成長するデータセンター不動産市場
IT需要は、これまでも大きく拡大してきたが、新型コロナウイルス感染症が広がったことでさらに加速した。ビジネスの現場ではオンライン会議やペーパーレス化が浸透し、消費者の間では電子商取引やモバイル決済の普及が加速した。また、ソーシャルメディアやビデオストリーミングなどのクラウドプラットフォームや、人工知能や機械学習のプラットフォーム、また工場・倉庫の自動化などのサービスの成長も著しい。このように急拡大するIT需要に応えるため、コンピューターや通信機器等を物理的に保管し運用するための施設であるデータセンターは、不動産投資業界において新しいアセットクラスとして注目を浴びている。
世界のコロケーション市場は、2019年の520億米ドルから2024年には1,000億米ドル以上へ成長すると予想されており、年平均成長率は14.5%に達する。ハイパースケールデータセンターに限ってみると年平均成長率は24%以上になるとも言われており、アジア太平洋地域は、その中でも最大かつ最速の成長を遂げる地域と言われている。
これまで海外のデータセンターに保管されていたデータを日本のデータセンターへ戻そうとする動きは、ひとつの大きな流れとなりつつある
データセンターの適地として、日本は世界第3位とされている。①電力・通信が安定しており、②高度人材を多く有していることや、③政治的安定性が高いことなどから、高く評価されている。
日本のデータセンター市場が海外から注目を浴びている背景には、前述したデータセンター適地としての特性に加え、アジアパシフィック地域内における地政学的要因が挙げられる。これには、香港における香港国家安全維持法の影響や、シンガポールにおけるサステナビリティへの配慮(二酸化炭素排出量削減)を背景としたデータセンター新設の制限措置などが含まれる。
データセンター市場に詳しいJLL日本 キャピタルマーケット事業部 浅木 文規は「ビジネスや日常生活においてデジタル化が浸透してきたことに伴って、情報保護が以前よりも重視されるようになってきた。このことから、大切な情報は国内のデータセンターに保管するべきであるとの考え方が広がった。これまで海外のデータセンターに保管されていたデータを日本のデータセンターへ戻そうとする動きは、ひとつの大きな流れとなりつつあるようだ。デジタル化浸透によるデータセンター需要全体の成長に加え、これまで海外に置かれていたデータが日本へと移されることによる日本のデータセンター需要拡大、これら2つの側面が日本のデータセンター不動産市場の成長ドライバーとなり得るだろう」と指摘する。
日本におけるデータセンター投資は、これまでもオルタナティブ投資の牽引役となってきたが、分散投資の推進や世界的なデータセンター需要の増大などを背景として、昨今は投資家の関心が一層高まっている。JLLが発表した日本のデータセンター市場に関する調査レポートでは、2021年1-9月のデータセンター投資総額が517億円となっている。これは、10-12月が含まれていないにもかかわらず、過去10年における年間平均投資額の1.8倍に達する規模であり、今後のさらなる成長も予想されている。
データセンターは消費する電力量が大きいことから、利用する企業や社会全体の排出量へ与える影響は大きい。したがって、データセンターが排出する温室効果ガスに対する削減要請は、今後強くなると考えられる。データセンター事業者にとっては、①大量の電力を、②事業継続可能なコストで調達することが、③今後一定のスピード感を持って求められると想定され、実現するための難易度は高いと思われ、対策の検討は待ったなしである。
これからはますますサステナビリティを意識したデータセンター開発が求められよう。