オフィス移転や改装時の導入事例が増えてきたスケルトンオフィス。定義やメリット・デメリット、他のオフィス形態との比較を通じて最適なオフィスを選択するためのポイントを解説する。
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スケルトンオフィスとは?特徴とメリット・デメリットで考える最適なオフィス選び
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スケルトンオフィスとは?
スケルトンオフィスには、大きく分けて以下の2つに定義付けされる。
- 物件としてのスケルトンオフィス
- 内装デザインとしてのスケルトンオフィス
名称は共通だが、特徴やメリット・デメリットはそれぞれ異なり、時には相反することさえあるため、オフィスづくりの検討段階で どちらを採用するのか、把握しておく べきだろう。<
物件としての「スケルトンオフィス」
オフィスを新規に開設する際や移転先を選ぶ際、内装造作がない状態で入居し、自社で内装を行う物件を「スケルトンオフィス」・「スケルトン物件」などと呼ぶ。
賃借(取得)後は必ずしも天井の配管や壁が露出した状態で使用するとは限らず、内装工事を行って一般的なオフィスとして使用することもあるが、賃貸借契約終了(退去)時にはふたたび元のスケルトン(骨組みだけの)状態に戻す必要がある。
内装デザインとしての「スケルトンオフィス」
オフィスの天井や壁などを建材や壁紙で覆わず、あえて配管やコンクリートを露出させることで開放感を演出するなど、都会的なスタイルの内装デザインも「スケルトンオフィス」と呼ばれるようになってきた。
賃借(取得)開始時からスケルトンデザインが標準仕様になっているオフィスもあれば、あえて既存の天井板や壁紙を撤去するなどし、スケルトンデザインに作り変えるケースもある。
本稿では、以下それぞれのメリットとデメリットを分けて解説していく。自社の課題やニーズと照らし合わせて選択の参考にしてほしい。
スケルトンオフィスには2つの文脈があり、物件としての「スケルトン」、デザインとしての「スケルトン」の区別をしておく必要がある
オフィス移転・開設でスケルトン物件を選択するメリット
骨組みや躯体が露出し、内装が施されていない「スケルトン物件」は造作工事の自由度が高いのが特徴であり、導入メリットは以下のように数多い。
自社のイメージに合った内装にできる
壁の色や素材・床材・照明から家具のデザインに至るまで、企業の文化やビジョン・働き方に合わせたイメージ通りの空間を演出できることが、一般的なオフィスと比較した大きなメリットだといえる。
ブランディングに寄与する
企業のイメージカラーやカルチャーをデザインに落とし込んだオフィス空間は、企業のブランドイメージが伝わる場所となるだろう。来訪する顧客やパートナー・採用候補者だけでなく、従業員に対しても、“自社らしさ”を体現したオフィスで働くことで帰属意識やエンゲージメント向上などの効果が期待できる。
設備導入がしやすい
電気配線・LANケーブル・空調・給排水といったインフラ設備が目視できるため、自社に最適な設備の新設や配置計画が適切に行える。
特殊な業務用機器やサーバー・実験設備・防音室など、一般的なオフィスでは珍しい機能を持った設備を導入しやすく、将来的な機器や設備類の増設・更新に備えた計画を立てやすいのもメリットだ。
レイアウトを柔軟に変更できる
事業内容や組織体制に合わせ、部署の配置・会議室の数や大きさ・コミュニケーションスペース・集中ブースなどを設計しやすいのもメリットだ。
壁や間仕切りを少なくしたり可動式にしたりすることで、将来的な組織変更や人員の増減に柔軟に対応できるオフィスを構築でき、長期的な視点でのコスト最適化にもつながる。
スケルトンデザインのオフィスのメリットや効果
天井の配管や壁が露出したスケルトンデザインのオフィスには、デザイン以外にも様々なメリットがある。
開放感がある
スケルトンデザインのオフィスの多くは天井板を設置しないため、一般的なオフィスよりも天井高が確保できる。空間に広がりが生まれ視線が遮られにくく圧迫感が軽減されるほか、窓からの自然光を奥まで取り込みやすくなり、明るく開放的な執務環境を実現できる。
スタイリッシュな内装が叶う
