本稿は、2025年10月に開催された「第1回[九州]次世代物流展」において、JLL日本 福岡支社 副支社長 巻幡 省吾が登壇した専門セミナー「九州物流不動産のマーケットトレンドと事例で次世代を紐解く」をもとに、半導体・自動車産業の拠点集積が進む九州の状況を踏まえ、福岡圏物流不動産市場の現状と将来展望について賃料・空室率などの豊富なデータを用いて分析しました。
物流不動産市場を変革する3つのポイント
2024年12月、台湾の半導体受託製造大手であるTSMCが熊本県菊陽町で日本初の半導体工場の本格稼働を開始した。経済安全保障の観点から“産業のコメ”と呼ばれ、いまやモノ作りに不可欠な半導体の国内供給網を確保し、日本が強みにしている半導体製造装置や部材産業の育成と自動車などの基幹産業との連携を視野に入れた国家プロジェクトの一端を担い、その舞台として九州が選ばれた形だ。
この工場誘致が呼び水になったのか、国内の半導体関連産業も続々と九州に進出。さらに、半導体と切っても切り離せない自動車産業の国内大手がこぞって九州に拠点を開設するなど、いまや半導体・自動車産業の国内最大規模の集積地となりつつある。
JLL日本 福岡支社 副支社長 巻幡 省吾は「こうした産業クラスターが九州の物流不動産市場はさらなる高みへと押し上げる大きな要因となる」との見解を示す。本稿では、次の3つのポイントについて分析した。
1. 福岡圏物流不動産市場の現状と展望
2. 九州の半導体・自動車クラスターが生み出す新たな物流需要
3. 次世代物流網の拠点形成
先進物流施設の新規供給が進む福岡圏(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA
1. 福岡圏物流不動産市場の現状と展望
JLLの調査では、福岡圏物流不動産市場を「福岡ベイエリア」「福岡内陸エリア」「鳥栖エリア」の3つに分け、当該エリアに所在する延床面積3万㎡以上、2000年以降に竣工した賃貸型の大型物流施設を調査対象にしている。
2025年第2四半期末時点では福岡圏全体で48万坪のストックが存在し、うち最大は福岡内陸エリアの20万坪、次いで鳥栖エリアの15万坪、そして福岡ベイエリアは10万坪となる。
エリア別の賃料水準・空室は以下の通り。賃料水準をみると、地価が安価な鳥栖エリアが若干値ごろである半面、空室率0%が継続する福岡ベイエリアの賃料水準が高い上昇率となっている。巻幡によると「10年前と比較すると、内陸・ベイエリア共に賃料水準が2,000円台後半で推移していたが、2019年に空室率が0%に達して以降、加速度的に賃料が上昇する状況となっている」という。
2025年第2四半期末時点の福岡圏物流不動産市場の賃料・空室率動向 出所:JLL日本 リサーチ事業部 ※対象物件は福岡県・佐賀県に位置し、延床面積3万㎡以上、2000年以降に竣工
福岡県物流不動産市場の賃料成長率は全国トップ
このように、福岡県物流不動産市場の成長ぶりが見て取れるが、物流不動産市場の成熟度で先を行く東京圏や大阪圏と比較しても、その賃料成長率は群を抜く。
福岡の賃料成長率は首都圏・大阪圏を超えている 出所:JLL日本 リサーチ事業部
東京・大阪・福岡の3市場における過去10年(2015-2024年)の賃料成長率を調査したところ、福岡は130%を記録。東京(113%)、大阪(111%)を凌駕する成長を見せている。
福岡圏の賃料水準は2011年に2,417円/坪だったが、その後大幅な上昇を続けており、2027年には3,900円/坪に到達する見込みであり、16年間(2011-2027年)で賃料水準は実に1.6倍にまで膨れ上がる。
「Eコマースの発展や3PL事業の拡大などを背景にした従前からの需要過多の状況に加え、土地価格・建設費の高騰が拍車をかけ、賃料の上昇傾向に弾みをつけるような状況が続いているためだ」(巻幡)
市場規模(ストック面積)も10倍に
賃料水準のみならず、ストック面積で見た市場規模の成長も目を見張る。JLLの調査では、福岡圏における2011年時点の既存ストックは6万坪だったが、2027年には61万坪、実に10倍にまで市場規模が拡大すると見込まれている。
2. 福岡圏物流不動産市場を成長に導く2つの産業「半導体・自動車」
なぜ、福岡圏物流不動産市場は急激に成長しているのだろうか?
