コロナ禍でも高稼働、安定収益を維持
労働者の賃金上昇によって、横ばいが続いた賃貸住宅の賃料水準も上昇トレンドに変わろうとしている
賃貸住宅セクターは景気変動の影響を受けにくく、高い稼働と安定した賃料が続く不動産投資市場として、日本ではオフィスと同じく歴史ある投資対象であった。コロナ禍においては人々が質の高い居住環境を求めたこともあり、投資対象となるようなハイグレード物件は高稼働で推移し、安定した賃料収入が得られた。
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ただ、高稼働を維持できても、賃料は入居者の負担可能な水準に抑えなくてはならず、上振れが見込みにくい。賃金の影響も大きく受ける。そのため、長期のデフレ経済によって賃金が上がらない中、賃料も概ね横ばいで推移してきた。
しかし、労働者の賃金上昇によって、横ばいが続いた賃貸住宅の賃料水準も上昇トレンドに変わろうとしている。
コロナが拡大する以前より、低い失業率が続き労働力確保が困難な状況は続いていたが、デフレ経済下ではほとんど賃上げは見られなかった。しかし、物価上昇の影響を受けて、多くの企業が賃金を引き上げ始めた。
厚生労働省が実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると2023年の賃金改定率は平均3.2%となり、1994年以来の3%台の上昇が見られた。
この賃金上昇の傾向は加速しており、労働組合の中央組織である「連合」は2024年の方針として5%以上の賃上げを要求する方針を正式決定し、実際に2024年4月2日までの賃上げ率において1991年以来33年ぶりとなる5%超の水準を維持されている。
このような賃金の上昇が入居者の支払い可能賃料を押し上げ、賃貸住宅の賃料上昇につながっている。
「賃金引上げ等の実態に関する調査」では、大企業の賃金上昇率は平均を大きく上回っていることがわかった。そのため、大企業の本社が集積する東京や大阪といった都心エリアの物件のほうが賃金上昇の恩恵が大きくなると考えられる。
図:日本の賃貸住宅賃料指数と賃金指数の推移(2010年を100とする) 賃金指数:厚生労働省「毎月勤労統計調査」、住宅賃料指数:ARESの各データをもとにJLL作成