コンクリートの躯体やむき出しの配管・ダクト、塗装された鉄骨など、躯体そのものをデザイン要素として活かすことで、無機質でインダストリアルな雰囲気に象徴されるブルックリンスタイルなど、洗練されたスタイリッシュな空間を演出できる。
ブランド向上や採用に寄与する
デザイン性の高いスケルトンオフィスは、企業の先進性・創造性、あるいは自由な社風といったブランドイメージを体現し、社内外に効果的に伝える手段となり得る。
また、魅力的なオフィス環境は従業員のエンゲージメントを高めるとともに、ワークスペースの魅力をアピールすることで人材採用活動にも寄与するだろう。
内装コストを抑えられる
天井や壁の仕上げ材や下地材が不要になるため、内装工事の材料費や施工費を削減できる。大規模なオフィスにおいては特に削減効果が大きくなるだろう。ただし配管の塗装や照明器具の選定など高度なデザイン性を追求する場合は、別途費用がかかる可能性に留意が必要である。
改装・点検・修理が容易
通常は天井裏や壁内に隠されている電気配線・ケーブル・空調ダクト・消防設備などが露出しているため、故障時の修理や点検などのメンテナンスが容易で、将来的な増設や移設といった作業も効率的に行える。
サステナブル社会に貢献する
天井材や壁紙などの内装仕上げ材の使用量を最小限に抑えることは、建設資材の削減、ひいては製造・輸送にかかるエネルギーやCO2排出量の抑制につながる。
また、解体時の産業廃棄物の発生量も削減できる。建物の躯体を活かすデザインは、環境負荷の低減に貢献し、サステナビリティを重視する企業の姿勢を示すことにもなるだろう。
スケルトン物件のデメリットや注意点
一般的なオフィスとは異なり、内装が取り払われた状態で入居するスケルトン物件では、以下のような点に注意する必要がある。
初期費用がかかることがある
スケルトン物件は入居時に床・壁・天井の内装や照明器具などが一切ない状態のため、事業を開始するには、これらの内装工事や設備設置をすべて自社で行わなければならない。
デザインや仕様にこだわるほど工事費用も高額になり、一般的なオフィスや内装付きのセットアップオフィスと比較して大幅に初期費用がかかる可能性も想定しておく必要がある。
原状回復費用が高額になりがち
オフィスを賃貸する場合、退去時に物件を入居時の状態に戻す「原状回復義務」が定められているのが一般的である。
スケルトン物件を賃借し天井や壁などの内容を行った場合、退去時にはそれらをすべて撤去し建物の躯体だけの状態に戻す必要があり、一般的なオフィスにおけるクリーニングや部分的な補修と比較して費用が高額になるケースが多い。原状回復の範囲と費用負担については契約前に貸主側と十分に確認しておこう。
スケルトンデザインオフィスのデメリットや注意点
都会的でスタイリッシュな企業イメージを演出できるスケルトンデザインのオフィスだが、次のような点には注意が必要だ。
空調や照明の調整が難しい
外壁の断熱効果が不十分なビルにおいて、壁板や壁紙を設置しないスケルトンオフィスは外気温の影響を受けやすい。また、天井板がないぶん空間全体の体積が増えることで冷暖房の効率が低下し、夏は暑く冬は寒く感じるなどの課題が出てくることがある。そのほか快適な室温を保つために空調設備の能力増強や、シーリングファンの設置などの追加コストがかかる場合がある。
加えて、天井が高くなることで照明からの距離が遠くなりオフィス全体が暗く感じられることで、照明の増設や光熱費がかかる可能性がある。
安全面のリスク
配線や配管が露出している状態はデザイン的な魅力がある一方で、物理的な損傷リスクが高まる傾向がある。模様替えで家具や什器を移動する際に配管にぶつかって破損させたり、地震の際に落下や転倒してきたりする可能性も考慮しておきたい。
清掃の手間がかかる
露出した配管やダクト、梁の上などには埃が溜まりやすく、天井板を張る一般的なオフィスに比べて清掃の手間や高所作業などが必要になる。専門業者による定期的な清掃が必要となる場合もあり、維持管理コストが増加する可能性を念頭に置いておきたい。
消防法等への抵触
新しくスケルトンデザインを導入する場合、天井を撤去することでスプリンクラーヘッドや火災報知器などの消防設備の設置基準を満たさなくなる可能性がある。設計・施工段階で所轄の消防署と協議し、消防法規に適合させるための追加工事等は必要ないかを確認しておこう。
スケルトンデザインのオフィスを導入する際には、スケルトン構造特有の課題をふまえた対策が欠かせない
スケルトン物件以外のオフィス形態の選択肢
