インドで次世代の半導体集積地と目されるドレラ特別投資地域
自動車や電気製品など、いまやあらゆる製品の“心臓”として、その重要性が急激に高まっている半導体。日本では台湾の半導体受託製造世界大手のTSMCが熊本県に工場を新設したことなどが大きな話題となっているが、インドでも半導体の国内生産を強化する方針を打ち出している。そうしたなか、インドにおける次世代の半導体集積地として世界から期待されているエリアが存在する。ドレラ特別投資地域だ。
日系企業のインド進出を多数支援してきたJLL日本 サプライチェーン&ロジスティクス コンサルティング事業部 事業部長 エグゼクティブディレクター 森元 庵平は「インド西部のグジャラート州に位置するドレラは人口2,000-3,000人程度の“村”に過ぎなかったが、『特別投資地域』に指定されたことで、大変貌を遂げようとしている」と解説する。
「世界の製造ハブ」を目指しインフラ整備を推進
インド政府はかねてより「世界の製造ハブ」を目指し、従前から日本企業を含む外資系製造業の誘致などに注力してきた。その一環として、ものづくりに必要不可欠なインフラ整備を全国規模で展開。2020年から2025年において1.4兆米ドルを投じ、1,100超のプロジェクトが進行中だ。
そして、数あるインフラ整備計画の中で最も重要視され、1,400㎞に及ぶ高速貨物専用鉄道でデリー・ムンバイ間を結ぶ「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)」において中間点に位置し、最重要な物流結節点として位置付けられているのがグジャラート州である。
グジャラート州とは?
グジャラート州には、ナレンドラ・モディ首相が2014年まで州首相を務めていた時代にインフラ整備と手厚いインセンティブによって外資系企業の誘致を強化し、急速な経済発展を遂げたことで知られる。すでに70社ほどの日本企業が進出しており、自動車産業のほか、創薬、化学産業、重工業など、多くの産業が集積している。人口はインド全体の5%程度だが、輸出額は約30%、FDI(海外直接投資)は9.5%を占める。
一方、ドレラはグジャラート州最大の都市であるアーメダバードから南に約110㎞に位置し、現在高速道路が整備中である。2028年にはムンバイ・アーメダバード間で日本の新幹線方式を採用した高速鉄道の開通を控えるほか、中東・アフリカなどへの貿易拠点となりうるピパバブ港にも近いなど、製造拠点のみならず物流拠点としての立地特性も備えている。
ドレラの開発状況
現在、5,600エーカー(2,262ヘクタール)に及ぶ工場・物流用地に居住区を含めた大規模工業団地の開発計画が動き始めている。現時点では2つの工場が存在し、1つはインドの大手財閥タタ・グループの半導体製造工場、もう1つは国内再生可能エネルギー事業者の太陽光発電パネル製造工場である。
JLLインドからの情報によると、団地内は既存工場以外の建屋の開発はまだ本格化していないものの、片側二車線を確保した広々とした道路の整備が進んでおり、居住区が近いため、運河沿いに公園なども整備される予定だという。
半導体集積地としてドレラの優位性
インドには日系企業がスムーズに事業活動できるように日系工業団地が多数存在するが、森元は「半導体集積地としてのドレラには2つの優位性がある」と指摘する。1つは「インフラの充実度」、もう1つは「値ごろな不動産価格」だ。
1. インフラの充実度
交通網はもとより、電気・水道・ガス、居住区などのインフラが充実。特に半導体製造に不可欠な電力インフラはプラグアンドプレイ対応で4,400メガワット級の太陽光発電を導入している。水を安定的に供給するための水道施設も整備されている。また、368エーカー規模の居住区開発が計画され、労働者確保のためのインフラとして半径5㎞内で1,000以上の住居開発が計画されている。さらに、400人規模の学校、200床程度の医療機関、11の消防署も計画されている。