その理由について、巻幡は「九州に形成されている2つの産業クラスター」である半導体産業と自動車産業を挙げ、「日本経済に浮沈のカギを握る二大産業が桁違いの物流需要を生み出す可能性に満ち溢れている」と説明する。
半導体産業
世界の半導体市場は驚異的な成長を続けており、世界半導体市場統計(WSTS)における世界の半導体関連企業の合計売上高は2015年から2024年にかけて1.9倍、7%の年平均増加率を記録。さらに、2024年から2030年には1.6倍、年平均増加率で8%と過去の増加率をさらに上回り、2030年には1兆米ドルを超える見通しとなっている。
こうした中、日本市場の成長率も世界平均を上回ると予測されている。2015年から2024年の10年間における成長率は世界市場と変わらず1.9倍増にとどまるが、今後の成長予測はそれを上回ると予測。背景には、内閣府が掲げる「2030年までに国内半導体製造企業の合計売上15兆円超え」なる野心的な目標だ。2024年比で約2倍にあたり、今後国策として日本の半導体産業の復活プロジェクトが九州を主軸に推進されるためだ。
●九州に進出した主な半導体関連企業
1967年より国内大手電機系の半導体関連企業が九州へ相次いで進出しており、地場サプライヤーの育成に取り組んだことで「シリコンアイランド九州」と呼ばれる“素地”があり、約1,000社・事業所が集積し、集積回路(IC)の生産金額は日本全体の49%と、ほぼ半分のシェアを占めている。
九州に進出している国内半導体関連企業として、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、東京エレクロトン九州、三菱電機パワーデバイス製作所、ルネサスエレクトロニクス、荏原製作所など、錚々たる顔ぶれが揃う。そして、近年の主要な投資事例では前述したTSMCの第1・第2工場の開発に3兆円超の投資がなされ、ソニーの画像センサ工場に数千億円規模が投じられるなど、まさに空前の投資ブームが続いている状況だ。
自動車産業
自動車業界も九州への研究・開発拠点の進出が進んでいる。国内自動車メーカー4社(トヨタ、日産自動車、ダイハツ、本田技研工業)が工場・開発拠点を整備しており、年間154万台の生産能力を有している。これは全国シェアの15を占める世界有数の自動車生産拠点となり、それと共に1,200社超の自動車関連企業が九州全体に展開している。
「近年の自動車業界はEVシフトが加速しているが、今後は自動運転など、さらなる技術革新が求められており、半導体と共に自動車産業は変革期を迎える。この二つの産業の成長が物流不動産の急速な需要拡大を牽引するだろう」(巻幡)
物流網拠点として圧倒的な立地優位性を誇り、物流施設の開発が進む鳥栖IC周辺 画像提供:PIXTA
3. 福岡圏の次世代物流網拠点と目される鳥栖エリア
半導体と自動車産業の集積によって九州の物流需要はこれまで以上に拡大することが予想されるが、では、こうした状況を受けて、福岡圏において次世代の物流網拠点として発展を遂げるエリアはどこか? JLLは立地優位性のある鳥栖エリアがその最右翼だと見ている。
高速道路ICに直結する立地優位性
そもそも、全国(仙台・神奈川・京都)では次世代型物流拠点の開発プロジェクトがすでに進行しており、その共通項は「高速道路IC直結型」の大規模物流施設である点だ。
トラックドライバー不足が喫緊の課題となっている物流業界において、高速道路における自動運転トラックの実用化が進められている他、高速道路ICに直結する物流施設は自動運転トラックの発着拠点としての役割が期待され、全国の各都市を結ぶ自動運転トラックのネットワークを構築しやすい。こうした特性を持つIC付近の立地は希少価値があり、物流施設の集積が進むと予想される。
福岡圏の物流不動産市場において、こうした条件を備えているのが前述した鳥栖エリアであり、なかでも開発面積約34haを誇る超大型プロジェクト「サザン鳥栖クロスパーク」が好例といえるだろう。2030年台前半に竣工を予定しており、九州自動車道「小郡鳥栖南スマートIC」から600mほどの好立地を誇る。
サステナビリティ性能に秀でた先進物流施設の開発に加え、自動走行対応道路や工場自動化など、GX・DXを軸とした先進的なインダストリアルパークも開発予定であり、製造業にとって国内生産拠点として活用できる。
福岡圏でトップの賃料成長率
福岡圏の物流不動産市場において、鳥栖エリアの賃料は10年間で(2015-2025年)138%となり、福岡内陸エリア(127%)、福岡ベイエリア(137%)を超えて最も高い成長率となった。新規供給も内陸・ベイエリアよりも多く、今後15万坪強の新規供給が予定。さらに、水面下での開発予定地も豊富にあり、既存ストック(48万坪※JLL調査)を超える最大60万坪の開発が可能だ。
福岡圏エリア別の賃料成長率(過去10年間)は鳥栖エリアがトップ(2025年第2四半期末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部
新規大量供給を危惧する声もあるが、段階的にプロジェクトが進んでいくことが予測され、中長期的に鳥栖エリアが次世代物流網拠点として発展し、福岡圏物流不動産市場全体の健全な成長を牽引すると期待できそうだ。
鳥栖エリアでおすすめの新規開発物件
JLL日本 福岡支社が注目する新規開発プロジェクトが2025年11月に竣工予定の「LOGI LAND 小郡鳥栖インターⅠ」です。建物規模は地上2階、延床面積6,780.86坪(22,416.09㎡)、鉄骨造。長崎自動車道「鳥栖IC」から車で約6分、西鉄天神大牟田線「西鉄小郡駅」から約1.2㎞と徒歩通勤が可能な好立地にあり、広々としたトラックバースとCASBEE Aランクを取得予定。分割貸しにも対応可能です。その南側では2026年5月竣工予定の「LOGI LAND 小郡鳥栖インターⅡ」の開発が進められており、こちらは延床面積約10,000坪となります。
JLLではこれらの物件の入居案内をしており、ご興味のある方は下記から資料請求・お問合せください。
「LOGI LAND 小郡鳥栖インターⅠ」
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