グリーンビルディング認証を取得しても座礁資産となる恐れあり
取得が増加するも厳格な認証の利用は限定的
日本のCO2総排出量の約3分の1を占める不動産からの排出削減が急がれるなか、建築物のCO2排出削減努力を評価し得る制度として、グリーンビルディング認証への注目が高まっている。東京・大阪・福岡の大規模オフィスビル*1についても、近年、グリーンビルディング認証の取得が増えており、2024年末時点において東京では65%、大阪では42%、福岡では27%のビルが何らかの認証を取得している。
制度別の認証取得状況をみると、東京では大手デベロッパーが取得を推進するDBJ-GBの割合が最も大きく、大阪や福岡ではCASBEE-不動産の割合が最大となっている。しかし、JLL日本のレポート「サステナブル不動産への道:オフィスビル編」によると、より厳格な認証制度の利用は日本全体で依然として限られている。グローバルスタンダードであるLEEDは東京で2%、国内認証制度で最上位ともいえるCASBEE-建築のSランクは東京と福岡で3%のみである。
図1. 大規模オフィスビルにおけるグリーンビルディング認証の取得割合(棟数ベース)
出所:JLL日本
注1)複数の認証を取得している物件は最上位の認証制度で集計している。 注2)LEEDにおいて、1敷地内における複数ビルの開発を対象とするNDや、ビル内の一部テナントスペースを対象とするID+Cは、集計の対象外としている。 注3)CASBEEはB+以上を集計の対象としている。なお、グラフ上では、CASBEE-建築をCASBEE-BD、CASBEE-不動産をCASBEE-REと表記している。
国内認証を取得しても座礁資産化のリスクがある
JLL日本 エナジー&サステナビリティサービス事業部の調査によると、CASBEE-不動産でSランクを取得している物件でもCRREM Pathway*2においてすでに座礁している物件や、数年以内に座礁してしまう物件がかなり多いことが明らかとなっている。座礁資産とは、将来の規制基準や市場期待に対応できないため、気候変動により早期に経済的価値が失われるリスクに直面している不動産のことである。
グリーンビルディング認証はあくまでも総合的な環境性能を評価する制度であり、エネルギー性能面での評価基準が比較的ゆるい国内認証制度で最高評価を取得しても、パリ協定の目標達成に必要なCO2排出削減には不十分な可能性があることに留意する必要がある。
図2. 日本で主に利用されているグリーンビルディング認証制度
出所:JLL日本
LEEDやエネルギー性能評価とのダブル取得が望ましい
以上を踏まえると、日本のオフィスビルの脱炭素化および環境性能の向上を実現するためには、戦略的なアプローチが推奨される。できれば、エネルギー効率の向上やGHG排出量の削減を図るべくエネルギー項目の評価を継続的に厳格化しているLEEDの取得を目指すか、あるいは、国内のグリーンビルディング認証に加えてエネルギー性能評価で高ランクを取得することが望ましい。そうすることで、座礁資産化するリスクを軽減し、今後強化が予想される環境規制にも適合し、ひいては不動産賃貸市場・投資市場における優位性も高まるものと考えられる。
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*1 大規模オフィスビルは、東京・大阪・福岡の中心業務地区にある1990年以降に竣工した延床面積30,000㎡以上(東京)または15,000㎡以上(大阪・福岡)の賃貸オフィスビルを参照している。
*2 CRREMは、パリ協定の目標に整合した既存不動産への投資に向けてオペレーショナルカーボン排出量の目標を設定するための世界をリードするイニシアティブである。