オフィスの新設や移転においてスケルトンオフィスを検討する場合、目的はいくつか想定される。「自由度の高いデザインが可能」という点が最重要であればスケルトン物件はおすすめだが、それ以外に「コスト削減」や「早急に使用を開始したい」といったニーズがある場合、他のオフィス形態が適している可能性もある。
以下にさまざまなオフィス形態とその特徴を解説する。自社のニーズに最も合うのはどのようなオフィスか見極めるための参考にしてほしい。
セットアップオフィス
セットアップオフィスとは、貸主(物件オーナー)が業務に必要な内装・家具・什器・インターネット環境などを整備した状態で賃貸されるオフィス物件である。スケルトン物件と比較するとデザインの自由度は低いが、初期費用を大幅に抑えられ、移転に伴う手間や時間も削減できる点が最大のメリットである。
居抜きオフィス
居抜きオフィスは、前の入居者が使用していた内装・設備・什器などを撤去せず、そのまま引き継いで利用するオフィス形態である。入居者は内装工事費や什器購入費といった初期費用を大幅に削減でき、入居までの期間も短縮できる。ただし、デザインが自社のイメージと合わず改装する場合や、老朽化した設備の新調や交換が必要になった場合は別途費用がかかる点に注意が必要だ。
サービスオフィス
サービスオフィスは、個室の執務スペースに加え、会議室やラウンジなどの共用スペース、受付・電話応対・郵便物管理といったビジネスに必要な設備やサービスがパッケージ化されたオフィス形態である。
サービスの内容に応じて賃料は一般オフィスより高額になる傾向だが、初期費用や雇用の人件費を抑えられ、短期間の利用や少人数での利用に適している。
シェアオフィス
シェアオフィスは、一つのオフィススペースやフロアを複数の企業や個人で共有して利用する形態を指す。多くの場合、個室スペースと会議室やラウンジなどの共用スペースで構成される。
サービスオフィスと類似する点も多いが、サービスオフィスの方が多様な利用者との交流やコミュニティ形成の機会が多く、コストを抑えつつ必要な設備を利用できるため、より柔軟な運用が可能になる。
レンタルオフィス
レンタルオフィスは、業務に必要な家具やインターネット環境などが予め備わった個室スペースを、比較的短期間の契約で賃貸するオフィス形態である。設備はサービスオフィスとほぼ同様だが、受付などのサービスは提供されず個室利用に特化したケースが多くみられる。敷金・礼金が不要な物件も多く、初期費用を抑えてすぐに事業を開始したいスタートアップや、プロジェクト単位での利用にも適している。
コワーキングスペース
コワーキングスペースは、特定の企業に属さない様々な業種・職種のワーカーが、オープンな執務スペースや会議室・ラウンジなどを共有して利用する施設である。個室よりもフリーアドレス形式のオープンスペースが中心となることが多く、利用者同士の交流や協業が生まれやすい環境が特徴だ。
初期費用を抑えて柔軟に利用できるため、フリーランスやスタートアップ企業のほか企業のサテライトオフィスとしても活用される。
インキュベーションオフィス
インキュベーションオフィスは、主に創業期や成長初期段階にあるスタートアップ企業を支援することを目的とした賃貸オフィスだ。単なるスペース提供だけでなく、経営相談・資金調達支援・ビジネスマッチング・専門家によるセミナーなど事業成長を加速させるための様々な支援プログラムが付随している点が大きな特徴である。
自治体等の支援によって、相場よりも低額で賃貸されることが多いため、オフィスのコスト削減を目指す企業は自社が利用条件に当てはまっているかどうか確認してみると良い。 このように、オフィスの形態や契約方式は非常に選択肢が多く、中長期的な視点でどの選択肢が自社に最適なのか迷うかもしれない。自社に最適なオフィス形態を失敗なく見極めるためには、経験豊富な専門家に相談しサポートを受けるのも良い方法だ。
最適なオフィス戦略を支援するJLL
内装などを撤去済みの状態で賃貸される「スケルトン物件オフィス」と、天井や壁を露出させスタイリッシュな見た目の「スケルトンデザインオフィス」は、それぞれ異なる特徴を持っている。
両者のいずれを検討している場合でも、メリット・デメリットを正しく理解し、自社の状況や目的に合ったオフィス形態を選択することが成功のポイントだ。
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