「インド進出を目指す日系企業のサイトセレクション(拠点配置計画)や工場・物流用地の選定など、多岐にわたって支援してきたが、インド中の工業団地を見回しても、ここまで充実したインフラを備えた場所は非常に珍しい」(森元)
2. 値ごろな不動産価格
JLLの調査では、ドレラの工業用地の価格はグジャラート州の中心都市であるアーメダバードから100㎞程度離れていることもあり、アーメダバードの工業団地と比べると土地価格が数分の1となっている。将来的にサナンド(アーメダバードの代表的な工業エリア)のような産業が集まる町に変貌を遂げていくことを念頭におくと、早い段階からの参入することでコストを抑えた拠点構築が可能になるといえる。
「インド進出時の特徴として、例えば工業団地の開発直後などの初期は価格が非常に安価だが、発展に伴い価格が数倍に膨れ上がってしまう。ドレラはまさに開発プロジェクトが始動したばかりであり、価格が非常に低く設定されている状況である」(森元)
4つの課題
インフラの充実度、値ごろな不動産価格…こうした魅力に加えて、手厚いインセンティブを享受できるという点もドレラに進出する最大のメリットといえるだろう。
一方、森元は「あえて」と前置きしながらも、ドレラ進出時に検討すべき4つの課題を挙げる。
1. 雨期の高水位
モンスーンの季節(雨期)に高水位に達することが多く、土壌組成に課題が浮上する可能性がある。標準的な土木工事では解決できず、パイリング工法(杭打ち工事)による地盤補強が必須となり、コスト増につながる可能性がある。
2. 住宅・買物事情
現時点(2025年6月時点)では、開発地の近くに住宅やショッピング街が存在せず、アーメダバード・ドレラ間にも買物に適した街が見当たらない。すでに竣工済みの工場では隣地に従業員用の寮を建設するなど、従業員のための福利厚生施策を検討する必要がある。
3. 夏の砂嵐
45℃を超える気候が続く夏季に砂嵐が発生する可能性があり、フィルターレーションや換気設備の強化が必要になる。加えて、猛暑の影響で工事の進捗が著しくペースダウンするため、追加投資と工期の調整などを検討する必要がある。
4. 労働力確保
半導体製造に関するスキルを有する労働者は周辺地域を含めて非常に限られており、建築機械・設備等の調達環境も同様である。そのため、近隣100㎞以上離れたエリアから労働力を誘致する必要があり、労働者の賃金が高騰しつつある。
森元は「こうした課題に対して、現地の状況に精通した専門家を起用する必要がある。しかし、事前に課題が判明している状況は“リスク”ではなく“チャレンジ”と捉えることができ、事前に入念な準備・計画を行うことができ、結果として素晴らしい拠点を開発しやすいともいえるだろう」との見解だ。
いずれにしても、インドにおいてドレラ特別投資地域は非常に注目度が高い地域であり、国内外の企業の進出地として今後激しい競争が繰り広げられることが予想される。
選択肢が増えつつあるインドでの不動産戦略
少子化による国内市場の縮小、若い労働力の豊富さ、欧州・アフリカとアジアの中間点に位置する地理的優位性などを背景に、インド進出を検討する日系企業はこれまで以上に増えそうだ。
そうしたなか、進出時の橋頭堡として重要な役割を果たす工場・物流施設の拠点配置は事業戦略上、非常に重要だ。森元は「従前、インドに進出した日系企業は用地を探して工場などを自社開発するという選択肢しかなかったが、近年は賃貸型の工場・物流倉庫が増え、地元デベロッパーと協働でBTS(Build to Suitオーダーメイド型)不動産を賃借する事例が増えている。こうした物件は賃借後に買い取りオプションが付与されているケースもあり、自社の状況にあった柔軟な対応が可能になっている」と力を込める。
インドでの拠点構築のご相談について
JLLはインド国内に17のオフィス、16,000名の不動産プロフェッショナルを擁し、現地の不動産マーケット情報のご提供をはじめ、不動産投資、拠点構築等について豊富な実績を持っております。インドにおける半導体関連工場の建築等のサポート実績もありますので、お気軽にご相談ください。
関連情報: