している。JLLのテクノロジー部隊として、生成AIの活用をリードするJLLテクノロジーズ 堀合 克は次のように述べている。
「商業用不動産に関する多種多様なサービスを一気通貫で提供しているJLLには様々な部署が存在する故、事業部ごとに抱える課題も多岐にわたる。特に属人性が高く、マンパワーに頼らざるを得ないオフィス関連業務に多くの改善余地がある」(堀合)
JLLテクノロジーズが実践する生成AIによる業務効率化事例として、契約書をはじめとする重要書類の作成業務における効率化が挙げられる。
従前、案件ごとに内容が異なるこれらの重要書類は担当者主体で作成しており、資料1通あたりの作成時間は30分-2時間超を要しており(年間換算での作成時間は60,000分超)、「地味に時間がかかる」と担当事業部を悩ませていた。
こうした悩みを受けたJLLテクノロジーズは生成AIによる書類自動生成による施策を提案。前述したJLL GPTの文書作成能力と既存コラボレーションプラットフォームを掛け合わせたツールであり、「クライアントとのメール履歴や書類など、作成するべき書類に反映すべき“素材”が網羅されたデータをプラットフォーム内に保存しておくだけで、ものの5分程度で初稿が生成される」(堀合)という。
書類作成時間を90%超短縮
このツール自体は企画立案からわずか1カ月程度で完成を迎えた。しかし、課題となったのが「精度の向上」だ。
堀合と共に本プロジェクトを牽引したJLLテクノロジーズ 西野 孝昭が「土台となる生成AIはそれぞれ強みが異なり、本プロジェクトに最適なAIプラットフォームの検証や、プロンプト(指示書)の調整など、様々な側面からアプローチし、精度向上に努めている」と説明し、ようやく実用に耐えられえるレベルになりつつあるという。
「生成AIは膨大な量のデータから文章などを抽象化・サマリゼーションする能力に秀でているものの、不動産特有のドメイン知識や法的要件の厳格さにおいて、必ずしも正確に回答するとは限らず、ハルシネーションやパラメーター制約に正確性に課題が残る。そのため、生成AIがどれだけ進化しても、専門知識を有する担当者の目視によるチェック体制が不可欠になるが、目視チェックが残っても大幅な業務効率化が見込める」(西野)という。今回開発したAIによる書類作成ツールを活用した場合、前述した「某書類」の作成に費やす時間は90%超短縮できるという。
AIを社内に普及・定着させるために必要な取り組み
生成AIを活用した業務効率化のメリットを十分に実感した現況下、堀合は「重説の自動生成のみならず、商業用不動産に関して多種多様なサービスを提供するJLLでは生成AIを有効活用し、業務改善できる場面は非常に多い」と指摘する。
「例えば、会社・部門全体で把握していない市況データや支援事例の共有化と資料の自動生成、募集物件の情報更新作業のサポートなど、活用範囲は幅広い」(堀合)
一方、生成AIを導入しても社内利用が拡大しない企業も存在するが、全社的に普及拡大を進めるために、西野は「社内の啓蒙活動が重要」との認識を示す。
「生成AIのマルチモーダル機能とパラメータチューニングのメリットを組織全体で認識することで、社内から様々なアイデアや相談事が日常的に生まれる環境が構築される。こうしたプロンプトエンジニアリングの知見が共有される社内文化を醸成することで、生成AIのポテンシャルを最大限に活かした施策が生み出しやすくなる」(西野)
JLLでは全社員を対象にしたキックオフイベントでの生成AI活用事例の紹介をはじめ、社内コンペ形式の「AIコンテスト」を実施しており、社内啓蒙のみならず、生成AIなどの最新テクノロジーを駆使した新規サービスの開発などにも注力している。
吉田は「AIは不動産業界を取り巻く状況を多大な影響を及ぼしており、我々がこの技術革新を推進するためには思慮深い戦略性が必要になる。JLL全社規模のAIコンテストは、すべての部門にイノベーションを“考える”機会を提供し、AI活用を通じて生産性を高め、ビジネスプロセスの抜本的な進化を促す重要な機会になるだろう」と力を込める。
JLLではAIの活用施策を実験的に積み重ねることで、JLLは業界を先導する立場を確立し、クライアントに最適なソリューションを提供していく。