西日本最大の交通拠点である大阪・梅田エリアでは、近年大規模な再開発が進められている。2024年には、Aグレードビル5棟※が21万㎡の総賃貸面積(NLA)を供給するなど、過去最大の新規オフィス供給があった。当初は空室率上昇や賃料下落が懸念されたが、旺盛な需要がこの膨大な供給をうまく吸収し、市場の安定性を維持する結果となった。
主要な再開発プロジェクト
梅田エリアの再開発において特に注目されるのが「グラングリーン大阪(うめきた2期地区開発)」である。JR大阪駅北側の広大な敷地を開発対象とし、オフィス、商業、ホテル、住宅、MICEなどの複合開発が現在進行中で行われている(2025年9月現在)。南館のオフィスエリアは2025年3月に先行開業し、グラングリーンパークタワーとグラングリーンゲートタワーの2棟合わせて約11万㎡の新たなオフィススペースを提供した。
特筆すべきは、大阪駅前という一等地における約4.5haの大規模公園「うめきた公園」との一体開発である点だ。特にコロナ禍以降、オフィス回帰を促進する要素として、充実した共用部や快適な周辺環境の重要性が高まっており、公園の存在は従業員にとって出社する動機を高める重要な要素となりうる。また、最新のオフィス立地が企業のブランドイメージ向上に寄与し、人材確保戦略に繋がると考えられる。実際に、グラングリーンパークタワーのオフィスへは、クボタ、富士通、本田技研工業、塩野義製薬などの大手企業が入居テナントとなっている。
オフィス市場の動向
梅田エリアの大規模再開発により、2024年通年におけるAグレードオフィス供給量は約21万㎡となり、2023年までの既存ストックと比較して約1.3倍に増加した。この大量供給にもかかわらず、大阪の2025年第2四半期のAグレードオフィスの月額平均賃料は24,623円/坪となり、前年同期比8.5%増と東京の5.9%増を上回る高い成長率を記録した。
大阪のオフィス賃料の変遷を振り返ると、2008年の世界金融危機以前にはピーク時の月額平均賃料は23,574円/坪に達し、その後2010年には最高水準の7割まで下落した。しかし、2014年第3四半期から22期連続で賃料は上昇を続け、2019年末にリーマン・ショック前の最高水準へ回復した。
しかし、期待とは裏腹に、長期にわたるコロナ禍により2022年以降は再び同水準を下回る状況が続いていた。
そのような中、2024年のかつてないほどの大量新規供給と旺盛なオフィス需要が相まって、2025年第1四半期には月額平均賃料が23,799円/坪へ到達し、リーマン・ショック前の最高水準を再度超え、現在も賃料上昇が継続している。
今後については、2030年まで新規供給が際立って限定的であることから、需給バランスのひっ迫した状況が続き、賃料上昇は継続すると予想される。
大阪CBD地区 Aグレードオフィス賃料と空室率 出所:JLL日本 リサーチ事業部
長期的な将来展望
梅田エリアをはじめ大阪のオフィス市況は中長期的には以下の2つの要因により持続的な成長が期待される。
1. 雇用の増加
増加傾向にある大阪府での就業者数は2025年第2四半期時点、3年前と比較し20万人増加している。関西経済の活性化とビジネス需要の拡大がオフィス需要を下支えするであろう。
大阪の就業者数 出所:大阪府「労働力調査地方集計結果(四半期平均)」をもとにJLL作成
2. 地下鉄なにわ筋線開業(2031年予定)
関西国際空港から梅田までの所要時間が約8分短縮され、約45分となる。梅田・中之島エリアへのアクセス性が向上し、立地価値の更なる向上が見込まれる。
結論
梅田に代表される大阪は、従来の「日本の第二の中枢都市」という位置づけから脱却し、単なるオフィス街から働く、学ぶ、憩う機能が融合する複合的な都市空間へと進化しつつある。駅直結・駅至近のプレミアムエリアでは高水準の賃料水準が維持されるとともに、大阪全体の賃料の大幅な下落は限定的と見込まれる。現在進行中の再開発により、梅田は独自のポジショニングを確立し、関西経済の新たなシンボルとしての存在感を高めていくことが期待されている。
※JPタワー大阪、イノゲート大阪、グラングリーン大阪パークタワー、グラングリーン大阪ゲートタワー、プライムゲート梅田